皆さん初めまして。ここ、幻想郷では皆様ご存知でありましょう
九代目阿礼乙女、稗田阿求でございます。
お気軽にあっきゅんとでも呼んで頂ければと思います。
あ、もう皆呼んでるのね。ああそう。
朝の散歩は私の趣味だ。別に前の代の頃からではなく、
この私、阿求が見つけた健康維持法である。
別に走る必要も無い。こういうのは自分に厳しくやるよりも、
毎日続けられるような軽い運動の方が三日坊主にならなくて済む。
今日は3日ぶりの晴天。里の人間達も、しばらくぶりに全力で
仕事や勉学に勤しむ事が出来るであろう。
今日もいつも通りの散歩となって終わる筈だった。
散歩のコースである、人間の里からさほど遠くない小さめの森。
ここのひときわ大きな木を折り返し地点とし、里へ戻る。
今日は雨のせいもあってか、いつもの道ながらも、森はほんの少しだけ
違う姿を見せていた。地面はぬかるんでいたので不快ではあるが。
しかし、これはもうすっかり阿求の専用コースだ。一直線で此処まで歩き、
一直線で里へ戻る事が出来る。
そしていつも通りここで方向転換をし、人間の里へ戻る。
でも今日は雨だからこその現象を見る事が出来たのだ。
「…おや?」
近くの茂みがガサガサと動く。もしかしたら妖怪かとも思ったが、
ここは里からさほど遠くない。人に危害を加えるような者ならまず
近づく事は出来ない筈。これは妖怪と人間とで決めた約束なのだ。
しかしここで妖怪に出くわすとなると、阿求としては少々面倒であった。
丁度お腹も空いているし、挨拶だけならまだしも、何かとややこしい事に
巻き込まれたら自分としてはたまったものではない。
でも音が聴こえる場所は折り返し地点から振り返った里への帰り道だ。
まぁもし何かあったら、その時はその時で仕方が無いか。
と思っていた時であった。
ひょこっとそこから小さな生き物が飛び出してくる。動く物体は3つ。
「久しぶりのはれだね!!みんなでごはんをあつめようね!!!」
「「はーい!!!」」
飛び出てきたのは1匹のれいむと2匹の子れいむ。
子れいむ達はとても小さく、生まれてまだ間もないものと思われる。
どうやら運よく地中に巣を持つ
ゆっくり親子達と遭遇したらしい。
おそらく長く続いた雨で食料を採りに行けなかったのだろう。
子れいむ達は親の頭にちょこんと乗っかり、まさに家族そろってご機嫌モードになっている。
まぁ確かに連日の雨からの晴れというのは気分が高揚する。実際私もそうだ。
(ゆっくり親子…か…)
なんとなく昨日寺子屋の先生から大層美味しいお茶を頂いたのを思い出す。
そして阿求はもちろんゆっくり達の中身を知っていた。甘ーい餡子だ。
特に赤子のそれは成体の物とは比べ物にならない程の美味である。
――それを食べながらお茶だなんて、我ながら良い考えだとは思った。
(でもなにより……)
善人である彼女にも変わった部分はある。
阿求自身幻想郷縁起を纏めたという偉業を成し遂げ、
里では知らぬ者など居ない程の有名人となったが、そんな阿求でも
人には言えないような趣味があった。
(殺したいっ……!)
それは阿求の虐待癖。
きっかけと言えば無い事は無いが、それ以来暇を見つけてはちょっかいとも
言えぬちょっかいを出していた。どんどんエスカレートしていく事に
自分も嫌な気持ちになり、ぱったりと止める時もあるのだが、
まるで煙草や酒のように体から抜ける事は無く、今や誰にもいえぬ
趣味となってしまった。
勿論今も非常にムラムラしている。この何とも言い難い感情は、
今の自分の里からの立場というダムに押さえ込まれている。
――だがこれはあまりにも平和な
笑顔を浮かべたゆっくり親子のせいで、その感情を抑えたダムは
あっけなく決壊した。
(決めた!殺す!それで食べよう!)
