前
振り向いたまりさの先には、むらさきの髪のゆっくりが一匹。親友のゆっくりぱちゅりーだった。まりさの生活圏から離れたところまでまりさが出張っているのを不思議に思っているのか、わずかに体を傾げている。
その姿を見たまりさは、追い詰められた悲壮な表情を幾分緩めた。
ぱちゅりーは幼い頃からずっといっしょの親友だった。一人身のぱちゅりーは不妊のまりさが気兼ねなく付き合える相手ということもあり、最近までよく顔を会わせていた。れいむのにんっしんっ後は顔を会わす暇もなかったが。
久しぶりのぱちゅりーの姿は、まりさににんっしんっ前の憂鬱だが穏やかな日々を思い起こさせる。ほうっと思わず口をつくため息。
こんなことをしている場合じゃない。ゆっくりせずに、早く赤ちゃんのために蜂の巣に挑もう。そんな焦燥がまりさの心を鈍く駆り立てるが、今感じてしまったゆっくりしたいという衝動は何よりも強くまりさを動かしていた。
せめて、この苦しさを誰かに愚痴りたい、わかってほしい。
ぱちゅりーはずっと心配げな眼差しを向けてくれている。
まりさは、その真摯な親友の眼差しに向き直った。
「うん、じつはね……」
流されるように、まりさは自分たちの事情を包み隠さず打ち明けていた。
「むっきゅう! こどもができるのはゆっくりできるけど、まりさはあまりゆっくりできてないわね」
一通り聞いたぱちゅりーの言うとおりだった。
泥まみれで、頬が痩せこけ、眼も浅黒く落ち込んだまりさの姿は、明らかに疲労過多。
「ゆうう、ちょっとたいへんだけど大丈夫だよ」
それでも、まりさは笑ってみせる。
ただ、その覇気のない虚ろな笑顔には何の説得力もなかった。
「それに、まりさの赤ちゃんがゆっくりするためだから、まりさは平気だよ」
「まりさ……」
健気な言葉に、ぱちゅりーの言葉が詰まった。
長い付き合いだけに、まりさがどれだけ子供を、家族を欲していたかわかるぱちゅりー。
それだけに安易な慰めの言葉をかけられない。
「むきゅん……まりさ、おうちできのこ、いっしょに食べていかない?」
熟慮を重ねた末のぱちゅりーの言葉は、せめて少しでもまりさを休ませたいという願いのこめられたものだった。
「きのこ……!」
大好物のきのこを話題に出されて、まりさの口からだらだらと留処ないヨダレがたれはじめる。
が、ぶるんぶるんと首を振った。
「ねえ、ぱちゅりー。そのきのこ、持ち帰ってもいいかな?」
「むきゅう、いいわよ。まりさがそう望むなら……いいわよ」
健気なまりさの言葉を、ぱちゅりーは了解した。
言葉の最後を、ため息に解かしながら。
巣穴に姿を見せるなり、まりさを出迎えてたのはれいむの激怒だった。
「遅いよ! まりさは、れいむとまりさの子供をお腹すかせてへいきなゆっくりなの!?」
「ご、ごめんねれいむ」
巨体に見合った怒声に、まりさは慌てて今日の収穫を吐き出す。
そのまりさの瞼は、片方が腫れぼったく膨らんでいた。決死の蜂の巣狩りの負傷、蜂の一刺し。
はやくれいむにぺーろぺーろして労わってもらいたい。そんな気持ちで急いだ道中は、まったくの徒労となっていた。
「むーしゃむーしゃ、むーしゃむーしゃ、むーしゃむーしゃ……」
しばらく、咀嚼の音とまりさの荒い呼吸音だけが巣穴に響き渡る。
「ゆうーゆうー」
ひどくお腹がすいていたまりさだが、今は空腹よりも眠気に支配される。
うとうと急速に閉じていく視界。
「あかちゃん、ゆーっくり、うまれてねー♪ ゆっくり~♪」
れいむの幸せそうな歌声が、まりさをも心地よい眠りに導いてくれる。
すごく大変だけど、これはこれでしあわせなのかなとまりさが思い始めた頃、れいむの歌が途切れた。
「今日はまりさの大好物の『はちのこ』も食べられてよかったね、あかちゃん♪」
違うよ、まりさの大好物はきのこだよ?
