「
あずにゃん、そろそろ帰ろっか」
「そうですね」
他の先輩たちが帰った後も居残り練習を続けていた私たち。だけど、そろそろ外が暗くなってきたからということで唯先輩の声に従って後片付けをする。
もう少し練習していたかったけど、この時期はすぐに日が落ちるから早めに帰らないといけない。残念だけど、しかたのないことだ。
それに、明日になればまた二人っきりで特別特訓ができるんだから、そんなに気にすることじゃない。
「唯先輩、最近上達スピードが速いですね」
「そうかな?」
「そうですよ。正直言って、今のところを弾けるようになるにはもう少しかかると思ってました。家でも練習してたりするんですか?」
「うん、家でも毎日弾いてるよ。でも、やっぱりこの居残り練習のおかげなんじゃないかなぁ」
「だといいですけどね」
元々これは唯先輩が上手になるように無理言って残ってもらってるわけだし、これで上手になってくれているのならとても嬉しい。
逆にこれで上達していなかったら全く無駄になる――いや、そうでもないか。少なくとも私は唯先輩と一緒に練習できて嬉しいんだし。
「でも、まだまだあずにゃんには届かないけどね」
そう言ってにへらっと笑う唯先輩。そんなことは無いと思うけどな……。少なくとも、技術だけで言ったら私と同じかそれ以上だし。
だけど、それは教えてあげない。教えたらそこでだらけてしまいそうだから。この人にはもっと上手になってもらわないと困る、もっともっと上手になれるはずなんだから。
「ね、唯先輩」
ようやくまとめ終わった荷物を持ち上げながら、音楽室の扉を開く。
「どうしたの?」
唯先輩も、最後にギターを丁寧にケースの中にしまうと、それを肩に担いで私の後に続いてくる。
バタン、と扉が閉まる音が人気の無い廊下に響いた。
まだ余韻の残っている廊下をゆっくりとしたペースで歩きながら、後ろにいるであろう唯先輩に話しかける。
「先輩は、まだまだ演奏が雑です」
「うん」
「だけど、それもここ最近の練習のおかげでかなり滑らかになってきてます」
「……」
唯先輩は黙って私の話を聞いている。
「このまま練習し続ければ、いつかさわ子先生ぐらいギターを扱えるようになるかもしれません」
「ほんと!?」
「かもしれません、と言いました。あくまでなるかもしれないという話です」
「だよね……」
「でも」
足を止めて、唯先輩を振り返る。ここだけはしっかりと言っておかないと気が済まない。
つられて足を止めた唯先輩の瞳をじっと見る。ふわふわとした、独特の瞳。だけど、その中に少しだけどギタリストの色が混じっているのが見えた。
「でも、唯先輩はいつか絶対にさわ子先生を超えると思います。いえ、絶対に超えさせます。だから」
これは後輩として、ギタリストとして、そしてあなたのことが好きな人間としての言葉。
「だから、
これからも一緒に練習して、いつか絶対、二人でさわ子先生を超えましょう」
「――うん!」