ゴホゴホ
軽く咳き込む
ここのところ不規則な生活が祟ったのか、あまり体調が思わしくない
自宅のマンションに帰宅する道中、ふと身体のダルさが気になった
明日は休日である、
ゆっくり休むとしよう
自室に到着するとゆっくり達がそれに気づく
「おかえりなさい!ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりごはんつくってね!」
玄関でピョンピョンと飛び跳ねて挨拶するゆっくり達
飼育しているゆっくりはゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙の二匹
いつもの仕事帰りの光景である
荷物を置き、スーツをかけて、シャワーを軽く浴びる
頭が重い…
シャワーを浴び終わると、たまらずそのままベットに倒れこんだ
「ゆっ、ごはんは!?」
「おなかすいたよ!」
ゆっくりの声が遠くなっていくのを感じる
やがて意識はまどろみの中に消えていった
翌朝、目が覚めると凄まじい寒気が身体を襲った
喉が痛い、熱もあるようだ…
間違いなく風邪の症状である
いかん、いかんぞ、明日から出張だというのに
なんとしてでも治さねばならない
っと、鼻がでてきた、ティッシュ、ティッシュ
ゴホゴホと咳き込んでいるとゆっくり達が近寄ってくる
「ゆっ、おはよう!ゆっくりしていってね!」
「おはよう!ゆっくりごはんのしたくしてね!」
そういえば昨晩から食事をとっていない、食欲は無いが食事はとっておいたほうがいいだろう
しかし家に風邪に効くような栄養のある食べ物なんてあったろうか…
布団から起き上がると軽く眩暈が襲う、一応歩けないこともないようだ
ふらふらしながら冷蔵庫の扉を開ける
野朗の一人暮らしの冷蔵庫などたかが知れている
中に入ってるのは水と…漬物とビールだけであった
ビールっていう選択肢はないだろう、とりあえず朝食はおかゆを摂ることにする
台所からもどり、ベットの上でおかゆをすする
やはり食欲が出ない、半分も食べないうちにお椀をお盆に戻し再び布団に包まる
「ゆっ!ごはんだよ!」
「ゆっくりいただきます!」
ゆっくり達は食べ残しにありつけてご満悦のご様子だ
うっめ!うっめ!とご飯を頬張るゆっくり達を横目に俺は再び眠りに落ちていった
次の日の朝、目覚ましの音で布団から跳ね起きる
体調もいくらか回復したようだ、軽く咳は出るものの仕事に差し支えない程度のものである
休日を潰したのは些か不満だが、一日で回復したのだからまあいいとしよう
「ゆっくりいってらっしゃい!」
「ゆっくりしにいってね!」
ゆっくり達のいつもの声を背に、出張先へと赴くのであった
「おーしくーらまんじゅ♪」
「おーされーてなくな♪」
見送りが済んだ後、二人は仲良く遊び始める
それはいつもの仲睦まじい光景であった
「ゆっゆっ♪…ハァハァ」
やがてゆっくり霊夢の息が上がっていく
「ゆっくりやすむよ!」
「ゆっくりしていってね!」
いつもよりも少し早く遊びを切り上げると、ゆっくり霊夢は突然咳きをしはじめる
「コホッコホッ!」
「ゆっ?」
ゆっくり魔理沙はその姿に興味深々だ
新しい遊びと思いこみ、ゆっくり魔理沙も真似ながらコホコホと続いた
「ケホッ!ゆっ…ゆっ…ケホ!」
ぐったりと咳を続けるゆっくり霊夢
その様子にゆっくり魔理沙は笑顔でゆっくり霊夢のまわりをピョンピョン飛び跳ねながら「コホコホ!」と騒ぎ立て続けた
やがて日が落ちると、ゆっくり霊夢は自分の身体の異変に気がついた
「ゆっ!からだがあついよ!」
動いてもいないのに息が上がるのだ
心なしか食欲も出ない、今まで感じたことのない不快さである
一方、ゆっくり魔理沙は机の上にあった茶菓子を黙々と食べている
「うっめ!めっちゃうっめ!」
「れいむはたべないの?」
ゆっくり魔理沙が見ると、ゆっくり霊夢は部屋の隅でゼェゼェと息をあげて斜めになっている
「ご、ごはんいらないね!」
「それなら、ぜんぶまりさがたべてあげるね!」
そういってゆっくり魔理沙はその日の夕飯をゆっくり霊夢の分まで全て平らげてしまった
「ごちそうさま!あしたもゆっくりしようね!」
満腹になったゆっくり魔理沙は満足そうに眠りについた
次の日、ゆっくり霊夢の体調は最悪の状況をむかえていた
顔は真っ赤に変色し、えずくような咳を繰り返す
斜めに傾きながら、白めを剥いて全身を震わせている
「ゆっ!れ、れいむ!?」
さすがの魔理沙もあまりの惨状に動揺を禁じえない
ピョンピョン飛び跳ねながら必死に声をかける
しかし、ゆっくり霊夢からの返事が返ってこない
「ゅ…ゴホゴホッ!ひゅぅ、ひゅぅ、ゴホッ!ゴホッ!」
強烈な咳を繰り返し、呼吸がうまくできないのか喉の奥からひゅうひゅうと音を立たせる
こんなゆっくり霊夢の姿を見るのははじめてである
ただならぬ雰囲気にうろたえるゆっくり魔理沙
すると、突然ゆっくり霊夢の身体がポンプのように上下しはじまる
「…ッ!…ッ!」
と、次の瞬間
「んんえ゙れ゙ッ」
ゆっくり霊夢は嘔吐した
咳と嘔吐を繰り返すゆっくり霊夢
涙と涎で顔も完全に歪んでしまっている
「れ、れいむ!れいむ!」
ゆっくり魔理沙は心配そうに声をかけるが、状況が読み込めずただ見ているしかできない
ブルブルと全身が震え、滝のように流れる汗
危機迫る表情に気圧され、ゆっくり魔理沙はそこから後ずさった
その晩、暗闇の中で咳と嘔吐の音のなか必死に助けを求めるゆっくり霊夢の声が混じって聞こえてきた
しかし、ゆっくり魔理沙は恐怖からただ聞こえぬそぶりで、寝た振りを続けたのだった
~ゆっくりと風邪~END
最終更新:2008年09月14日 09:26