阿求×ゆっくり系1

最近、ゆっくりをゆっくりさせないという過激な行為が流行っているようだが
ゆっくりは、ゆっくりしてこそゆっくりではないだろうか?

そこで、ゆっくりを存分にゆっくりさせることにした

そうは言っても、市販されているゆっくりは管理された環境で適度にゆっくりしているのが常だ
どうせゆっくりさせるなら、野生のゆっくりにしたい

方針が決まったので、ゆっくりせずに住み慣れた家を抜け出す
向かった先は、村外れの畑



道中、ゆっくりフランを見かけた
「ウー! ウー!」とうなり声を上げながら、殺意をみなぎらせて飛んでいる
ゆっくりレミリアでも追いかけているのだろうか?
暴れられると厄介なので、沈黙を決め込む

そうして、次に見つけたのは――どこにでもいる霊夢型だった
畑の中で、むしゃむしゃと大根をかじっている

ほんの一瞬、先ほどのゆっくりフランをけしかけてみたいという衝動に駆られたが――
今回の目的は、あくまでもゆっくりしてもらうこと
争いは望むところではない
ゆっくりに気付かれないよう、ゆっくりと距離を縮めていく

もうちょっとで手が届くというところで、ゆっくりがゆっくり振り返った

「だ、だれ?」
プルプルと体を震わせる、ゆっくり霊夢
その瞳には、怯えを含んだ光があった

けれど、愛想よく「こんにちは」と挨拶をしてやると――ゆっくりの警戒心は、どこかへ飛んでいったようだ

「こんにちは! ゆっくりしていってね!」
ぴょんぴょんと、元気良く飛び跳ねるゆっくり霊夢

「じゃあ、少しだけ」
誘いに応じ、土の上へと腰を下ろした

「ゆっくり食べていってね!」
食べかけの大根を差し出すゆっくり
土まみれの上によだれ付きのそれは、贔屓目に見ても食欲のそそるものではない

「お腹は減ってないの」
「ゆ?」
「そう、さっきご飯を済ませたばかりで」

言いながら、ゆっくりに手を伸ばす
ふにゃりという感触が心地良かった
そのまま抱き上げると、ゆっくりは不思議そうに見上げてくる
どうやら捕まったという意識は無いようだ

「もっとゆっくりできる場所があるんだけど、そこへ行かない?」
キラキラ輝く瞳を見ながら、そんな提案をした

「うん! ゆっくりあそぼうね!」



道すがら、ゆっくりは盛んに話しかけてきた

「ゆっくりしていってね!」「ゆっくりしようね!」「どこにいくの?」「なにしてあそぶ?」

だが、今回の目的はゆっくりしてもらうこと
会話をすることではない
通りかかる者もなく、芝居を続ける必要もなかった
だから、何も答えない

黙々と歩き続けていると、ゆっくりの様子がおかしくなってきた

「ゆ、ゆっくりしていってね!」「ねえ! おしゃべりしよう!」「ゆっくりこたえて!」

答える必要は無かった
家まで戻ってくることができたのだ
ここまで来れば、人目を気にする必要は無い
後は、ゆっくりにゆっくりしてもらうだけ

台所へ向かい、鳥もちを用意する
それを、ゆっくりの底面に塗りつけた

「ゆ!?」
奇声を上げ、もがくゆっくり
その力は思っていたより強く、腕の中から抜けられてしまう
飛び出したゆっくりは、放物線を描いて宙を舞い――

「……ゆぶっ!?」

――床の上に転落した

綺麗に落ちたせいだろうか?
ゆっくりは転がることもなく、べっとり床にくっついた
想定外の場所だったが、ここに固定してしまうのも良さそうだ

「ゆ、ゆー!? ゆっくりうごけない! ゆっくりうごけないよ!」
言いながら、ずりずりと這い進むゆっくり
鳥もちの量が足りないせいか、ゆっくりとなら動けるようだ
言っていることと矛盾している

「あなたは、ゆっくりしたいんでしょ?」
鳥もちを手にとって、ゆっくりに貼り付けた

「やめて! ゆっくりやめて!」
「だったら動かなくてもいいよね?」
「ゆっくりうごきたい! ゆっくりたすけて!」
「動かなくてもいいじゃない。あなたは、ゆっくりしていたいんでしょ?」
「やだあああ! うごきたい! ゆっくりうごきたいよ!」

そうこうするうちに、ゆっくりの全身を固めてしまった
少しやりすぎた気もするが、脱出される心配はなくなったわけだ

そろそろ、仕事の続きをしないといけない
騒ぎ続けるゆっくりを放置して、書斎へと足を向ける
背後からは「ゆっくりたすけていってよー!」という叫びが聞こえてきたが――気にするほどのことでもなかった



東の空から、星が昇り始めた
そろそろ夕食の時間である

筆を止め、台所へ向かうと――ゆっくりは、泣き疲れて眠っていた
ゆっくりしていて、良いことだ

けれど、それも料理を始めるまでのこと
食べ物の匂いをかぎつけて、ゆっくりが目を覚ます

「おなかすいた! おなかすいたよ!」
「二度言わなくても大丈夫。耳は良い方だし」
「なにかたべたい! ゆっくりたべたい!」
「ご飯なんか食べないで、ゆっくりしていれば?」
「食べないとゆっくりできないよ!」
「食べなくてもゆっくりできるようになってね」

