ベッドに横になって携帯をいじり、画像フォルダを閲覧する。
そこには、たくさんの思い出が詰まった唯先輩との日常があった。
どれもこれも輝ける思い出。忘れられない幸せな記憶。

「好きだな、どれも」

今でも鮮明に焼きついている唯先輩の笑顔。そのどれもが大好きだった。
もしかしたら、不機嫌な顔なんて、数えるくらいしか見ていないかもしれない。
そして、私も…。私はいつも、唯先輩から笑顔を分けてもらっていた。

「あ、これ…」

ふと、いつ撮影したかも忘れたような画像を発見。
そこには、世にも珍しい唯先輩の不機嫌な顔が写っていた。
これは確か…ああ思い出した。律先輩が唯先輩のケーキの苺を取っちゃった時の。
あの時は、「りっちゃんまで和ちゃんとグルだったなんて…」ってわけのわからないこと言ってたけど。
でも、結局私が苺をあげたらみるみるうちに元気になってたよね。ほんと、単純なんだから。

「あずにゃーん、なに見てるのー?」
「うにゃっ、唯先輩ですか脅かさないでくださいよ」
「えへへ~、私を除け者にして一人で楽しんじゃってるあずにゃんが悪いのだ~」
「むぐぐっ、押さえつけないでくださいぃぃ」

正直な話、今の今まで唯先輩が家に来ていたことを忘れていた。
唯先輩はついさっきトイレに行って帰ってきたばかりだった。
そこに、ベッドの上でうつ伏せの格好で携帯と戯れる私を発見。
すかさず飛びついてきたというわけだ。

「どいてください。重い…」
「じゃあなにしてたか教えてくれる?」
「いちいち敏感にならないでくださいよ。なんでもないですってばっ」
「あずにゃんに関わることは全部私に関係しているのだよあずにゃん!」

唯先輩は押さえつける(というか抱きつく)力を加えて尋問してくる。
それでも何故か、払いのけることができなかったのは、
背中に感じる重みが心地よかったからだろう。

「コレですよ、コレ」

これ以上しつこく聞かれるのも癪なので、私は正直にさらけ出すことにする。
ソレ自体は別に何も恥ずかしいことでもないわけだし…。
そう心の中で相槌を打つように、私は唯先輩の目の前で、
閉じた携帯をパカッ開いて見せた。

「『ゆいあずフォルダ』もだいぶ溜まってきたので、そろそろ整理しなきゃって思って」
「あずにゃん凄いね。なんの躊躇いもなく『ゆいあずフォルダ』なんて言えちゃうなんて」
「んにゃ!?そ、それは唯先輩と恋人になったからでっ」
「『恋人』だなんて照れちゃうよあずにゃん~♪」
「うにゃぁぁぁぁあああああああ!!!」

私が唯先輩の前で暴走してしまうのに特に決まった法則などない。
だから、それを止める術も、防ぐ術も私は知らない。
唯先輩がちょっと性質の悪い悪戯を思いつく度に、
私はその手のひらで踊らされ転がされ狂わされる。
それは決まっていつも私の役目だった。逃げることすら叶わない。
逃げるつもりなんか、さらさらないのだけれど。

「あはは、あずにゃん顔から湯気が湧いてるみたいだよ♪」
「誰のせいですか誰の!!」
「おお、あずにゃん落ち着いて!ひーひーふーふー」
「ひーひーふー…って私は妊婦じゃないですぅ!!」
「あずにゃんコワイー♪」
「にゃぁぁぁぁあああああ!!!」

ジタバタと、背中に唯先輩を乗せたまま暴れる暴れる。
結局、どう足掻いても逃げれないことなんて忘れていて。
そんな私を、唯先輩はいつも抱きしめて大人しくさせてしまうものだから。
………ホントに、ずるいと思う。

「…………落ち着いた?」
「もとはと言えば……唯先輩がからかったからですよ」
「うん知ってるよー。初めからそのつもりだったしねー」
「性質が悪すぎです。振り回される私の身にもなってください」
「それが嫌なら成長したら?それこそ私をギャフンと言わせるぐらいにね」

耳にかかる唯先輩の囁き声が心地いい。
本当のところは、まだまだやるせない気持ちもあって暴れ足りない気もする。
けれど、今はこうして、唯先輩に抱き伏せられていたいという願望が強くなっている。
強くなっていって、それがいつかは甘えに変わるのも、そう遠くはなかった。

「唯先輩……ちょっと、身体を持ち上げてくれませんか?」
「私の?いいけど、ハイ」
「んしょ…」

唯先輩はちょうど腕立てのような格好で私から身体を浮かせる。
その隙に、私は身体を捻って、うつ伏せから仰向けの格好へとすり替わった。
こうすることで、唯先輩と向かい合ってお喋りすることができる。
最初は面と向かい合うだけですら恥ずかしかったのに、
今ではお互い、ちょっとでも顔を合わせていないと不安になるぐらいだから不思議だ。

「唯先輩の顔が見たかったんです…」
「でもなんだか、この格好ってちょっとHだよね」

唯先輩の言っていることもわかる気がする。
この格好は……まぁアレな格好だったりもするからだ。
唯先輩の両手は私の頭を挟むように置かれているし、
今にも唯先輩に覆かぶさられそうな雰囲気さえ漂っている。

「Hなのはそういう発想をする唯先輩じゃないですか」
「あずにゃんだって実はそう思ってたでしょ」
「勝手に人の心の中身を妄想しないでもらえます?」

ひどく普通な会話。
でもそれが、鼻と鼻の先で行われるものだったら、普通と呼べるだろうか。
私たちは、誰の目から見ても、普通に映るのだろうか。

「唯先輩……こんな私、どうですか?」
「凄く色っぽいと思うよ。ベッドの上のあずにゃんはね」
「あはは、やっぱりHじゃないですか…」
「誘ってきたのはあずにゃんだからね」

ん…っと、息をつく暇もなく、唯先輩の唇に塞がれる。
本当に、この人の前で起こることは全てが予兆だとか前触れがないので困る。
だから私は振り回されるしかないのだ。唯先輩の思うがままに。
でもそれが、ひどく心地のいいもので、麻薬のような依存性があって、
何度も何度も求めてしまいたくなるような、そんな甘美な匂いを秘めていて。
それはきっと、誰しもが欲しがる心の安息だ。
それがたまたま、いや運命的に、唯先輩という人物に当てはまってしまった。
いわゆる、小説はドラマの世界だけに存在するような『運命の人』だったんだと思う。



「あずにゃんピース!」
「にゃぁ!?せめて服に着替えてからにしてくださいぃぃぃ!!!」

翌朝『ゆいあずフォルダ』に新たな“思い出”が更新されました。
シーツにくるまって寄り添う私と唯先輩の、弾けるような笑顔と一緒に……。





end


  • やべっ、ティッシュティッシュ・・・ -- (4ℓの噴水(赤)) 2010-11-04 21:57:47
  • あ、甘いっ!甘すぎる! -- (鯖猫) 2012-10-28 15:51:10
  • 是非!幸せになって欲しい。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 07:38:06
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最終更新:2010年11月04日 13:52