そんな抗議の声を上げる余力もなく、まりさは深い眠りの底へと落ちていく。
そらからまた一週間が過ぎた。
木々の葉が落ち始め、冬の気配が近づいてもまりさの生活は変わらなかった。
早朝にたたき起こされて餌集めに行き、
冬篭りを始めた他所のゆっくりの生活圏に侵入しては叩き出される日々。
ふらふらの体では他のゆっくりに抗うことはできず、子ゆっくり程度からもたやすく跳ね飛ばされては、「まりざのあがぢゃんのだめに、ごはんがひづようなんでずうう」と泣いてすがるまりさ。
何とか、わずかなドングリや松ぼっくりを少しずつ恵んでもらうことはできたが、たくさんの顔見知りの迷惑そうな顔が網膜に焼きついて離れない。
中には同情してくれるゆっくりもいたが、親友のぱちゅりー以外は二度、三度と無心を重ねると、「こんなまりさの子供にうまれるなんて可哀想だね!」と心に言葉を突き立てるようになってくる。
だが、言い返す言葉もないまりさ。
にんっしんっ前以上の惨めさに涙をこぼしながらせっせとれいむの元へ餌を運んでは、その少なさにつがいとしての無能さを罵られ、追い出される毎日だった。
そうして、ついに二日前からは夜中の狩りをするように言い渡されていた。
確かに深夜に活動しているゆっくりはほとんどいない。しかし、真夜中はほかの冬眠前の野生生物たちの時間。月明かりを受けて爛々と輝く狐の目を恐れながら、まりさはそろーりそろーりと半泣きで闇の中をうろつく。
常に付きまとう死の気配。
一晩中続いた緊張に、まりさの体と心は一日で限界を迎えていた。
「もう、無理でずううっ! はやぐ、こどもうんでぐだざいいいっ!」
ついには、れいむに出産を早めるようお願いまでした。
が、れいむはまりさの十倍はありそうな体積を震わせて目を見開く。
「ゆっくりしているあかちゃんに、何てひどいごどいうのおおおおっ!?」
暴風のような声に、にんっしんっ前から一回り小さくなったまりさの体はまるで紙のよう。
ふわふわとした足取りでふらつきながら、それでもこの三週間溜め込んだ言葉を吐き出さずにはいられなかった。
「だっで、ゆっぐりしすぎだよおおお! もう冬になるんだよおおおお! なのに、一日分のごはんもないんだよおおおっ!」
「だったら、ごはんをきちんと集めればいいでしょおおおおっ! なんでごはんもあづめられないのおおっ!? まりざは親じっがぐだよおおっ!!!」
れいむは、れいむの中でゆっくりと育つ宝物を前に、つまらないことでゆっくりさせてくれないまりさの言葉が悲しかった。
せっかく、れいむの素晴らしい子供の親にしてあげようと思ったのに、裏切られた気分でぱっちりとしたお目めからぽろぽろと涙をこぼす。
まりさはひどく不本意で、みじめだった。
これだけ命を何度も賭けるほどに尽くしているのに、返ってきた評価は親失格。三週間の誠意を踏みにじまれた思いが、痩せこけた頬に一筋の涙を形づくっていた。
「お願いだからっ、ゆっぐりざせてよおおおおっ!」
期せずして、二匹同時に同じ言葉を絶叫する夫妻。
それに続く陰鬱とした嗚咽は、まりさが体を引きずるように今日三度目の狩りに出かけるまで、止むことがなかった。
こうなってしまえば、まりさが唯一頼れる相手は親友のぱちゅりーしかいなかった。
だが、ぱちゅりーのおうちにつくなり、常になく血相を変えて近づいてきたぱちゅりーの姿に、まりさの体がこわばる。
「むきゅう! まりさ、聞いて!」
おそらく、次の言葉はいい加減にしてという拒絶の言葉だろう。諦めにため息をもらして、まりさはそっと目を伏せた。
ついに最後の友達もなくして、これからこどもを一向に産もうとはしてくれないれいむと食料も無いままに冬の訪れを迎える。
その想像する未来の悲惨さに、あと少しで手の届くあかちゃんの儚さに、愕然とするまりさだった。
が、ぱちゅりーの言葉は予想外のもの。
「あのね、まりさ! にんっしんっしたら、おそくてもおひさまが十回のぼるまでにはこどもが産まれるって、お母さんから聞いたわ!」
「……ゆ?」
それは、まりさのあどけないほどに困惑した声。
「十回までに?」
おうむ返しに繰り返し、最近のつらい毎日を思い返すまりさ。
三回ぐらいまで、れいむのお腹に頬ずりしては窘められるしあわせな日々だった。
五回ぐらいから、れいむのご飯の食べる量に圧倒されてきた。
十回ぐらいまでは、そろそろ生まれているかなと、つらいなりにも帰るのが楽しかった。
十四回目ぐらいからはもう、これはいつまでの続くのと泣くだけの毎日。
十五回目から先は、記憶が霞がかって、ただ辛く情けない感情の残滓がこびりつくだけ。
それならば、もう……
「もう、とっくにすぎているよ?」
その疑問がどういうことなのか、まりさはすぐには思い至らない。
ただ、頭の回転のいいぱちゅりーが速やかに正解に結び付けていた。
「むきゅん!? それじゃあ、れいむはにんっしんっしてないわ!」
「……ゆ?」
呟いたまりさの動きが止まる。
その瞳に次々と浮かび上がっては弾ける疑問。
れいむにんしんしてないの?
にんしんしてないから、いつまでたっても産まれないの?
