その他 偉大なる孤独

人間がゆっくりに殺されています。強いゆっくりが苦手な人は注意

良いゆっくり注意、ドス設定を使わせてもらいました。










かって不幸な時代があった。
ゆっくりは人間の家や畑に入り盗みを犯した。
人間はゆっくりを嫌悪し虐待した。
そんな不幸な時代があった。
しかし、それも過去の事となった。
人間とゆっくりは共に笑い遊び、そして時々泣いて、また笑う。
そんな素晴らしい世界がやってきた。
それは一体の偉大なゆっくりまりさのお陰だった。
彼女は人間を上回る知性と倫理観、そして妖怪並みの超能力を持っていた。
彼女は粘り強く人間とゆっくり、そして幻想郷との調和を図った。
その結果、楽園が生まれた。

その偉大なるゆっくりまりさを人々とゆっくりたちは尊敬の念を込めて『ドスまりさ』と呼んだ。










『偉大なる孤独』










「だじでー!!!」

「まりざはわるぐない゛よ!!!」

二体のゆっくりの悲鳴が上がる。

ざわざわ、ざわざわ。

小さな透明の箱に押し込められた二体を遠めに無数のゆっくりたちが眺めている。

「れいむ!!!まりさ!!!あなたたちはにんげんのはたけのものをかってにたべましたね!!?」

遠雷のような声が響き渡る。
山より大きな威容、ドスまりさだ。

「ドスまりさ!!!ゆるして!!!れいむたちおなかがへってたんだよ!!!」

「まりさたちはにんげんにきょかをもらおうとしたんだよ!!!でもちかくにいなかったんだよ!!!」

二体のゆっくりが弁明する。
そう、ここはゆっくりの法廷であった。
二体は人間の畑の物を勝手に食べた罪で裁かれてるのである。
ドスまりさが厳かに告げる。

「はんけつ!!!かこうじょういき!!!」

「いやだー!!!ゆっぐりざぜでー!!!」

「がごうじょうはいや゛だー!!!」

二体の悲鳴が上がる。
ゆっくりたちのざわめきが大きくなる。
ドスまりさは長い髪を一房操り透明な箱を同席していた人間の男に渡した。

「ドスまりさよう。何もここまでする必要はないんじゃないかい。俺もそんなに怒ってるわけじゃないしよう」

この男は加工場の職員でもなんでもない。
ただの農家の男である。
二体のゆっくりに畑の物を荒らされたということで同席していたのである。
それに加工場はドスまりさの出現により過去の物となっていた。

「別に頼まれたら食べさせてやるんだしさ、許してやってくれよ」

ドスまりさの妖力で何倍も土地が豊かになった。
それ故に人間はゆっくりたちに食べ物を別けてやることを厭わない。
だから男もそう言ったのだろう。
二体のゆっくりの瞳に希望の灯が点る。

しかしドスまりさは、

「かこうじょういきはかわりません!!!これはるーるですから」

そう無慈悲に告げた。

「どうじでー!!!」

「おじざんはゆるじでぐれでるのにー!!!」

「まあ、もらえるならもらうけどさ」

男は箱を抱えて帰っていった。
二体のゆっくりは男の家のおやつにでもなるのだろう。

「やっぱりわるいこはゆっくりできなかったね!!!」

「ゆっくりいいこになろうね!!!」

「れいむはわるいことはしないよ!!!」

傍聴していたゆっくりたちはそれを見ながらひそひそと会話をしていた。

「それではかいさんです!!!」

ドスまりさが告げるとゆっくりたちは散っていった。



誰も居なくなったことを確認するとドスまりさはため息をついた。
ドスまりさの決めたルールの一つに『人間に悪さをしたゆっくりは加工場行き』というものがある。
加工場はもう存在しないので人間に食べられるだけなのだが、それに例外は一度もない。

「れいがいはないか…」

ドスまりさは自嘲した。
自分の傲慢さに、ゆっくりたちの愚鈍さに。

このルールの例外が無いのは訳がある。
ゆっくりたちは総じて物覚えが悪く自制心が弱い。
それ故にこういった事は、どれだけ躾けていても度々ある。
それでも、その度に加工場行きの判決を出してきた。
もし例外を出したら許してしまったらどうなるだろうか。
二度目のチャンスがあると知ったらどうなるだろうか。
そう、自制心の弱い全てのゆっくりたちは、過去の様にまた人間の物を盗むようになるだろう。
しかし、過去と違う点がある。
ゆっくりの数である。
虐待や捕獲により数が減らされる事のなくなったゆっくりたちは過去の百倍近い数を誇る。
そのゆっくりたちが人間の物を盗んだら大飢饉が発生するだろう。
その結果は言うまでもない。
幻想郷の管理者や英雄たちによるゆっくりへの粛清である。
一体も残る事はないだろう。

