「きょうもれいむやまりさのおうちをさがそうね!!」
森の中を
ゆっくりアリスの一団が元気に歩いていた。
光の当らない森の中で、その集団だけは太陽のように嬉々として輝いている。
「まったく。まりさもつんでれなんでから♪」
「そうよ!! ありすたちにおうちをさがさせるなんて」
「でも、そういううぶなところはきらいじゃないわ!!」
はた迷惑な言葉をつらつらと並べ、姦しく森の中を移動する。
「あら、貴方達はゆっくりね?」
突然目の前に現れた少女に、ご機嫌に答えるアリス達。
「そうだよ!! ありすたちはとかいはのゆっくりありすだよ!!」
「都会派。ねぇ」
汚いものでも見るように、一匹ずつ凝視する少女。
「……確かに汚れはないみたいね」
「とうぜんだよ!! ありすたちはとかいはだもん!!」
「そうだよ!! おねーさんはいなかものだね!!」
自分たちのほうが都会派だと認識したようで、ここぞとばかりに少女を貶す。
「とくに、そんなふるくさいふくをきているところがいなかものらしいね!!」
「おねーさんっていうより、おばさんだね!!」
「やだね!! いなかものはすぐふけて」
「「「とかいはとはおおちがいだね!!」」」
ゲラゲラと笑うアリス達。
「……ねぇ?」
それを冷めた目で見ていた少女が、重くなった口を開く。
「そんなに都会派なの?」
「とーぜんだよ!!」
「それじゃあ、こんな所じゃなくて都会に連れて行ってあげましょうか?」
「ゆ!! おばさんとかいにつれていってくれるの?」
「すぐにありすたちをつれていってね!!」
「でもおばさんはすぐにかえってね!!」
「そうだよ!! おのぼりさんとはいっしょにいたくないよ!!!」
「そうよね。私もそう思うわ」
少女が右手を上げると、目の前に無数の目を持ったスキマが現れる。
「ここを通れば、直ぐに都会に行けるわ」
「「「それじゃあおばさん!!! さよならだね!!!」」」
何の疑いもせずに、勢いよく隙間の中へ入っていく一団。
「ええ。サヨナラ」
スキマを閉じ、あちらの世界を少し弄った後、少女は森の中へ消えていった。
「ゆーー!! すごいーー!!」
「はじめてみたよーーー!!」
「そうね!! とかいはのありすはこんなかんこうすぽっとにはなかなかいかないもんね!!」
一団が現れたのはビジネス街だった。
大きな道の両脇にビルが立ち並び、人間がひっきりなしに歩いている。
まさに、都会の風景のひとつである。
「にんげんもゆっくりしてないひとばかりだし、かんこーきゃくしかいないのかしら?」
「まったく。ありすたちがとかいはのたしなみをおしえてあげなくっちゃね!!」
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
手近な所にいたサラリーマンに、お決まりの挨拶をする。
「…………」
無視される。
「「「ゆっくりしていってね!!」」」
「…………」
「「「ゆっくりしていってね!!!!!!」」」
「はい。……はい」
「「「ゆ♪」」」
「はい。これから伺います。ええ、では後ほど」
その男は、通話を終えた慧帯電話をポケットにしまい、急ぎ足で去って行った。
「ゆ? あれはなに?」
「けーたいでんは? っていうんだよ!!」
「へー。かんこうきゃくなのに、とかいはのひっすあいてむをもってるんだ」
「でもとかいはのありすのようにゆっくりできていないわね!!」
そんな事を話してはいるが、ここは歩道の真ん中。
「ほら! 仕事の邪魔だ!」
「ゆぶ!!!」
当然、避けてくれる人間ばかりではなく、あえなく一匹が蹴り飛ばされた。
「ゆ!! ちょっとおにーさん!! けりとばすなんていなかものね!!」
「はぁ? 道の真ん中でじっとしてる方が悪いだろ? ここはビジネス街だぞ?」
「ゆ? びじねすがい?」
「仕事をする場所だよ! お前達都会派って言ってるけどそんな事も知らないのか?」
「ゆ!! しってたよ!! ここはいちりゅーのとかいはがあつまるばしょだよ!!」
「そうだよ!! とかいはのじょーしきだよ!!」
顔を真っ赤にしてアリス達が抗議するが、既に男の姿は何処にも見あたらなかった。
最終更新:2008年09月14日 11:40