それじゃあ、まりさのあかちゃんは、どこ?
「ゆゆゆゆゆゆゆうっ!?」
ガクガクと、まるで今際のきわのように震え始めるまりさ。
これまでの積み重ねてきた赤ちゃんへの期待が崩れ去る失望感、その足元が砕け散るような感覚に、身を起こしていられない。
そっと寄り添うぱちゅりーに体を預けて、まりさはかっと目を見開いた。
「それじゃあ、れいむのお腹にあるのはなんなのおおおっ!?」
「むきゅーん……? わからないわ。一度、確認しにいきましょう」
「れいむうう、れいむううううううっ!」
これまでの世界がひっくり返って、つがいの名を呼びながら震えるまりさ。
その体に寄り添うようにぱちゅりーが身をよせる。
二匹は、ゆっくりとした足取りでれいむの待つ巣穴へと向かった。
まりさは巣穴の異常に気がついて、中の様子を伺っていた。
後ろからのぱちゅりーの視線にわずかに体を横に振る。
二匹の注意を呼んだのは、巣穴の中からもれてくる、地鳴りのような息。おそらくれいむのものだろうが、そのただならぬ気配にまりさたちは息を潜めていた。
いつもの「ゆっくりかえってきたよ!」の呼びかけもせず、すりすりと這うように巣穴の中へ。
れいむの呼吸音は、まりさが巣穴の奥に近づくにつれ、声として明瞭に響いてきた。
「まあっ、まあっ、まぁりぃさあああっ!」
その熱っぽいその声にまりさの体がびくんと反応する。
ぱちゅりーと戻ってきたのがばれちゃったんだと、ぎゅっと目をつぶるまりさ。
だが、いつまで待っても詰問の怒声が聞こえてこない。
れいむの巨体に折檻される恐怖に震えていたまりさも、とうとう痺れをきらしてそっと覗き込み、同時に言葉を失った。
れいむが身震いしていた。
震える度、ぶるるんと皮がたるみ、しわが波のように頬を流れる。同時に、ゆふふふんっと吐き出される喘ぎ声。
その身を寄せるのは地面に置かれた黒い布切れ。
膨れきった天井にも届かん巨体で、地面の一欠けらの布切れに身をよりよせるれいむは、ひどくこっけいな有様だった。
が、まりさにはわかってしまった。布切れの正体が、自分と同じまりさ種の帽子のなれの果てであることが。れいむが見たことも無い愛欲の表情で身をよせる帽子が、自分のものでないことが。
まりさが呆然としていると、好奇心を刺激されたぱちゅりーもまりさの後に続き、眉をひそめて口を三角に窄めた。
「まりさあああ、あかちゃああああんっ! おながすかせてごめんねえええ! あんなだめなまりさを選んじゃって、ごべんねえええ! あんなぐずで、ごめんねえええええええ!!!」
高まる吐息ともに噴出しだした悪意のしぶき。
そのしぶきを間近に浴びて、まりさの顔面は蒼白だった。
最初はお腹に赤ちゃんがいるか問い詰めて、勘違いだったらそれで手仕舞い。元に戻ろうと考えていた。
だが、目の前で別のまりさに募る想いを吐き出すれいむに、どんな仲直りの言葉をかければいいんだろう。
もう、ここから逃げ出していつものように餌を集めるだけの、何も考える暇のない生活に戻ろうか。
まりさが考えることをやめよとしたそのときだった。
「れいむ、これはどういうことかしら?」
まりさの自失状態を打ち破る、冷ややかなぱちゅりーの声。
我を取り戻したまりさは、目の前でれいむの巨体と対峙するぱちゅりーの姿を見つけた。
れいむは動きをぴたりと止めて、次にみるみる赤くなる顔をぱちゅりーに向ける。
「ゆっ、勝手にはいってこないでね!」
「ま、待ってね、れいむ!」
ぶわっと、巨体をさらに膨らませて巨体を広げるれいむに、まりさは親友の命の危機を感じて慌てて転がりでる。
「まりさまで!? なにじでんのっ! ごはんはどうしたのおおおっ!」
目を血走るほどに開いたれいむの顔は、まりさの心の芯をぞわりと冷やす。
が、同時にまりさの心に芽生える思いがあった。
このぶくぶくしたバケモノは、なに?
