地下室で高らかな笑いを浮かべるはパチュリー・ノーレッジ。
動くけど二つ名は動かない大図書館だ。
そこには奇妙な光景が広がっている。見た目は白い饅頭なのだが、ふてぶてしい瞳、
不敵な笑みを浮かべる口が掘り込まれており、はげ頭の人間を模したようであった。
乾燥を防ぐため透明なケースがかぶされ、全部で8個テーブルの上に並んでいる。
パチュリーがキッチンへ向かうと、翌日の食事の仕込みをしている咲夜に会うことができた。
「パチュリー様・・・どうなさったんです!?」
そう言われるのも無理は無い。実時間にして1ヶ月程不眠不休で実験に勤しんでおり、
目の隈がひどく、小麦粉で服が真っ白な有様だ。
「さすがに着替えて少し休むことにするわ。それとお願いがあるんだけど・・。」
パチュリーは4本の300mL三角フラスコを見せた。それぞれ約3分の1の液体の培地らしき液体で
満たされており、その上に数本ずつ髪の毛らしき物体が入っていて、
R、M、A、Pと書かれていた。「このフラスコ内の時間を早めておいて欲しいのよね。
そして液が減ってきたらこれを足しておいて欲しいの。」
そして緑色の液体で半分ほど満たされた、2L容量フラスコを指差した。
「はっ・・・わかりました。それよりもパチュリー様、早くお休み下さい。」
ふかふかの布団で1ヶ月振りの休息を取る。3日間眠り続けた。
そんなに短くて済んだのは、実験結果が気になって仕方がないからだ。
「どう咲夜・・?頼んでおいたモノはどうなった?」
「これです。」フラスコを差し出した。
中を見ると、Rには黒、MとAには黄、Pには紫の髪の毛がびっしり生えていた。
「さすがにちょっと気持ち悪いわね・・。」
そう言って地下室に戻ると、フラスコ内の残った液体を捨てて滅菌水で洗浄し、
紙タオルを敷き詰めたテーブル上に髪の毛を広げた。
「Mはこれぐらいで、AはMより短くて・・。PはMよりちょっと短めかな。」
『文々。新聞』のバックナンバーを片手に、パチュリーは紙にペンを走らせていた。
「Rが難しいわね・・。長めに作って後で調整しよう。」
髪の毛を忘れ去られていたハゲ頭に植え付けていく。『文々。新聞』の写真記事を
元に、持ち主を再現していく。
「Pは簡単だわね。ここにいるし。
Aはちょっとウェーブ気味かなぁ
MとRは・・・整えるのリボンが出来てからにしようかな・・。」
そういうとパチュリーは麻布にペンで一通り下書きを施すと鋏で切り抜いていった。
「こういうのは咲夜が得意そうね・・」
更に飾りを縫い付けていく。
「ようやく出来たわ。」
Rと書かれた箱には大きな赤いリボンと、赤い筒状の飾り
Mには大きな白いリボン、内側に白いレースのついた黒い帽子と、小さな赤いリボン
Aにはカチューシャ
Pには自分とそっくりな、三日月のマスコットがついた薄紫の帽子が入っている。
「Mの帽子が一番大変だったわ・・。」
幸い実物が近くにあったため苦労しないで済んだ。
髪飾りが出来たあとは、取り付けてヘアーアイロンで形を整えていく。
少しずつ切っていき微調整。終わったら薬品をかけて髪形が変わらないようにする。
ちょっとした美容師さん気分だ。
「ふうう・・・。ようやく形が整ったわね・・。」
そこには、幻想郷の英雄たちに似た、ふんぞり返り不敵な表情をした饅頭が4種類×2個の
計8個がテーブルの上に並んでいた。
「ここから最後の仕上げよ!」
「まずは・・・」
もう一つのテーブルで、黒い紙に紫色の筆で六芒星を描く。色はどうでもいいのだが
気分の問題。そして外側の頂点に6本のろうそくを立てて中心に自分の被っていた帽子を
置いた。
「#>$%&‘?☆・・・」
何やら呪文を唱えると、帽子から青白いエクト・プラズムが昇ってきた。
これが主に大切にされたモノに宿る魂だ。
「そおい!」
叫ぶと、魂を2つに分裂させ、自分そっくりな饅頭に送り込んだ。
生命エネルギーは物理的な要因に頼っているので、魂の個数による変化はない。
