これは、
美味しく食べていってね! の続編です。
単体で見るとあまり虐待にはなっていないので、虐待が良い方はまず前編をご覧になって下さい。
――どうしてこんな事になったんだろう。
大好きなお友達のれいむと、れいむとの間に生まれた赤ちゃん。
「おとうさん」に育てられて、良い子になれたのに……ゆっくりできると思ったのに。
――どうしてこんな事になったんだろう。
赤ちゃんは全員お汁粉にされてしまい、れいむは頭を切られてアンコを全て出されてしまった。
それをニヤニヤと笑いながら楽しそうにやったニンゲンは、れいむをどこかに連れて行った。
――どうしてこんな事になったんだろう。
ニンゲンが戻ってきた。まりさに串を刺して、火に近づける。
物凄く熱い。やめて欲しいと思うが、こんな奴に許して欲しいとは言わない。言いたくない。
ゆっくりまりさは、意識のなくなる瞬間まで、全てを奪い取ったニンゲンをただ睨みつけていた。
何分も、何時間も、何日も、何ヶ月も、何年も経った気がする。
自分の体が少しずつ、じりじりと焼け焦げる苦しみ。
悲鳴は上げない。命乞いもしない。でも、あまりに熱いから少しだけ眠くなってしまった。
他の事はガマンできても、眠気だけはどうしようもない。
だから、ほんの少し目を閉じた。
――あ、おとうさんだ。まりさのだいすきなおとうさんだ。
まぶたの裏に、大好きな「おとうさん」の姿が見えた気がした。
「「ゆっくりしていってね!!!」」
いつも通りのゆっくりの鳴き声。
大抵の人はこの鳴き声を聞いただけで苛立ち、状況によってはいきなり叩き潰す。
ゆっくりは、勝手に人の家に入り込んだり食事を片っ端から食い漁る幻想郷一の嫌われ者である。
だが、ゆっくりの目の前に立つ男は、そんな苛立ちを微塵も感じさせない態度で2匹のゆっくり、れいむとまりさに対し、穏やかに語りかけた。
「違う違う、おじゃまします、ゆっくりさせてね、だよ。はいやり直し」
「「ゆゆぅ~……」」
腕など無いのに、頭を抱える様な仕草をする2匹を微笑ましく眺める男。
その後も「ゆっくりしててっててね!」とか「ゆっくりさせしさ……」等、舌を噛みつつも何度もやり直す2匹。
休憩を挟みつつ、驚異的な根気強さで何度もやり直させていた男は、もう疲れ果てたと言わんばかりに潰れ饅頭になる2匹を見て、軽く手を叩いた。
「今日はもう終わりにしておこうか。ゆっくり覚えていけば良いからね。今日はもうやめよう」
「おじさん! もういっかいだけやってみるよ!」
「ゆっくりちょうせんさせてね!」
飛び跳ねながら、まだ出来る、まだ頑張れると主張するゆっくり。
基本的にものぐさで自分勝手なゆっくりが自分から頑張ると言い出すという、異常とも思える光景を当然のものとして受け入れつつ、男は優しく諭した。
「これからゆっくり覚えていけば良いんだよ。2人とも頑張っているんだから、続きは明日にしようね」
2匹の頭をひとなでして、男は部屋から出て行った。
「ゆぅ~……むずかしいね」
「あしたはできるよ! ゆっくりがんばろうね!」
2匹は励ましあい、明日の成功を夢見て眠りに付いた。
最近、幻想郷に「ゆっくりブリーダー」を自称する変人達が現れた。
彼らは、ゆっくりに教育を行う事で害獣から益獣へと変え、彼らと共生していこうという考えの下、大量のゆっくり達を捕まえ、教育をしていった。
幻想郷の人間、妖怪の共通認識は、ゆっくりにまともな知能はないのだから不可能だというものである。
――飢えに陥れば、自らの子供も仲間も、自分さえ食べてしまうゆっくりには教育などできっこない。
「ゆっくりブリーダー」達は、そんな冷ややかな目の中で活発に活動をしていった。
かく言う私も、そんな変人たちの一人である。
ゆっくりに物を教えるには、想像を絶するほどの忍耐力と揺ぎ無い信念が必要になる。
「ここに入ってはダメ」とか「これは食べちゃダメ」といった、簡単なものですら数日で忘れてしまうからだ。
大抵の人は暴力など、命の危険に何度も晒せば覚えると考えている様だが、そういう方法で覚えさせても、1日暴力を怠った時点で忘れてしまう。
更に、少しでも優しくすれば付け上がるし、本能が全てに勝る。
人語を解するだけで、知能程度は赤子以下と言ってしまえるだろう。
だが、そんなゆっくりを躾ける方法はない訳ではない。一つ一つの事を、徹底的に教え込むのだ。
先ほど挙げた「ここに入ってはダメ」という言葉を例にあげてみよう。
一度や二度では絶対に聞かないし、覚えない。その為、根気良く、何度も、何時間もかけて教え込む。
そして、2日後に覚えているかどうかテストを行う。入ってはダメな場所のドアを開けておくのだ。
入った形跡があれば失格、形跡がなければ合格。撮影が出来ればなお良い。
