ゆっくりれみりゃが紅魔館の前で馬鹿踊りしていた。
そんな事は日常茶飯事だ、別に気にしないさ。
紅魔館の敷地ないだしな。
問題は街に来た時だ。
従者が買い物のついでに連れてくることも有るんだが、待っている間モノを壊すわ勝手に食べ物を掴むわ挙句の果てには捨てるわ、の我侭し放題。
一人で屋敷を抜け出して来ることも有るんだが、その時は勝手に人の家に上がりこんで荒らしまわる。
そこで一発でも殴ろうモンなら自分の命の保障は無いときてるから、皆泣き寝入り状態だ。
村人の大半がそんな状態なのに困り果てて、博麗の巫女に相談すると、米俵と引き換えにとっておきの秘策を教えてくれた。
それを実行するために、数人を連れて紅魔館近くまで出向いた。
暫く待つと、巫女さんの言ったとおり屋敷の主が庭まで出てきた。
最近は昼間でも庭でお茶を飲んでるから。
その言葉通り、従者に入れさせた紅茶を美味しそうに飲んでいる。
……、そろそろ頃合か。
俺達は、決して大声でもなくしかし向こうには聞こえるであろう声の大きさで話し出した。
「おうおう、そういえば最近この屋敷のお嬢様が、従者と一緒によく買い物に来てるよな?」
「あーそうだな、しかもモノは勝手に壊すし、挙句の果てには手づかみで品物を勝手に食べ始めるんだぜ!」
「まじかよ!! 吸血鬼って言うものはもっと人智を超えた知性があるんじゃないのか?」
「さぁ、もしかしたら、以前博麗の巫女に負けた影響で知恵がなくなったのかもな!」
「……、どもよぉ。それって最近見かけるゆっくりれみりゃじゃないのか? あれは体が付いてる種類がいるんだろ?」
「馬鹿かお前は、あんな知性のかけらも無いようなモノを紅魔館が甲斐甲斐しく飼っている訳無いだろ?」
「そうだな、食料として持っているなら檻にでも問いこめておくだろうしな!!!」
「俺としては、以前たまに買い物に来た時のカリスマ溢れる姿が見たいんだけどなぁ」
「そうだなぁ、……」
それだけ言ってダッシュで逃げる。
勿論、最後にちゃんとフォローしておいたが、如何せんそのまま留まっているのは危ないと判断したからだ。
無事に村に帰ってきた俺達は、取り合えず村長に酒を振舞われてその日は寝て過ごした。
紅魔館
「……。ねぇ咲夜、さっきの人間が言っていた事はどういう事?」
「おそらく、私とれみりゃ様が街へ買い物へ出たときの事だと思いますわ」
あっけらかんと答えるメイド長。
彼女をよく知っている者はご存知だろうが、その外見からは想像も出来ないほど彼女は天然なのである。
「はぁ、……。咲夜、この私が、完璧で人類の英知を全て集めても及ばないこの私が、あんな酷評を受けているのよ。良いたい事は分かるでしょ?」
「……、ハイ。お嬢様の命令ならばそのように」
一蹴あのふてぶてしい顔が笑顔で頭を過ぎったが、その顔がきっかけで咲夜もれみりゃの処分を決心した。
「う~~ざぐや~。た~べちゃうぞ~~♪」
玄関に入ると、そこに二匹のれみりゃが居た。
二匹ともぶかぶかのきぐるみを着て楽しく遊んでいるようだった。
「ざぐや~、れみりゃぷっでぃんたべだい~~♪」
「れみりゃもぷっでぃんたべだい~~♪」
仲良く咲夜に駆け寄って話す。
「はい! プリンですね今日はバケツいっぱいの大きなプリンを用意して差し上げますよ♪」
「うー!! ぷりんじゃないの!! ぷっでぃーん!! なの!!」
「ざぐやのばぁ~か♪ ぷっでぃーん♪ ぷっでぃーん♪」
「はいはいプディングですね」
勿論、咲夜はプリンを要する気はさらさら無かったのだが、面白いことを思いついたので作ってやることにした。
「今日は一緒に厨房へ行きますか?」
「う~♪ ちゅ~ぼ~いぐどぉ~♪」