続いて、リボン、人形にも同じ作業を施した。
ただ魔理沙から奪った帽子だけは、違う反応を示した。
「白いリボンと、黒い本体から別々のプラズマが・・」
ちょうど器は2体あったので、それぞれに送り込む。
「これで遂に完成よ・・!やっとゆっくり寝れる・・!」
あとは起動するだけ。起きてからにしよう、とパチュリーは再び布団に潜り込んだ。
「遂に来たわ・・!」
紅魔の実は動く大図書館、パチュリー・ノーレッジは実にノリノリであった。
と言うのも、苦心に苦心を重ねた実験がようやく功を奏しそうだからである。
おなじみ、薄気味悪い饅頭が並ぶテーブルの前に立つと、彼女は何やら目を閉じて
集中し始めた。
「・・・・・・」
何やら饅頭たちに気を送っているようだ。
最初は穏やかであったが、徐々に手の振るえが大きくなり、表情が険しくなっていく。
祈祷は最終段階のようだ。
「さぁ・・・目覚めよ・・!我がしもべたちよっ・・・・・・!」
「ゅ・・」「ゅ・・」
饅頭どもの目が少し動いたようであった。
「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」」」
呆気に取られるパチュリー。確かにこんな目つきにしたのは私だけど・・。
実際にしゃべらせてみると煩いことこの上ない。
気を取り直してサンプルRに話しかけてみる。
「あなたのお名前は?」
「ゆっ?わたしのなまえはれいむだよ!!!おねえさんはゆっくりできるひと?」
なんなんだこの物体は・・。こいつらはパチュリーの予想を145°ぐらい下回った
生物に過ぎないのだった。
「私はパチュリー。あなた達の生みの親ってところね。」
「ゆゆっ?まりさたちにはおかあさんなんていないよ?おねえさんばかなの?
それよりおなかすいたからはやくごはんもってきてね。」
腹立たしさなら予想斜め上を大幅に更新した。私の苦労は一体・・ 一体・・・・
これじゃあ図書館の守りなどとてもできそうにない。
いくら腹立たしいとはいえ、実作業時間一ヶ月以上かかって作り上げた作品なのだ。
簡単にひねり潰すことなどできるものか・・。
「仕方が無いからデータだけでも集めて、論文だけでも投稿しようかしら・・。」
そうね・・まずは・・。
れいむのほっぺたをひとちぎり。
「ゆ゛っ」
餡と皮に分けて、半分はにとり製作所製ガスクロマトグラフィに放り込み、
半分は口の中に放り込んだ。
「味は・・普通の餡子とかわらないわね。」
成分分析もほぼ元の餡子と変わらないようだ。
番人としての機能は無くとも、食料としての望みはまだあるかもしれない。
「おねえさんなにするの!?ばかなの!!?ゆっくりあやまってよね!!!」
一々気に障る言い方をする奴だ。どうしたらこう尊大な態度が取れるのだ。
とりあえずこいつは無視して、分析を続けることにする。
次はサンプルMだ。
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!おねえさんおなかすいたよ!!!」
なるほど、これは彼ら共通の挨拶のようだ。
次に無言でサンプルMの頬をちぎり、質量分析機放り込む。
「ゆ゛う゛う゛う゛う゛・・・!!!ま゛り゛ざのほっべだがああああああ
ま゛り゛ざのほっべだあああああああ!!!」
そう叫ぶと両目から滝のような涙を流す。
このままでは脱水症状に陥りかねないので、グルコース水溶液を与えて
涙も質量分析に回す。
「そういえば、サンプルMは2種類のエクトプラズムを放り込んだんだったわね。」
今のは白いリボンから取り出したエクトブラズムのものだ。こいつはM1としよう
サンプルRと比べると大人しく、弱虫な性格なようだ。
次は黒い帽子からエクトプラズムを抽出したサンプルM2。
予想はついているので無言で頬をちぎる。
「なにするんだぜ!!!まりさのじまんの『ぷるるんっ』なほっぺがだいなしだぜ!!!
