渚の夢幻城(1F)
城に入ると、非常灯のような明かりが灯っているが、やや薄暗い。
ホールは奥行き80m・幅60mと言ったところで、前方に吹き抜けになった螺旋階段があり、ここから各階へ移動できるようだ。
また、階段の奥に扉が3つ、正面から左手側に扉が2つ、右手側にも2つ扉が見える。
さて、どこから調べたものか。
「とりあえず手近な所から調べてみましょうか」
「嫌な雰囲気だなぁ」
「なんだか嫌な空気……この扉を開けたら急に敵が襲ってきたりとかもあるかもしれませんね、それなら……」
「(念を入れて…感覚強化を!)」
「式鬼並列召喚、陰鬼!」
「よく見える奴!怪我が治るの!強くなるやつ!」
鼎、御鈴、
カルノの3人が戦闘に備えて体制を整える。術者の僕たる式鬼を呼び出し終えた御鈴は、即座に各々へ指示を出し、周辺を探索させる。
「1体目の陰鬼は私の近くに、2体目と3体目は階段奥、最後の1体は向かい側の扉の先を偵察してきて!」
「何か聞こえるかな・・・」
続けて感覚強化で聴覚を増した鼎が耳を澄ますが、変わった音は特に何も聞こえない。そう、確かに視認した筈のエレベーターの動作音さえも・・・
どうやらエレベーターは止まっている様だ。
「んー、エレベーターの動作音がしないなぁ…しゃらくさい! さっさと調べましょ!」
言うが早いか、鼎が左手に見える部屋のドアを開け放った。どうやら開けた扉の隣の扉も同じ部屋のドアだったらしく、どちらから入ってもこの部屋に着いたようだ。
~食卓~
ここはどうやら食卓のようで、端から端まで届く長いテーブルが一際目を引いた。
テーブルを見ると、見るからに美味しそうな料理が並んでおり、香りや熱気、五感から伝わる全てがこの部屋の料理は本物だと判断したが…一行の理性か、或いは本能か…何かが"それは間違っている"と教えていた。
加えて、既にビュッフェで良質な海の幸を平らげた一行にとっては、今やそれらのご馳走はさほど興味深くは見えなかった。
「あ、怪しい……怪しすぎる」
「さすがの私でもこれは怪しいって感じる・・・」
著者注:ここで一行はランチをとっていなかった場合発生する予定だったトラップ
イベント、「襲い来る空腹」を回避した。
「お腹いっぱいだからもう食べ物はいいや・・・ハッ・・・富士の樹海にお土産として持っていこうかな?」
「(ところがどっこい、私はたべたひ……)た、食べていいかな? 南条先輩…。」
鼎が料理を手にとろうとする。確かな重さと手触りを感じるも、何故か動かすことができない。…どうやら魔術の一種、"幻想生成"のようだ。
がっかりした様に肩を落とす鼎だったが、すぐにその落胆は憤慨へ変わり、その勢いで気を取り直して周囲の調査を始めた。
「この私を騙すとは……万死に値するっ!…こういう時は私にお任せってね~。…ん? これは……」
テーブルに並べられた皿の中に1枚だけ、空の皿があることに気が付く。…どうやら本物の銀製食器のようだ。
「あっ、これ本物だよ!」
「おぉ!」
「銀製の皿……だね そういえば、なんか換金してくれるんだっけ?」
「うわ、なんか高級そう!結構高く売れるんじゃないかな?」
「他には特にないかな~」
「ないのかー・・・この幻影消せばなにかあるかな?」
「どうせ無駄じゃないの?」
「そっか、なら別にいいや」
~一方その頃~
御鈴が探索に向かわせていた陰鬼の様子を探る。
―2体目。キーボックスを見つけたが、中身は空。部屋にはクローゼットなどがあるようだが、それ以外に変わったところは無かったようだ。
―3体目。この個体が捜索した部屋も使用人の部屋らしく、三面鏡などがあるが今のところかわった様子見当たらない。
―最後の1体。部屋の奥に扉を見つけたが、今はまだ開かないようだ。このフロアの動力が落ちていることに関係があるのかもしれない。
御鈴はこれらの情報を一行に伝え、次の手を話し合った。…換金できそうな品物を見つけた髪結は鼻歌交じりに話を聞いている。
「じゃあねー、階段の裏の残った部屋から調べましょっ」