「うまうましてぽいっ♪ するの~♪」
二匹を厨房まで案内する。
テコテコと、きぐるみで何度も転びながら付いてくる。
「ぷっでぃ~ん♪ おっぎなぷっでぃ~ん♪」
顔面から転んでも、こう言って笑顔で立ち上がってくる。
はっきり言って気持ち悪い。
「はい! 厨房ですよ!」
「う~♪ ぽいっするど~♪」
「まじゅいのぽいっ♪ ぽ~い♪」
意気揚々と駆け出す二匹。
目の前には作りたての夕食が山盛り置いてあった。
「あらあら、食材を固定するのを忘れていましたわ」
数本のナイフを投げる。
ずぶずぶのきぐるみの周辺に刺さったそれらは、最後の一本がお腹のど真ん中に刺さったのを最後に止んだ。
「うっぎゃー!! ざぐやーーー!!! れみりゃんの!! れみりゃのおなががーー!!!」
「ぎゃおーーー!!! れみりゃはかいじゅーだぞーー!! いだぐなんがないぞーーー!!!」
綺麗に貼り付けにされたれみりゃ×2。
文字通り醜態を晒している。
「さて、れみりゃさま。どうしてそんな事になったか分かりますか?」
「わがんなーい♪ ざぐやぁのばぁ~~が♪」
「がぉお~♪ れみりゃはつよいからざぐやをた~べちゃうぞ~♪」
傷も癒えてイケイケモードの二匹、こうなったら止められない。
「そうですか? じゃあこれならどうですか?」
こうなった昨夜は止められない。
ご自慢のナイフをれみりゃの口に差込上下をなぞる。
歯茎まで到達したナイフはまるで何かを収穫でもするかのように二匹の歯を切り落としていく。
「!!!! うがぁーーー!!!!」
「れみびゃのはがーーー!!! れみびゃのはがーーー!!!!」
「分からないようなら教えて差し上げますわ。勝手に食べものを捨てるのは悪い事ですよ。分かりましたか?」
熱々のスープを口の中に流し込みながら昨夜が尋ねる。
「う~!!わがっだーーーー!!! ざぐやだずけでーー!!!」
「う~!! しらないどぉ~、れみりゃのきらいなものいらないどぉ~!!!」
先ほどまで、散々悪態をついていた方のれみりゃが謝った。
ふてぶてしい分、こういう時も取り合えず謝っておく。
それで今まで昨夜は許してくれたから。
「そうですか、では分からなかったこっちは、お仕置きですねぇ」
一瞬で衣服を剥ぎ取り裸にする。
対するれみりゃは自分が自由になったのだと思い昨夜に抗議し始める。
「うわーーーれみりゃのぼーじがーー!! ふぐがーーー!!! ざぐやー!!! はやぐがわりのものもっでぎでーーー!!!」
意にもかけずに淡々と作業をこなしていく咲夜、泣き叫ぶれみりゃを一先ず洗う。
「う~~♪ おふりょ~♪ おふちょ~♪」
次に首から下を大型フードプロセッサー入れて固定する。
他の材料も既に入っている。
「う~♪ あったが~い♪ きれいにゃおふろ♪」
先に温めた牛乳を入れておいたので、まだお風呂だと勘違いしている。
「それではこれからおっきなプリンをお作りしますね」
勿論それは貼り付けになっている方に言ったのだが、自分が言われたと勘違いしているらしい。
「う~♪ ぷっでぃーん♪ ぷっでぃーんたべどぅ~♪」
スイッチをオンにする咲夜。
勢いよく材料を細かくしていく機械。
「うわーーー!!! れみりゃのがらだがーーー!!!」
そして泣き叫ぶれみりゃ、透明な容器なので自分の様子がよく観察できる。
綺麗に混ざった所で首だけになったれみりゃに舐めさせる。
「美味しいですか?」
「うーーーー!! ! う~、ぷっでぃん♪ ぷっでぃんおいしい♪」
「それは良かった」
「!! うばーーー!! ぼっ、ざ、ぼこっ……ーーーー!!!!」
首も入れて再度スイッチオン、何か言いたそうだったが気にしない。
