幻想郷と呼ばれる、非常識のモノ達が住まう土地がある。
山奥にひっそりと存在するその土地が巨大な結界で外界と遮断されて間もない頃、妖怪達の間で紛争が起こった。
後に大結界騒動と呼ばれるその騒動の間、騒動と無関係であった人間にとっては、妖怪に襲われる心配の無い平和な時期が続いた。
だが、この騒動が終局を迎え幻想郷自体が再び安定する直前、突如として異種生命体が出現し幻想郷全域を襲った。
人間の生首に似た姿をし、支離滅裂な言葉を叫び、最大18メートルという巨体を持つそれらはいつしか
ゆっくりと呼ばれるようになった。
動植物どころか地面そのものすら食らい尽くし平坦にしてしまうゆっくりを前に、妖怪達は争いをやめ、人間達は一致団結し。
やがて人と妖怪さえも手を結んでゆっくりの脅威に対抗するようになった。
それから100年。幻想郷とゆっくりとの闘いは、未だ続いていた。
始めの数十年間は、ゆっくり達の独壇場だった。
力ある大妖怪や、山に一つの社会を形成する妖怪達等の力で、どうにかこうにか人と妖怪は滅ばずにいられるという状況だった。
ゆっくり達は巨大とは言え、個々の能力は並の妖怪程度でしか無い。だがその数が圧倒的なのだ。
どこから湧いてくるのか、どうやって増えるのかは一切不明だが、一度の戦闘で100万以上のゆっくりが現れる事も珍しくない。
ゆっくり達が戦闘行動を取るのは満月の夜だけ、というのも幸いだったろう。満月の夜は多くの妖怪が最も力を発揮できる時だからだ。
ちなみに、それ以外の時を利用してゆっくりの巣の探索も行われたが、捜索隊は悉く帰って来なかった。
そうした闘いの日々の中、少しずつ幻想郷はゆっくり達の勢力圏に塗り潰され、力ある妖怪も一人また一人と消えていった。
そうした絶望の中に、僅かな光明が見えたのが30年前。
従来の戦い方では滅亡は必至、そう考えた幻想郷の賢者達は戦況を打開できる手段を模索していた。
最重要課題は、何といっても人間が戦う手段を持つ事だ。
重火器を持つ訳でもない人間達は、極々一部の英雄達に守られ、妖怪に庇護されているだけの存在だった。
彼らが戦力にならない事にはゆっくりに勝つ事は不可能。そう考えた賢者達は、人間に扱える武器を創った。
『相手がでかいならこっちもでかくなればいいじゃない』
そんな無茶な思想によって、それらは開発された。対ゆっくり用人型戦車。通称AYT。
外の世界ではとうに幻想となった様々な材質によって構成されたそれは、高さ15メートルというありえないサイズの巨人だ。
完成して直ぐ試験的に実戦投入されたそれらは、開発に携わった妖怪達の予想すら大きく超える戦果を出した。
直ちに大量生産されたAYTは、人型という特性から様々なバリエーションが生み出され、瞬く間に幻想軍の戦力の中心になった。
そして現在、幻想軍はAYT部隊二個連隊を投入した大規模な探索により、とうとうゆっくり達の巣を発見した。
長年の戦いで培われたデータから、奥に存在するコアさえ潰せば全てのゆっくりが活動を停止するだろうという試算も出ている。
後は、次の満月の夜までに戦力を整え、ゆっくりとの決着を付けるだけだ―――
幻想郷と外を繋ぐ博霊神社。その境内入り口の階段に、二人の少女が座っていた。
「魔理沙。とうとうこの時が来たわね……」
魔理沙と呼ばれた、黒い山高帽を被った少女が答える。
「よう霊夢。……ああ、ついに奴らを退治できるんだな」
霊夢と呼ばれた方は、脇の下丸出しの巫女服という、奇怪な格好をした少女だった。
彼女の名は博霊霊夢。この幻想郷を囲う博霊大結界を維持する、人類最強の紅白だ。
そして黒白の方が、霧雨魔理沙という名の、これまた少女。弾幕は火力(パワー)がモットーの普通の魔法使い。
普段はエプロンドレスのような服装を好む魔理沙も、今はパイロットスーツで身を包んでいる。