そんなやり取りを、食事の完成まで繰り返す
とても楽しい

「それじゃあ、私はご飯をいただきます。あなたは、ゆっくりしていてね」
「やだああ! なにかちょうだい! おなかすいたよ!」

ゆっくりが騒ぐ中、台所でした食事は――いつもよりおいしかった



真夜中
耳に届いた「ゆっくりしていってね!」という言葉で目を覚ます
ロウソクを片手に台所へ行くと、ゆっくりがだらしなく口を開けていた

少し離れて、一匹の蜘蛛
ゆっくりの舌が届くかどうかという場所をうろうろしている
夜の蜘蛛は殺せと言うが、今回は話が別だ
拾い上げ、窓の外へと逃がしてやった

「ゆ、ゆっくりしていってよー!」
泣き叫ぶゆっくり

「行儀が悪いのね。もっと、ゆっくりできるようになりたい?」
言いながら、ゆっくりの口をこじ開ける

「やべへえ! ゆっぐりやべへえ!」
「何て言っているのか、分からないなあ……あまり、耳は良くないの」

ゆっくりの舌を引き出し、鳥もちを塗りつける
そのまま、床に貼り付けてあげた

「ゆ゛……! ゆ゛……!」

ゆっくりの声は随分小さくなった
これでゆっくりと眠れそうだ



翌朝
台所へ行くと、ゆっくりは真っ赤に顔を腫らしていた
昨晩は、まったくゆっくり出来なかったに違いない
床の水溜りは、ゆっくりの流した涙の跡だろうか?

「ねえ、ここから出たい?」
呼びかけて、舌に絡めた鳥もちを外してやる

「おうち……! おうちにかえりたい……!」
「出してあげようか?」
「……え?」

ゆっくりが、顔を輝かせた
畑で会った直後のように

「ゆっくり出たい! ゆっくり出して!」
「はいはい、今出してあげるね」

ゆっくりの両脇に手をかけて、一気に引っ張ってみる
中身のあんこが大きくずれる感触が、指先に伝わってきた

「ゆ゛!? ゆっぐりぃぃ! ゆっぐりやめでぇぇぇ!」

手を離すと、ゆっくりがぜえぜえと息をついた

「なに? やっぱりゆっくりしていたい?」
「ゆ゛、ゆっぐりじだぐない! ここからだぢで!」
「そう」

もう一度、ゆっくりに手をかける
そのまま一気に引きはがそうとすると、またゆっくりが絶叫した

「やめでっ! やめでぇぇぇ!」

力を抜くと、ゆっくりは目をうるませた

「ゆ、ゆっぐり……もっとゆっぐりたずげで……」
「それは駄目。ゆっくりするか。急ぐか。どちらもなんて欲張りすぎでしょ?」
「やだああ! ゆっくりたすけて! ゆっくりたすけてよぉぉ!」
「どうしたい? ゆっくりしたい? それとも、ゆっくりしたくない?」

「ゆっぐりじたい! ゆっぐりじだいよおぉぉ!」

「なら、そのままゆっくりしていってね!」



ゆっくりが最後に喋ってから、一か月ほども経っただろうか?

今や、ゆっくりの皮はひび割れ、傷口からは干からびた餡子がのぞいていた
これ以上のゆっくりは望めそうにない状態だ
そろそろ、次の個体をゆっくりさせてやる頃かもしれない

ゆっくり霊夢を見つけた畑へと、足を伸ばす
そこでは、数匹のゆっくりが慧音先生に捕まっていた

「一体、どうしました?」
「ゆっくりは作物を荒らすからな。退治しているんだ」
先生が、手にしたクワを振り上げた

「こいつらは肥料になるから、救いはあるんだが」
ぐちゃっという音がして、一匹のゆっくりが自然に還る

「ゆっくりやめてえぇぇ!」「ゆっくりたすけてぇぇ!」「ゆっくりしたいよぉぉ!」
泣き叫ぶゆっくりたち

それで、こちらの腹は決まった
ゆっくりしたいと宣言した、帽子をかぶったゆっくり
それを、優しくつかみ上げる

「このゆっくり、譲ってもらってもいいですか?」
「それは構わないが……阿求も、ゆっくりを食べるのか?」

複雑な表情をする慧音先生
ゆっくりを食べることに抵抗があるらしい

「いえ、ゆっくりさせてあげようかと」
「物好きだな……まあ、一匹ぐらいならいいさ。好きにしなさい」
「ありがとうございます」

礼を言い、ゆっくり片手に畑を出る

残されたゆっくりたちは、一匹、また一匹と悲鳴を上げながら潰されていった
そんな中、抱えていたゆっくりが目を潤ませる

「おねえちゃん! たすけてくれてありがとう!」

  • 完-

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最終更新:2008年09月14日 11:34
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