その後は時間を操作してあっという間に出来上がったバケツ一杯のプリン、所々茶色になっているがなかなかおいしそうでもある。
「はい! れみりゃさま、ぷりんですよ!!!」
だが、れみりゃは答えない、馬鹿でアホで頭の殆どがプリンより緩いれみりゃでも、目の前でまじまじとお友達が調理されていくのを見たら、今このプリンには何が入っているのか位理解できるからだ。
「どうしたんですか? 食べないんですかれみりゃ様?」
「れみりゃいらない!!! そのぷっでぃんいらない!!!」
口からも鼻からも肉汁を滴らせながら、れみりゃは懸命に叫んだ、思い出すのはさっきまで一緒に遊んでいた友達のこと、お昼に仲良くプリンを食べたことだった。
「そうですか? 好き嫌いはいけませんよ?」
その思い出の最中、自分のお腹に激痛が走る。
慌てて自分のお腹を見ると、咲夜がプリンをせっせと中に詰めていた。
引き裂かれた自分の中に。
「うーーー!!! いだいよーーー!!! ざぐやーーー!!! ずぎぎらいじないがらさっさどやめでぇーー!!!」
れみりゃ初めての心からの謝罪。
だが。
「大丈夫ですよ、あなたはこれから料理になるんですから。もう好き嫌いしなくていいんですよ」
食べ物に耳を貸す人間は居ない。
紅魔館の門番は夜寝をしていた。
勿論昼寝と同じノリである。
先ほど、頭にグンニグルを叩きこまれて一旦は起き上がったが、レミリアが出かけてくると言い残して去っていくとまた寝始めた。
そして今度は銀のナイフが突き刺さる。
「!!!! って咲夜さん。幾らなんでも銀のナイフは痛いですって!!!」
「寝てるほうが悪いんでしょ。ほら、夕食を持って来てあげたわ。あなた夕食の時間なのに来なかったから」
そこには籠一杯の中華まん、ふかふかと湯気が立っているそれは先ほどのゲテモノプッディンより遥かに美味しそうだった。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
勢いよく、口に運んでいく美鈴、十個ほど口に運んだ時、ふと何か気が付いたようで口を開いた。
「この肉まん、ちょっと甘いのもありますね。でも桃まんみたいでおいしいですよ!!」
そう言って更に口に運んでいく、食べ物は決して好き嫌いしない。
それが美鈴だ。
夜中にコンコンと戸を叩く音が聞こえた。
村長かと思って扉を開けると、紅魔館の主が威厳たっぷりで立っていた。
「!! すっすみません!! どうか命だけは、せめて妻子だけは!!!」
必死で土下座する。
あーやっぱりこうなったか……博麗の巫女もどうなっても知らないとは言っていたが。
……無念。
「ちょっといいかしら?」
「はっはい!!!」
俺は一帯どうなるんだ、血を吸われるのか? それとも串刺し? もしかして食われる?
「家の食料が迷惑をかけたわね、これはそのお詫びの印よ。ありがたく受け取りなさい」
へ?
目の前には一か月分は下らないかというお金が置いてあった。
「それじゃあ、私はあんたと一緒に居た人間の所に行かないと行けないからこれで失礼するわ。
そうそう、また家の食料が悪さをしたら遠慮せずに味わっていいわ。何か言われたら私がそう言ったって言えばいいから」
「はい。しかとこの耳聞き届けました!! 偉大なるレミリアスカーレット様!!!」
優雅にその場を後にするレミリア様に(自分の生命のとこも含めて)感謝の言葉を述べる俺。
やはり紅魔館の主様は人智を超えて聡明な智を得ていらっしゃる。
そして、博麗の巫女に相談して本当によかった。
そうだ、このお金の半分は神社に寄付しよう。
翌日、大量のお金を受け取った巫女はこれで一年間暮らせるわ、とおっしゃっておりました。
最終更新:2011年07月27日 23:37