ゆっくりできないおばさんははやくしね!!!」
おばさんってあんた・・。怒りを通り越して呆れるばかり。
成分、味ともR、M1、M2の間で差は見られなかった。
「れいむのほっぺはやくかえしてね!!!そしてれいむたちのへやからはやくでていってね
!!!」
「そうだぜここはまりさたちのゆっくりぷれいすだぜ!!!いたいめにあいたくなかったら
ばかなおねえさんははやくほっぺをもとにもどしてゆっくりしね!!!」
更に自分の場所宣言をし始めた。ゆっくり研究した結果がこれだよ!!!
さて、ほったらかしになっていたサンプルAに目を向ける。
「あなたのお名前は?」
「わたしはとかいはのありすよ!!!べ、べつに話しかけてもらえなかったからって
さびしくなかったんだからね!!!」
何なんだこの性格は・・。本人の斜め上を行き過ぎていて笑いが止まらない。
そしてかまわずほっぺを引きちぎる
「ゆ゛っ!い゛っい゛だい゛っ・・・ なにするのよ!!! ゆっくりできないいなかはの
おねえさんはありすにゆっくりとかいはのしょくじをもってきてね!!!」
味はと・・。カスタードクリームの甘みが口いっぱいに広がる。売り出すとしたら
子供や女性向けによく売れそうだ。この生意気さを除けば・・。
最後にサンプルPに目を向ける。
「むきゅっ」
「あなたのお名前は?」
「わたしはぱちゅりーよ!おねえさんはぱちゅりーのためにごほんをもってきてね!!!
むりならむっきゅりしんでね!!!」
なんということだ・・。大図書館と呼ばれる私の分身ならば、少しは知恵を持っているのかな
とも思ったが、他と大して変わらないようだ。知的好奇心がある以外は。
とりあえずサンプルに死なれても困るので、食事を用意するとしよう。
紅魔館の農園でとれたリンゴを振舞う。
「うめー!めっちゃうめー!!おねえさんははやくつぎのたべものをもってきてね!!!」
「むーしゃむーしゃむーしゃ!!しあわせー!!!」
「あ、ありすはとかいはだからしかたがなくたべてあげてるんだからね!!!
つぎはもっととかいはのたべものもってきてね!!!」
「むきゅむきゅむきゅー!!」
おーこわいこわいこわい。
どうしたらここまで威張れるのかが不思議だ。
紅魔館の主達はおろか、スキマ妖怪でも、蓬莱ニートでも、閻魔の山田様でも
無理ではないか。意地汚い上に食べ方も汚い。
彼奴らのいうゆっくりというのは、自分にとって都合の良いことなんだろうか。
ありすの言うとかいはって、全く以って意味が分からない。
しかも自分の分身が最も頭悪そうなのが気に食わない。素直だからよしとするか・・。
「こいつらどうしようかしら・・。粗方データ集めたら外に捨てよう。」
パチュリーは溜め息を漏らした。
「パチュリー様ー!お客様ですよー。白黒のー。」
咲夜の声が地下室まで響き渡る。饅頭どもを段ボールの箱に閉じ込めて。
「せまいよー!!」「くらいよー!!」「ゆっくりできないよー!!」
「はやくまりさをそとにだしてね」「おねえさんははやくしんでね!」
「とかいはのありすにこんなしうちするいなかはのおねえさんははやくしね!」
「むっきゅりしね!!!」
白黒の奴今更何しにきたんだ!と心の中で叫んではいても、左腕にはしっかり
黒の大きな三角帽を握り締めていた。
階段を駆け上がると。二人の金髪の少女、魔理沙とアリスが立っていた。
疲れている様子だったが、二人とも笑顔だった。
「へっへー、パチュリーすまなかったな。本はこの通り読み終えて全て返すぜ。
アリスも苦労させてすまなかったな。お前がいなかったらどうなってたかわからないぜ。」
「べ、べつに友達として当然のことをしたまでよ!」
なんてことだ。私が苦労に苦労を重ねた一ヶ月間は一体・・!?
これからはアリスもついているし、好き勝手に本を持っていくことは無くなるだろう。
しかし、寂しい気もしてならない。
それに、苦労して生み出した饅頭ゴーレム達はお世辞にも警備役としては勤まりそうにもない。
尊大な態度、体力も知力も皆無に等しく、食肉用の家畜として飼われるのがオチか・・。
かと言って自分の手で潰すのも嫌だし、紅魔館の住人達にも生み出したのが自分だとは
知られたくない。結局外に放すのが一番のようだ。
「さぁて外もそろそろ暗くなってきたし、帰るとするか。」
「ねぇ・・魔理沙。また遊びに来てくれるよね・・?」
私はうつろながらに問うた。
「あぁ・・。気が向いたらな。」
その瞬間私の心の中で何かが壊れたような気がした。
「これとこれとこれ貸してあげるから!!絶対返しに来なさいよ!!
