「ゆ、唯先輩……、ですよね?」
「お! あずにゃん
私は自分の目を疑った。目の前に見なれた人がいると思ったが、明らかな違和感がある。
「ねぇ、どう? この髪型」
そう。今、唯先輩の髪がロングになっている。
「二年生の時から切らなかったらこうなっちゃったんだよ~」
「そうでしたっけ!?」
昨日までショートだった気がするんだけど……。
でも、そんなことが気にならないくらい目の前のインパクトが強かった。
肩ぐらいまでに伸びたふわふわの癖っ毛。それをうれしそうに振り乱す唯先輩。
「で、どう? 似合ってる?」
「あ……、はい?」
「あずにゃん、上の空だぁ。もしかして見とれてた?」
「ち、違いますよ!」
何だろう。何だこの破壊力は!
そんな上目づかいで振り向かないでください!
「あ・ず・にゃん……!」
「はぁ……っ!」
ゆっくりと目を細めながら私を抱く唯先輩。
いつもの突発的で、元気な抱きつきとは違って、何だか……
─色っぽい……。─
「あずにゃんも髪下ろしなよ」
頬に手を添えられ、私を見つめながら言う。
瞳の中の私は顔が真っ赤だ。
ぼーっとしていると、唯先輩の手が私の髪を解き始めた。
「あっ……」
するりと髪が広がる。それを愛おしく見つめる唯先輩。
「綺麗だね……。梓……」
「あ、あず……」
そんな真剣な顔で名前を呟くなんて卑怯です……!
いつもと雰囲気が違っていて、魅力三倍増しです……!
「うふふ……」
「ゆ、唯先輩こそ……、綺麗ですよ……」
「ありがとう……」
髪が風に揺れて、ゆるやかに広がる。
幻想的な光景に見とれていると、唯先輩の顔が近くなる。
「ゆ、唯先ぱ……」
「梓……、綺麗だよ……」
そして、私達の距離は……

「唯先輩!」
……ゼロになった。
というかいなくなった。
「……あれ?」
いつもの見なれた自室。そして、今自分のいる場所はなぜかふかふかだ。
状況を理解するのに数十秒かかった。
も、もしかして……
「あ、あはは……」
自分の妄想力がこんなに恨めしいと思ったことは無い。
「そうだよね。唯先輩が急にロングになるなんてありえないよね」
昨日まであんなに短かったんだし。
そんな盛大な夢落ちをかましてしまった私が、放課後部室に行くと……。
「あ、あずにゃん来た!」
「え……?」
そこには、髪が長い唯先輩がいた。
「そ、そんな……」
「ねぇ、どう? 似合うぅ?」
ありえない。昨日までショートだったのに!
ってこれは夢!? 夢と同じ!?
でも、それは夢でも何でもなかった。
「あ・ず・にゃん!」
「はうぅ……」
だ、だめ……っ! そんな声で言わないで……!
「ねぇ、どう?」
上目づかいで、ふわふわの髪が私の目の前で揺れる。
あぁ……、色っぽいよぉ……。
「あ、あずにゃんどうしたの!?」
思いっきり呆けてしまって、崩れた私を慌てて唯先輩が私を抱きとめる。
「あ、あはは……」
「大丈夫? あずにゃん」
そういうと、唯先輩の長い髪が、するりと落ちた。
「へ?」
落ちた? というか、無くなった。
「ごめんね、急にあんなのかぶってびっくりしたんだよね?」
目の前にいる唯先輩は、いつものショートだ。
「あれ……?」
唯先輩の手には、先ほどの長い髪。
これから察するに……
「かつら……?」
「ようやく正気にもどったね」
そういって、にこっと笑う唯先輩。
「物置の中から見つけてさ、ちょっとかぶってみたんだけど……」
そうだよね……。髪の毛が急に伸びるはずないよね。
「もう、大丈夫です」
「そう? よかった」
あぁ……、本当に危なかった。
「あの、唯先輩」
「なぁに?」
「あのかつら、あまりかぶらないでください」
「えぇ~!? すごく似合っていると思ったんだけどなぁ……」
「だめっていったらだめなんです!」
「ぶ~!」
少し不機嫌な唯先輩。でも、我慢してください。
じゃないと……
─私、我慢できなくなっちゃう……─

END


  • かわいい。髪形のお話って好きです -- (名無しさん) 2010-11-04 15:37:30
  • 上に同じく、好きです -- (4ℓの噴水(赤)) 2010-11-04 22:13:52
  • 同じく好きです -- (名無しさん) 2011-12-25 08:16:26
  • 同じく好きです -- (名無し) 2012-08-29 15:57:01
  • なんて破壊力!? -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 07:50:25
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最終更新:2010年11月04日 13:57