Case3/盗賊―Ghost thief―
その日、天原探偵事務所には、珍しく早朝から客が訪れていた。
男の名は、風馬走一。セキュリティのデュエルチェイサー隊の一員である。
葉鐘の旧知の仲でもある彼は、一体どんな事件の風を運んできたのか・・・
扉に打ち付けた看板は、しかしその日も変わらず静かに佇んでいた。
遊戯王Parallel Case3 盗賊―Ghost thief―
「――とまあ、これが今回お前に頼みたい事件なんだが・・・。妙だろ?」
あらかたの説明を終えた風馬が神妙な面持ちで尋ねる。
「『手を触れず』『離れた位置』に居ながら宝石を盗む窃盗犯――確かに妙だな。」
「他の連中や牛尾さんは『絶対に何かのトリックだ』って言ってるが…お前としてはどうなんだ?」
「ン…そうだな…このパターンは恐らく…。」
「恐らく?」
ややあって、大真面目な顔で葉鐘が口を開いた。
「新手のスタ…」
「オイ!」
風馬の目が何よりも雄弁に語っていた。
それ以上はやめろ。と。
「…冗談だ。しかし奇妙だが普通のトリックじゃあないな、これは。」
「普通じゃないって…観りゃあ分かるだろ?」
「ああ…トリック自体が普通じゃないというより…不自然なんだ。トリックにしてはな。」
「トリックにしては不自然…?どういうことだ?」
サッパリ訳が分からないといった風馬に、葉鐘はゆっくりと答える。
「ココまで奇妙キテレツなトリックを仕込むには前もって潜入して何らかの仕掛けを施す必要がある…。そうなれば、それこそ透明人間でもなければ仕込む段階で脚がつく危険が大きい。」
「店の人間がグルだって可能性は?」
「その線も無くは無いが…ここまで『演出』して脚がつくかもしれないリスクを、共犯者が果たして負うだろうか?
…俺なら、1億積まれてもヤだね。」
「それもそうだな…。」
そう言うと風馬は考え込んでしまった。
このまま二人して言葉だけで考えても埒が明かない――
「とりあえず、監視カメラの映像だな…あるんだろ?」
「ああ。これがそうだ。――正直俺には何度観てもサッパリだがな――。」
そういって風馬は一枚のディスクを取り出し、プレイヤーにセットした。
「事件当日、店の防犯カメラに映っていた映像だ。このフードの男が…。」
「ホシ、ってことか。」
「そうだ。それじゃあ、流すぞ。」
それは確かに異様としか言い表せない映像だった。
男が店内を一瞥し、店員が目を離している内に獲物を見定めたかと思うと――
赤外線センサーに囲まれて展示された首飾りが、ひとりでに男の下へと移動していったのだ。
そして男はカメラをチラリと見やり――尤も、顔はフードで隠れてはいたが――そのまま店を後にした。
「…驚いたな。」
「ああ、俺も全く同じ感想だったよ…天下のセキュリティも、幽霊だか超能力相手じゃあお手上げさ…。」
「幽霊に超能力…ねえ。」
呟いて、葉鐘は妙な違和感を覚えた。
今の映像――『何かが』おかしくは無かったか――?
