微妙にスカトロかもしれないので注意
また魔理沙好きの人も注意
数日に渡って幻想郷を覆っていた雨雲が途切れた新緑の朝、博麗霊夢が日課の掃除から戻ってきてみると
よく見知った顔の白黒の魔法使いが縁側に我が物顔で腰掛けていた。
「よう。この暑いのに大変だな。
ときにこの神社は来客にお茶も出さないのか?」
霊夢がさてどうしてくれようかと思っていると、魔理沙は傍らにおいてあった竹で編んだ籠を左右に振って見せた。
籠の中からはきいきいと甲高い声が聞こえてくる。
興味を引かれた霊夢が近付いて覗き込むと、籠の中には生まれたばかりとおぼしき、
赤いリボンのちび
ゆっくりが10匹ほども蠢いていた。
籠からはひんやりとした空気が伝わってくる。
籠の底に氷を敷き詰め、笹をかぶせた上にちびゆっくりが置かれて冷やされている。
先ほどの声はどうやら凍えたちびゆっくりの悲鳴だったようだ。
「さすがに羊羹とはいかないけどな。
ま、多少の風流を感じてくれれば幸いだぜ」
黒白が向日葵のような全開の笑顔を見せる。
どうもお土産のつもりらしい。
毒気を抜かれた霊夢はため息を一つ置き去りに台所へと向かった。
二人で並んで縁側に腰掛け、安物の番茶を啜る。
霊夢の仕事で火照った肌をゆるやかな朝の風が吹きさましていく。
ちびゆっくりたちは籠から出され、大皿に積み上げられている。
「ま、そんなわけで畏れ多くも霧雨魔法店に侵入を図ったゆっくり一家はあえなく御用となったわけさ。
デカいのは昨日のうちにシメて、今は私とアリスとパチェのお腹の中にきっちり1/3ずつかな」
魔理沙は全身鳥肌に覆われたちびゆっくりを一つつまむと、ぽいとばかりに口の中に放り込む。
「ゆっ!!」
「んぐんぐ……ぷっ!」
口の中で器用にリボンだけを外し、庭先に置いた竹篭の中に向けて吐き出す。
狙いあまたず。リボンはまっすぐ竹篭の中に。
「百発百中だぜ……どうしてくれようこの才能」
籠の中には既にいくつかのリボンが吐き捨てられている。
魔理沙はさらにもう一つちびゆっくりをつまみ上げる。
そこでふと横を見るが、霊夢にはちびゆっくりに手をつける気はないようだった。
「ところで……霊夢、なんか調子でも悪いのか?」
霊夢は興味もなさそうに遠くを見つめたまま番茶を啜るばかりだ。
魔理沙がきいきいと鳴くちびゆっくりを齧りながらしばらくその横顔を見ていると、
霊夢はようやくめんどくさそうに口を開いた。
「ゆっくりは食べないことにしたの。二度と」
「前は食べてたよな?……安くて美味しいお茶受けができたって喜んでたじゃないか」
霊夢はため息を一つ漏らすと、気だるそうに話しはじめる。
「この間、村の寄り合いに呼ばれて里に降りていった時のことなんだけど。
話し合いが終わった後は豪勢なお食事がいただけたわけ。
ええ。美味しかったわよ。
そう、ゆっくりもあったわ。今あんたが食べてるようなのもね」
「お前の貧相な食生活には魔理沙さんも常々胸を痛めてる。
で?それがどうした?宴会で食べたゆっくりが余程お気に召さなかったのか?」
「ゆゆっ!!」
庭に逃げ延びようとしたちびゆっくりを魔理沙の無情な指先が捉える。
まろびゆく先は遥か暗黒。
「ゆ……ゆくぅぅっ!!」
竹篭の中にリボンがもう一つ。
「……帰り道の話よ。ちょっと途中でお腹の調子が悪くなっちゃって」
「流石の博麗も一月分の食いだめは無茶だったってわけか。
しかし自分の食いすぎをゆっくりのせいにするのはさすがにどうかと思うぜ?」
気の置けない魔理沙が相手とはいえ、博麗の巫女もお年頃。
さすがの羞恥に頬が染まる。
「乙女の意地にかけて欲求と戦ったわ。まあ、我ながら善戦したと思う。
神社の手前まで耐えたんだから」
「ご苦労さんと言っておくぜ…………で、そろそろいいか?お前の話はゆっくりと何の関係もないじゃないか」
「人の話は最後まで聞きなさいよ。
それで、細部は割愛するけど、なんだ、その、手近な繁みで処理したわけよ。
突っ込むな!ここは重要なポイントじゃないから!」
「…………」
押し黙る。
それくらいのデリカシーはある魔理沙だった。
「そしたら、いたのよ。連中が。
大きいのが一匹と小さいのが何匹か。
ああ、ちょうどあんたが今食べてるやつくらいの大きさだったわ」
物憂げに湯飲みを傾ける霊夢。番茶はとうになくなり、わずかな雫が唇にこぼれるだけだった。
「……ところで、魔理沙。あいつらの中身ってなんだと思う?」
「なんだも何も、餡子だろ。見た目も、香りも……味も、餡子だ。それも上等な」
なんだこれは。魔理沙の中の危機センサーが急に警報を鳴らしはじめる。
なんだこれは。おい。なにかやばい。なにかがやばいぞ。
うっすらと汗をかくほどの気温の中、魔理沙の背筋を冷たいものが滑り落ちる。
「見た目も、香りも、味も餡子にそっくりだわ。でもね、それって何でできてると思う?」
よく知ったはずの霊夢の横顔が、今の魔理沙にはなにか異形の存在に思えた。
ちくしょう、なんだってんだ。
「何って……餡子は餡子だ。小豆……じゃないのか」
赤いリボンが青空を仰ぐ。日差しはもう夏のそれだ。
熱気を孕んだ風が霊夢の美しい黒髪を揺らして吹き抜ける。
「生き物の身体っていうのは、つまり、その生き物が普段食べてるもので出来てるわけよね?
じゃあ、そいつらって、普段何を食べてるのかしらね?
ああ、工場で養殖されてるのは知らないわよ?私見学とか行ったことないし」
霊夢の白い指先が魔理沙のつまんだちびゆっくりを指す。
魔理沙は冷たさに凍えるちびゆっくりと同じように小刻みに震えていた。
顔色はもう蒼白に近い。
「わたしには野生のゆっくりの主食が小豆だとは思えないわね。
虫?木の実?詳しくは知らないし、知ったこっちゃないけど。
でもね、食べてるのよ。連中。いろいろと」
「…………」
魔理沙は舌で乾いた唇を拭った。
口の中が乾く。
ダメだ。こいつらは甘すぎる。
「ええ。美味しそうに食べてたわよ?
あの日、わたしの足元に現れた仲良し一家、わたしの」
「げるぼふぇぁッ!!!」
何の予備動作もなく魔理沙は庭に向かって激しく嘔吐した。
茶色い奔流が水鉄砲のように噴出し、庭の竹篭に叩きつけられる。
身体を二つ折りにして苦しげに吐き続ける魔理沙を一瞥してから、
霊夢は足元に擦り寄ってきたちびゆっくりをゆっくりとしたモーションで蹴り飛ばした。
ちびゆっくりは庭石に叩きつけられて爆ぜ、ぱあんと小気味良い音を立てた。
最終更新:2008年09月14日 09:21