「ゆっくりしていってね!!!」
「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする
まりさの里に集う
ゆっくりたちが、今日もゆっくりとした無垢な笑顔で、背の高い木々をくぐり抜けていく
汚れをしらない餡子を包むのは白い色の皮
頭のリボンは乱さないように、被ったYUN帽は翻さないように、ゆっくりとはねるのがここでのたしなみ
もちろん、野菜を盗んで逃げ回るなどといった、はしたないゆっくりなど存在していようはずもない
まりさの里。ここはゆっくりプレイス
「きょうはかわでゆっくりするよ!」
「むきゅ。もうちょっとゆっくりうごいてほしいわ」
「とかいはのありすはかわあそびなんてしないけれど、どうしてもっていうならついていってあげるわ」
今日も多くのゆっくりが餌を集めに、あるいは遊びにと駆け回る
本来なら親ゆっくりが野犬などの野生生物や捕食種。そして何よりも人間への注意を呼びかける場面であるが
この里のゆっくりは長でもある巨大まりさの教育により里へ近づくことは無く、それゆえ里からも放置されていた
さらには野犬なども、定期的な山狩りが里人の手によって為され
その際ゆっくりは野犬の住処を教えたりと、一部の人間とも友好的な関係を築いていた
結果、まりさの里は集まった全てのゆっくりがゆっくりできるゆっくりプレイスとなっていたのだ
そんなある日、まりさはここ数日己の里の周辺に出没していた野犬を追い払うため、その住処を探し回っていた
だがそんなまりさを野犬が黙って見過ごすはずは無かった
樹木は生い茂り、やや薄暗い森の中で身を潜める野犬を巨大な体で見つけられるはずも無く
不意をつかれ、まりさは背中に大きな傷を受けてしまった
「ゆぐっ! うごかないでね! いぬさんはもうちょっとゆっくりうごいてね!」
背中から餡子を漏らしつつ、飛び掛る隙を窺うまりさ
しかし三匹の野犬は一定の距離を保ちながらドスまりさの周囲を回っており、まりさが一匹に飛び掛れば
即座に残りの二匹が背後を襲ってくるのは簡単に見て取れた
「ゆぎゅう……」
にらみ合ってる間にも背中から零れ落ち続ける餡子。恐らく野犬は餡子の大半がこぼれ落ちるのを待っているのだろう
気がつけば中天に差し掛かっていた太陽も傾きを増し、ドスまりさは最後の賭けに出る決意を固めた
その次の瞬間――
耳をつんざく轟音と共に、野犬の一匹が真横に跳ね飛ばされた
音の出所に目を向ければ、そこに立つのは一人の人間
構えた猟銃からは薄らとした硝煙がたなびいていた
「おうい。そこのゆっくり、大丈夫か」
「……ゆっ。おじさん」
男は山狩りの最中であった
度々起こる野犬や狸による家畜、作物への被害を防ぐため、目撃情報を集めにゆっくりの里へ向かう途中だったのだ
「……おじさん。まりさはもうだめだよ」
「そうか。何か群れに伝えることはあるか」
「それじゃあこれをとどけてね」
そういうと巨大まりさは体を小さく震わせ
白目を剥き、背から餡子を漏らしながらひとつの黒い球を吐き出した
それは直径約10cm程のほぼ球形の結晶体で、不揃いな大きさの切子面を数多く備えていた
色はほぼ漆黒で、ところどころ赤い線が入っている
「……これは?」
「まりさのあんこだよ……それをたべるとまりさのちしきとけいけんがてにはいるの」
巨大なゆっくりは最初から巨大なわけではない
ゆっくりは雑食であり食べたものを体内の餡子へと変換する。だがその効率はHIT太陽電池よりも低い
そのため巨大になるゆっくりは、他者を支配し動くことなく大量の食事を得られる暴君か
あるいは変換効率の良い食物……すなわち他のゆっくりの餡子そのものを食らうかであった
この巨大ゆっくりは先代の長を。更に先代はそのまた先代の長を、と代々の餡子を受け継ぎ巨大化
そして森全体の食料分布を知っていたため、その大きさを保つことが出来たのだ
それゆえ里のゆっくりをまとめ、人の強さを知り、平和な暮らしを得ることが出来ていたのだ
「まりさはもうだめだから……おじさんがさとにいって…これをわたしてちょうだいね」
「ああ、わかった。安心しろ」
「あり…がと……う……」
男が不気味な塊を受け取ってすぐ、巨大まりさは息を引き取った
最終更新:2008年09月14日 09:42