返す気が無かったら私が行ってでも返してもらうんだから!!
約束しないと、帽子返してあげないんだから!!!」
自分がどんな顔をしているかなんて考えたくも無い。
このまま会えなくなっちゃうような気がして、自分の不甲斐なさに情けなくなって・・。
「ど、どうしたんだよ突然・・。疲れてるんじゃないか・・?」
「ご、ごめんね・・。あなたはアリスに手伝ってもらったとはいえ、
帽子のためにここに来たんじゃない。素直に本を返したいと思ってここに来た。
あなたの表情を見ていたらわかるわ。でも私ったら、私ったら・・。」
気づいたら魔理沙とアリスを抱き寄せていた。
私は魔理沙を追い返そうとしていた。散々苦労して生まれた低俗な饅頭を使って。
それに帽子を返すと約束したのは私ではないか。自分から約束破ろうとしている・・。
私の目から熱いものが、行き場を無くしてとめどなく溢れている。
「はい、約束の帽子よ・・。やっぱ帽子が無いとあなたらしくないから・・。
そしてアリスの人形よ。痛めてはいないわ。」
「んー、確かに私の帽子なんだろうが、ちょっと違う雰囲気がするぜ。」
「・・・・・」
そう言われるのも仕方が無い。私がこの帽子から魂を奪い、あの愚図饅頭どもに
植えつけたのだから。
「何言ってるのよ、このリボンに、このレースに、どう見てもあなたの帽子よ。」
多分幻想郷、いやこの世界中探しても、同じもの1つか2つ見つかるかどうかってところよ。」
いや、彼女は人形の異変に気づいているはずだ。でも弱りきっている私をかばって
あんなことを・・。そして彼女のセリフが覆されるまで長い時を要さなかったのは後の話。
「そうだ、アリス!今晩一緒に泊まっていこうぜ!」
「ええっ!でも・・?迷惑じゃないの?」
「歓迎するわ。なんか・・、気を使わせちゃったみたいでごめんね・・。」
「いいってことよ。何があったかよくわからないけど、泣きたくなるなんて誰でも
あること。困った時は一人で悩んでちゃだめだぜ。」
そう言うと魔理沙はいたずらっぽく笑って見せた。釣られてアリスと私も笑顔になる。
しかし心の安住も長くは続かなかった。数日後、恐るべき事態に陥るわけだが
その話はまたの機会にでも。
私は覚悟を決めてあいつ等を処分しておけば良かったのだ・・。
1.ゆっくりれいむ
性格
基本的には能天気で優しい性格。
しかし知能は飛びぬけて低く騙されやすい。
→過去に霊夢がつかっていたリボンから抽出したエクトプラズムを使ったことで、
幼少期の霊夢の性格が色濃く出ていると考えられる。
2.ゆっくりまりさ
性格
ゆっくりの中では体力、機敏さに長けており、
リーダーシップを持つが狡猾で自己中心的。
→帽子の中でも、白いリボンには幼少期の記憶、黒い本体には
抜け目の無い性格が残ったと考えられる。
後にも狡猾なものと臆病者が観察されているとのこと。
結局のところゆっくりに移してしまえば、悪いところしか見えない。
3.ゆっくりありす
性格
プライドが高く、過剰なとかいはの意識。何を意味するのかはよくわかっていない。
基本的に知能は高いが、性欲が大きく(特に対まりさ種)見境なく行為に耽ることもある。
→だいたい本人の性格と似通っている。
それにしても、この人形何に使ってたんだ?
4.ゆっくりぱちゅりー
性格
知識欲は旺盛。しかし体力は弱く、ゆっくりなので知能もそれなり。
知力に対するプライドだけは高い。
→確かに知識欲はあるものの、他のゆっくりと比較しても知恵があるとは思えない。
駄作中の駄作。後に知力が高まっていくことから、代々受け継がれていくものと考えられる。
すみません、ありすの項書きたかっただけですヘ(゚∀゚ヘ)
パチュリーにこの人形を渡したのも・・?
最終更新:2008年09月14日 11:09