家に帰ると手のひらサイズの
ゆっくりれいむが転がり込んでいた。
「ゆっくりしていってね!!」
さて窓からお帰り願うか。つかんでサッシに持っていく。
「ゆ?!ゆっくりはなしてね!」
「はいはい、外に放してやるから」
「そとはあめだよ!れいむあめはいや!」
なるほどそのものまんじゅうだもんな、死活問題だな。でもなー。
「といわれても、役に立たない奴を置いておくほどうちも裕福じゃねーからなー」
「ゆうふく?ゆうふくってなに?」
「お金があること・・・というか、ゆっくりできることだな」
「おじさんゆっくりできないの?れいむがゆっくりさせてあげるよ!だからいれて!」
やかましいで、ゆっくりなんかできっこないと思うんだけどなぁ。
「だーから、お前みたいなゆっくりが家にいても邪魔なだけだって」
「ゆっ!れいむやくにたつよ!れいむがんばるもん!!なんでもやるよ!」
・・・殊勝なことをいうゆっくりもいるもんだ。やっぱ必死なのかねぇ。
「へぇ。何でもやるっていったな?何でもやるんだな?文句言わないな?」
「ゆ!がんばるよ!」
「わかったわかった、中には入れてやる。梅雨の間だけな」
「わーい!おじさんゆっくりできるひとだね!!」
ま、こんくらいのサイズならそんなに邪魔でもないだろうし、ちょっとした暇つぶしにはなるだろ。
・・・めんどくさくなったら、おやつにしちゃえばいいし。
ゆーゆーふ抜けた顔で、うれしそうにゆっくりれいむは上がりこんできた。
しかしまぁ実際接してみて分かるが、こいつ本当に何の役にも立たないなぁ。
そう思いつつ、ゆっくりをデコピンの要領で、机の上ではじく。
勢いよく転がるゆっくりは、立てていたえんぴつにジャストミート。ちょっと痛そうだ。
「ゆーっ!おじさんいたいよ!」
不機嫌なゆっくり。まぁそりゃそうだろうけど。
「だってお前何の役にも立たないんだもん。おはじきぐらいにしかなんねーよ」
「れいむやくにたつもん!」
「じゃぁ何できるか言ってくれよ」
「・・・ゆー・・・ゆー・・・えーっと・・・ゆっくりできるよ!」
「食うか」
「いやぁああああ!ゆっくりやめてね!!」
「冗談だよ、まだ食おうとか思わないよ、まだな」
「おじさんこわい・・・」
「でも新鮮なうちがいいかもなー?」
「ゆーっ?!」
「ヘヘヘ。ま、ふざけたことはすんじゃねーぞ」
結局思いつかなかったので、当面箸置きにすることにした。これくらいしか思いつかん。
ゆっくりは自分のエサと俺のメシを比較してスネたり、
いちいち箸を乗っけられるのに文句を言っていたが・・・ほとんどタダみたいなもんだろ?我慢しろって。
1週間後。
当初は超ミニサイズだったゆっくりも成長し、野球ボールよりちょっと大きい程度になった。
やっぱりなーとは思ったんだが、幼体だったのか。
しょっちゅう食うぞ食うぞと軽めに脅したせいか、
ゆっくりがとんでもない悪戯をすることはなかったが、騒がしさと食費についてはグレードアップだ。
何で気付かなかったかなー、めんどくさー。
と思いつつ、ゆっくりを壁に投げつける。ぽいん。
跳ね返って戻ってくるゆっくり。また投げる。跳ね返る。戻る。
意外と丈夫で弾力性があるのね、ゆっくりって。
時々「ゆ゛っ」とちょっと痛そうな声を漏らしてるけど、まぁいいや。
「ゆっくり、痛い?」
「いたいよ!ゆっくりやめてよね!!」
「ゆっくりやめるかー。じゃああと10回かけてゆっくりやめるかー」
「おじさんのばかー!」
ぽいんぽいんぽいん。
ラスト1回を投げた後、跳ね返ったゆっくりが、新体操の選手のごとく直立で着地を決めた。
「ゆ!」フフン、と得意げな顔のゆっくり。褒めて欲しいのか?・・・ちょっと生意気。
軽く上から押しつけてやる。
「ゆっ!!ゆっくりほめてよね!」
「やーなこった。てか押しつぶすと面白い顔だなお前」
「ゆー!!」
面白ついでに横につぶれたゆっくりをキーボードのリストレスト代わりにした。
なかなか面白い感触だけど、いまいちかなー。
「ゆっくりー、シリコンっぽい感触にならね?」
「わかんない!!ゆっくりうでをどけてね!」
相変わらず役立たずだなー。
数週間後。
ゆっくりはサッカーボールサイズになった。
しつけというか脅しのおかげで暴れまわることはないのでいいのだが、
野生のこんなのが跳ね回ったらさぞかし迷惑なことだろう。
そう思うとこいつは、割とできたゆっくりなのかね?