かつては、肌を合わせて何度も愛し合った相手。それなのに、お腹の中のあかちゃんがいないかと思うと、まりさの心はそれをバケモノとしか受け止められなかった。
出会った頃から、不妊がどれだけ続いてきても変わらなかった愛情が、風船から抜ける空気のように流れ出して止まらない。
だから、まりさは逆上することなく、れいむの擦り寄る帽子を見つめることができた。
「れいむ、その黒いのはまりさの帽子じゃないよね? なんで、他のまりさの帽子に、そんなことしているの?」
「ゆぐっ! それは……っ」
説明しようとして、何一つ本当のことをいえないことに気がついたれいむの顔がますます紅潮していく。
まりさは、それ十分だった。
れいむが寝言で時々もらした「素敵なまりさ」への情熱的な愛の言葉。
それは、自分に向けられていて、だから自分はがんばらないとと思った。寝言の内容に自分の知らないことが含まれている場合もあったが、なにぶん夢でのこと。
割り切って気にも留めてなかった違和感。
それが今、別のまりさという明確な別の存在があらわれると、全ての符号が一致した。
あの夜、寝る前間際にいったまりさの「大好物」についても。
「ねえ、れいむ。まりさの大好物しっている?」
「ゆっ、知っているよ! 『きのこ』だよね!?」
自信満々に正解を言うれいむ。
それは、まりさの確信をこの上なく後押ししてしまう。
寂しげなまりさの視線と、刺すようなぱちゅりーの視線に射すくめられて、れいむは不意ににこにこと取り繕いの笑顔を浮かべる。
「ゆうう、これはまりさの帽子だとおもってたら、ちがうんだね!」
大きな顔全面に張り付いた笑顔を、まりさは心底醜いと思った。
「むきゅう……それなら、ぱちゅりーが捨ててきてあげるわね」
「だっ、だめえええええ!?」
近寄りかけたぱちゅりーを、れいむは膨らんで威嚇する。
威嚇してから、れいむはしまったと臍を噛むが、もうとっくに遅い。
ぱちゅりーは、むきゅと鼻で笑いながら言葉を続ける。
「怒らないでね、れいむ。そんな汚いぼろぞうきんがおうちあるといやでしょ?」
「ゆっ、ゆがああああ!! ぼろぞうきんって、ぼろうぞうきんっていうなああああ!!!」
「むきゅう? どうみても、こぎたないわよ。きっとその持ち主も、こぎたないまりさだったのね」
「ちがああああう!! れいむの、れいむの大好きなまりさはすてきなまりさなのおおお!!! そこのまりさなんがとはぢがう、れいむとあかちゃんのすできなまりさなのおおおおおおお!!!」
破滅が、れいむの口から放たれていた。
れいむといっしょに暮らす愛情が掻き消えた後、まりさの心にふつふつと吹き上がる感情は、もはや怒りだった。
「おかしいね、れいむ。あかちゃんなんていないくせに」
こみあげる嫌悪のまま、まりさはこの破滅を推し進める。
「ゆう? なにいってるの、まりさ?」
れいむの表情が一変する。取り乱した表情から、心底訝しげな表情に。
子供を宿していることを微塵も疑っていないがゆえの困惑。
だが、ぱちゅりーの知識はすでに真実に行き着いていた。
あとはそれをれいむにわかりやすく伝えるだけ。
「むきゅう……れいむ、落ち着いてゆっくり聞いてね。ここまでくる途中、まりさか話を聞いたわ。そして、わかったの」
「ゆう?」
「お腹にあかちゃんができると、おなかだけがぷっくりと膨れるの。れいむみたく、全身がぶよぶよにならないのよ」
「れいむのあかちゃんは、きっととくべつなんだね!」
「ううん、れいむにはあかちゃんなんていないのよ。あかちゃんがいるとしら、もう産まれてないといけないわ」
「うそつかないでね! れいむのあかちゃんはすごくゆっくりしているだけだよ!」
れいむは不安の欠片もなく笑っていた。
次のぱちゅりーの言葉を聞くまでは。
「そしてね、おかあさんになるとお腹にいる子供の数までわかるの。はら、話しかけたらこたえてくれるでしょう。ぴくぴくと動いて、おかあさんここにいるよと教えてくれるでしょう?」
れいむの笑顔が、固まっていた。
この一ヶ月近く、何度もお腹に呼びかけた。
だが、応えてくれることも、命の鼓動すら感じたことはない。いつもおねむだと思っていたが、れいむは母れいむからかつて聞いた
「れいむはおなかの中でも元気な、ゆっくりした子だったよ」という自分のことを思い出す。
どうして、この子は、れいむにまったく応えてくれないの?
