ゆっくりプレイスを目指して長い旅をしてきたゆっくり一家。
その度もついに終わりのときを迎えたのです・・・
ゆっくりプレイス~旅の終わり~
ついにたどり着いた・・・
いくつもの山を越え森を抜けてたどり着いた噂のゆっくり達の桃源郷、ゆっくりプレイス。
さぞかし壮大なのだろうと想像を巡らしていた子供達にとって[ゆっくりプレイス]
と書かれたゲートが野原にぽつんとたたずんでいる様は理解はしやすかったが同時に多少のがっかり感も抱かせた。
「ここがゆっくりプレイスだね。」
「すごい地味だねおかーさん!」
「そうだねー・・・」
ゆっくりプレイスにたどり着いた喜びとその質素さに残念がる子供の感想を素っ気なく聞き流す母れいむ。
「ゆっ、おかーさん?」
「どうしたのおかーさん?」
母れいむはゲートへと静かに進んでいきその歩みを徐々に加速させていく。
「ゆっしゃあ!一番乗りはもらったよぉ!!」
一気に加速し子供達をおいていく母れいむ。その走りに迷いは全く感じられない。
「しまったぁ!」
「ゆぅー!ゆぅー!油断したね馬鹿ガキ達がー!やーいやーい!!」
「おねーちゃん!掛け声だよ!」
「うんわかったよ!」
子供達は転がる岩の様に走っていく母親の背中に顔を向けて、大きく息を吸い大声を出す準備をした。
次の瞬間、子供達は全てを開放したかのように全員同時に大声を上げた。
「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」
その掛け声に母れいむの本能が反応した。
返事を返さずにはいられない。
「ゆ、ゆっくりしていってね!」
「何やってるのこの馬鹿母がぁー!!」
「顔がぁー!!!」
子供達の中の年長者、ゆっくりまりさの全体重をかけた突っ込みに母れいむの顔はひしゃげた。
「何をするのみんな!ぷんぷん!」
ゲートから30mは離れているであろう地点で子供達に説教をしだす母れいむ。一体どのでかいツラをさげてそんなことができるのか。
「いい、みんな。無闇にゆっくりを傷つけることは愚かな行為・・・」
「いや、おかーさんが抜け駆けするから・・・」
「とにかくこんなことで争っていたらいけないよ!」
「いや、おかーさんが抜け駆け・・・」
「私たちが仲間割れしていたら死んだおとーさんまりさが悲しむよ・・・!」
「いや、おかーさんが・・・」
「おとーさんの最後の言葉を思い出して・・・」
『やめでえええええ!!!まりさはおいしぐないっだらあああああ!!!ウンコみたいな味がするからああああああ!!!!!』
「じゃあ、皆で一緒にゴールしようよ!」
「ゆっ!当然そのつもりだったよ!3、2、1でみんな一緒にゴールに飛び跳ねるよ!」
子れいむの提案を一見素直に了解する母れいむ。周りの空気も次第に落ち着いてきたようだ。
そんな中先ほど母れいむに突っ込んだ姉まりさがあることに気づいた。
「ゆっ、みょん?みょんのなにかがみょんだけど・・・」
「「「りぼんながっ!」」」
どこで調達してきたのか。みょんの頭の黒いリボンは無駄に長く、しかも闘牛の角のようにみょんの前方に突き出していた。
「ちーんぽ!みょんのりぼんはもともと長かったよ!例えるならみょんの口癖の(ry」
「ゆっ?みょんのりぼんがなが・・・ゆー!ほんとだ!みょんのりぼんながっ!これじゃ皆一緒にゴールしてもみょんが先にゴールしちゃうよ!」
娘の不正に周りがドンビキする程いきり立つ母れいむ。地面が軽く揺れるぐらいの地団駄をばったんばったんと踏んでいる。
「だめだめ認めないよ!そんなりぼんは!全員一緒にゴールしないと意味が無いんだよ!」
「おかーさんが一番にゴールしようとしたくせに!」
的確な姉まりさの突っ込みも母れいむは図々しく聞き流す。この絵だけではどっちが子供か分からない。