店の様子も普通。店員や、他の客にもおかしな所は無い。
容疑者の男も――大胆不敵というか――怪しい動き一つせず、寧ろ堂々としていた。
『異常』だったのは、つまり…。
「風馬、今のシーン…もう一度だ。」
「今の…?」
「ああ。男が首飾りを観る辺りから、頼む。」
「判った。その辺りまで戻すぞ。」
男が首飾りに視線をやる。
その直後、良く観ると男はポケットに手を入れている。
そして、再び宝石は…男の元へと吸い寄せられていく。
違和感は、『そこ』にあった。
「風馬!」
機を逃すまいと、無意識の内に葉鐘は声を張り上げていた。
「どうした!?」
「今の男がポケットに手を入れてから首飾りが手元に行くまでをスローで頼む!」
一変した葉鐘の様子を見て、風馬は不思議と安心を覚えた。
やはりこの男は――自分達セキュリティの気付かない『何か』を見落とさない。
組織として行動する自分達と違い、独りで闘う男独自の感覚――とでも言うのか、この男と組んでいると、
そういった説明しがたいものも、不思議と信頼できる気がしていた。
「よし、任せろ。」
手早く映像を巻戻し、スローに切り替える。
「この辺りか?」
「ああ。男や店じゃない…『首飾りそのもの』と、その周りの『空間』を意識しろ。」
「・・・?良く分からんが、その辺りを注目していれば良いんだな?」
「ああ。始めてくれ。」
風馬がスロー再生を開始する。
葉鐘の言葉通り、首飾りとその周囲に目を凝らす。
すると――
「…あれ…?」
「な?うっすらだが、見えたろ…『歪み』のようなヤツがさ。」
そう、葉鐘の違和感とはその『歪み』だった。
『歪み』は極僅かな範囲に留まり、かつ対象の首飾りそのものも映っている範囲と比較して小さい。
目を凝らさなければ見えもしなければ気付きもしない『歪み』…それが何を意味するかは判らなかったが、
それが事件の真相に確かに繋がる物だと、風馬は確信した。
セキュリティとしての勘――である。
「しかし、この歪みは一体…?」
「さあな…それまで周りには何の異常もねえ…ヤツが動いて初めて歪みは姿を現した…。と言う事はコイツは、カメラの不具合って訳じゃあ…」
眼を閉じる。
「無さそうだぜ。」
そして、一呼吸の後に葉鐘が眼を開くと、その左眼は――左眼『だけ』が――ルビーのような真紅に替わっていた。
風馬がこの『ルビーの瞳』を観るのは初めてではない。
葉鐘が事件の『本質』を見抜かんとする時、その左眼は何時も――燃えるような、ルビーの輝きを宿していた。
「さあ、ギムレットを――空けようか。」
三度映像を見返す。
違和感を感じたポイントは判った。
ならば俺の、正確に言うならば『俺達』の、この『ルビーの瞳』で、その『本質』を狙い撃つ・・・!
左眼に意識を集中し、首飾りを凝視する。
『ルビーの瞳』は観ようと意識した対象の本来の姿、その『本質』を観る力を持つ。
二度と取り返せない物と引き換えに、葉鐘が引き継いだ力であり、最期の約束を果たす為の――街の涙を拭う為の――力。
今までおぼろげな『歪み』だったものが、徐々にその隠れ蓑を剥がれて行く。
浮かび上がったモノ、それは――。
「・・・なるほどな、まさかこんなヤマで実物を拝むとは・・・ね。」
「分かったのか!?」
「ああ。・・・だが、このままじゃあ見せられないな・・・次に狙われる場所の目星は付いているんだったな?」
「・・・?あ、ああ。だが手口が実証できない以上どうにも・・・。」
「その『手口』・・・実証する手段が1つだけある。風馬、次のターゲットの店に監視カメラの他にサーモグラフィを設置してくれないか?その映像を見れば、判る筈だ。」
「サーモグラフィを・・・?ああ、手配させる。」
「それと、逃げられると厄介だ。同時進行で尾行もつけといてくれ。」
「了解だ。」
―翌晩 ネオドミノシティ某宝石店―
[こちらブラボー、犯人を確認した。追跡する。]
[アルファ了解。見失うなよ]
「・・・フン、尾行か・・・そんなものつけたところで俺の手口が判らなければどうせ逮捕も出来まい・・・。
俺は俺の好き勝手やらせてもらうさ・・・ハハッ、それくらいの権利はあらあな・・・。」