「でも、でも、れいむのおなか、大きくなっているよ! あかちゃんがいるからだよね!?」
巨体にすがりつくような目をされたぱちゅりーは、三角の窄めた口からため息を吐き出していた。
「あのね、れいむ。単純に、れいむはおでぶになったのよ。たくさんたべて、たくさんふとったの。おでぶちゃんになったのよ」
「ちっ、ちがうのおおおおおおおおおおおお!!! れいむ、おでぶじゃないのおおおおおおお!!!」
れいむの顔が、あからさまなぱちゅりーの挑発の言葉に般若の形相になる。
まりさはあわててぱちゅりーを引き寄せようとするが、その必要もなかった。
れいむは真っ赤な顔で、ふんっふんっと鼻息を吐き出しながら、そこから一歩も動けずにいた。
目の前に冷笑間際の笑みを浮かべるぱちゅりーに挑みかかろうとするが、何もできていない。
「どぼじで、からだがうごかないのおおおおおお!?」
「ふとりすぎて、自分の体も動かせないのね。おお、ぶざまぶざま」
ゆっくりは皮の伸縮で跳躍し、移動する性質を持つが、あまりに短期間に膨らみすぎると限界まで皮が伸びきり、体を動かす皮の張りを失ってしまう。
ゆっくりと、長い年月をかけて巨体化すれば体を動かせるだけの強靭な皮を持つこともできるが、わずか一ヶ月で膨らみきったれいむは転がることすらできず、置物同然。
「ゆぎぎぎぎっ!」
身動きできないまま、この小憎たらしいぱちゅりーに言いように言われることに、れいむは我慢できない。
「まりざああ、お願いいい! このぱちゅりーをやっづけてええええ!!!」
かつて、なんでも聞いてくれたまりさ。
だが、もうまりさはれいむの言うことを何も聞くつもりはなかった。
ぱちゅりーに近寄ると、親愛のすりすりを始める。
「ゆう!? まりさ、ちがうよ! はやくやっつけてね!」
無視して、何度も何度も体をぱちゅりーに擦り付ける。
「む、むきゅうーん♪」
そのまりさの感触に、むずがるように身じろぎするぱちゅりー。
口をつくのは、艶やかな呼吸。だめよおおという言葉を小声でささやきながら、ぱちゅりーは抗おうとしない。
「なっ! なにじでんの、れいむのなかにはまりさのあかちゃんがいるんだよ! やくたたずのまりさに、あかちゃんができるんだよおおおおおお!!!」
目の前で繰り広げられようとしている痴態に、れいむの声は絶叫に変わりつつあった。
まりさは、ぱちゅりーのしっとりした肌を味わいながら、ちらりとれいむを見やる。
「まりさは、役立たずじゃないよ!」
「む、むきゅうううう、まりさああああ! だめよおお!」
いきなり強烈にこすりあげられる感覚に、びくんとぱちゅりーの体は震えた。
乱暴なまりさの扱いに、それでもぱちゅりーは体を離そうとしなかった。
かつて、家族をもてば幸せになれると教えてあげた愛しのまりさ。自分の病弱な体が大人になってある程度よくなったらいっしょになるための布石のつもりだった。
だが、まりさはこともあろうかれいむに出会い、あっさり惚れてしまう。
その口惜しい想いを押し殺して数年。
ようやく報われようとしているこのチャンスを、ぱちゅりーは逃すことができなかった。
「ゆゆーん、ぱちゅりーのおはだ、れいむなんかよりもずっといいよっ♪」
「まりさ、らんぼうじないでええええ、ああああ、でもいいのおほおおおおおおお!!!」
「やめで、まりざあああああ!!! まりざのおくざんは、れいむでしょおおおおおお!?」
三様の叫び声が木霊するその巣穴で、官能の猛りが一段と高くなる。
「ぱちゅりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい! うっ!!!」
「むきゅうううううううううずごいのおおおおおお!!!」
「あ、ああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ついに、達したまりさとぱちゅりー。そして、嬌声を打ち消すように響き渡るれいむの絶叫だった。
しばし、緊迫した沈黙と荒ぶる息の音に支配される巣穴。
変化は、ぱちゅりーの頭から始まった。
「む、むきゅう!?」
見上げるぱちゅりーの頭の上をするすると何かが伸びていく感触。
同時にぱちゅりーの全身をこそぎ落とすような脱力感が襲い掛かってきたが、ぱちゅりーは喜びの涙を上していた。
れいむは、そのぱちゅりーの頭から伸びるものを認めて、口がだらりと開く。
「やったね、ぱちゅりー! まりさとぱちゅりーの子供ができるよ!」
まりさの喜びの声が示すとおり、ぱちゅりーの頭には一本の命の茎がのびていた。
その先に連なる丸い塊はうっすらと目を閉じているような顔が浮き上がる。