「ここまで来てチームワークを乱していたら死んだおとーさんまりさが悲しむよ!思い出して、おとーさんが死の前日に言っていた言葉を・・・」
『な、なにひそひそまりさを見ながら話してるの!やめてよ!ゆっくりできないでしょ!ぷんぷん!』
「じゃあ頭からじゃなくてあご辺りから入るとしようよ!」
「それならいいね!」
またも子れいむの提案をのむ母れいむ。同じ顔だからやはり他の子より親しみやすいのだろうか。
「たしかにそれなら問題ない。まりさがゆっくりの王者であることを見せるために挑戦を受けよう。」
ゆっくりにあるまじきそのはっきりとした喋り方に違和感を覚えた母れいむ達は姉まりさの方を振り向いた。
「「「「やっぱだめー!!!」」」」
ゆっくり達の視線の先にある姉まりさのあごはどこぞの元プロレスラーの様に鋭く尖っていた。
「まりさあご長っ!いつからそんなにあごが長くなったの!初めて見たよ!」
「ゆっくりのケジメでアゴを尖らせました」
心無しかまりさの眼はいつもより細くなっている。長いアゴと関係があるのかは定かではないが。
「だめだよ!認めませんそんなの、この卑怯ゆっくり!そこまでして家族を出し抜こうだなんて、死んだおとーさんまりさが悲しむよっ!
思い出して、おとーさんが死ぬ三日前に言ったことを・・・」
『だから食べるとかぜんざいにするとか帽子がおいしそうとかそういうブラックなジョークはやめてよぉ!えっ、ジョークじゃない?』
「わかる、わかるよー。じゃあ格好わるいけどお尻からゴールしようよー」
言い終えたちぇんは二本のしっぽを今まで見たこと無い程に尖らせた。
「「「だめにきまってるでしょー!」」」
「全くあきれたよ皆には!自分のことしか考えないゆっくりは最低だよ!死んだおとーさんまりさが悲しむよ。
おとーさんが死ぬ10日前に言っていたことを思い出して・・・」
『ゆっゆっゆっ!まりさがたべれるわけないってば!まあ、粒あんには自身があるけど。なーんちゃって、ゆー!』
「こうなったら顔の真正面からゴールするしかないね」
「ゆー、たしかにそれなら平等だよ。お母さんの言う通りだね。」
「じゃあ・・・」
母れいむのモミアゲが先ほどのみょんのリボンと同じく角のように前へと突き出た。
「「「「変形したー!!!」」」」
「なにそれ!?ずるいよおかーさん!ひきょうものー!!」
「うるさいよ!これがおかーさんの完全体だよ!!」
「完全体って・・・!」
初めて聞く完全体という言葉にときめく子供達。しかしその中に姉まりさは含まれていない。
ひたすら母れいむを軽蔑のまなざしで見ている。
その視線にばつが悪くなったのか、こう着状態の中母れいむが話を切り出した。
「ゆっ!そんなに悔しかったら皆も買ってくれば良いじゃない!」
「どこに売ってるのそんなの!っていうか売り物なのそれ!?」
わけの分からない小道具がここになって出てくるとは。
もう少し早めに出してくれたら旅も楽になったんじゃないだろうか。
姉まりさは自分も含めた家族の情けない姿を見てふとそんなことを考えた。
「とにかく認められないよそんなモミアゲ!」
「バカ!ゆっくりしね!ゴミ屑!家族とは認め合うことから始まるんだよ!」
とても家族に対して発する言葉ではないことを言っておきながらまだ信頼がどうこうと言い続ける母れいむ。
ここまでくると我がままというより病気に近かった。
罵倒が終わり気持ちが落ち着いたのか、母れいむは目を細め静かに上を向いてつぶやきはじめた。
「志半ばで死んでいったおとーさんまりさが皆と最初に会った時に言っていた言葉を思い出して・・・」
『まりさはゆっくりまりさだよ!特技は~・・・ぜんざいでーす!なーんちゃて!ゆー!』
