某ゲームの雰囲気を意識しています。
下記
URLにある有志による翻訳データを引用及び参考にさせてもらっています。
ttp://jpmod.oblivion.z49.org/
都会の近くにある
ゆっくりの家族が暮らしていた。
ありすとまりさの夫婦で子供は子ありすと子まりさが二匹ずつ、計四匹いた。すなわち六匹家族だった。
「「ゆっくりしていってね!」」
「「「「ゆっきゅりしていっちぇね!」」」」
子供たちはようやく言葉を覚え、覚えたての“ゆっくりしていってね”を得意げに喋った。
巣の位置は小高い丘にあり、盆地にある都会を見下ろすことができた。
城壁に囲まれた都会はいくつもの尖塔が立ち並び、重厚かつ優美な姿を誇っている。
多くの人々が街路を行き交い、その喧騒が丘の上まで聞こえてきそうなほど栄えていた。
都会派を自認するありすはかつて何度かそこに訪れたことがあり、ことあるごとにその威容、その賑わいを家族たちに語って聞かせた。
いつしか、子供たちは都会に強く憧れるようになっていた。
「ねえまりさ」
「なんだぜありす?」
夜、巣の中。子供たちは寝かしつけた後、ありすは唐突に切り出した。
「そろそろ子供たちに都会を見せてやりたいと思うの」
「だけど都会は危険じゃないのか? 人間がたくさんいるっていうぜ。踏み潰されたりするんじゃないのか?」
人間にはゆっくり嫌いが多い。嫌いでなくても害獣とみなされがちだ。
「大丈夫よ。都会の洗練された人間たちはゆっくりだからといって無闇に虐待したりしないものよ」
「だけど……」
熱心なありすに対してまりさは今ひとつ乗り気ではない。
「粗相をしない限りは何もされないわ。子供たちには今まで都会派として相応しい礼儀作法を教えてきたでしょ?」
たしかに、野良のゆっくりとしては厳しすぎるほどに、ありすはしつけを重視していた。
まりさはそこまでする必要ないんじゃないかと思っていたが、やはり都会を意識してのことだったのか。
「子供たちを都会派として育てるためには、やっぱり本物を間近で見せたいのよ」
「うーん……」
結局、まりさはありすの熱心な説得に折れる形となった。自身、都会を見てみたかったというのもあるかもしれない。
そしてその翌日。
「「ゆっくりしていってね!」」
「「「「ゆっきゅりしていっちぇね!」」」」
「今日は都会でゆっくりするよ!」
「「「「わーい!ちょかい!ちょかい!ちょかいでゆっきゅり!」」」」
「朝ごはん食べたら出発するんだぜ」
一家は蓄えてある食糧で朝餉を慌しくすませると、すぐに丘を下り始めた。
ゆっくりの足でも昼ごろには着くだろう。都会がもっともにぎやかな時間だ。
「「「「しゅごい!しゅごい!ちょかい!ちょかい!ちきゃくでみりゅとしゅごくおおきい!」」」」
一家は城門の前にたどり着いていた。すでに大勢の人間たちでごった返している。
「踏み潰されないようにゆっくり気をつけてね!はぐれないでゆっくりついてきてね!」
一家はありすを先頭に固まって、なるべく道の端っこを歩いて城門まで進んでいった。
城門には完全武装したいかめしい衛兵たちが脇を固めており、しばしば城門をくぐる者を誰何していたが、ゆっくりたちを咎めることはなかった。他の人間たちも自分たちの仕事がいそがしいのか、ゆっくりに注意を向けるものはいない。
都会の中は門前とは比べ物にならないほどの賑わいを見せていた。今日は市の日だったのかもしれない。
子ゆっくりたちは今まで見たことのない量の人間たちを見て目を回さんばかりだ。
ゆっくりたちは人間といってもいろいろな種類がいることに気がついた。彼女らは普段農民しか見たことがなかった。
服の色も形も色とりどりなら、髪の色形、肌の色、服装、背丈、言葉の訛り、数え切れないほどのバリエーションがあり、それぞれが別の種族のようにも思える。中には妖怪すら混じっているのかもしれない。
その中で街の巡回兵だけは誰もが同じように見えた。
また他のゆっくりの姿も見かけられた。ゆっくり種には似つかわないせわしなさで街路を行き来している。彼女らは人間にメッセンジャーなどの仕事を仰せつかっているのだ。
「「「「ゆっきゅりしていっちぇね!」」」」子供たちは他のゆっくりと友達になろうと思い、ゆっくりを呼びかける。が、都会のゆっくりたちは一瞥しただけですぐ飛び跳ねていってしまった。
「あの人たちは人間さんのために働いているのよ。邪魔しちゃだめよ」
ありすは予期しなかった冷たい応対に少しだけ意気をそがれた子供たちをたしなめる。
子供たちはすぐに気を取り直し、酔ったようにはしゃぎはじめた。
「うはあ……なんて人の数だぜ……なんだか疲れてきたぜ。どっかで一休みしないか?」
うんざりとした表情のまりさ。彼女は根っからの田舎派だっためこの光景にはどうもなじめない。子供たちほどの柔軟さももう持っていない。
「そうね。それならそこら辺のお店にでも入りましょうか」
「大丈夫なのか? 追い出されるんじゃないのか?」
「大丈夫よ。都会の人たちは寛容なのよ。ごはんがもらえるかもしれないわ。うーん、あそこにしましょう」
そういって、ありすは宿屋兼酒場兼食料品店とおぼしき店へ、一家をいざなった。