状態のいい成体ぱちゅりーによる、母子ともに健康な植物型出産シーン。
「まりさは、やっぱり問題なかったんだよ!」
求めてやまない子供が、わずか一日で実りをつけた。そのことに、まりさの表情が笑顔で歪む。
そのことを理解してしまって、呆然と見つめているれいむへと、まりさは向き直った。
「役立たずはれいむだったね! まりさ、れいむしか知らなかったけど、ぱちゅりーと比べてわかったよ。れいむのはちょっと変だよ! きっと、れいむだけ一生こどもできないね!」
「ゆっ、ゆっ、ゆうううううううううっ!」
れいむの口から吹き出したうなりは、怒りと屈辱と嘆きに歪んでまともな言葉を為しえなかった。
一呼吸置いて、れいむはほとばしる感情のまま叫ぶ。
「ごんな゛の゛っ、い゛や゛だああああああっ!!!」
まりさはそんな様子に溜飲を下げたのか、もはやれいむを見向きもせずにぱちゅりーに向き直る。
「ぱちゅりー、子供が産まれるまでここでいっしょにくらそうね」
「むきゅう、たしかにこの状態じゃ移動できないわね」
二匹、すでにれいむを無視して素敵な未来の計画を立て始める。
れいむは、目の前で始まろうとしているまりさとぱちゅりーの生活に、腹の底からの怒りがこみ上げてくるの感じていた。
れいむを戸惑わせたのは、怒りの源。
侮蔑されたことより、まりさを奪われたことが、何より悔しくて歯がゆい。
まりさの傍に行きたい。
まりさの隣で貞淑な顔をしているぱちゅりーをはじき飛ばしてやりたい。
まりさの愛情のこもったすりすりでゆっくりしたい。
ああ、昔のまりさと比べて自分で見失っていたけど、自分は今のまりさのことがほんとう大好きだったんだ。
思い通りにならないのを全部まりさにして、甘えてしまうぐらい、今のまりさを信頼してしまったんだ。
れいむの心に湧きあがる後悔は、涙となってれいむの頬を流れる。
感情が高ぶって、まりさを取り戻す言葉を話すこともできない。
せめて、お腹のあかちゃんが産まれてくれたらまりさも戻ってきてくれるのだろうか。
そう、断じてこれはおでぶではなく、まりさとの愛情の証なんだ。
れいむは強く、そう信じた。
三日後、れいむの想いとは裏腹にまりさはぱちゅりーとの幸福の階段をのぼっていく。
むきゅむきゅと巣穴に響き始めた幼子の声。
母となったぱちゅりーは、自らの目の前にぽとぽとと落ちた幼子六匹を愛おしそうに頬ずりする。
全て、紫色の小さな体。
ぱちゅりー種ばかり三匹が産まれ、むきゅんむきゅんと特徴的な産声でぱちゅりーにまとわりついていた。
念願の子供を得たまりさは、じっとその子供たちを見つめている。
「まりさ、あかちゃんたちよ!」
「ゆっくりして子どもたちだよ」
口吻気味のぱちゅりーに、まりさは穏やかな言葉で同意する。
「なんで、れいむのあかちゃんは産まれないのおおおお」
れいむは、敗北感に包まれた嘆きを吐き出す。
「産まれる訳ないわよ」
ゆふんと鼻で笑うぱちゅりーの姿に、もう怒りは感じない。ただ、みじめなだけだった。
まりさはそんなれいむとぱちゅりーを見比べてから、巣穴の出口の方へと跳ねていく。
「それじゃあ、ごはんとりにいってくるね。みんなは、ずっとゆっくりしていてね」
「ぱちゅりーたちのためにがんばってね、まりさ」
「れいむのあかちゃんのためにがんばってね、まりさ!」
応援する二通りの声に、まりさは何か言いたげに二匹を見たが、こくんとうなづくなり晩秋の野原へと駆け出していく。
後に残されたのは、先妻と今の妻、それにその子供たち。
だが、子供たちからすればれいむは巨大すぎて、自分たちと違う生き物としか見えなかった。
知識欲旺盛なぱちゅりーの子供らしく、れいむのまわりを跳ね回って観察する。
「むきゅん、おかあさん。これ、なに?」
「ご飯を控えめに食べない子のなれの果てよ。でぶぶたさんにかえられちゃったの。こんなぶさいくになりたくなかったら、
ごはんは控えめに食べてね」
「むきゅっ! こんなぶよぶよにぱちゅりーはならないわ!」
「やっぱり、ぱちゅりーのこどもは賢いわね。むきゅきゅきゅ」
微笑ましく笑い合うぱちゅりー一家。
その対象として笑われながら、れいむの心にもやもやしたものが沸き起こる。
こんな、ちっちゃな子供なんかぜんぜん可愛くない。
れいむのお腹の子さえ、きっと大きく育ちきった子供さえ生まれたら、こんな奴ら根絶やしにできるのに。
すごくゆっくりした子供を見て、まりさが戻ってきてくれるというのに。
お願いっ、おかちゃん! はやくうまれてねっ!
お母さんを、こんな惨めな思いから救い出してねっ!!!