フードの男は笑みを零すと、宝石店へと足を踏み入れた。
「葉鐘、本当にこれで判るのか?」
一方店内のスタッフルームには、葉鐘と風馬、そしてその部下が集まっていた。
「ああ。あれは『そういうモノ』だ・・・もっとも、完全な形だったならこんな風な真似は出来ないがな。」
「そりゃあどういう・・・ん?ヤツが現れたぞ。」
「よし、サーモグラフィを入れてくれ。」
「OK、サーモ頼む!」
サーモグラフィのスイッチが入る。今のところ異常は見当たらない。
「・・・む・・・?下見の時よりカメラが増えている・・・?無駄な事を・・・。」
店内に踏み入った男は増えていたカメラ、詰まる所葉鐘の仕掛けたサーモグラフィを意に介さずに店内を見渡し始めた。
「フフ、これにするか。真球のルビー・・・良い値でサバけそうだ。」
「ヤツが狙いを定めたらしいな。」
「ああ。しかしよりによってルビーか・・・ジョーカーを引いちまったな。」
男が袖に手を入れる。
その時、サーモグラフィに変化が現れた。
「これは・・・。」
「・・・な?『見えた』ろ?」
カメラでは何も―『歪み』以外は―映っていなかったが、サーモグラフィにだけは、確かに映るものがあった。
「ああ、人型のシルエットが――いや、待てよ?これは・・・見覚えがあるぞ・・・このシルエットは・・・!」
「そう、<<終末の騎士>>・・・だ。」
「馬鹿な、ソリッドビジョンならまだしも肉眼で見えない上に実際に物を盗めるなんてありえない!」
「それが・・・あり得るんだよ。」
ふう、と一呼吸つくと葉鐘は周囲のメンバーに説明を始めた。
「・・・詳しい事はハブくが、サイコパワーとかいうカードを実体化する超能力・・・とでも言えばいいか。そういうのを持った人間が稀に居るらしい。そして更に稀少な事にコイツは『中途半端』にしか実体化できないみたいでな・・・。」
「中途半端・・・?」
「ああ。具体的にいうと『はっきりと見えるレベルで形にはできない』。だが『ある程度の物理的干渉は可能』って所さ。
だからそいつを逆手にとって――。」
「盗みに悪用したって事かよ・・・!」
「そういう事だ。こんな事件で本物にお目にかかれるとは、運がいいやら悪いやら・・・おっと、実害が出てる以上、こいつは悪い方に入るな。――当然全て取り戻させるが。」
一同は信じられないといった様子で御互いの顔を見合わせ、一様に困惑している。
「しかし・・・超能力とはまた・・・何とも・・・。」
「…おいおい、俺の『眼』だってある意味似たようなモンだろ?」
「そうかもしれんが・・・」
風馬がそう言ってモニターに視線を戻すと、フードの男は今正に店を出ようとしていた。
「あ!葉鐘!奴が逃げるぞ!」
「ブラボーチームに尾行を再開させろ。そこを俺達がD-ホイールで回りこんで抑えるぞ。・・・アレだけ堂々とやっておいて、まさかモノレールで悠々と逃げるつもりじゃないだろうしな。」
「判った!ブラボー、目標を追跡しろ!」
[ブラボー了解。尾行を開始する。]
「よし、俺達も出るぞ!」
「ああ。俺のデュエルチェイサーを回せ!葉鐘のハウンドもだ!」
「了解!」
―宝石店近辺 路地―
「ん…?追っ手がヤケにしつこいな…どいつもこいつも…。」
歩を早める男を追うブラボーチーム。
だが、路地を曲がった所で男を見失ってしまう。
―どこに消えた?
そう思った刹那、爆音を上げて1台のD-ホイールが路地から飛び出した。
「うわっ!?」
「ハアッハァー!馬鹿が!盗み働いといてトボトボ歩いて帰るマヌケが居るかよ!このままサテライトまで逃げりゃあ…」
後ろを振り返りそう叫んだ男は、視線を前に戻した瞬間――
冷や汗をかく派目になった。
「そうとも、歩きで帰るマヌケじゃあねえってのは…こっちも承知さ。だがお前は歩きで追ってくる馬鹿ばかりだと思い込んでいた様だな?」
かくして鈍色の猟犬は、獲物の喉元に喰らい付いた。
「チッ、先回りか…。味な真似を…。」
「言っとくが、裏もセキュリティのダチが固めてる…お前に逃げ場はねえ…。」
「…ハハッ…確かに俺はカネを払わずに首輪を手元に抱えて店を出たさ…だが!テメーもカメラで見てたんだろ?