考えながらゆっくりリフティングに勤しむ。
ボンボン壁に投げつけていたせいで衝撃耐性をもったらしく、
蹴られているのに「ゆ♪ゆ♪」と楽しそうな声を上げてリズム取りに貢献すらしている。
・・・とはいえ、目や口に足がジャストミートして大いに痛がっていたが、
かまわず蹴られているうちに、体に回転をかけて避けることを覚えたらしい。こういうことだけは器用なんだなー。
とか余計なことを考えていると、ボール・・・もといゆっくりが思わぬ方向に出た。
やばい、ベランダの外まで行っちまう!
ゆっくりが呆然とした顔から悲鳴を上げそうになるその前、思うより先に腕がゆっくりに伸びていた。
あっぶね。ナイスキャッチ。
「・・・ふー」
大家の仕事を増やすところだった。
「お、おじさんありがとう!ゆっくりたすけてくれたね!」
・・・予想外。ゆっくりからこんなセリフは出るとは。てか、ゆっくり助けてたら間にあわなかったっての。
「うっせー。大家のおっさんに迷惑かけるとうっせーんだよ」
「ゆっくりありがとう!!」
はいはい。よくわかんねーや。
器用になったゆっくりは多少弾力がかえられるようになったので、
これまた横に潰して枕やザブトン代わりにした。
ケツに敷かれているのは
「おじさんおもい!ゆっくりおりてね!!」と頻繁に文句を言うくらいなので結構辛いようだが、
枕にする分にはあまり文句をいわない。
「ゅー、ゅー」と寝息が横に聞こえるのが気になって枕としては使いにくいのだが、
ゆっくりはむしろ枕になりたいんだと。ゆっくりの好みはよくわからん。
数年後。
ころころまるまると成長したゆっくりは俺の腰の辺りまでの高さになった。
もうさすがに投げるとか蹴るとかは出来ない。
サンドバッグにしてもいいが・・・大分酷使して鍛えたもんだから、ふてぶてしさだけが増しそうだ。
そんなことでもてあまして構わずにいると、ゆっくりがへんなことを言った。
「おじさん、れいむであそばないの?」
・・・なんか卑猥なフレーズな気もするが、そういう意味はないだろう。
「だってもうお前でかいし、持て余すって言うかなー」
するとゆっくりは真剣な顔で言った。
「れいむやくにたたない?もういらないの?!」
・・・んー。まぁ、いらないといえばいらないけど。
「まぁ、いらないといえばいらないけど・・・」
ゆっくりの顔が曇る。
「かといって、外に放してもアレだし、もう食う食わないのサイズでもないし。いいよ、別に居ても」
「ほんと!?れいむいていい?」
「はいはい」
「ほんとにほんと!」
「ほんとほんと うっさいと燃やすぞ」
「うるさくしないよ!ゆっくりしようね!いっしょにゆっくりしようね!!」
「うるさい」
・・・やれやれ。
結構いいサイズになってきたので、座椅子がわりにしてみた。
文句も言わなくなる従順ぶりだが、放屁すると白眼を向いたすごい顔になった。やっぱこれはキツイか。
しばらくして。
ゆっくりは寿命が迫っているようだった。…まぁ少々無理をさせたフシも無きにしも非ずなんだけど。
死期を悟ったらしいゆっくりは、デカイ図体に似合うように、
慌てるでもなく静か且つおだやかに最後の時を過ごしていた。
さすがにもうイス代わりとかするのも忍びないので部屋の隅っこに鎮座させていると、ゆっくりが声をかけてきた。