それでも山高帽を被っているあたりに彼女なりの拘りが感じられる。
「いよいよだ。いよいよあの忌々しい饅頭を倒せるんだ。父さんや母さん、そして兄さんの仇も……」
「魔理沙……」
魔理沙は一家揃ってパイロットだったが、半年前の紅魔要塞攻防戦で戦死していた。
「私も戦えたら良いんだけどね」
「仕方ないさ。お前がやられたら、幻想郷自体が危ないんだろ?戦いは私らに任せて神社の掃除でもやってろって!」
霊夢は生身でも大隊規模のゆっくり軍とも渡り合える戦闘力を保持している。
だが、彼女が出撃する訳にはいかなかった。万が一死にでもしたら、幻想郷そのものの存続に関わるからだ。
最強の人間でありながら決して戦場に立つ事は許されない。そんな自分自身に霊夢は苛立ちを覚えていた。
「……ねえ魔理沙。出撃する時にはこれを持って行きなさい」
「何だこりゃ?お守りか?」
霊夢が差し出したのは『交通安全』と書かれたお守り袋。魔理沙はとりあえず中を見ようとして、霊夢に慌てて止められる。
「何やってんのよ。お守りは開けたら効果が無くなるのよ」
「開けないとどんな効果があるかすら分からないぜ」
口を尖らせる魔理沙に、霊夢は呆れた顔で言う。
「しょうがないわね。……じゃあ、本当に危なくなったら開けて、その中身に魔力を注ぎ込みなさい。そうすれば、何とかなるかもしれないから」
「ははあ。つまりこいつは交通安全と見せかけてお前のお札が入ってるんだな?可愛い奴め」
うるさい黙れ、と呟いて霊夢は立ち上がり本殿の中へ戻ろうとする。
チラリと見えた腋に見とれて顔を赤くした魔理沙は、霊夢の背中に声を投げる。
「ありがとうな!絶対生きて帰ってくるから、お茶淹れて待ってろよ!」
返事は無かったが聞こえたようだ。耳まで真赤にした霊夢は早足で本殿に入る。一瞬、また腋が見えた。
「さて、と。ぼちぼち召集だ。行くとするかね」
最後の戦い、『至高と究極の境界作戦』開始まであと一時間。
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「化け物どもめ!陰陽弾を食らえぇ!!」
「この!この!このぉ!!」
「ゆっくりッ!撃たずにはいられない!!」
「ゆ゛っぐい゛じうぼぇあっ!!」
「ゆ゛ぎゅう゛え゛え゛え゛え゛!」
「ひでぶ」
魔理沙が指揮する霧雨小隊は、味方の援護を受けつつゆっくりの巣へ進入しようとしていた。
ゆっくりには絶対的と言ってもいい程強力な対空攻撃が可能な種類がいる。
それらを掻い潜って地下にある巣に突入するには、膨大な戦力による足止めが必要不可欠だった。
実際その為だけに、全戦力の4割が割かれている。
新型の超広域破壊兵器『グレート座薬X』を使用すべしとの意見もあったのだが、あまりの威力から幻想軍最後の自決手段として温存されていた。
霧雨小隊の任務は巣へ侵入し、最深部にあると思われるコアを破壊する事だった。最重要任務である。
突入部隊は援護部隊によって何とか切り開かれた入り口に続々と突入している。
巣の中は、濃い紫色にぼんやりと光っていた。まるで蟻の巣のような構造で、孔の直径は20メートルを越えていた。
しかもそれは入り口付近の話で、深部に潜れば潜るほど直径はどんどん大きくなっていく。
それはつまり、全周囲を敵に囲まれ易くなっていくという事を意味している。
【こちらスターズ1霧雨。よろしく頼むよドールズ1】
【こちらドールズ1マーガトロイド。そんな無意味な通信は止めなさい。命に関わるわよスターズ1】
【まあまあ堅いこと言うなよアリス。先は長いんだぜ?】
【今は任務中よ。コールサインで呼んで頂戴魔理沙。……通信を切ります!】
(相変わらず素直じゃないなアリスは。可愛いぜ……)
不気味ににやける魔理沙。と、その時センサーがゆっくりの接近を感知し警報を鳴らした。