俺は!手元に来るまで!あの首輪にゃあ『触れてねェ』ーんだよ!勝手に飛んできたんなら俺が盗んだ訳じゃあねぇよな?あァ!?」
「ああ。確かに『お前は』触れてねえ…『触れた』のは…『お前のモンスター』だからな!」
そう言うと葉鐘はポケットに忍ばせたビンの蓋を男の隣の空間に―『ルビーの瞳』に映った<<終末の騎士>>に―投げつけた。
「!?て、テメー何で見えるんだ!何で!テメーもサイコデュエリストだってのかよ!」
「いいや、違うね…だが…観えちまうんだよ、俺の『眼』には、な。」
「何だよ・・・何だよそれはァッ!聞いてねェ…聞いてねェ聞いてねェぞ!」
「当たり前だ!初対面なのに知られててたまるか!」
「ふざけてんのか…テメー…!」
「至って真面目何だがな、俺は…そうだ、ついでにお前の『動機』も当ててやろう。」
「何ィ?」
「不完全ながらサイコデュエリストだったお前は…普通の人間からは避けられ…同じサイコデュエリストの仲間である筈の連中からは
不完全ゆえに馬鹿にされ…ヤケになったお前はその『見えない』って特徴を使って好き勝手しようとした…その手始めにカネを
手に入れるため、連続で宝石店を狙った!違うか?」
「ああ…ああそうさ!無能どもはバケモノ扱い、バケモノ連中からは役立たず扱い!だから!俺は俺の為だけにしか動きたかねえんだよ!それの何が悪い?テメーに何が判る!?」
「判んねーな…生憎な。だがな、見えねえモンスターで何かができるってのがすげぇのは判るだわ。だからさ…盗ったモン返して、
今度は人の為に動いてみねえか?少しずつだがそうすりゃあ認められるさ。お前がその気なら、俺はいくらでも協力するから…さ。」
男は黙って俯いていたが、葉鐘は男が小刻みに震えていることに気付いた。
「…せぇ…煩え煩え煩え煩えウルセェッ!!どいつもどいつもどいつもどいつも!俺はお前等なんざより優れてるんだよ!お前等無能共が俺に指図する何ざおかしいんだよ!ふざけやがって…テメーも!あの時同じ事を喚いたガキみてーにぶっ殺してやるよ!俺が!
俺の…俺のサイコデュエルで!一面にブチ撒けてやる!
そして死ね!」
「やれやれ…どうやらドぎつい御灸を据えなきゃなんねーようだな…穴が開くほどな。」
静かに首を振ると葉鐘はデュエルディスクをセットする。
「出しな…テメェのデッキを…ライディングデュエルで…思い知らせてやる…ッ!」
「ハッ…俺のサイコパワーでD-ホイールごとバラバラにしてやるぜ…!」
[デュエルモード オン スピードワールド ディセーブル]
「ライディング・デュエル…!」
「アァァクセラレーションッ!!」
「コースはこの周辺の路地を3周…先に3周を回るか、相手のLPを0にするか!走行不能にすれば勝利だ…!」
「ハッ!走行不能どころか人生終了させてやるよ!」
「喚いてらァ!先行は貰った!俺のターン、ドロー!<<ブリザード・ドラゴン>>を攻撃表示で召喚!リバースカードを1枚伏せ、ターンエンドだ。」
伏せたカードは<<トラップ・スタン>>…もし相手が罠を貼り、守備モンスターを置いた所で返しの俺のターンに発動し、そのまま攻撃に繋ぐ…今回も速攻で行かせて貰う!
「俺のターン、ドロォー!<<可変機獣 ガンナー・ドラゴン>>を生贄なしで召喚する!」
<<可変機獣 ガンナー・ドラゴン>>自身の効果により攻撃力半減
ATK2800→1400
<<ガンナー・ドラゴン>>…?攻撃力が半減したそいつでは、俺のブリザード・ドラゴンは倒せん・・・何を考えている?
「更に永続魔法、<<機甲部隊の最前線>>を発動!」
「!!」
<<機甲部隊の最前線>>…!このカードの効果の対象となる場合、<<ガンナー・ドラゴン>>は墓地…即ち本来の2800として処理される…。
つまり、攻撃力2800以下のモンスターが特殊召喚できるということ…<<ガンナー・ドラゴン>>は初めから捨て石か!