だから、今日もドスまりさは『加工場行き』の判決を出したのだ。
この判決はゆっくりの為、幻想郷の為、人間の為である。
分かっている。
それでも、心が痛かった。










男はドスまりさに銃弾を叩き込んだ。
12.5ミリ対物ライフル。
加工場と呼ばれる遺跡の遺産である。
重い銃を担ぎながら、男はドスまりさから距離を取る。
そして思い返す、今日までの日々を。

男はゆっくりを溺愛する事で有名であった。
ゆっくりと仲良く暮らす現在の幻想郷でも行き過ぎと言われるほどであった。
それなのに。
ある日を境に憎む事しかできなくなった。
可愛らしい笑顔を見ても苛立ちが募るだけだった。
そして、男はその日ゆっくりを叩き潰した。
清々しかった。
ずっと募ってきた苛立ちが吹き飛ぶようであった。
笑いながら何度も何度もゆっくりを叩き潰した。
ゆっくりたちは昨日までの優しいおじさんの豹変の逃げ惑うだけだった。
そんな男を我に返らせたのはドスまりさが近づいてくる轟音だった。
ドスまりさの決めたルール『ゆっくりを殺したものはドスまりさに殺される』
思い出した男は慌てて逃げ出した。
途中、加工場跡に入り銃を持ち出した。
そして現在に至る。

男の身長よりも長大な銃であったがドスまりさに対してはまるで豆鉄砲であった。
何度も何度も発射するが足止めにもならない。
ガチャリ、引鉄を引いても反応しない。
弾切れだ。
男は恐怖する。
ドスまりさが跳躍する。

グシャリ。

男は全身が砕かれる音を聞いた。




ドスまりさは自分の体の下で男が死んでいく音を聞いた。
ドスまりさは謝罪する。
ドスまりさは男がどれほどゆっくりを愛していたか知っていた。
そして、どうして男が豹変してしまったのか知っていた。

AQN症候群。
ゆっくりを虐待せずにはいられない衝動に駆られる人々。
そういった人々をその代表だった少女の名をもじってそう呼んだ。
誰もがそれを冗談だと思っていた。
しかしその病気は実在したのだ。

それを発見したのはやはり竹林の薬師だった。
その病気に罹患すると親和性の高い物はゆっくりを偏愛するようになる。
逆に親和性の低い人物が罹患すると拒否反応を起こしゆっくりに対して虐待衝動を抱くようになる。
そして、虐待衝動が解消できないでいると自傷行為に走り、最終的に精神死に至る恐ろしい病であった。
そのキャリアはゆっくりウイルスと呼ばれるものであった。
ゆっくりウイルスを饅頭に付けると、饅頭は生命力を手にいれ擬似生命として振舞えるようにした。
そう、ゆっくりウイルスとはゆっくりの生命の源であったのだ。

発見した薬師はなぜかそれをドスまりさのみに教えた。
ドスまりさは恐怖した。
この事を知ったら幻想郷の管理者はもちろん、人間達もゆっくりの殲滅に走るだろう。
ただただドスまりさは薬師に嘆願した。
どうかこの事を秘密にしてくれと。
ドスまりさと薬師にはアリと人間ほどの力の開きがあった。
薬師はそれを聞き入れる必要は無かっただろう。
しかし薬師は戯れにその嘆願を聞き入れドスまりさと契約した。
秘密を守る代わりに一定の数のゆっくりを薬師の実験の為に渡すというものであった。

そうやってドスまりさは少数のゆっくりと人間を犠牲に自分達を守ったのであった。

だからドスまりさは謝罪する。
自分の下で潰れていくゆっくりの毒に当てられただけの哀れな犠牲者に。
今日も薬師に連れて行かれたゆっくりたちに。
ドスまりさは謝罪する。

ごめんなさい。











時々、ドスまりさが顔を下にしてピクリとも動かなくなっているのを見かけることがあるだろう。
ゆっくりや人間たちは日頃の激務の疲れを癒す為にゆっくりしてるのだと考えている。
だから、誰もドスまりさがその下で泣いている事を知らない。
ドスまりさは泣いている。
手掛けてしまった者たちを思って。
誰にも話せない秘密の重さに耐えかねて。

ドスまりさは泣いている。

ドスまりさは孤独だった。











《完》

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最終更新:2008年09月14日 09:36
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