EX01をみて
◆yuri0euJXw
「はい♪かなちゃん♥」
あたしが近くの店のボトルキャップを展示したショーウィンドウに釘付けになっていた。
ちょっと待っててと雪ちゃんが言ったのにも気がつかなかった。
細部の仕上げが気になるが,やはりお気に入りの一品がこうも勢揃いしているのを見るとつい欲しくなってしまう。
それでまた,雪ちゃんに「いい加減おもちゃは卒業したら?」とか言われてしまうのだ。
はぁっとため息をつくと目の前に突き出されたソフトクリームとともに前出の言葉。
これは, 東京に出て初めて食べたソフトクリームと同じもの。
期待に膨らむ上京でいろいろなものに夢を打ち砕かれて始まった高校生活だったが,まるまるバナナとこのソフトクリームにちょっとは救われたのだ。
「はい,かなちゃんお口あけて~?」
無邪気にソフトクリームを突き出して,雪ちゃんが言う。
コンビニのソフトは小さいし,それにゆきちゃんの食べかけなんて‥‥う,嬉しいじゃないか。
「いや,スプーンもらってくるよっ,てかもう一個買ってくるってば。」
なぜかそんな風に思ってしまって,素直にそのソフトクリームを食べることができなくなってしまった。
あわてて,焦りながら,ハチャメチャな言い訳をしていると,
「はんぶんこ,いやなの?」
雪ちゃんが目を潤ませながら,迫ってきた。
「いや,そうじゃなくて‥‥。」
「一緒に食べたくないのぉ?」
いつもの上目遣いで迫られて,あたしが敵うはずもなく‥‥。
ええ,いただきましたとも!雪ちゃんと一緒のソフトクリーム。
懐かしさと,甘く口に広がるソフトクリームの味が,普段以上においしかった。
「かなちゃん好きでしょ?これ。」
「うん。」
「初めての時のこと思い出すね。」
雪ちゃんは,クスッと笑って,あたしの方を見る。
「うん。あのときは衝撃だったにゃ~。」
「うん。大変だったですにゃ~。」
二人で遠くを眺めて,当時を思いだす。
今では魚のいない汚い川にも慣れてしまった。
狭い寮の部屋も,ドライヤーすら自室で使えない古ぼけた何の変哲もない普通の寮。
はじめは女子高の寮でこれってどうよっと突っ込みをいらたものだが,住めば都とはよく言ったものだ。
今では,そこは私たちの唯一の城であり,将来への夢と憧れの拠点となった。
「‥‥頑張ろうね。」
何とはなしにあたしの口から洩れた。
美大に行きたいけど,雪ちゃんとはなれるのが嫌だなんて誰にも言えないよ。
素直な気持ちを表現しきれない変な顔をあたしはしていたに違いない。
でもあたしの葛藤を知ってか知らずか,雪ちゃんは屈託のない笑顔で答えるのだった。
最終更新:2010年11月11日 00:04