「バトルフェイズ!<<ガンナー・ドラゴン>>で<<ブリザード・ドラゴン>>を攻撃!」
<<ガンナー・ドラゴン>>撃破。
フードの男LP 8000→7500
「ッハハァ!痛ぇ…痛ぇがぁ!テメーはこれからもっと痛い目見るぜ!<<機甲部隊の最前線>>の効果発動!俺のデッキから!<<ブローバック・ドラゴン>>を特殊召喚!<<ブローバック・ドラゴン>>の攻撃!」
<<ブリザード・ドラゴン>>撃破。
葉鐘LP 8000→7600
「――ッ!」
全身を衝撃が走る。不完全とは言えサイコデュエリスト――あるいは、デュエルを通すと不完全でもここまでのダメージが発生する物なのか。
「ハハハ!どうだ痛ぇだろォ!これが俺の…俺の力だァ!ヒャッハハハハハハ!!」
「野郎――!」
確かに痛みはある―少々驚かされたが、高々400。大したダメージではない…!
「メインフェイズ2…<<ブローバック・ドラゴン>>の効果発動!3回のコイントス中2回が表の場合!お前のカードを破壊だ!」
果たして結果は――表・裏・表。<<トラップ・スタン>>が無残にも打ち抜かれた。
「クッ…!」
「更にカードを1枚伏せ…ターンエンドだ!」
苦しいか…しかし、まだ序盤だ…問題は無い。
「俺のターン、ドロー!…!こいつは…。」
毎度の事ながら…本当に助けられるな、このカードには…!
「手札から<<ミラージュ・ドラゴン>>を召喚!更に魔法カード、<<一族の結束>>を発動!場のドラゴンの攻撃力は800ポイントアップする!」
<<ミラージュ・ドラゴン>>、<<一族の結束>>により攻撃力上昇。
ATK1600→2400
「バトル!<<ミラージュ・ドラゴン>>で<<ブローバック・ドラゴン>>を攻撃!」
<<ブローバック・ドラゴン>>撃破。
フードの男 LP7500→7400
「ククク…開いちまったなァ、地獄の釜の蓋をよ!」
「何…?」
「<<機甲部隊の最前線>>の効果発動!さぁ…アイツをバラバラにしてやれ!<<ニードルバンカー>>!」
「<<ニードルバンカー>>だと…?」
<<ニードルバンカー>>は攻撃力は下級アタッカークラスの1700だが、モンスターを破壊した場合、そのLVの500倍のダメージを与えるモンスターだ。<<ブローバック・ドラゴン>>は戦闘ダメージと共に俺の伏せカードを破壊するための布石か…!
「クッ…ターンエンドだ…。」
現在地点
葉鐘が1周を終え、2週目に突入。その100m後方にフードの男。
「俺のターン…ドロー!ハハハハッ、もっと足掻け…!<<KA-2 デス・シザース>>を召喚!」
「何・・・だと・・・!?」
<<KA-2 デス・シザース>>…こいつも<<ニードルバンカー>>と同じ効果を持つモンスター…!
「こうなっちまえばテメーはもう逃げるしかねえ…だがな!3周する前にテメーのライフはあっという間に0だ!」
「クッ…。」
だが、まだ<<一族の結束>>を受けた<<ミラージュ・ドラゴン>>の攻撃力が上回っているのは事実…逃げるまでも無い――筈だ。
「行くぜ…<<ニードルバンカー>>で<<ミラージュ・ドラゴン>>を攻撃ィ!」
「何!?」
血迷ったか?このままでは返り討ち…このままでは、だが…。
「ダメージステップ!」
「!?」
やはり何か隠し持っていたか…!このタイミングとなると、攻撃力増減の速攻魔法…と、いうことは…!
「リバースカードオープン、<<収縮>>!!」
「ぐ…ッ!」
<<収縮>>…フィールド上のモンスターの元々の攻撃力を半減させる速攻魔法…!
「縮め縮め!ホラホラァ!」
<<ミラージュ・ドラゴン>>、<<収縮>>によりベース攻撃力半減。
ATK2400→1400
「そして戦闘破壊により…<<ニードルバンカー>>の効果が発動する!」
<<ミラージュ・ドラゴン>>撃破、更に<<ニードルバンカー>>の効果によるダメージ
葉鐘LP7600→5300
「うおああっ!」
「追撃だ!<<KA-2 デス・シザース>>!!」
<<KA-2 デス・シザース>>の直接攻撃。
葉鐘LP5300→4300
「ぐあああっ…ゼェ…ゼェ…」
ダメージを負い過ぎたか…流石に堪える…な・・・だが、ここで負けるわけには行かない…!