【スターズオール止まれ!敵が近付いているぞ!スターズ3、状況知らせ!】
【こちらスターズ3。音紋から小型種を中核とした部隊かと思われますわ。数は推定2500!】
【そんな奴らあたいが全部氷付けにしてやるわよ!!】
【駄目だよチルノちゃん油断したら。あ、すみませんスターズ1】
【いやいい。気にすんなスターズ10。スターズ⑨、頼もしいな。その調子で頼むぜ】
【あたいを誰だと思ってんのよ!あんなブサイクな饅頭さいきょうのあたいが全部ぶっ飛ばしてやるんだから!!】
【スターズ1、来ます!】
【よォし。総員安全装置解除!今まで散々見過ごしてきた分こいつらにぶつけてやれ!】
【了解!!】
小隊の全員から威勢のいい返事が返ってきた瞬間、およそ500メートル前方の地面が盛り上がり、ゆっくりが姿を現した。
「「「ぎゃおー!たべちゃうぞー!!」」」
ゆっくり軍の戦力の中核を担うれみりゃ種が真っ先に飛び出てくる。
その後から、小型ながら最も多くのパイロットを食べているれいむ種がぞろぞろと湧き出てくる。
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
【総員、撃てぇ!!この狭さなら鴨撃ちだ!ドールズ1!小型種は頼んだ!!】
【ドールズ1了解!相変わらず無茶言うわねスターズ1!!】
【へへっ無茶しないと勝てないだろ!】
【違いないわ!】
全機がオプションを展開し、ゆっくりに向かって弾幕を張る。
一つの出口から出てきたゆっくり達は、自由闊達に飛び跳ねることもままならないこの閉鎖空間でただただ撃たれるだけの的に過ぎなかった。
「う゛あ゛ー!う゛あ゛ーん!!も゛う゛い゛や゛だ!お゛う゛ぢがえ゛る゛ー!!」
「ゆ゛っぐり゛じだがっだよ゛ー!!」
無数の悲鳴と共に次々と醜い残骸に姿を変えていくゆっくり達。
幸先は良いが、まだまだここは入り口。この程度の集団を軽くあしらえなくては任務を果たす事など到底不可能だ。
【敵集団の全滅を確認!各自第二警戒態勢に以降し、進軍を再開せよ!】
【了解!】
【ドールズ1、援護感謝するぜ】
【そんなの当たり前よ。貴女達がやられたら私達だって困るもの。それに、こんな事で一々お礼を言ってたらキリが無いと思わない?】
【そりゃそうだ】
言いながら侵攻する魔理沙達。ちょこちょこ雑談するのは、喋ってないとこの不気味な餡子色空間で気が参ってしまいそうだからだ。
事前に知っていたので覚悟はしていたが、まさかこれ程気色悪いとは思わなかった。
壁や床や天井が所々生き物のように蠢いているし、時々声まで聞こえてくる。
コクピットにまで届く甘ったるい匂いは、生身ではとても意識が持たない事を容易に想像させた。
やはりここは、いやこいつこそがゆっくりの親玉なんだなと、魔理沙は強烈な嫌悪感と共に納得する。
―――そう、このゆっくりの巣その物こそがゆっくり達を生み出した母体。
言うなればオリジナルのゆっくり、軍内呼称『ゆ号標的』なのだった。
辛うじて生け捕りにできた最小種、ゆっくりみょんから蓬莱人の名医が取り出した僅かな情報からこの巣の正体が判明したのだ。
どのように情報を『取り出した』のかは、魔理沙にはとても想像が付かない。
あるいはゆっくりよりも恐ろしいかもしれないかの名医が、生け捕りにしたゆっくりをどう扱うかなんて考えたくも無かった。
例え相手が家族の仇であろうと、心根の優しい魔理沙は残酷にはなりきれないのだ。
何度か敵集団と遭遇しつつも、既に道程の8割は踏破できていた。
この先300メートル地点で繋がっている縦穴を降りれば、コアが居る大広間の入り口がある筈だ。
と、その時何十度目かの警報が鳴り響いた。もう一々命令する必要も無く、部隊全員迅速に戦闘に備えた。
【敵の数、推定10万…13万…駄目です計測不能!!完全にセンサーの測定限界値を越えています!!】