「でもおかーさん、みんな全員一緒にゴールするなんてやっぱり無理なんじゃないの?」
「ゆーたしかにー」
「じゃあいっそのこと競争しようよ!」
結局皆一緒にゴールするという考えは無しになり、ゲートから30m程離れたこの場所から一斉に競争を始めるという案で話がまとまった。
「じゃあこの辺からよーいどんでスタートすることにしようね。」
「恨みっこ無しだよおかーさん!みんな!」
「もちろんだよ。でももしおかーさんが一番になれなかったら・・・
一 位 の 奴 を ゆ っ く り と 殺 す ・・・・・!!!!」
「おおおおかーさん顔怖い・・・!」
「恨みっこ有りなの!?」
この母れいむの異常な空気に唯一飲まれていないのは姉まりさ一匹だけだった。他の子達はすっかり萎縮してしまっている。
「で、だれがよーいどんっていうの?」
「もちろんおかーさんだよ!」
「おかーさん!?信用できないよ!卑怯なことをしそうだよ!」
「ゆっ!失敬だよ!大丈夫に決まってるよ!」
野原に一本の長い線が引かれた。皆一様に緊張しきっている。一体誰がゆっくりプレイスに一番乗りとなるのか。
正直な話だれでも良いという発言はその場の空気が許してくれなかった。
「いくよー位置についてー・・・ゆっしゃあ!!!」
ゆっくりにあるまじき加速をする母れいむ。汚い、実に汚い。
「「「「ゆっしゃあでスタートしたー!!!」」」」
「まてー!なにゆっしゃあって!!」
「よーいどんとゆっしゃあって一文字もあってないよー!!」
「うっさい!だまれくず饅頭どもー!一番乗りはれいむだー!ゆゆゆゆゆゆゆ!!!!」
すでに母と子の関係であることを失念している母れいむにとって後続のゆっくりは敵でしかない。
当然敵の言葉に耳を貸すれいむではなかった。
「おねーちゃん!また掛け声だよ!」
「よーし!みんないくよー!せーの・・・」
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
しかし走りながら声を出している為かうまく大きな声が出ない。
前の母れいむが止まらない様子からするとどうやら声は聞こえてないらしい。
このままでは母れいむが一番乗りになってしまう。
「ゆー仕方ない!みょん!」
「ちんぽっ!なにおねー・・・ゆっぎゅううううううううううう!!!」
突然姉まりさが妹のみょんを全体重をかけて踏みつぶした。綺麗に潰れた為みょんは見事一撃でこの世を去った。
姉まりさはそのみょんの形見であるリボンを先ほどみょんがしたように鋭く尖らせるとおもむろにそれをちぇんにむけて突き刺した。
「いっだーい!!!何するのおねーちゃん!わからないよー!!!」
突き刺すといってもそれは体の端の方。全く致命傷にはならない。しかし、この時ちぇんは致命傷となりうる種を作られていた。
どしんどしんと大きな音がちぇんに近づいてくる。
「ゆっくりしねぇー!!!!」
それは先ほどまでゲートに向けて進んでいた母れいむだった。こんどはちぇんに進路を変え異常な目つきでこちらを見ている。
「なななななにおかーさん!ちぇんはなにもしてないよ!みょんを殺したのはおねーちゃんだよ!」
「ゆっくりしっっっっっね!!!」
「ぐっべえ!!?なんでえええ!!わかんないよー!!!」
自分の娘を紙のようになるまで踏み続ける母れいむはようやく畳み終えた後に自分のしでかしたことに気づいた。
「あああああああ!!!??なんでええええええ!!!」
母れいむはゆっくりとしての汚い本能の2倍増しした様な質の持ち主だった。
そのため同族殺しの証、死にゆっくりのアクセサリー等にはとても敏感に反応した。
そのことを知っていた姉まりさはみょんとちぇんを使い見事にその作戦を成功させたのだった。
