その他 走れれいむ

 れいむは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のお兄さんを除かなければならぬと決意した。
 れいむには政治がわからぬ。れいむは、野生のゆっくりである。
 蝶を追い、友達と遊んで暮して来た。けれどもゆっくりできない事に対しては、饅頭一倍に敏感であった。
 今日未明れいむは自分の巣穴を出発し、野を越え山越え、半里はなれた人工のゆっくりプレイスにやって来た。
 れいむには父も、母も無い。女房も無い。生後十六週の、内気な妹と二匹暮しだ。
 この妹は、群れの或る律気な一ゆっくりを、近々、花婿として迎える事になっていた。
 愛の行為も間近かなのである。れいむは、それゆえ、花嫁の飾りやら祝宴の御馳走やらを探して、はるばる遠くにやって来たのだ。
 先ず、その品々を拾い集め、それから野原をぶらぶら歩いた。れいむには竹馬の友があった。
 ゆっくりまりさである。今は此のゆっくりプレイスで、ゆっくりしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
 久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにれいむは、野原の様子を怪しく思った。
 ひっそりしている。もうじきに日も落ちる、外に居るゆっくりが少ないのは当り前だが、
 けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、原全体が、やけに寂しい。のんきなれいむも、だんだん不安になって来た。
 路で逢った若いりぐるをつかまえて、何かあったのか、二月前に此のプレイスに来たときは、
 夜でも皆が巣穴で歌をうたって、外でも賑やかであった筈だが、と質問した。若いりぐるは、首を振って答えなかった。
 しばらく歩いて老ちぇんに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老ちぇんは答えなかった。
 れいむは全身で老ちぇんの体にぶつかって質問を重ねた。老ちぇんは、あたりをはばかる低声(CV:大塚明夫)で、わずか答えた。
「おにいさんが、みんなをころすんだよー」
「ゆゆ!どうしてそんなことするの!?」
「ゆっくりできないこだっていうんだけど、だれもそんなことはないよー」
「たくさんのゆっくりをころしたの!?」
「うん、はじめはみんなのりーだーのいもうとのおむこさんを。それから、りーだーのこどもを。
 それから、りーだーのいもうとを。
 それから、りーだーのいもうとのこどもを。それから、りーだーのおよめさんを。それから、かしこいぱちゅりーを」
「どうしたの!?ここのおにいさんはゆっくりできなくなっちゃったの!?」
「ちがうよー。ゆっくりを、しんじられないんだよー。このごろは、てしたのこともうたがってて、
 すこしでもぜいたくなゆっくりには、ひとじちをひとりずつださせてるよー。
 いうことをきかないと、はりつけにされてゆっくりできなくなるよー。きょうは、ろくにんころされたよー」
 聞いて、れいむは激怒した。
「ゆっくりできないおにいさんだね!ゆっくりころすよ!!」
 れいむは、単純なゆっくりであった。拾い物を、咥えたままで、のそのそ管理小屋に入って行った。
 たちまちれいむは、警備のゆっくりに捕縛された。調べられて、れいむの懐中からは針が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
 れいむは、お兄さんの前に引き出された。
「この針で何をするつもりだったか、言え!」
 暴君鬼井 産(22歳・男性)は静かに、けれども威厳を以って問いつめた。
 そのお兄さんの顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「みんなをわるいおにいさんからたすけるんだよ!!」
 とれいむは悪びれずに答えた。
「はぁ?お前がか?」リーダーは、憫笑した。
「どうしようもない奴だな。お前には、俺の苦しみが分からないんだ」
「なにをいってるの!!」
 とれいむは、いきり立って反駁した。
「ひとをうたがうのは、やっちゃだめなんだよ!おにいさんは、みんなのゆっくりだましいもうたがってるよ!!」
「疑うのが正当な心構えだと、俺に教えたのはお前達だ!
 ゆっくりの言う事なんて当てにならない。ゆっくりは元々利己的で、卑しく貪欲で、救いようの無いゴミクズなんだよ!」
 暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。
「俺だって、穏やかに過ごしたいんだけどな」
「なんのために?じぶんがゆっくりするため?」
 今度はれいむが嘲笑した。
「なにもわるいことをしてないゆっくりをころして、だれとなかよくするの!?」
「黙れ、ド饅頭」
 お兄さんは、さっと顔を挙げて報いた。
「口先だけなら何とでも言える。お前だって、今に磔になってから命乞いしても聞かんぞ」
「はりつけだってさ、おおこわいこわい。れいむは、しぬかくごだってあるんだよ!あやまったりなんてしないよ!ただ、――」
 と言いかけて、れいむは足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、れいむのはなしをきいてくれるなら、しけいまでに3にちちょうだいね!!
 たったひとりのいもうとに、けっこんさせてあげるんだよ!
 3にちのうちに、れいむはおうちでいもうとをけっこんさせて、またもどってくるよ!!」
「馬鹿な」
 と暴君は、鼻で笑った。
「とんでもない嘘吐きだなお前は。ゆっくりブレインで三日も覚えてられる訳ないだろうが」
「ちゃんとおぼえるよ!そしてかえってくるよ!!」
 れいむは必死で言い張った。
「れいむはやくそくをまもるよ!だから3にちだけゆるしてね!!いもうとがれいむをまってるんだよ!!
 そんなにれいむをしんじられないなら、このゆっくりぷれいすにゆっくりまりさがいるよ。
 れいむのしんゆうなの。あのこを、ひとじちとしてここにおいていくよ!
 れいむがにげて、よていまでにここにかえってこなかったら、あのまりさをゆっくりしめころしてね!!」
 それを聞いてお兄さんは、残虐な気持で、そっと北叟笑(ほくそえ)んだ。
 生意気な事を言う。どうせ帰って来ないに決まっている。このド饅頭に騙された振りして、放してやるのも面白い。
 そうして身代りのゆっくりを、三日目に殺してやるのも気味がいい。
 ゆっくりは、これだから信じられないと、俺は悲しい顔して、その身代りのゆっくりを殺してやるのだ。
 世の中の、自称ゆっくりできる子とかいうゆっくり共にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼んで来い。三日目には日没までに帰って来い。
