【プリズムリバーのトランペット吹き】
「それじゃ、いってくるわね~♪」
「どこ行くの、メルラン」
「ん~?言わなかったっけ~?人間の里よ~。
ソロライブのお誘いがあったのよ~♪」
「姉さんに?ライブなら3人揃って依頼が来るだろうし…」
「なんなんだろうね~。それじゃ、いってきま~す♪」
「気をつけてね。あと今日の買出しはあなたの担当よ」
「はいは~い♪今日はいい紅茶が入るかもね~♪」
昨日の晩のことである。
白玉楼ライブを終えて、屋敷で楽器の手入れをしていた。
ゴキゲンにトランペットを磨いていると、ガラスをやわらかいものが叩く音。
窓の外には一匹の毛玉が、こっちを見ていた。
「あら毛玉ちゃん、どうしたの?」
窓を開けて、毛玉を中に招いてやる。
「…。…………。」
「へぇ~。珍しいこともあるのね」
「…………。…………。」
「はいはい、そういうことならお安い御用。ハッピーのためだもの」
「…………!…………!」
「いえいえ、こちらこそ~♪」
クッキーを一枚あげると、毛玉は上機嫌に部屋から出ていった。
「可愛いわね。一匹飼いたいわ♪」
毛玉の話によると「人間がメルランさんに単独ライブを開いてほしい」とのこと。
時々人里に降りてライブもやるので、里の人間たちとはそれなりに友好的だったりする。
それなりに報酬ももらえたし、人前で演奏できるのは楽しいものである。
本来必要はないのだが、その報酬で紅茶やお茶請けも買っている。
毛玉は、里の人間達がうわさをしているのを聞きつけたらしい。
どうして毛玉がそれを聞きつけたのか、それはは考えなかった。そんなの別にかまわない。
私も里のみんなもハッピーになれるなら、それだけで充分だった。
期待に胸を膨らませて、里を目指して雲を抜ける。
ほどなくして里にたどり着く。
とりあえずいつも手配をしてくれる村長さんの家へ向かった。
「はーい村長さん、メルラン・プリズムリバーですよ~♪」
「おぉメルランさん!?どうしてここに?」
「風の噂で聞いたのよ~」
「いい時に来てくれた。とりあえずあがってください。緑茶ぐらいならありますんで」
「あらあら、それじゃお言葉に甘えて~♪」
目の前には熱い緑茶と羊羹。そういえば最近和菓子に餡子ものが多い。
舌を火傷しないよう気をつけながら、とりあえず一口いただく。
「おいしいですね。丁寧な味です」
「ありがとうございます」
白玉楼でいただく緑茶とどっこいどっこいである。人間ながら結構なお手前で。
羊羹は…ちょっと好みの味じゃない。
「それで、『いい時に』って言ってましたけど、ライブのお願いですか?」
「いえ、今回は演奏会ではなくてですね…」
珍しく、ばつの悪そうな表情で村長は続けた。
「専門外でしょうが、別のお仕事をお願いしたくて」
「別ですか?なんでしょう?」
「メルランさんは『ゆっくり』をご存知ですか?」
「『ゆっくり』…あー!あの道端の生首!」
「饅頭らしいのですが…。最近ゆっくり達が畑を荒らすのです。
人の手で駆除するにはいかんせん数が多いので、ぜひメルランさんにお願いしたく」
「でもなんで私に?野蛮な仕事なら他にもっと頼める人が…」
「村の者も考えました。しかし他の方法では効果があまり望めないのです」
「私にしかできない方法ってことですか?とりあえず、詳細を聞かせてください」
少し冷めたお茶に口付けながら、村長の話を聞いた。
羊羹には手をつけなかった。
「わかりました。やりましょう♪
強い躁の音が大きく出ますので、村の人たちに注意を呼びかけてください」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
メルランは、ゆっくりの駆除を引き受けた。
ゆっくり達に罪はない(あるらしいがメルランは知らない)が、嗜好品のためである。
それなりにいい報酬も約束してくれたし、うけない手はないと踏んだ。
「村の者の手配は終わりました。お願いします」
「はいはーい♪いっくわよ~♪」
