ねぇ唯先輩。唯先輩は気付いていますか。
いつの頃からか私、本当はずっと待っているんですよ。
ぬくもりが恋しくて…


「唯先輩酷いです。最低です。これじゃあ私、馬鹿みたいじゃないですか」

「あ、あずにゃん…」

戸惑う私を残してあずにゃんは走り去ってしまいました。
部室で1人ぼっちです。
どうしてこんな事になっちゃったのか。
大好きなあずにゃんにあんなことを言われるなんて。
見当もつかない私はとりあえず今日ここまでの
出来事を思い起こしてみることにしました。

放課後、部活を終えて音楽室から出ると
途中の階段で私は1枚の紙切れを拾いました。

「なにこれ」

「おっおおおお!これは…」

それはこの学校の見取り図で、裏面には学校周辺の地図が載っていました。
私の目を引いたのは所々に記された×印。
そして左上に書かれた『幸せの場所』の文字。

「宝の地図かも!!!」

こんな所ににそんな物が落ちている理由は分かりませんでしたが、
とにかくそう考えたら、いてもたってもいられなくて
私は×印の場所に行ってみることにしました。

「そういえばあずにゃんの教室もこの辺にあるよね」

最初に選んだ×印は、2年生が使っている教室の廊下を指し示していました。

「あれれ、何にも無いや」

どこかに秘密の暗号でも書いていないかなぁと思って細かく探してみましたが、
特に変わったところはありませんでした。
ちょっとガッカリしましたが、あきらめずにほかの×印の場所にも行ってみました。

「ここって確か、昼食の時にパンを売ってる場所だよね」

またもや周りを捜索してみます。

「むむむ……」

私の勝手な期待もむなしく、ここにもやはり何もありませんでした。
その後も数か所回ってみましたが、結果は同じでした。

「もう、なんだかバカバカしくなってきちゃったや」

裏面にも×印は付いていましたが、学校の外に探しに行く元気は
もう残っていません。
あきらめて帰ろうとしたその時でした。

「あーーっ、部室!!!!」

なぜこんなに目立つものに気付かなかったんでしょうか。
灯台もと暗しという言葉を思い出しました。
私たち軽音部の部室に本当にたくさんの×印が書いてあったのです。
急いで部室に向かいました。


「あれ、あずにゃん」

「唯先輩?」

部活が終わってからかなり時間が経っていたので、もう帰ったと思っていましたが、
あずにゃんは何やらかばんの中の物を取り出して1つ1つ確かめていました。

「まだ帰ってなかったの?もう結構遅いよ」

「唯先輩こそ、どうしたんですか?用事が出来たとか言って、
 急いでどこかに行ったと思ったらこんな時間まで学校で何やってたんですか」

「いやー、あの、それは、えへへ」

私は笑ってごまかすしかありませんでした。まさか偽の宝の地図の情報に踊らされて
学校中を駆け回っていたなんて、恥ずかしくて言えません。
なので話題を変えてみることにしました。

「どうしたの、あずにゃん。何か探し物?」

「いや、あの、その…」

理由は分かりませんでしたが、今度は彼女がうろたえる番でした。

「何でもありません」

それだけ言うとあずにゃんは帰り支度を始めてしまいました。
すこし気になりましたが、私は大事なことを思い出して
そちらを優先することにしました。

「えーっと、この辺かな」

ポケットにしまいこんでいた例の紙切れを取り出して部室の中を捜索しようとした時、
彼女の大声に私はびっくりさせられました。

「あーーーー、それは!」

彼女のほうに振り向くよりも先に、紙切れは私の手から抜き取られてしまっていました。

「唯先輩、これ見たんですか?」

「えっ?それあずにゃんのなの?」

「見たんですかと聞いているんです」

かなり焦っているのか、あずにゃんは珍しく強い口調になっていました。

「ごめんね。そこの階段のところに落ちてたの。
 そんなに大事なものだって知らなかったから」

あずにゃんの顔がみるみる赤くなっていくのがわかりました。

「恥ずかしいです。私、やめてくださいと言いながらそんな物を書いていた事、
 唯先輩には知られたくありませんでした。」

「?」

私にはその言葉の意味がよく理解できませんでした。
どうしても知りたかったので、正直に聞いてみました。

「それ何?私、良いものが隠されてると思ってあちこち探し回っちゃったよ」

赤かったあずにゃんの顔が今度は暗く沈んでいってしまいました。

「そんな…あんまりです」

「唯先輩酷いです。最低です。これじゃあ私、馬鹿みたいじゃないですか」

「あ、あずにゃん…」

悲しい顔で走り去っていくあずにゃんの顔を思い出しながら、
それでも私には何故あずにゃんがあんなに怒ってしまったのか、
あの地図の意味が何だったのか分かりません。

私はいっぱいいっぱい考えました。部室や廊下、あの×印が付いていた場所が
関係しているとしか思えなくなっていました。

「そういえば、学校の周りの地図にも×印があったよね」

記憶を総動員してその場所を思い出してみました。

「確か…」

私の家の近くの河原

みんなで勉強した図書館

トンちゃんと出会ったあのホームセンター

「あ…」

答えがわかった途端、私は自分のことを殴ってやりたくなりました。

「謝らなきゃ」

部室を飛び出してとにかく走りました。あずにゃんに会いたい。その一心でした。

探して探して、ようやく見つけたのは、あずにゃんと2人で演芸大会の
練習をしたあの河原でした。

「あずにゃん」

「唯先輩…」

「あの、ごめんなさい」

謝ろうと思って探し回っていたのに、先を越されてしまいました。

「唯先輩は何も悪くないのに…私の勝手な思い込みで酷いことを言って し まっ て」

目にいっぱい涙をためたあずにゃんは声を詰まらせながら一生懸命話していました。

ギュッ

「唯先輩…」

「あずにゃん、本当にゴメンね。すぐに気付けなくて。」

「でもね、こうやってあずにゃんに抱きつくのは本当に本当にあずにゃんの事
 大事に思っているからなんだよ。信じてほしいの」

気持ちが伝わってほしいから、力いっぱい抱きしめました。

「唯先輩、あったかいです」

その言葉が嬉しかったから私はさらに力を込めました。

「痛いですよ。唯先輩」

「あ、ごめんごめんつい」

体を離して今度は痛くないようにそっと抱き締めました。

「あったかあったかだね、あずにゃん」

「はい」

「その地図×印で埋め尽くしちゃおうね」

そう言うとあずにゃんは恥ずかしそうに頷いてくれました。

いっぱい思いで作ろうね、あずにゃん。



おしまい


  • 幸せの場所の地図にニヤニヤしながら印つけてるあずにゃん想像するとかわいすぎるw -- (名無し) 2011-05-08 16:11:52
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最終更新:2010年10月12日 03:58