 遅れたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっと遅れて来るといい。お前の罪は、永遠に許してやろう」
「なに!?なにをいうの!!?」
「はは。自分の命が大事だったら、遅れて来い。お前達の習性は、分かっているぞ」
 れいむは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
 竹馬の友、ゆっくりまりさは、深夜、管理小屋に召された。お兄さんの面前で、佳き友と佳き友は、二月ぶりで相逢うた。
 れいむは、友に一切の事情を語った。ゆっくりまりさは無言で首肯き、れいむに体を擦り付けた。
 友と友の間は、それでよかった。ゆっくりまりさは、縄打たれた。れいむは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
 れいむはその夜、一睡もせず半里の路を急ぎに急いで、巣穴へ到着したのは、翌る日の午前、
 陽は既に高く昇って、群れのゆっくり達は野に出て餌を取り始めていた。
 れいむの十六週の妹も、今日は姉の代りに赤ん坊の面倒を見ていた。
 よろめいて歩いて来る姉の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく姉に質問を浴びせた。
「なんでもないよ!!」れいむは無理に笑おうと努めた。
「あっちにまだようじがあるからまたいかないと!あしたれいむのけっこんしきをしようね!!」
 妹は頬をあからめた。
「うれしいんだね!きれいなおはなもひろってきたよ!それじゃあこれからみんなにゆっくりしらせてきてね!!」
 れいむは、また、よろよろと歩き出し、広場に花をばら撒いて飾り、備蓄の食糧を運び出し、
 間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
 眼が覚めたのは夜だった。れいむは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。
 そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。
 婿のゆっくりまりさは驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、
 葡萄の季節までゆっくり待ってくれ、と答えた。れいむは、待つことは出来ない、どうか明日にしてくれ、
 と更に押してたのんだ。婿のまりさも頑強であった。なかなか承諾してくれない。
 夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。結婚式は、真昼に行われた。
 新郎新婦の、誓いの愛の行為が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
 祝宴に列席していたゆっくりたちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、
 狭い巣穴の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気に歌をうたい、飛び跳ねた。
 れいむも、満面に喜色を湛え、しばらくは、お兄さんとのあの約束をさえ忘れていた。
 祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、ゆっくり達は、外の豪雨を全く気にしなくなった。
 れいむは、一生このままここにいたい、と思った。この佳い仲間たちと生涯暮して行きたいと願ったが、
 いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。れいむは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
 あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
 その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。
 れいむほどのゆっくりにも、やはり未練の情というものは在る。今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう!れいむはつかれたからもうねるよ!!おきたらまたでかけるね!!
 れいむがいなくても、もうれいむにはまりさがいるからさびしくないよね!!
 おねえさんのいちばんきらいなものは、ひとをうたがうこととうそをつくことだよ!!
 れいむも、それはしってるよね!!まりさにひみつをもっちゃだめだよ!!
 れいむのおねえさんは、えらくてかわいいゆっくりなんだからゆっくりむねをはってね!!」
 花嫁は、夢見心地で首肯いた。れいむは、それから花婿の傍に寄り、
「したくしてないのはれいむもだよ!!れいむには、いもうとれいむくらいしかいないもん!!
 ほかにはなにもないから、ぜんぶあげるよ!!れいむのいもうととけっこんできたことをゆっくりじまんしてね!!」
 花婿は紅潮して、てれていた。れいむは笑ってゆっくり達に会釈して、
 宴席から立ち去り、自分の寝床にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
 眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。れいむは飛び起き、そして、何故慌てて飛び起きたのか考え込んだ。
 考えたが、一向に思い出せぬので、大した事では無かろうと結論付け、いつもの様に朝食を食べに広場に向かった。
 そうしてれいむが普段通りの生活に戻った日の夕刻、泣きながらもれいむを待ち続けたまりさは処刑された。
 お兄さんは、れいむは必ず来ると言い張るまりさに、笑って釘を打ち、磔にして掲げ、ゆっくり達の目の前で火を放ったのだ。
「どお゛ぢでごん゛な゛ごどに゛い゛い゛い゛い゛!!!あ゛づい゛!!あ゛づい゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!」
「それ見た事か。所詮ゆっくり同士の友情など、ゆっくりと交わす約束などこんなものだ」
 お兄さんは焼け焦げ、悶え苦しみ悲鳴をあげるまりさを、息絶えるまで心底嬉しそうな表情で眺め続けた。

"BEST FRIEND" is DEAD...



作:ミコスリ=ハン

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最終更新:2008年09月14日 09:32
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