村の中心の、小さなオブジェの上にそっと立つ。
ひとつ深呼吸。
♪風神少女
高々と掲げたトランペットから、軽快なメロディが響き渡る。
たった数音で、村の空気が変わった。
「こっちからいいおとがきこえるよ!」
「ゆっくりできるね!」
「ゆっくりしていこうね!」
「ゆっゆー!」
「ゆーっ!」
\たまんねぇ/
「俺も行くんだーっ!」
「ダメよゴロウ!今外に出たら死んでしまうわ!じっとしてなさい!」
「行ーくーのーっ!」
「ハナコ!じっとしてるんだ!」
やがて村のそこらから、村の外の森から茂みから、数多くのゆっくり達が押し寄せる。
その数計り知れず、やがて村一面が、ゆっくりに覆われた。
押し合いへし合い乗り上げ乗り上げ、まさに足の踏み場もない。
天空の門から見たらおかしなことになってただろうなぁと思った。
「はいはーい♪みんなあつまったかなー?」
「「「「「ゆっくりしていってね!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
「うーんいい返事♪それじゃ、みんなついてきてねー♪」
「「「「「ゆーっ!!!!!!!!」」」」」
一応人間の子供が付いてきてないことを確認する。
♪恋色マスタースパーク
本当に足の踏み場がないので、低空飛行気味で目的地を目指す。
しかし数が尋常じゃない、地鳴りが起きている。
色々と考えることはあったけど、清清しいメロディに自分もハッピーになっていた。
まぁいいやなんて、あっさり忘れて進み続ける。
「ゆっくりすすむよ!!!」
「ゆっくりぷれいす?」
「これでずっとゆっくりできるね!」
「ゆっくりしようね!」
「おいしいものいっぱいたべるよ!」
「すっきりしようね!」
\ぬふぅ/
賑やかなのはいいことだ。ゆっくりといいながらもいいペースでついてくる。
どんどんと歩を進める(飛んでいるが)うちに、道中のゆっくりたちも加わる。
先頭を行く1匹の騒霊、そしてその後をつづくゆっくり達。
これが夜なら、さながら百万鬼夜行といったところか。生首だらけの百万鬼夜行、シュール。
自分の想像に自分で笑ってしまった。非常にテンションが高い。
♪クリスタライズシルバー
そうしてたどり着いたのが博麗神社…付近。
地面には、そこそこ大きな穴が開いている。
うーん、底が見えないが大丈夫だろうか。まぁ気にすることでもない。
「さぁみんな!この中がみんなのゆっくりプレイスだよ!
押さずにゆっくり入っていってね♪」
「「「「「ゆっくりしていってね!!!!!!!!」」」」」
そうして穴に流れ込むゆっくり達。
あれだけの数が、詰まることなくみるみると吸い込まれていく。
声も段々と小さくなり、やがて最後の一匹の声が聞こえなくなる。
全員がいなくなるまで、最後は穴にトランペットを向けて、演奏を続けた。
せめて躁のままで旅立たせてやってほしいという、村長のお願いだった。
まったくお人よしなんだから。
「たっだいま~♪」
「おかえり姉さん。どうだった?」
「すっごい数のお客さん♪あんな数初めてだったわ~♪」
「相当盛り上がったみたいね。それで、買出しは?」
「もちろん♪奮発したわよ~♪」
「どれどれー、おぉ!太陽の畑の紅茶じゃん!姉さんすごーい!」
「ずいぶんいい仕事だったのね。お疲れ様。お茶にしましょう。」
「はいは~い♪」
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「霊夢ー、温泉見に来たz…なんだこりゃ、赤錆か?」
「…餡子よ」
【あとがき】
どもっす。タカアキです。
「報酬少なくて村の子供達も地底行き」と
「報酬少なくてゆっくり達に復讐させる」の派生があったんですが、
どうも後味悪いし虐待にもなんにもならんのでやめました。
トランペットのメロディ音楽があれぐらいしか浮かばなかった。
リリカ<ルナサ<メルランだよね。でもリリカはいらない子じゃないよ!
最終更新:2008年09月14日 11:01