――同時刻、後方の風間・デュエルチェイサー隊――
「葉鐘と犯人はどうなってる!」
[それが…犯人のD-ホイールにブラボーチームが突破された所を天原葉鐘が追跡し…その…]
「何だ!?」
[・・・デュエルを・・・しています・・・]
「何・・・!?オイ待て、葉鐘の話によるとアイツとのデュエルは…!」
[隊長、どうされます…?]
「追うぞ!全員デュエルモードスタンバイ!腹を括れ!」
[了解!]
「あの馬鹿野郎何考えてるんだ!クソッ、俺がもっと身軽に動けたら…!」
風馬は歯を食いしばると、デュエルチェイサーを走らせた。
戦友の元へと――。
――路地――
現在位置
葉鐘が2周オーバーを走るも、かなりのダメージを負っている。
距離差約170m。
「しぶとい野郎だ…だが…そろそろ限界なんじゃないのか?ええ?」
「グッ…ハァ…ハァ…。黙れよ…俺の…ッ!ターン!」
…!このカードは…賭けるしかない…!
「魔法カード、<<トレード・イン>>!手札の<<フェルグラントドラゴン>>を捨て…カードを2枚ドローする!」
頼むぜ…もう少しだけ力を貸せ…!
―――よし!
「フィールド魔法…<<死皇帝の陵墓>>ッ!!」
「何ィ!?馬鹿かテメエ?この状況で『ライフを払う』ってのがどう言うことか判ってんのかよ!」
「ああ――行くぞ…ライフを2000ポイント払い…!」
命を削ろうとも――例えコイツにどんな事情があろうとも――自らの妄執の為に命を奪うような男に…!
「俺は…!負けないッ!!」
通常召喚、最期の切り札――<<タイラント・ドラゴン>>――!
<<死皇帝の陵墓>>ライフコスト
葉鐘LP4300→2300
<<タイラント・ドラゴン>>、<<一族の結束>>により攻撃力上昇
ATK2800→3600
「うおおおおおおおおっ!」
「<<タイラント・ドラゴン>>…だとォ!?」
「ハァー…ハァー…そうだ…このモンスターは…!相手フィールド上にモンスターが存在すれば…連続攻撃が可能となる…!
バトルフェイズだ…!食らえ、渾身の――『タイラント・バースト・フレア』…連打ァ!!」
「何ィイイイイッ!?」
<<KA-2 デス・シザース>>撃破。
フードの男LP7400→4800
<<ニードルバンカー>>撃破。
フードの男LP4800→2900
「うごォォォォッ!」
「カードを1枚伏せ――ターンエンドだ…。」
ゴールと定めた3周までは残り数100m。
このまま行けば、先行勝利のルールにより葉鐘の勝利となる。
「クソが…クソがぁっ!無能の分際で…よくも…よくもこの俺にィ!ドロー!…魔法カード、<<闇の誘惑>>…デッキから2枚ドロー、
その後闇属性モンスターを除外する……ヒャハ…ヒャハハハハハハ!!テメーはもう終わりだァ!」
「…な…に…?」
「先ずは手札の<<ガンナー・ドラゴン>>を除外!そしてェ!<<サイクロン>>!<<一族の結束>>を破壊する!!」
<<一族の結束>>破壊。<<タイラント・ドラゴン>>の攻撃力減少。
ATK3600→2800
「そしてェ!<<死者蘇生>>!戻れ!<<ニードルバンカー>>!そして<<リミッター解除>>だ!<<ニードルバンカー>>の攻撃力は2倍になる!」
<<ニードルバンカー>>、<<リミッター解除>>による攻撃力倍化。
ATK1700→3400
「トドメだ…ヒヒ…<<タイラント・ドラゴン>>共々死ねェ!!」
その時、後方から風馬達デュエルチェイサー隊が二人に追いついた。
「葉鐘ェ!」
「風馬か…手を…出すな…。」
「そんなボロボロでカッコつけてる場合じゃないぜ!デュエルは無効に…」