【方角は!?】
【そ、それが特定できません!どうやらこの広い空間で反響しているようで……】
【クソ!円周形に陣を敷け!敵はどこから来るか分からんぞ!】
【了解!!】
何と言う数だ。地上での戦いとは桁が違う。
魔理沙はかつてない数の敵の脅威に震え、同時にいよいよコアに近付いたのだと実感した。
段々敵が接近してくるのが分かる。もうセンサーが無くとも体で振動を知覚できる程だ。
と、次の瞬間
「「「「「ゆっくりした結果がこれだよ!!!」」」」」
【きゃあああああああああ!!】
【スターズ⑨!畜生やりやがったなぁ!】
【このお化け饅頭!よくも!よくもぉ!!】
【馬鹿野郎スターズ10飛び出すな!死にたいのか!!】
【うるさい!チルノちゃんを…チルノちゃんを返せゆっくりいぃぃ!!】
「ゆ゛ぐう゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぃ゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」
「も゛っどゆ゛っぐり゛じだがっだよ゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛」
「う゛、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ざぐや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「ぢぢぢぢぢぢーんぼっぼっき!!」
「すぐうたれる……すぐにしぬ……ウフフ」
鬼神の如き勢いで次々をゆっくり達を屠るスターズ10こと大妖精。だが一人で突出しすぎた彼女の命運は今正に、
「「「ゆっくりしね!!」」」
ゆっくり集団が現れたのとは反対側の壁をぶち破ってフラン種が現れた。
頭に血が上っていた大妖精はその集団を避ける事ができなかった。
【スターズ10がやられた!くっそぉ化け物どもめ……!】
【落ち着いて下さいスターズ1!貴女まで逆上してどうするんですか!】
【ああ分かってる!各員フラン種を優先的に撃破しろ!奴らの突破力は邪魔だ!!】
【立て込んでるみたいねスターズ小隊!】
【ドールズ小隊か!?無事だったか!】
【ええ。どうやらここで繋がってたみたいね。結局どの道も大広間に繋がるように出来てるんじゃないかしら?】
【そんな事より今は!】
【分かってるわよ。ドールズオール、前方のスターズ小隊を援護して!】
【了解!!】【シャンハーイ!】【ホウラーイ!】
アリス達の部隊が来た事により、ゆっくり達は完全に挟み撃ちの形に遭った。
だが、その圧倒的な数を切り崩すにはもう一手。
【このままじゃジリ貧だぜ……仕方ない!出来ればコアに取っておきたかったが使わせてもらうぜ霊…】
【馬鹿やめなさい!それは今ここで使う訳にはいかないでしょう!!】
【あ、アリスこの中身を知ってるのか!?】
【あ…い、いや知らないわ!知らないけど、とにかく切り札なんでしょう!だったら使っちゃ駄目よ!】
【でもこいつらを…!】
【……あんた達スターズ小隊は先に行きなさい。ここは私達が食い止めるから】
【そんな無茶だぜ!死んじまう!】
【私を誰だと思ってるのスターズ1?七色の人形遣い、アリス・マーガトロイドよ。撃墜数1位は伊達じゃないわ】
【……了解した!スターズオール聞いたな!?ドールズ小隊がカバーするからとっとと行くぞ!】
【了解!!】
【じゃあなアリス…死ぬんじゃないぞ!】
【お互い様!】
「ゆっくりにがさないよ!!」
「にげるこは、たーべちゃうぞー!!!」
「ゆっくりしね!!ゆっくりしね!!」
【あら、死ぬのは貴方達よお饅頭さん。遊んであげるからせいぜい頑張りなさい】
「ぎ゛い゛い゛い゛い゛い゛や゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