合格したら、他のゆっくりが見ている前で思い切りほめる。言葉を選び、付け上がらない様に慎重、かつ徹底的にほめる。
失格しても怒鳴り付けない。すぐにふて腐れて、話を聞かなくなるからだ。
今度は他のゆっくりとは隔離して、言葉を選び、ふて腐れない様に慎重かつ徹底的に教え込む。
決して言葉を荒げず、何が悪かったのか、何をすれば良いのかを自分で考える方向に持って行く。
そして、また2日後に同じテストを行い、合格・失格で同じ対応を取る。
何度もそれを繰り返すと、自然と覚えていく。目安は2~3週間といったところか。
現在私は、ゆっくりにとってのアイデンティティとも言える「ゆっくりしていってね」を「おじゃまします、ゆっくりさせてもらうね」に変える教育をしている。
何百匹も失敗し、何十匹かは怪我や病気等で教育が不可能になりといった失敗を重ねた末の成果である。
――今回だけは絶対に成功させたい。
揺ぎ無い信念の元、私はゆっくりれいむとまりさを教育する。
何日かが過ぎた。
「おじゃましまぶっぺ!」
「おじゃまじばず!」
「今日はもうやめておこうか」
何日かが過ぎた。
「「おじゃまします!」」
「凄いね! 良く出来ました。それで、続きはなんだったかな?」
「「ゆっくりしていってね!!!」」
「……おしい、やり直し」
何日かが過ぎた。
「「おじゃまします! ゆっくりしていくね!」」
「……はい、やり直し」
「お邪魔します」は問題なく言える様になったが「させてもらうね」がどうしても言えない。
ここに来て、完全に行き詰ってしまった。
――やはり、ゆっくりには無理なのだろうか……そんなはずはない、出来るはずだ。だがこれでは……
頭を抱えてしまった私を、不思議そうに見つめるれいむとまりさ。
「おじさんどうしたの?」
「れいむたちのいえで、ゆっくりしていく?」
何やら心配をさせている様だ。ここでゆっくりしていくか、などと言われるとは……
「それだ!」
「「ゆっ!?」」
「「おじゃまします! おじさんの家でゆっくりしていくね!」」
「はい、良く出来ました! 凄いなれいむもまりさも!」
2人の頭をなでてやると「ゆゆゆぅ~♪」などと、とても気持ち良さそうにしている。
――要は、所有者が誰かという事がはっきりしていれば良いのだ。
あくまでゆっくりは部外者で、他人の家に入れさせてもらうという意思表示が出来ていれば良い。
「明日も頑張ろうね」
「「ゆっくり頑張ろうね!!!」」
それからも変わらずに、様々な事を教え続けた。
ゆっくり達の呼び名が「おじさん」から「おとうさん」に変わったのは、最終試験とも言える「人の家での振舞い方」を教えている最中の事だった。
「おとうさん」と呼ぶ声を聞いた瞬間、不覚にも涙がこぼれてしまった。
れいむもまりさも困惑し、私にしがみついてわんわん泣いてしまったのは、これから外の世界に出て行く2人にも、残る私にも良い思い出になると思う。
ゆっくりブリーダーは、人とゆっくりとの共生のために存在する。
野生のゆっくりと育てたゆっくりを共存させる事で、害獣であるゆっくりの数を減らし、最終的には全てを益獣にする事が目的である。
そのため、教育が終ったら野生へと離さなければならない。
これを覚えたらお別れというある日、私は2人とゆっくり話した。
これまでの事、これからの事、2人に会う前の事。
色々と話した後で、これを覚えたらお別れだと告げると、2人とも驚くほど素直に受け入れてくれた。
その日は一日、何もせずに3人でゆっくりしていた。
「この時は何て言うのかな?」
「「ありがとう!」」
「凄いね! 良く出来ました!」
2人を抱き上げると「ゆっ、ゆっ♪」と楽しげに歌いながら、体を揺らした。
――本当に良い子に育ってくれたな。
「お前達は、私の自慢の子供だよ」
頭をなでつつ言ってやると、2人はこちらを見上げて嬉しそうに、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
そして、別れの日がやってきた。
「「おどうざん、ざようなら!」」
ぴょんぴょん跳ねて別れを惜しむれいむとまりさ。
顔だけなのに、手を振っている様に見えてちょっとだけ滑稽に思えた。
――まりさもれいむも、これから幸せに育ってくれるだろうか。
小さくなる2人を、何度も振り向いて別れを惜しみつつ、ゆっくり家に戻っていった。
fuku0599にて、親ゆっくりがなぜあそこまで礼儀正しく子供を思う優しいゆっくりだったかについて書いてみました。
おっさんいじめじゃないですよ。人を信じた結果がこれだよ! という事で、一つどうかお許しを。
最終更新:2008年09月14日 09:25