ちなみに今の阿求は妖怪並みの"気"をかもし出している。
某門番に出くわせば即座に襲われそうな、
現代社会であれば即座に職務質問されるような、そんな感じ。
阿求はしばらく様子を見ていた。
バレたらその場で適当に誤魔化して一時逃げるつもりでいたが、そもそもゆっくりは
一つの目的に突っ走って行くような生き物なので、特にバレるような
心配は無く、とにかく背後に一定距離を置いていれば何とも無かった。
食料を採るという隙を突いて捕まえる。これが第一の目標だ。
地面に生えた雑草をもしゃもしゃとほお張るゆっくり達を背後から近づく。
チャンスは一度だが、一度でも十分なくらい阿求は立派な虐殺者だった。
「おおおおおおっっっっ!!!!」
「ゆゆゆぅっ!?」
とんでもない雄叫びを上げながら、ハンター顔負けのスピードで
ゆっくり達に近づき、締め上げ、気絶させる。昔は力を加えすぎて殺してしまった
時もあったけど、もうすっかり手つきも慣れてしまった。
「うふ…うふふふふっ……!」
捕まえたッ!これで今日のおやつは確定したッ!
のしのしと鼻息荒くそのまま家へ直行。
両手に親子を抱えながら自分の家へ部屋へと向かう阿求を当然誰も止める筈は無い。
表面を見れば"気絶していたゆっくり親子を助けた"だけに過ぎないから。
だから阿求は世間一般から見て良識人なのだ。実際良識人だし、
誰もこれを疑わない。これは阿求からすれば非常に都合が良い。
「…さて」
自分の部屋へと到着した阿求は、部屋の一番奥の畳を持ち上げた。
そこにははしごがあり、地下室へと繋がっている。
これは昔の代から既にあった地下室だが、阿求はここで
いわゆる"虐待"を行っていた。
「よっこらしょっと」
久しぶりの地下というのは空気が悪いものだ。思わず咳き込んでしまうが、
それもすぐに治まる。
「みなさーん、起きて下さーい」
ゆっくり達の頬をぺちぺち叩く。
「ゆっ……ここはどこ…?」
割とすぐに起きた3匹は辺りを見渡す。だが周りは薄暗くて狭くて硬い。
「初めまして。後おはようございます。稗田阿求です。どうぞよろしく」
軽く自己紹介。もちろんギャグのつもりで。
「ゆゆっ!?れいむたちをこんなところにつれてきてどうするつもりなの?」
「連れて来てだなんてそんな言い方無いですよ。連れて来て上げたんです。」
我ながら意味不明。
「ゆぅ、おなかちゅいたよぉ」
「ごはん、ごはんー」
そして母れいむと私の声に誘発してうるさく子れいむが騒ぎ出す。
「あぁ、すいません。食料探しの途中だったんですね」
髪を指でくるくる巻きながら笑顔で続ける。
「まぁご飯探しも結構ですが、その前にお姉さんとお遊びしませんか?」
「お遊び?」
親持ちの子れいむは大抵外の世界を知らない。生き物であれば
まず当たり前の事だ。
「だめだよみんな!かとうなにんげんのおあそびなんてしちゃだめだよ!!」
まぁ流石に親となれば外の世界くらいは知っているか。
「うーん。ここは中々ゆっくり出来る場所なんですがねぇ?少しくらい付き合ってくれても
良いじゃないですか。まぁとにかく何が何でもゆっくりしていって頂きますね。よっこらしょ」
「ゆー!いたいいたいいたい!!!ゆっくりはなしてね!!!」
子は片手で優しく。親は髪の毛を引っ張りながらもう片方の手で強引に奥に連れ込んだ。
「はい、この暑い夏の日にこの冷たーい鉄板の上は気持ちいいでしょう?」
阿求が連れ込んだ場所は大きな鉄板の上。阿求の言うとおりここの上は
非常に冷たい。実は去年はこっそりここで涼んでいたりしていた。
「ゆー!ゆっくりきもちいいー!!」
「「ゆっくりゆっくり!!!」」
親子共々喜んでいるご様子。あぁまさに絵に描いたような光景!
