ゆっくりれいむは激怒した。
必ず、かの害獣どもを除かなければならぬと決意した。
れいむには法がわからぬ。
れいむは飼いゆっくりである。日々ゆっくりし、博霊神社で遊んで暮して来た。
けれども、いけないことに対しては、ゆっくり一倍に敏感であった。
今日、れいむは博霊神社を出発し、ながいながい階段を下りて、はなれた里にやって来た。
れいむには母や姉妹はいない。
空を飛ぶ程度の能力を持った博霊の巫女の霊夢との二人暮しだ。
この霊夢は、無作法にも勝手に上がりこんだれいむを始めは煙たがった物の、今では実の姉妹のように仲良くゆっくりしてくれている。
れいむは、それゆえ霊夢へ日ごろの感謝のお返しを探しにはるばる里にやって来たのだ。
先ず、香霖堂で霊夢からもらった幾ばくかのお小遣いでほんのささやかなお返しを買った。
それから里をぶらぶら歩いた。
ゆっくりれいむは竹馬の友があった。
ゆっくりまりさである。
今は此の幻想郷の里で、食堂の看板ゆっくりをしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
てぽてぽ跳ねているうちにれいむは、里の様子を怪しく思った。
ひっそりしている。
もう日も昇り、お昼のいいにおいがしても良い時間帯である。
けれども、なんだか、里全体が、やけに寂しい。
のんきなれいむも、だんだん不安になって来た。
路で逢ったお兄さんをつかまえて、「ゆっくりしていってね!!」と、声を掛けた。
お兄さんは、首を振って答えなかった。
しばらく進んでおじいさんに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして「ゆっくりしていってね!!」と
声を掛けた。
おじいさんは答えなかった。
れいむは全身でおじいさんの身体にぶつかって、さらに声を重ねた。
おじいさんは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「今は、みんなゆっくりできないんだよ」
「なんで、ゆっくりできないの?」
「野生のゆっくりが里を荒らしていったんだ」
「ゆっ!? たくさんひとをこまらせたの?」
「うん、はじめは人が離れた屋台のカステラ屋。それから、露天の野菜売りを。
それから、軒先の駄菓子屋を。みんなみんな勝手に全部食い尽くされてしまった。
数が多すぎて、追い払うのがやっとだった」
「ゆゆっ!! れいむは『お店の物はお金で買わないと駄目』っておそわったよ!れいむはそんなことしないよ!!」
おじいさんは哀しげに首をふった。
「いいや、野生のゆっくりにはそんな事関係ないんだよ。
おまけに昨日は、食堂も被害にあった」
「しょくどう!! まりさのところだ!!!」
「ああ、確か食堂のゆっくりが、そいつらのせいで酷い怪我をしたと言っていたなあ」
聞いて、れいむは激怒した。
「ひどい!! ゆるせない!ゆるせない!!」
れいむは、その場でぴょこんぴょこんと何度も、何度も飛び跳ねた。
そうして一頻り怒りを表すと、すぐに行動に移った。
れいむは、単純なゆっくりであった。
れいむはそのままのそのそと野生のゆっくりがいる森へと向かっていった。
たちまちれいむの回りには野生のゆっくりが集まり始めた。
「ゆ、じんじゃにすんでるれいむだ!! ゆっくりしていってね!!」
群れのリーダーであるゆっくりまりさが、騒がしく叫んだ。
その顔は、のっぺりつやつやと輝き、その体躯は怠惰に緩みきっていた。
「みんなにめいわくをかけるなんてだめだよ!!!ゆっくりみんなにあやまってね!!」
れいむは、いきりたって叫んだ。
「まりさたちはめいわくをかけてないよ!!あやまるひつようないよ!!!」
まりさは、なんのことやらと言わんばかりに、首をかしげた。
「かってにひとのものをとるのはいけないことだよ!! みんながゆっくりできないよ!!!」
「あれはおいてあったんだよ!!まりさがみつけたんだからまりさのものだよ!!」
まりさはだんだんと不愉快そうな表情を浮かべ始めた。
「まりさたちがとってもゆっくりしたからってねたまないでね!!!」
「そうだよ!!」
「じんじゃにかえってね!!!」
「ゆっくりきえてね!!!」
まりさのとりまきのゆっくり達がれいむへと詰め寄ってくる。
しかし、れいむは引き下がらなかった。
「いけないことをしたらあやまらないといけないんだよ!! れいむはれーむからおそわったよ!!」
その叫び声にまりさたちはとうとう怒りを堪えきれなくなったらしい。
「れいむはうるさいよ!!!」
「ゆっくりしね!」
一匹が、れいむへ勢いをつけて体当たりをした。
その勢いに、おもわずれいむの体がころがっていく。
「ゆゆっ!!い、いたいよ!!」
起き上がったれいむを、今度は別の一匹が突き飛ばす。
「まりさたちはゆっくりしたいだけだよ!!じゃまするやつはしんでね!!」
今度は別の一匹が。
さらに別に一匹が。
まるでれいむをボールか何かのように弾き飛ばし続ける。
「ゆぅぅぅっ!!い、いたいよ!!ゆっくりやめて!!」
「ゆっくりでていけ!!」
れいむの身体はまりさ達の体当たりであちこちぶつけられ、土に汚れ、頭のリボンもぼろぼろになっていた。
やがて、ひときわ強く体当たりされたれいむは、立っていた木の幹へと強く叩きつけられた。
「ゆ"ぶぅっ!!」
思わず、口から中身の餡子がすこしだけ零れた。
「ゆっゆぶぇぇえぇ…」
「ゆっくりできないからいけないんだよ!!!」
「そのままにどとこないでね!!!」
ゆっくりまりさたちの嘲笑の声を聞きながら、ゆっくりれいむは自分の無力さと、里のみんなや友人のまりさの敵を討てなかった悔しさに、涙した。
<つづく>
最終更新:2008年09月14日 05:12