「ねーねー」
「なんですか? 唯先輩」
 いつもどおり唯先輩のお部屋にお邪魔をして、いつもどおり膝枕をしてあげて、頭を撫でていると、唯先輩に声をかけられた。
あずにゃんってさ、好きな人、いる?」
「好きな人ですか?」
 なんと性格の悪い人だろう。こんな解りきったことをわざわざ私の口から聞き出そうなんて。
 唯先輩がにやにやと笑っているのがなんとなく気に食わなかったから、顔を手のひらで覆ってやることにする。……尤も、私に手のひらじゃ全体を覆うことはできなかったけど。
「いませんよ、好きな人なんて」
 まぁ嘘ですけど。たまにはこれぐらいしてやらないと日頃いじられている私の気が済みませんし。
 これで少しぐらいは動揺してくれるかと思ったけど、現実はそう甘くなかった。顔を覆っていた手のひらをどけてみると、唯先輩はさっきと同じ――いや、それ以上のにやにやした目で私を見ていた。
「好きな人いないんだぁ~、へぇ~」
「なんですかその言い方。まるで私が嘘吐いているみたいに」
「吐いてるじゃん」
 間、髪を入れずに突っ込まれた。
 さっきまでのにやにやとした目から一転、じとーっとした目で私を見てくる。
「……なんですか」
「どうして嘘吐くの?」
「さぁ、どうしてでしょうか」
 原因はあなたですけど。
 これまでもそう。何度も何度も手を変え品を変え私の口から『好き』だという言葉を言わせようとする。
 もしかしなくても私が恥ずかしがる姿を楽しんでいるとしか思えません。趣味悪いですよ。
「そうじゃないんだけどなー」
「じゃあどうだって言うんですか」
「だって、好きな人には好きって言ってもらいたいから」
 この人は……本当に卑怯だ。こんな恥ずかしいことを簡単に言ってしまうなんて。
 だから私も反撃してみる。
「それじゃ、唯先輩は私のことが好きなんですか?」
「うん。世界で一番愛してるよ」
「……」
 本当に、この人は……。愛してるなんてそんな簡単に言っていい言葉じゃないでしょうに。
 こんなことを真顔で言われてときめかない訳がない。私は赤くなった頬を隠すようにそっぽを向く。
「どうしたの? あずにゃん」
「先輩は、本当に卑怯ですね」
「うん?」
 だから、この人にも私と同じぐらいの羞恥を味わわせないと気が済まない。私もこれ以上の羞恥を味わうことになるけど、それはもうどうでもいい。
「唯先輩」
「なに?」
「私も、唯先輩のことを愛しています」
「……」
 そっぽを向けていた顔を戻して、真正面から唯先輩の目を見据えて言うと、しばらくして唯先輩の頬がぽっと赤くなった。
 だけど、恥ずかしさよりも喜びのほうが勝っているらしい。唯先輩は赤くなった頬を隠そうともせず、笑顔で私に抱きついてきた。
「わっ」
「やっと言ってくれたね」
 急に何するんですかと言おうと思って口を開いたけど、言葉が喉に詰まってしまった。
 その原因は――
「もう、何泣いてるんですか、唯先輩」
「だって、嬉しかったんだもん」
「嬉しいからって人の肩で泣かないでください。制服が汚れちゃうじゃないですか」
 この人の涙で汚れるのならそれはそれでいいかもしれないけど。
 ……いやいやそれはだめだろう思考が変態になってるよ私。
「あずにゃん」
「なんですか?」
「好きだよ」
「……私もです」
「ね、ね、ちゅーしよ?」
「調子に乗らないでください」
Fin


  • 2828 -- (名無しさん) 2012-10-16 20:37:16
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最終更新:2009年11月15日 00:48