「さてさて、喜んでいただけて何よりです。…それじゃあせっかくなのでこれもどうぞ……っと」
「ゆゆ!?」
阿求はゆっくりの意見も聞かずに、鉄板から乗り上げて親を持ち上げて鉄板から降ろし、
隅から持ち出した金網を鉄板の四隅に取り付けて、
いわゆる牢屋の様な状態のものを作った。
子2匹と親を引き離す。
「ゆー?」
「わーい!おもしろいおもしろーい!」
「うふふ、面白いでしょう?」
やっぱり子供って可愛いなぁ。これから起こる事も知らずに。
「ゆ!これじゃあこどもたちがでられないよ!はやくだしてあげてね!!!」
「まぁまぁ。皆さんお腹が空いているんでしょう?お楽しみはこれからですから」
そう言いながら鉄板の下に阿求が潜る。皆さんならお気づきであろう、火を点けるのだ。
「ゆっ?なにをするの?」
「ご飯を作ってあげるんですよ。あなたに」
「それってどういうこと?」
流石ゆっくりだけに頭の回転もゆっくりだった。
「まぁ見てれば分かります」
今の阿求の顔はまさにLを殺した瞬間のライトの顔だ。
「とりあえずお茶でも飲みながら待ちましょうか。…あ、ここは地下だからお茶は
淹れられませんね。ごめんなさい」
そして5分が経った頃。
「ゆ……」
「?!どうしたのみんな!!」
いきなりの子のぐったりした声に母れいむも驚く。
「ゆぎぃぃぃぃぃぃっ!!!あぢゅいよぉぉぉぉぉぉっ!!!」
そしてもう一匹の方が叫び声を上げながら鉄板の上を
ごろごろと転がり始めた。転がった部分と子れいむの体からは
白煙があがっていた。
「ゆゆぅぅぅぅ!!!れいむのこどもがぁぁぁぁぁ!!」
親れいむがすかさず鉄板の前に近寄る。だが周りはとても高温で、
近づく事が出来ない。
「ゆぎゅうううううう!たぢゅげでぇぇぇぇぇ!!!」
子れいむは小さなゆっくり種とは思えないスピードで鉄板をのた打ち回っている。
「どうしよう!!!はやくこどもたちをたすけてあげてね!!!」
必死に阿求に救助を呼びかける母ゆっくり。
「いやいや、まだまだ食べごろじゃあないですね。もう少し待ってくださいな」
阿求はもうすっかりニヤニヤ顔だ。
「ゆぅぅぅぅぅ!れいむのこどもはたべものじゃないのぉぉぉぉ!はやく
たすけてあげてね!!おねがいぃぃぃぃぃ!!!」
「それじゃあ貴方が行けばいいじゃないですか」
「ゆゆぅ!あつくてちかづけないの!おねがい!!こどもたちをたすけて!!!」
「助けて、って言われても…ねぇ?」
「ゆぎゅぃぃぃぃぃっ!!あぢゅいあぢゅいあぢゅいぃぃぃぃぃっ!!!!」
阿求は子れいむ達に語りかけるも、子れいむ達はそれ所ではない。
なにせ何処へ行っても体が焼けるように熱いのだ。しかも丁度良く焼けてきた
頃合か、いい匂いが部屋中に漂ってくる。
「ゆゆぅぅぅ!どうすればいいのぉぉぉぉぉ!!!?」
あたふたと落ち着かない母れいむ。
「うーん、これじゃあコゲちゃいますねぇ。流石にそれだとマズイので、ちょっと
取りに行ってきてください」
母れいむを片手に、上へ放り投げ込む。母れいむは
天井をバウンドし、阿求の思惑通り鉄板の中へナイスシュートをかます事が出来た。
「ゆぅぅぅぅぅぅぅ!なにごれあづいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
案の定母れいむも鉄板を踊る。そして一方一匹の子れいむはぐったりとしていた。
「ゆ…ゆぅぅ……」
子れいむから上がる白煙はやがて黒煙へと変わり、ぶすぶすと鼻を突く様な
刺激のある煙を出していた。体は顔を残して真っ黒だ。
「ゆぅぅ!だいじょうぶ!?」
「ゆ…ぎ………」
母の声に応え、そちらに振り向く。が、そこで力尽きてしまった。
その場で倒れこみ、唯一あまり焼けていなかった顔はジュウという肉を焼いている様な音と共に
他の部分からは一歩遅れて焼かれ始めた。
だが他の体の部分はすっかり炭化して真っ黒で、ぷちぷちと表面は泡を出している。
「ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!れいむのこどもがぁぁぁぁぁっ!!!」