店の中は外よりは静かであった。数人の客が、カウンターやテーブルで飲食したり声を抑えて噂話を交換しあっている。
「「「「ゆっきゅりしていっちぇね!」」」」
「お、おい、迷惑になるだろ」
常に天真爛漫な子供たちに、まだ人間を信じきれないまりさは戦々恐々としている。
「おや、かわいいお客さんだねえ。ご注文はなんだい?」
店の主人である初老の男がゆっくりたちに声をかけた。
「お邪魔じゃないでしょうか?」
確認するありす。
「かまわないさ。うちはお客も少ないしね。今なにか食べ物をあげよう」
店主は皿の上に細切れにしたパンとチーズを盛り付けると、床に置いた。
「「「「わーい! むーしゃーむーしゃしあわせー」」」」
子供たちは早くも皿に群がって食べ始めた。
「こら、まずはおじさんにありがとうっていって、それからいただきますでしょ!」
「「「「おじしゃんありぎゃちょう!いちゃじゃきまーちゅ!」」」」
ありすのこれまでのしつけは無駄ではなかったようだ。子供たちは皿から顔を上げて感謝の言葉を唱和した。
ありすとまりさも店主の好意に甘えて皿から食べ始めた。
早くも食べ終わった子供のうちの一人──子ありすが椅子、テーブルを経由してカウンターへ飛び乗った。
「ごちしょうさしゃまでした!」
店主に向かって、ぺこりと体を傾ける。頭を下げているつもりなのだろう。
「おお偉いねぇ。よくできた子だ。今時人間の子供でもなかなかこうはいかんよ」
子供はふと脇を見ると、そこには酒瓶があった。安エール酒のボトルだ。その表面には子ありすの顔が歪んで反射していた。
子ありすは未知の物体に興味を持って無邪気に近づいてみた。が、勢い余って瓶にぶつかってしまった!
「あっ!」
瓶はぐらぐらっと揺れ……しかし体勢を取り戻した。親まりさはほっと安堵した。
しかし、もう遅かった。
「スタァーーーーーープ!!」
その大音声は戸口から聞こえてきた。声の主は衛兵だった。いつの間に入ってきたのか、ありすにもまりさにもわからなかった。
「そこを動くな、犯罪者のカス野郎め!誰一人として私の目の前で法は犯せんぞ!お前の盗んだ品は没収する。さぁ罰金を払うか牢獄へ来い!」
「ゆっ!ゆっ!私たちは何もしていません!何も盗んでいませんし、何も壊していません!この食べ物はもらったものです!」
ありすは弁明し、救いを求めるように店主の方を見た。店主はありすの言葉を否定しなかったが、衛兵を恐れているのかそれ以上はなにもしなかった。
ありすの言うことはたしかに正しい。だが都会の法は苛烈だった。この都では他人のものを“少し動かしただけ”でも窃盗罪とみなされるのだ。ありすには知るよしもないが、怪盗インディゴフォックスの跳梁に対抗すべく最近になって法が強化されたのだ。
「罰金を払う金を持っていないようだな? ちょっと署まで来い。そこで盗品がないかどうか検査してやる。その後留置所へ連行してやろう! ……それとも抵抗してみるか?」
衛兵はありすの嘆願をまったく聞き入れず、留置場行きという恐ろしい宣告をつきつけた。抵抗などできるはずもない。相手は大きな人間でしかも完全武装している。逃げるのも無理だろう。唯一の出口は衛兵にふさがれている。
こうして、都会派にあこがれたゆっくり一家は衛兵に連行されていった。
その後の運命は悲惨の一言……。
「ゆゆゆっ!まりしゃのおぼうしかえしてぇ!!」
「ありしゅのヘアバンドがぁ~!!!」
「これらは盗品の疑いがあるゆえ没収する! 中に何か暗号文でも縫いこまれているとも限らんしな。刑期を終えた後に返してやる」
ゆっくり一家はゆっくりのアイデンティティともいえる飾を奪われ、変わりにボロ布を帽子代わりにかぶせられて牢獄に放り込まれた。
「ごん゛な゛どごろ゛じゃ゛ゆ゛っ゛ぐり゛でき゛な゛い゛よ゛ぉ゛~~~」
牢獄は狭くかび臭く、気味の悪い虫や鼠が出没した。与えられる食事は量は少なく味は最悪だった。
それだけでなく、手荒く扱われた精神的ショックのためか、この牢獄自体になにか仕掛けがあるのか、ゆっくりたちはここにいるだけで知識や技能が失われていくことに気がついた。
まりさとありすの食糧集め技能が低下した。巣作り技能が低下した。育児技能が低下した。ゆっくり技能が低下した。
子供たちはさらに深刻な影響をこうむっていた。教え込んだ礼儀作法はもとよりせっかく話せるようになった言葉をどんどん忘れていったのだ。子供のうち三匹はゆっきゅゆっきゅとしか言えなくなり、残りの一匹は何も喋れずヘラヘラ笑い続けていた。その一匹とは瓶を動かしてしまったありすだった。このありすはまもなく衰弱死した。
やがて刑期を終えて、一家は釈放された。
飾は返ってこなかった。スタッフがおいしくもとい盗品とみなされたからだった。
その後、一家が都会へ近づくことはなかった。
飾を奪われたため他の仲間に近づくこともできなかった。後の一生を孤独に暮らしていくなかった。
まりさはありすと別れることはなかったが、愚痴っぽくなりことあるごとにこう言ったという。
「ゆっくりしなかった結果がこれだよ!」
最終更新:2008年11月07日 22:09