「風馬ッ!」
「…!」
風馬は見た。
葉鐘の眼に宿る真っ赤に燃えた――『ルビーの瞳』ではなく――魂の火を。
「遺言は終わったかよ…ええ!?」
攻撃が――着弾する。
爆煙で辺り一体に土埃が舞い、一瞬――その場全員の視界を奪った。
「ヒャハ…ヒャハハハハ…!跡形もなく消し飛んだか…?消し飛んだよなァ…!」
「葉鐘…!」
爆煙の向こう。葉鐘の亡骸が転がっているであろう場所――そこから、声が響き渡った。
「罠カード…<<ドレインシールド>>…!!」
「何ィィィッ!?」
「おお…っ!」
走っていた。鈍色の猟犬は、傷だらけの車体を淡い光に輝かせ――確かに走っていた。
「そして今!ルール通りに俺はお前よりも先に3周を完走し――ついでに、ライフも俺の方が上だぜ。」
<<ドレインシールド>>による攻撃無効、及びLP回復
葉鐘LP2300→5700
――葉鐘、3周先行により勝利。
「やった!…んだよな…?」
「やったんですよ、隊長…。」
皆が勝利を確かめ合う中、男は――
「認めねえ…認めねえ認めねえ認めねえ認めねえ認めねえ認めねえぞオオオオオオオオッ!!!」
――慟哭した。
「デュエルで負けようが…!俺のサイコパワーで…テメーをぶっ殺せば同じ事よ!<<ブローバック・ドラゴン>>!!撃ち殺せェ!」
「しまった!ここからじゃ間にあわねえ…避けろ!葉鐘ー!」
「…俺にサイコパワーとやらは使えなくてもなァ――」
ガチリ。<<ブローバック・ドラゴン>>の撃鉄が起きる。
「力の『質』と『向き』さえ観えれば――」
シリンダーが回り、銃口が葉鐘の頭に向けられ――そして、引き金が引かれた。
「『逆に辿る』のは――容易い!」
瞬間。
葉鐘の<<タイラント・ドラゴン>>のブレスが、放たれた銃弾を巻き込んで放たれ――
<<ブローバック・ドラゴン>>諸共、男を吹き飛ばした。
「な・・・なん・・・ギャアアアアッ!」
「――安心しな…度数は、抑えた…。ま、こちらに向かってくる力の『質』と向きさえ判れば…こちらのより強いモンスターのイメージを『逆流』させて跳ね返せんのさ…尤も、気を失っちまって聞こえちゃあいねえがな…。しかし、心底捻じ曲がった奴だったぜ…。」
かくして男は気絶したまま、セキュリティのレッカーに乗せられて行った。
「なあ、葉鐘…。」
「…何だ?俺は早く休みてえ…。」
「ああ…済まん。しかしアイツは…『加害者』だったのか…?それとも『被害者』だったのか…?」
「さァな…ただ…。」
「ただ…?」
葉鐘は、空を見上げて訥々と語った。
「アイツが俺と同じような事を言ったって言う子供を殺しちまった時から――アイツはもう、救えなかったのかもしれない…。
その子に出会うのが少しだけ…少しだけ早かったのなら…とは、思うがな。」
「…何だか、複雑だな…。」
「そう言うな、お前は仕事をしただけ、俺は許せないと思ったからぶっ飛ばしただけさ…それでもし何かの切欠で救えたのなら儲けもんだし…救えなかったとしても、それは誰かの所為じゃない…誰もがやっちまったことなのさ。少し何かが違う、その事を気にし過ぎたのさ――どれ、ボロボロんなっちまったし腹ごしらえと行くか――いつものラーメン屋、行こうぜ。」
「…ああ、そうだな…。」
白み始めた空を見上げて、葉鐘は思った。
もしも、もしも『アイツ』があの男を前にしたら――どんな言葉を掛けたのだろう?
少しだけ考えてみたが思いつきそうにも無かったので、ただ、空を見ることにした。
Case3・end
最終更新:2011年12月09日 05:21