「ねえおじさん」
「なんだよ」
「れいむはもうすぐゆっくりするよ」
「今までもゆっくりしてんだろお前は」
「もうすぐずっとゆっくりするよ」
・・・死ぬってことか。そうか。
「そっか。ゆっくりするか」
「おじさん、いやじゃない?」
「別に」
「・・・れいむはちょっとだけいやよ」
「そうかい。死ぬのは怖いか」
「しぬのもちょっとこわいけど、おじさんといっしょじゃないのがこわいよ」
「・・・そうかね。あんだけ苛めまわしといてこんなこというとは真性のマゾだな」
「まぞってよくわからないけど、けっこうおじさんとくらすのはゆっくりできたよ」
「ふーん」
餡子ペースト脳の考えてることはよく分からんが、悪い気はしねーかな。
「おじさん」
「なんだよ」
「おじさんありがとう」
・・・
「・・・どういたしまして」
「おじさんひとつおねがいをきいてね」
「なんだよ」
「れいむがゆっくりしたら、れいむをちょっとたべてね」
「・・・はぁ?」
「れいむはおまんじゅうだから、たべられるんだよ」
「いや知ってるけど、なぁ。なんかなぁ」
「れいむをたべたら、れいむはおじさんのおなかにはいるよ。そしたらまたいっしょになるよ」
「・・・うーん」
なんかゆっくりに乗っ取られそうなイメージも浮かんだけど、まぁそういう話は聞かないし。
「分かった、でも一口だけな。お前みたいなデカいの全部食ってたら、1年はかかるぜ」
「ふふふ。そうだねおじさん。ありがとう」
そっかぁ、もうお別れか。・・・一応言っとくか。
「おいゆっくり」
「なあにおじさん」
「・・・ありがとな」
「・・・うん」
ゆっくりは今までで一番穏やか且つムカついて最高な笑顔を見せた。
ほどなくして、ゆっくりはずっとゆっくりするようになった。
かなり微妙な心持ではあるが、約束どおりゆっくりをひとかけら頂くことにした。
・・・んー。あいつには悪いが、あんまりおいしくはないな。
ゆっくりの餡子は恐怖や絶望でより甘くなるそうだが、
終始ゆっくりしまくったゆっくりの餡子は、まぁだらしのない甘さ。
経年劣化+しょっちゅういじくられたせいで表面も微妙にぱさぱさ。
まったく、誰がこんな風にしたんだ?
いざとなったらおやつにしちゃえばいいとは言ったもんだが、いろんな意味で食えたもんじゃねぇや。
最後まで役にたたないというかなんというか。それもあいつらしいかねぇ。
全部食うわけにもいかないので、無粋だが残りの死骸は加工場に引き渡して、
ゆっくりは部屋からいなくなった。やかましい奴が居なくなって、静かな生活が戻ったわけだ。
・・・ちょっと部屋が広くなったな。最終的にはちょっとした家具並みの図体だったもんなー。
ミニサイズだから大丈夫とか、どこのアホがいったんだか。
「なぁゆっくり?」
返事がない。
「・・・あ、いないんだっけ。・・・そっか」
そりゃそうだな。アホか俺は。まぁアホだな。
ゆっくりに見られたら、あの腑抜けた面でうるさく笑われそうだ。
ゆっくりなんか、役立たずなくせにうるさいことだけは一級品だもんな。
せいぜいあの世で待ってろゆっくり。
向こうでたっぷりいじめてやるから、今のうちに体鍛えとけよ。
おわり
最終更新:2008年09月14日 05:05