熱さに耐えられない母れいむは子れいむを助ける事もままならず、子の死を
間近で見ながら順調に体を焼かれていった。もう片方の子れいむはいまだに転がり回っていたが、
体はもうすっかりこんがりと焼きあがっている。人間であれば大火傷の状態と考えて
頂ければ差し支えなかった。
「ゆぅ……ゆぅ…」
子れいむは涙目で息も絶え絶えに、死んでたまるまいと必死に最後の余力で
暴れまわっている。
「あれ?一匹は死んじゃいましたけど大丈夫ですかー?一応火は先ほどから
止めてあるんですけど。流石に全員コゲちゃうのはアレなので」
「ゆぅぅ!このおに!あくまー!」
「うーん、中々滑稽ですよ。そのまま続けて下さい。」
阿求はもう大興奮モードだ。自分で殺せないのは何ともたまらない辛抱だが、
何時もは聴けない悲鳴に阿求の心は躍っていた。
「ゆ"ぅ…あづ…い"……」
「お子さんはもう限界ですか?じゃあ出してあげましょうか?」
「ゆぅ!?だしてくれるの!?」
「あ、貴方はダメです」
阿求はまだ熱を発する鉄板を物ともせずに近づき、流石に鉄板を素で
触るのは危険なので手に布を巻き、鉄板を取り外す。
「はい、お疲れ様でした」
親れいむはそのまま。子れいむだけ救助して、後は鉄板を元通りにした。
「ゆ……ぎゅぅ……」
だいぶ衰弱している。これはいい感じかもしれない。
とりあえず素手では触れない程に熱い子れいむを傍の台に置く。
そして取り出した包丁で子れいむをお腹から真っ二つに切り裂いた。
「ゅ…きゅう……」
外はサクサク――これは焼きすぎだからだが――だが中身はホクホクの餡子だった。
「わお、いい香りと湯気。なるほど、これが子れいむさんの餡子ですか。」
ぱっくりときれいな割れた子れいむの中はぎっしりと詰まった餡子。
これはいわゆる包み焼きのような物で、マニアな人間と妖怪に人気がある。
どういう事か普通に温めるよりも、こちらの方法で温めた方が餡子の
風味が違うとか。特に子の物は舌がとろけるとの事だ。
「あ、お母さんは召し上がります?とっても美味しいらしいですよ?」
「…ゆ……れいむの……こどもが……」
「あら、ショックで落ち込んじゃいました?それともまだ熱いですか?」
「………ゅ…………」
~昼の稗田家~
あれっきり母れいむは動かなくなってしまった。
阿求としては存分に楽しめてゾクゾクしたので満足だが。
しかもあの後にお茶と一緒に食べた餡子はこれがまた絶品で、
阿求としては忘れられない味となった。
そして時は流れる。
「あら、博麗の巫女様。わざわざこんな所まで来てくだって。お疲れ様です」
「まぁね。だって明後日はお祭りなんだもの。冥界に客をもって行かれたらたまったもんじゃないわ」
あはは、と苦笑いする阿求。
「それにね、最近…いや、何時もの事なんだけど…。やっぱりお賽銭が…ねぇ?」
「お察しします。…まぁお賽銭はその神社の信仰量と大体等しいですから大事ですよ?
お祭りの成功を願ってます」
後はしばらくの間世間話とも言えぬ会話を交わす。
巫女はついでに道行く人達にひたすらにお祭りの宣伝を行っていた。
「…ねぇ、今度の幻想郷縁起、博麗神社での行事の不参加は死と直結する、って
書いてくれないかしらね?」
「怖くて誰も近寄りませんね。まぁ出来ない事も無いですけど、その代わり
何百年後なんでしょうか。次の幻想郷縁起は」
「…はぁ。先は長いわね。ていうかどんな災厄が降りかかっても知らないわよ。信仰が無いと
どうも出来ないんだから。」
「そうですねぇ、何か美味しいものでも神社の名物にするとか。そうすれば人も集まりますよ。」
あとがき
お疲れ様でした。3個目です。阿求ネタは初めてです。
所々不自然と感じた方も多いだろうと存じますが、
実は虐殺シーン以外の描写がとてつもなく長くなってしまい、本当に
要らない部分をカットさせて頂きました為に、このような結果となってしまいました。
この癖は中々直せずに悪戦苦闘しております…ううむ。
最終更新:2008年09月14日 11:37