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あずにゃん、ケンカしよ!」
「……」

日曜日の午後。
唯先輩の家にお呼ばれして、
唯先輩と一緒に午後のおやつを食べていた私は……
唐突な唯先輩の言葉に、ため息を吐いていた。
まったく、またいったいなにを言い出すのだろうか。
唯先輩の言葉はいつも突然で、そして突拍子もないものだけど……
いきなりケンカをしようとは、ほんとに訳がわからなかった。

「もう……突然なんなんですか、いったい?」

あきれた口調で私が聞くと、唯先輩は目を輝かせて身を乗り出してきた。

「あのね、昨日りっちゃんから借りた少女漫画を読んでたらね!」
「……なんかすごく気になる単語があったような気がしますが、
そっちは後で聞くとして……それでどうしたんですか?」
「そしたらね、『ケンカするほど仲がいい』って言って、
それまでケンカばっかりしていた二人が結ばれるシーンがあったの!」
「はぁ……あの、それで?」
「だから私たちもケンカしよ!」
「……」

唯先輩の言葉に、また私はため息を吐いた。
紅茶のカップを置いて、唯先輩に向き直る。
「ワクワク」という文字が見えてきそうな表情を浮かべた唯先輩。
要するに、漫画の影響でケンカをしようと思いついた、ということらしい。
ひょっとしたら、今日私を呼んだのも、それが目的だったのかもしれない。
だとすると……なんというか、
その独特の思考にどう反応すればいいのかわからなくなってしまう。

(まったく、唯先輩は……)

胸中でぼやくように呟いて……私は唯先輩の顔を真っ直ぐ見つめると、

「唯先輩」
「なに、あずにゃん!」
「唯先輩なんて大嫌いです」

努めて表情を消して、私はそう言った。

私の言葉に、一瞬唯先輩の表情がかたまり……

「う……うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「ちょっ、唯先輩!?」

大声で、唯先輩は泣き出してしまった。
表情はくしゃくしゃで、目からは大粒の涙が零れ落ちて……
まるで子供のような泣き方に、私は焦ってしまった。

「唯先輩、泣かないで下さいよ!」
「だ、だって……ぐしゅ……あ、あずにゃんが、私のこと、
きら……嫌いって……うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」
「うそです! 今のうそですよ!」
「ぐ……ぐしゅ……ほ、ほんと?」
「はい!」
「私のこと……嫌いじゃない……?」
「嫌いじゃありません!」
「……ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとです!!」
「え……えへへ……よかったぁ……」

私の必死の言葉に、唯先輩の表情が笑顔に戻った。
私はどっと疲れてしまって……また口からため息が漏れていた。

「もうっ……自分でケンカしよう、なんて言ったくせに……
ちょっと嫌いって言われただけで泣き出さないで下さいよ」
「だってぇ……ほんとに悲しかったんだもん」

目尻にちょっと残った涙を拭いながら、唯先輩が言った。そして、

「うん、やっぱりケンカはよくないね!
あずにゃん、ケンカはダメだよ!」
「……はい、そうですね」

もう抗弁する気力もなくなり、
私はちょっと投げやりな口調でそう言うと、
テーブルの前に座りなおした。
少しぬるくなった紅茶を一口飲む。
唯先輩も、最初よりもちょっとだけ私に近づいた位置に座りなおすと、

「でも、なんで『ケンカするほど仲がいい』って言うんだろうね?」

左手の人差し指を口に当てながら、そんなことを言った。
唯先輩の疑問に、私はちょっと考えて、

「……ケンカするほどって言うか……
ケンカができるのは仲がよい証拠ってことだと思いますよ」
「仲がよい証拠?」

言いながら小首を傾げる唯先輩に、私は言葉を続けた。

「はい。変に自分の気持ちを隠したり、誤魔化したりしないで、
気兼ねせずに言い合って、衝突もして……
そんな風にケンカをしてても一緒にいられるっていうことは、
ほんとに二人の仲がよいってことでしょう?
だから、ケンカができるのは仲がよい証拠だって、
そういうことなんだと思います」

私の言葉に、唯先輩は感心したように「なるほどぉ」と言った。そして、

「よし! それじゃあずにゃん、やっぱりケンカしよ!」
「なんでそうなるんですか!」

懲りない唯先輩の言葉に、私はつい怒鳴ってしまっていた。

「だって、ケンカできるのが仲がよい証拠なんでしょ?
だったら私たちもケンカして、
みんなに仲がよい証拠を見せられるようにしないと!」
「そういうことじゃないです!」

私の言葉に、唯先輩は不満そうに口を尖らせた。
まったく、いっつも変なこと言って、私を振り回すんですから……。

「もうっ! わかりました、
私たちの仲がよい証拠をみんなに見せられるようになればいいんですよね!」
「うん!」

私がそう言うと、唯先輩は笑顔で頷いた……
その縦に振られた首が元の位置に戻るよりも早く、
私は自分の唇を唯先輩の頬に押しつけていた。

「わっ……あ、あずにゃん……」
「こ、こっちの方が……ケンカなんかよりもわかりやすい証拠です!」

照れ臭さを誤魔化すようにそう言うと、
唯先輩も照れたように頬を染めて、エヘヘと笑った。

「そだね……こっちの方がわかりやすいね……」
「そうですよ……」

唯先輩の様子を見て、ようやく落ち着いてくれたと、
私は安堵のため息を漏らした。
これでもう、「ケンカをしよう」、
なんて突拍子もないことを言うことはないだろう。
でも、私はすぐに自分の考えが甘かったことを思い知らされることになった。
唯先輩が、これぐらいで大人しくなるわけがない、
そのことを私はすっかり忘れてしまっていて……

「よし、あずにゃん! 私たちはケンカじゃなくて、
『ちゅーするほど仲がいい』でいこ!」
「えっ、ゆ、唯先輩!?」
「じゃ、あずにゃん、ちゅーしよ!」
「ちょ、唯先輩、ちょっと待っ……」
「あずにゃ~ん、ちゅー!!」
「にゃぁぁぁぁぁ!!」

……その日の夜、唯先輩の最初の望み通り、私たち二人はケンカをした。


END


  • ワロタ -- (名無しさん) 2010-12-17 14:55:40
  • なんか唯めんどくさいなwww -- (名無しさん) 2011-02-15 10:15:47
  • キスするほど仲がいい 新しい格言だ!? -- (あずにゃんラブ) 2012-12-29 01:45:21
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最終更新:2010年10月20日 21:05