純「そういえば梓、変わったね」

部室で憂が入れてくれたお茶を飲んでいた時だった。私が部長なので元、律先輩の席。憂はもちろん唯先輩の席。純は憧れの澪先輩の席だ。

梓「何よいきなり」
純「これ」

と、純の携帯。昨日私が送った、なんてこともないメール。

梓「日曜日にみんなで新曲作ること?」
純「ちがうちがう。こっち」

カーソルがゆらゆら揺れてる音符が付いたデコ絵を指している。

憂「そういえばそうだね」

私を置いてけぼりにして憂が微笑んだ。

憂「前は絵文字、あまり使わなかったよね」
梓「そう・・・だったっけ?」
純「そうそう! 返事だけとか、遊ぶ約束しても時間と場所だけ書いた業務連絡みたいな」

あー・・・・・・そうかもしれない。
私は小さい頃から文章を作ることが苦手だった。メールを返信する時も何分も考えて考えて。なに書こうか、早く返さなきゃっていろいろ考えちゃったりしてるうちに別の用事思い出したり、そのまま寝ちゃって。
さすがに返事しないのは良くないと気付いたから、必要な事だけパパッと書いて。
だって次の日には会えるし、急ぎの時は電話があるし。


梓「でも、いつから絵文字使いだしたんだろ?」

殺風景な文だったから? ううん。今まで気付かなかったし、今日はじめて言われた。
家のソファーに寝転んで自分の携帯を眺める。いらないメールをこまめに消すほうだから、けっこう昔のやつがそのまま残ってる。
            • ほんとだ。ほとんど消しちゃってたけど、1年の頃のは長くても二行しかない。メール打つの、めんどくさいって思ってたっけ。でも、鳴らなかったらやっぱりさびしくて。
梓「む・・・」
古いものからたどっていたら、鍵マークが付いた受信メールが4つ並んで現れた。

澪先輩『これからよろしくな! 相談ならいつでも乗るぞ?(笑顔)』
唯先輩『あずにゃーん(ハートハートハート)! 今の私の待ち受けこれだよ~(chu!)(私が猫耳つけてる)!』
ムギ先輩『後輩とメールするの、夢だったの~(手紙からハートがいっぱいこぼれてる)』
律先輩『メアド確保ー!!』

先輩達とはじめてメールした日だ。その日の受信メールをめくりながら思わず笑った。ああ思い出した。帰ってからも先輩方からメールで質問攻めにあって、途中から誰に何を送ったのかわからなくなったんだっけ。
最後までメールしてきたのは唯先輩だった。そういえば初めてだったかも。夜通しメールしたの。

合宿の打ち合わせ。学祭の打ち合わせ。そう、この頃からだったかな。唯先輩に毎晩メールしたの。電話もたくさんしたな。初めての学祭で、それなのにメンバーがバラバラで。不安な私の声、ずっと受け止めてくれた。なぜか唯先輩の声を聞くと安心できたんだ。

年末のライブハウスの段取り。そうだ・・・寅年。まさか自分のトラ耳で思い出すなんて。

トンちゃんの名前も唯先輩が決めたんだよね。修学旅行先から先輩達からたくさん送ってくれた。・・・・・・写真だけでも十分騒がしい。
写真といえば今の私の待ち受け『ゆいあず』の時のだ。憂が撮ってくれた、私と唯先輩が背中合わせになってるやつ。

梓「ふでぺぇ~んふっふぅ・・・あ・・・」

また現れた鍵マーク。唯先輩からの。毎日、見てるよ。

唯『梓、愛してる

夏フェスの夜、私は唯先輩に告白した。過呼吸ぎみになっちゃって、自分でも何を言ってるのかわからなくなって、なさけなくて、バカみたいに涙がこぼれる私を抱きしめてくれた。心ごと。こんな私を。

梓「はっ!?」

ちがうちがう! 抱き枕に頬ずりするんじゃなくて本人にしてもらいたい、じゃなくて・・・!
戻るボタンを押してハッとした。
『唯先輩』
『唯先輩』 
『唯先輩』
 ・
 ・
 ・
私のメールの履歴は唯先輩でいっぱいだった。
      • そっか。唯先輩が絵文字をたくさん使うから、返信するとき私も使うようになったんだ。
また始めのほうを振り返る。うんうん。どの絵文字使ったらいいかすっごく悩んだ形跡がある。いつからかメールがすごく待ち遠しくなって。
好きな人が出来るだけで、こんなに変われるんだね。いつの間にか私の携帯まで、唯先輩で埋め尽くされちゃってる。

時間を見る。そろそろバイトあがる頃だ。好きなものならすぐ覚えられるでしょうと、今のアイス屋さんを勧めたのは私だ。よし、たまには私から。

梓『唯、愛してるよ(ハート)』

唯、知ってる? 絵文字使うようになったけど、ハートは唯専用だよ?


おまけ

唯『めずらしいね。あずにゃんのほうから言うなんて』
梓「たまに言われたほうがありがたみ、あるでしょ?」 
唯『私もあずにゃん大好きだよ~』
梓「唯の大好きは使われすぎ。 全然ときめかないもん」 
プルルル プルルル
梓「唯?」 ピッ
唯『梓。愛してる』
梓「   ・・・・・~~~っっっ!!」 カアァァァッ!
唯『えへへ~。これはあずにゃん専用だよ!』
梓「そ・・・そ・・・っ!」
唯『あず』
梓「それは直接言うです~~~っ///!!!」

おしまい


  • す、素晴らしい! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 08:46:02
  • 凄く良いけど梓呼びはあんまり好きじゃないなぁ -- (名無しさん) 2018-03-15 16:13:01
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最終更新:2010年10月10日 17:42