「4体目が調べた部屋の奥の扉こじ開けられないかなぁ・・・?」
「後で試してみようね、カルノ君♪」
「うん!」
…式が調べたところ、魔術的なトラップが仕掛けられているらしく、攻撃すれば死に至ることが判明した。
話し合いの結果、一行はエレベーターに近い部屋を捜索、2体目と4体目の陰鬼が残りの扉を調べることに決めたのだった。
エレベーター近くの部屋
並んだ2つの部屋と同じく、ここもどうやら小部屋のようだ。すると、鼎が小机の上に何かを見つけた。
「あれは……」
「机だー」
机の上にはメモ用紙と小さな鍵が置いてある。鍵を手に取ると、鼎は早速そのメモを読んでみることにした。
「えーっとなになに……」
『動力室の鍵は1Fの小部屋に置いておきます。
短い間でしたが、お世話になりました。使用人・モリーより主へ。』
「だってさ。じゃあこれが動力室とやらの鍵……かな」
「動力室……4体目が見てくれた部屋の奥の部屋かも?」
鼎と御鈴が話している間に髪結がクローゼットを開けようと試みたが、どうやら鍵が掛かっているようだ。
「クローゼットにはカギ?・・・ 誰か壊せたり鍵出せたりしないのー?それとも4体目が見てきた部屋に行ってみる?」
行き先を決める前に手がかりを探そうと、鼎が辺りを探索し始めた。髪結もそれに続く。
「なにかないかな~?」
「探索探索ー♪」
…すると、モリーとかかれた表札を見つけた。どうやらここがメモの書き主の部屋だったようだ。
「ふぅん……ここがモリーって人の部屋って事ね。他になさそうね。でよでよー」
(Sely) モリーのワンダーランド
一旦外に出た一行。御鈴は再び残りの部屋に向かわせていた陰鬼に意識を向ける。
…どうやら探索させておいた部屋が動力室のようだが、起動用の鍵が抜かれている。先ほど見つけたものよりも少し鍵穴が大きい。
他の部屋にヒントが無さそうだと判断した一行は、再び先程の部屋に戻ってきていた。
「えーっと、あとクローゼットと部屋の先の扉だけかな? この階」
「なーぜか知らないけどこの部屋最初からすごく気になってたんだよねー♪」
「髪お化けの直感あたりそ~、髪お化けだけに」
「このクローゼット、すっごい怪しい・・・ 怪しいよー」
「クローゼット鍵で開けてみようよ1」
クローゼットに小さな鍵を使ってみると、鍵穴にぴたりと嵌まった。
「あの鍵はここで正解だったみたいですね」
「ぴったりだね~・・・。」
「じゃあ、開けてみるよー♪(ガチャ」
髪結がクローゼットを開けると…中から何かが倒れてきた。
――死体だった。それも普段、博物館などに安置されている物位しかお目に掛かれない、"ミイラ化した"屍体。
その肌からはまるで一昼夜砂漠の太陽の下で天日干しにしたかのように水分が失われ、
濁った茶色に変色し硬化したその姿は、とても同じ生物の成れの果てとは思えない有様だった。
「!?」
「わひゃあ!」
「わわわ、モリーさん変わり果てた姿で」
「ミイラさんだっ♪」
「・・・変な所で自殺したねぇ・・・」
「あーあ、ひものだね かわいそうに」
亡骸を良く見てみると、手に鍵を握っている。現在の探索状況から察するに、どうやらこれが動力室の鍵のようだ。呼吸を整えた御鈴が鍵を使うべき場所を提案する。
「動力室の鍵…?を握ったままクローゼットで死んでる……状況が読めないけど、とりあえず動力室に行ってみましょうか」
「鍵……かな。これが動力室とやらの鍵?」
異様な光景に、それまで黙々と調査を続けていたレンも、ついに口を開いた。
「ますます不気味な城ですね……」
「で、でも、ミイラでもなんでも死体ならさ 警察のおじさんの得意分野だよねー?」
髪結に名指しされた鈴木が嫌々遺体を調べてみると、どうやら反射も含めて身動き一つ取れないまま殺害され、そのままミイラ化したらしい事が判明した。
ミイラ状態であるため現状では余り詳しくは分からなかったが…
…死後80…いや、100年は経っているモノのようだ。