「ゆーっ、ゆーっ! ゆゆゆううーっ」
れいむはいきみだした。
これまで、あかちゃんのゆっくりを邪魔したくないと一度もしてこなかった動作。
しかし、まりさからのご飯が怪しくなった状況ではゆっくりしていられない。
下腹部をそらし、歯をくいしばって何度もうめいた。
そのただならぬように、ぱちゅりーは子供を下がらせながられいむを見つめる。
「はっやっぐっ! あかちゃん、うまれてね!!!」
「むきゅ! むだだからやめてね!」
ぱちゅりーは怖がる子供のためにれいむを止めようとする。
だが、れいむは止められなかった。
お腹の産道を、不意に何かが刺激したからだ。
「ゆっ? あかちゃん、あかちゃんなの!? あかちゃん、うまれるんだね!!!」
れいむの顔が喜色に染まる。
「そ、そんなわけないわ! あかちゃんなんて、あかちゃんなんて!!!」
自分の推察を否定された気分で、取り乱すぱちゅりー。
不安にひっしと寄り添う子供たちを、ぶるんぶるんと振り回す自分の髪の毛ではじきながら絶叫していた。
そんなぱちゅりーの様子に、れいむの心が満たされていく。
気分を盛り上げるように、熱いものがついにれいむの産道をじんわりとかけあがってきた。
「ゆゆっ! れいむのゆっくしたあかちゃんがでてくるよ! ゆっ、ふううううううううう!!!」
全力を下腹部にこめると、その痛みを伴う熱が産道をこんもりとこじ開ける。
今、まさに飛び出さんとするほとばしりを感じながら、れいむは涙とよだれを垂らしながら、勝利の微笑をぱちゅりーに向ける。
「これが、れいむのあかちゃんだよおおおおおおおおっ!!!」
ついに、それは放たれた。
黒い帯が広がったというのが、ぱちゅりーの最初の視認。
瞬間、ぱちゅり一家へすさまじい圧力が襲い掛かる。
ぱちゅりーの目の前がまっくらになって、ぐりんぐりんと体が闇の中を転がる。
あかちゃんたちは、どうなったのか。どれだけ探しまわろうとしても、水気を含んだ泥のようなものに包まれて身動きできない。
「もがっ、あがぢゃ……」
口を開きかけたぱちゅりーの咽の奥に、くろいものが忍び込んでくる。
それはひどい酸味だった。
そして、鼻の奥から目の裏側まで突き抜ける強烈な腐敗臭。きっと、全身を覆う黒い泥全てが放つ臭い。
「げぼおおおっ……」
これまで誤魔化してきたぱちゅりーの発作が起こった。出産後の低下した体力とあまりに醜悪な環境。
むせ返る衝動を吐き出そうと口を開いては、腐った黒い泥の進入を許して体全身がひきつる。
見開いた目から、行き場をなくした自らの紫蘇餡が眼球を押して流れていく。
その激痛にも、ぱちゅりーは叫び声一つ上げることはできない。
「かっ、かへっ、かへっ……かっ」
びくんびくんと数度震えて、鼻から目から自らの生きる源をひりだしながらぱちゅりーは死んだ。
それは、ぱちゅりー一家での最後の死者だった。
「おげえ、おげええ、みゅぴいい!」
嘔吐の衝動で死ぬもの。
「むきゅうう」
黒い泥で圧死するもの。
「くちゃいくちゃい、く、ちゃい……」
においで卒倒して絶命するもの。
六匹の赤ちゃんぱちゅりーは、あまりにもたやすく死んでいった。
その黒い泥の濁流が治まって、生き延びているのは濁流の源、れいむだけだった。
れいむは、みずからの下腹部から流れて死を招いた黒い濁流を、呆然と眺めていた。
通常、運動エネルギーに代えられなかった古い餡子は、ゆっくりが吐き出すなりひりだすなりして排出する。
だが、れいむは食べたものはすべて赤ちゃんのものになるのだからと、一切の排出を一ヶ月怠っていた。
不運は、子供がいなかったこと。
蓄積された餡子は体内でゆっくりと腐敗をはじめ、れいむの体積をガスで膨張させながら排出される瞬間を今か今かと待ちかねていた。
れいむの場合、その量はまりさの努力の成果そのままに莫大なものとなっていた。
吐き出した汚物が、ぱちゅりー一家を完全に汚水の下に沈めてしまうほどに。
「あれ? れいむの、あかちゃん?」
れいむは、ガスと汚物を吐き出して元に戻りつつあった体で巣の中を探し始める。
もちろん、最初からそんなものない。
そのことに、れいむは1時間かけてようやく気がついた。
大切にまりさの犠牲の上に育てていたものは、糞尿だった。
れいむの目が虚ろに宙をさまよう。
「れいむ、どうしようもないおばかさんだね……」
無表情に呟くれいむの頬を流れ落ちる、とめどない涙。
「ごめんね、まりさ。ごめんね、ぱちゅりーとあかちゃんたちいいいい」
一人ぼっちとなった巣の中で、れいむは嗚咽をもらし続ける。
だが、やがてはふらりと夢遊病の足取りで巣をさ迷いだすと、いつしか巣穴からその姿を消していた。
「ゆっ、ゆーん!」
秋の暮れの平原を、陽気な歌を歌いながらかけていくゆっくりの姿があった。
まりさだった。