ちなみに姉まりさは母親と似ても似つかぬ程の理性をもったゆっくりだったので同族殺しの証にもさして反応することは無かったのだ。
「全く皆は・・・いい加減にしてよね!ゆっくりの痛みも考えてよね!」
5分経つと子供を殺したことはケロンと忘れいつもの説教モードに入っている。
この図太さがここまで生き残れた所以なのかもしれない。
「とにかく皆はゆっくり掛け声も同族殺しも禁止!卑怯なことは無しね!じゃあ仕切り直すよ!」
元はと言えば母れいむの卑怯からこの卑怯合戦が始まったのだが。
姉まりさは突っ込むのをぐっとこらえた。正直さっさとゆっくりプレイスでゆっくりしたいのだ。これ以上話をややこしくしたくない。
「いくよみんなー!位置について~・・・よどん!!」
「「よどん!?」」
「まてこのバカ母親!なによどんって!?」
「ゆっくりしないでいったんだよばーか!!おおはやいはやい。」
「ゆー!!この距離ならちぇんとみょんがいれば掛け声が届いたのにー!!」
しかし潰したのは他でもない姉まりさ自身だ。そこの所は理解しているがなんともむかつく母親だ。
さっきはつい順位等どうでも良いと思っていたがやはりあの母親に負けるのは我慢がならない。
「ゆうううう!!まてぇー!!!」
「ゆゆー!?足早い!このくず饅頭ども!!」
根性の差か。姉まりさと妹れいむは見事母れいむとならぶまでにスピードを上げることができた。
一家揃って横一線だ。
「まりさがいちばんだよー!!!」
途端にアゴがのびる姉まりさ。こうなれば全てを出し切るしか無い。
「ゆゆー!?卑怯だよこのゴミくずー!!ゆっくりしねぇ!!!」
妹れいむも姉に負けてはいられない。
「ゆー!!まけられないよぉー!!!」
一体いつ会得したのか、妹れいむは母同様モミアゲを鋭くした。
「ゆゆー!?子れいむもできたのー!?」
「ダメ元でやったらなんかできたよー!!」
「ゆー!!一番はおかーさんダーッ!!!」
モミアゲだけでなくアゴも尖らせる母れいむ。語尾がなぜかやかましい。
「おかーさんは語尾の語呂が良いからできちゃだめでしょー!!」
悔し紛れに文句を飛ばす姉まりさ。
乱戦状態、全員が全てを出し切っている中、ゲートは残り5mまでにさしかかった。
「「「ゆっしゃあー!!!ゴールだあー!!ゆー!!!」」」
その時、
半透明の物体がゴールに向かってスーっと飛んできた。どこかで見たことのある姿。
「あ、あれは・・・!」
「もしかして・・・!」
「おとーさ」
「いやあああああああああああ!!!!たべないでええええええええええええ!!!!」
「うっう~あまあま♪」
半透明のおとーさんまりさがこれまた同じく半透明のれみりゃにがぶがぶと頭からかじられたままゲート飛びくぐっていった。
「「「・・・」」」
「おとーさん死んでも食べられてるのか・・・」
「・・・まあいいよ!死んだおとーさんがどうなろうと!さあ私たちはゲートをくぐろう!」
既に一番乗りをこされてしまった様な気分になってしまった母れいむ達は全員一緒に静かにゲートをくぐった。
「「「ゆっゆっー!ゆっくりぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!?」」」
ゲートを進んで一歩踏み出した所で奈落へと落ちていく一家。
ゲートのゆっくりプレイスという文字が軽くはがれそうになっていたその裏にはこう書かれていた。
[地下加工所(足下注意)]
「いやー設計間違ったのが幸いでしたね。かかるかかるゆっくり達が。」
醜く争い肉親までも犠牲にした一家であったがその結果得られる物は絶望ただひとつであった。
『ゆっくりプレイスに行ったら?まずはお腹いっぱい食べたいなあ。肉まんとか。なーんちゃって!ゆー!』
完
最終更新:2008年09月14日 09:31