奇妙な点を多く残しながらも、ミイラは外気に触れたためかそのまま風化して崩れてしまった。
「…いいダシがとれそうだな」
あからさまに不可能と分かりきっていた検死を行なった鈴木は、皮肉めいてそう呟くだけであった。
他には特に何も見つからず、と言うことは即ち自ずと一行の目的地も定まった。
「…どうしよっか?二階に上がる?それとも動力復旧させる?」
「上に行く前にね、動力室の鍵とか見つけたし、これ使ってみない? カルノ君?」
「そうだね!」
「さっき陰鬼が調べてた部屋だっけ、動力室。いってみよっか」
「はーい」
どうやら動力室のものらしい鍵を手に入れた一行は、そのまま動力室へと向かった。
動力室
…中に入るなりカルノが鍵を引ったくり、操作盤に駆け寄っていく。
「んじゃ鍵差すよー!」
「ま、待つんだ!」
「鍵差すよ!」
一同が固唾を呑んで見守る中・・・・・ポーンという電子音と共に、どうやら1Fの動力が戻ったようで、部屋を含めて1Fが明るく照らされる。
また、電子版の表示によれば、先程まで閉ざされていた部屋奥のドアが開くようになったようだ。
「なにか扉が開いた音がしたようね」
「ま、眩しい……ともかく、これでDの部屋の奥にも入れるかもしれませんね」
「鈴ちゃん? エレベーターはどう動いてる?」
「早く行こうよ!」
「珍獣はそろそろ落ち着こうね…」
落ち着きの無いカルノに苛立ち、拳骨を見舞った鼎を背にして、御鈴が落ち着いた様子で応える。
「エレベーター……流石にここからだと分かりませんから式に調べさせますね」
「むぐぐ・・・」
陰鬼にエレベーターの様子を探らせつつ、その間に閉ざされていた扉の奥を調べると言う寸法だ。
~電子ロックされていた部屋~
ここはどうやら書斎のようで、スクラップブックが1冊と英字新聞が積まれて置いてあるのが見えるが、他にも何か見つかりそうだ。
早速鼎が部屋を探ってみると、懐中時計を発見した。
「あら、これは懐中時計かな」
「ふむ、時計ですか」
「きれいな時計だねぇ」
「ん?これは・・・」
英字新聞を手に取るレン。内容が気になっている様子だ。
「英字新聞みたいですね、さっぱり読めない……」
御鈴が頭を抱えているが、その横でレンは中々のハイペースで新聞をめくっていく。速読はどうやら彼の特技の一つのようだ。
…程なくして、新聞を読み終える。どうやらイギリス、それも戦時中の記事のようだが…積まれているものもスクラップブックも、丁度今日から100年前からぷっつりと途絶えている事に気がついた。
「100年前……そういえばクローゼットに入っていたミイラもそれぐらい前に亡くなった方のものでしたね」
「これは……ミイラの年数と何か関係があるのでしょうか」
「ほほう……」
「100年前に何かあったわけだー 何かはわかんないけどー」
「100年前???」
「ま、それは置いておいて、他にはなんもないねー。」
「エレベーターか階段かだよね?」
部屋には他に目ぼしい物は見つからない。となると、必然的にこのフロアで必要な情報は、エレベーターの稼働状況のみ。
早速御鈴はエレベーターに向かった式に意識を集中させる。
…どうやらエレベーター自体は復旧したようだが、2F以上の階のボタンのランプが消えている。復旧したのはこの階だけの様だ。
「えれべーたー?使えないんだねー。二階に行く?」
「なーるほど、そういうことね……面倒な」
「・・・ってことはまだただの箱なのね?」
「これは……RPGのダンジョンとかにありがちな踏破した階へのショートカットってやつかもしれませんね、もしかすると」
「の、ようだね……ま、階段上るしか無いかな。ってことで珍獣先行よろしくー」
「うん!行くよー!」
「この階は一通り見て回ったはずだし登るべきかな、なんだか上の方は更に嫌な気配がするけど……陰鬼の内2体はカルノさんについて先行を。気をつけて下さいね。」
こうして一行はカルノと式を先頭に、2Fへと足を踏み入れたのだった・・・。
最終更新:2013年04月25日 14:23