放課後ティータイム。名前の通り、私たちの部活はまず全員でのティータイムから始まる。
でも、今日はどういうわけか唯先輩以外の先輩たちは全員予定が入っているとかで練習に来れないらしい。
少し寂しい気もするけど、でもまぁ、唯先輩と二人っきりでお茶を飲む時間も悪くないかもしれない。
普段はあれだけ騒がしい唯先輩も、お茶を飲んでいるときはとても静かだし。
「ねぇ、あずにゃん」
「どうしたんですか?」
自分で入れたミルクティを口に含みながら唯先輩の言葉を待つ。
「あずにゃんって、好きな人とかいるの?」
「ぶぅっ!」
盛大にミルクティを口から噴き出してしまった。
「ひゃっ! ……んもぅ、あずにゃん急に噴き出さないでよ~」
「す、すみません。でも元はといえば唯先輩が急に変なことを言い出すからじゃないですか」
私のミルクティでべちょべちょになった唯先輩の顔をハンカツで拭ってあげる。ゴシゴシと力を入れて拭いていると、唯先輩が嬉しそうな声を上げた。
……なんていうか、子犬みたいだなぁ。これで尻尾が生えていたら間違いなくぶんぶんと振り回している、と思う。
「変なことなんて言ってないよ?」
「言ったじゃないですか。好きな人がどうこうって」
「あ、そうそう。それで、どうなの? やっぱりいるの?」
まさか墓穴を掘ってしまうなんて……。言わなきゃよかったというか唯先輩忘れっぽすぎでしょう。
「ねーねー、どうなの? いるの?」
「い、いませんよそんな、好きな人なんて。第一いたとしても絶対に教えませんし」
「どうして?」
「どうしてってそりゃ……」
――好きな人に直接言うなんて、そんなことできる訳が無いじゃないですか。
「それは?」
「な、なんでもないです! そ、それより、唯先輩はどうなんですか?」
「私?」
「そうです、人に訊くだけじゃなくて自分も答えてくださいよ!」
私だけ恥ずかしい思いをするなんて不公平すぎます。先輩もこの羞恥を味わうべき……でも、唯先輩って好きな人いなさそうだしなぁ。
この人ならみんなが大好きとか普通に言いそうだし。私みたいに誰か一人を本気で好きになるなんてことはしなさそうな気がする。
「どうなんですか? やっぱりいないとか――」
「いるよ、とっても大好きな人」
私の言葉を遮るように、唯先輩が言った。とても真剣な声で。さっきまでのへらへらとした顔はどこへ行ったのか、表情も真剣なものになっている。
その顔と言葉には絶対の意思が込められていて、それが解ったからこそ、私は開いた口が塞がらない。
まさか唯先輩に好きな人がいるなんて思わなかった。誰なのか知りたいけど、それを聞くには勇気が足りない。
だって、それを聞くということはつまり私の失恋という方程式が出来上がるのだから。聞いて悲しむぐらいなら、知らずに今の関係でいるほうがまだ気が楽だ。
「その人のことを考えるだけで胸がほわほわとあったかくなってね、その人が他の子と楽しそうにお喋りしているのを見ているととっても悲しくなるの」
……同じだ、私と。唯先輩のことを考えるだけで胸があったかくなって幸せな気持ちになるし、唯先輩が他の人と仲良くしているのを見ていると胸がきゅっと締め付けられるような感じになる。
何より、それを語る唯先輩の瞳は正に恋する乙女のそれだったから、この人が恋をしているのを認めざるを得ない。はぁ、まさか唯先輩に好きな人がいたなんて……。
「私の好きな人はね……」
「ちょちょちょちょっと待ってください唯先輩」
「ほぇ?」
今にもその人の名前を言おうとしていた唯先輩を無理やり止める。こんな心の準備もなしに聞かされたらその人のことを一生恨み続けてしまうかもしれないし、止めてくださいよ。
唯先輩はすっかりその気だったみたいでぶーたれてたけど、「名前以外なら何でも喋っていいですから」と言うと、あっさりと機嫌を直してくれた。
「そのいち、その人は私の後輩です」
「後輩、ですか……」
唯先輩と面識のある後輩だと、憂と純と、そして私ぐらいかな。
……当てはまったからってほっとしている私が恨めしい。
「そのに、その人は私と個人的に親しいです」
純はあんまり親しく無さそうだから除外。憂は親しいってレベルじゃない。私は……どうなんだろう。
「そのさん、その人は可愛いです」
そりゃ唯先輩が好きになるんですから当然でしょう。
「そのよん、その人はもう世界を滅ぼせるぐらい可愛いです」
何だか雲行きが怪しくなってきたような……。これじゃただの惚気話じゃないですか。
「そのご、その人はとってもちっちゃくて可愛いです」
また惚気……、でもちっちゃいってことが解ったしいいか。
というか、ちっちゃいってことは憂は違うのかな? それじゃ、残ったのは私――いや、そんなこと無いよね……。
「そのろく、その人はギターがとっても上手です」
どくん、と私の心臓が大きく脈打った。
まさか、まさか、まさか……。
「そのなな、その人のあだ名は――」
「もういいです唯先輩! それ以上言わないでください!」
恥ずかしさで死んじゃいます。
「解ったでしょ? 私の好きな人」
「……はい」
まさか、唯先輩の好きな人が私だったなんて思わなかった。その事実に嬉しさがこみ上げてくる。
「それじゃ、今度はあずにゃんの好きな人を教えて欲しいな」
「解ってるくせに……」
「直接、あずにゃんの口から聞きたいの」
本当に、唯先輩は卑怯です。でも、そういうところも全部含めて好きなんだから、これぐらいは大目に見てあげます。
「私の好きな人は――唯先輩、です」
やっと言えた。ずっと言う機会が無いだろうと思っていた言葉。
その言葉を聞いて、唯先輩はにっこりと笑い、そして私を優しく抱きしめてくれた。
「
これからもよろしくね、あずにゃん」
「――こちらこそ、よろしくお願いします」