そのご機嫌さの正体は、一見子供がついに生まれたことにあるように見える。
だが、実際は違った。
まりさが餌を帽子にのせて駆け出す方向は、ぱちゅりーが待つ巣穴とはまるで反対側。
「ようやくまりさがゆっくりできるよ!」
まりさは、自由を謳歌しようとしていた。
元かられいむの世話などするつもりはないが、ぱちゅりーたちの世話もしたくない。
まりさとぱちゅりーの間に生まれた子供は、全部ぱちゅりー種。
病弱で育てづらい子供を六匹も養って暮らすのはごめんだったし、まりさ種を求めてさらに交尾をしてぱちゅりー種が増えたら目もあてられない。
「まりさは子供がつくれるんだし、まりさにふさわしい相手をゆっくりさがすよ!」
いつでも子供がつくれるなら焦ることもない。
まずは、大変だった分だけまりさがゆっくりしないとね。
新天地を求めて、川沿いをひたすらかけていくまりさ。
その果敢な足取りが、川辺を挙がってきた一匹のゆっくりの姿を見て止まった。
水浴びをしてあがってきたのは、一匹のまりさほどの大きさのれいむだった。
まりさは見とれた。
れいむ種の黒髪が、水気を含んで艶やかなほつれ髪。じっとまりさと見つめる瞳は聡明な輝きがあり、何より均整の取れた体つきはまりさの好みそのもの。
まりさは生唾を飲み込みながら、その美れいむの元にかけよる。
「ゆっくりしていってねれいむ、かわいいよおおお」
挨拶もそこそこに、すりすりを始めるまりさ。
相手が川を背に、逃げ出す余地がないことを知っていながらの愛撫だった。
これから、新天地へ旅立つ前の最後の思い出づくりと言葉少なく身をよせるが、美れいむは意外にもいやがる素振りを見せなかった。
ただ、その愛撫に顔を歪めながら静かにまりさに話しかけてくる。
「ねえ、まりさ。すりすりされても、れいむは子供できないよ?」
子供。そのフレーズにひっかかりを覚えるものの、まりさは己の欲望を満たすのが先決だった。
「ゆっふっふー。れいむがそばにいてくれるなら子供なんていらないよ!」
「そうなんだ、うれしいよ」
にっこりと微笑むれいむ。
受け入れてくれたなら、さっそくすっきりしよう。
この、でぶれいむとはまるで違う美れいむとすっきりしよう。
まりさの笑みが有頂天に緩む。
だから、気がつかなかった。
自分の髪の毛をかみ締めるれいむの動作を。
「でも、どうして出会った頃にそういってくれなかったの?」
ぼそりとつぶやいた、その声を。
まりさの視界が反転した。
ぐるりと何かにひっぱられて、空を見る。
小春日和の澄み切った青空。
その天空もすぐに視界から消え、次の瞬間には水しぶきの音。
ごぼごぼと体に流れ込む水の音を聞きながら、ほの暗い川の底を見てまりさはようやく水中に転落したことに気がついた。
浮き輪代わりにできた自分の帽子は、川の流れにそってどんぶらこと昔話の桃のようにながれていく。
流入する水に、まりさの口腔からごぼりと大きな水泡。
はやく水面にでないと、もがく。
だが、一向に体が浮かび上がらない。
なぜ?
振り向くまりさの目前に、原因。
れいむが、あの美れいむがまりさの髪をひとふさくわえ、川底に沈みこんでいた。
川の流れにあぶくを吐きながら、なぜか穏やかな表情で自分を見上げている。
離してね、ふざけないでね!
まりさが怒鳴ろうとして、さらに口から大きなあぶくが一つ。
それは、まりさの体にかろうじて残っていた浮力の消滅を意味していた。
途端に沈み込んでいくまりさの体。
いやだ、なんで、どうして、せっかく、まりさじゆうになれたのに。
小春日和の陽光を落としてキラキラとさんざめく水面を見つめながら、まりさは沈んでいく。
口からあふれだす餡子の塊に、絶望に顔を歪めながら川底に着床。
事切れたれいむの真横に転がって、もうまりさは身動き一つできない。
どぼじで、まりざがごんなめにいいい!?
まりさは、重くなっていくまぶたに抗いながら、この事態の元凶の美れいむの顔に視線を向ける。
れいむはすでに事切れていたのだろう。
すでに皮が水を吸い始め、ぶよぶよに膨らみつつあった。すでに美れいむの面影はない。
ただ、代わりにまりさの脳裏に浮かんだのは、長年連れ添ったれいむの姿。子供ができない同じ悩みを抱えて、できないなりにも
ずっと一緒だったれいむの姿。
「ゆ……ぐ……」
まりさの唇が何事か伝えようとして動く。
だが、代わりに最後の餡子のひとかたまりを吐き出しただけ。
二匹は、水流に押しやられてふわふわと漂いだす。
やがて、ゆらゆらとゆらめく一対の塊となって、二匹は川下へと流れていった。
(終わり)
あとがき
どうも、小山田です。
今回は文章がうまく転がらなくて、地の文が稚拙になってしまいました。精進します。
誤字脱字の訂正はwikiで。
最終更新:2008年11月09日 12:29