「どうぢでごん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「ゆ゛っぐり゛じぬ゛!!ゆっぐりじぬ゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」
(魔理沙……絶対に死ぬんじゃないわよ)
アリス達に敵を任せて進むとすぐに、門に突き当たった。間違いなくこれが大広間の入り口だ。
総がかりで弾幕を集中させる事数分、漸く門が崩れた。
門をくぐるとそこにはとてつもなく大きい空間が広がっていた。地下とはとても思えない。
大広間全体が鮮やかな紫色に発光しており、その中央には巨大な饅頭が鎮座していた。
体高約100メートルはあるそれこそが、ゆっくり達を生み出した母体『お母さんゆっくりれいむ』の心臓部だった。
【あ、あれがコアなのか……】
【隊長。さっさと壊しましょう】
【ああ。……霊夢。今度こそ使わせてもらうぜ。お前がくれた切り札を】
お守り袋から中身を取り出した瞬間、魔理沙にはソレの使い方がはっきりと分かった。
別の世界での自分がとても大事にしているその切り札(カード)。
決闘ルール等存在していないこの幻想郷に何故そんな物があるのかは知らない。
あるいはこれを託した霊夢自身すら分かっていないのかもしれない。けれど魔理沙は確信する。
これなら、あの怪物を葬り去れると。
小隊の前に進み出て、カードを構え、魔力を込めようとしたその瞬間、頭の中に何かが聞こえてきた。
『ゆっくりしたい』
『どうしてこんな事をするの』
(ど、どうしてだって…!?そんなの、お前達が襲って来るからじゃないか)
『れいむたちはなにもわるいことしてないよ』
『ただゆっくりしていただけだよ』
『だってここはれいむたちのおうちなんだから』
(勝手な事を…!ここは私達の場所だ!私達の幻想郷だ!)
『そう、おねえさんもゆっくりできないひとなんだね』
『ゆっくりできないひとは』
『ゆっくりしね!!』
「御免だね。私にはまだ飲まなくちゃいけないお茶があるんだ。行くぜ。霧雨魔理沙必殺のスペルカード…」
恋符「マスタースパーク」
その瞬間、魔理沙機の前方から巨大なレーザーが放出された。巨大なコアがとてつもない勢いで消滅していく。
完全に消える間際、幻想郷全ての人妖の頭に声が響き渡った。
『もっとゆっくりしたかったよ!!!』
夕日に赤く染められた博霊神社。その境内に霊夢が立っていた。
幻想郷全体が歓喜の声に包まれていた。その声は神社にまで響いてきている。
あの声は間違いなくゆっくりの母体の断末魔の叫びだろう。魔理沙達はやり遂げたのだ。
声が聞こえてから何時間ここに立っているだろうか。高かった日は落ち、幻想郷を赤く染め、空は紫色にその色を変えていく。
太陽が完全に沈む直前、待ち望んでいた人影が階段を登ってくるのが見えた。
霊夢は待ちきれずに階段を駆け下り、人影に抱きついた。
「お帰りなさい、お帰りなさい魔理沙…!」
「おおただいま霊夢。熱い歓迎痛み入るぜ。お茶の用意は、できてるんだろうな?」
「できてる、できてるよ!……良かった。本当に良かった」
「ははは、私がお前の奢りを放り出して死ぬ訳無いだろ?」
「ずびっ……そうよね、あんたはそういう奴だもんね」
「感動の再会をお邪魔して悪いんだけど、私も居る事を忘れないで欲しいわ」
「アリスも無事だったのね!良かったぁ……」
「それだけ?まあいいけど。巫女さんの熱い抱擁よりは熱いお茶の方が好きだし。ほら、さっさと案内してよ」
三人は境内へ向かう。そこには既に人妖問わない大勢の仲間達が今か今かと巫女の音頭を待っていた。
YUKKURI ALTERNATIVE END
最終更新:2008年09月14日 09:21