俺が寝ているとそんなやり取りが聞こえてきて目が覚めた。
最初は強盗かと思い、枕もとの竹刀を持ち跳ね起きたのだが、強盗ではなかった。
起きると割れた窓ガラス、そして窓の下でうれしそうに頬をこすり合わせるれいむとまりさのスタンダードな一家。
こいつらは俺が寝ている時に窓ガラスを割って侵入、
お家宣言をしたらしい。
まったく、家主が寝ているというのによくもまあぬけぬけと宣言してくれるものだ、まだ起きてる家主の目の前ではっきり宣言する方が正々堂々としていてよろしいと思うね。
「おい、ゆっくり」
「ゆゆっ!?」
「に、にんげんだよ!!おかあさん!!」
おれが一声かけて初めて俺の存在に気づいたらしい、一家は全員俺の顔を見て固まった。
「こ、このおうちは、おにいさんのおうちなの?」
親と思われるまりさが戻りながらも俺に聞いてきた。
「そうだよ」
俺は臆せず答える、何もやましいことはしていないからな。
「いやああああああああ!!」
「にんげんざんにづかまっだらゆっぐりできなくなりゅうぅ!?!?」
「ごべんなざい!!ごへんなざいぃぃぃ!!」
その直後子ゆっくり達は泣きわめき、親ゆっくり達は俺に激しい勢いで謝罪と土下座を始めた、どこかの政治家あたりに見習わせたいね。
「なんだお前ら、人間が怖くて人間のおうちに来たのか?よくわからない奴だな」
「れ、れいむとまりさはにんげんのおうちがほしかったんですうぅぅ!!」
「でもにんげんさんのおうちをよこどりしたらゆっくりできなくなるからにんげんさんのおうちじゃないにんげんさんのおうちがゆげほげほっ!!」
親れいむも親まりさもなきながら、それでもはっきりとした口調で謝罪してきた、れいむはそれでもあわてたのか急き込んだでいたが。
なんでもこいつら、群のゲスから人間の家はとてもゆっくりできると聞いたらしい。
そのゲスは人家に侵入した後はそこに居座ろうとせず、荒らすだけ荒らしたあとすぐに撤収するためいままで人間につかまったことはない。
そしてそのゲスから人間の家は寒い日でも暖かく、おいしいごはんがいっぱいあって、れみりゃのような外敵も簡単には入れないところだと聞いたため、人間の家に住みたいと考えた。
しかし人家に侵入し、そこを自分の家にしようとしたゆっくりはほとんどが家主に見つかり酷い目にあう、家族はそのことを風の噂で知っていたため、一計を講じた。
「それが…人間のおうちじゃない人間のお家か?」
そう、人間が持っていない人間の家。つまり空家を自分の家にしようと考えたらしい。
侵入するとき透明な板は壊すが、誰のものでもないので人間には怒られない、つまりゆっくりできると考えたらしい。
そして間違えてしまうことがないように三日かけて、朝から日没まで茂みの中から俺の家を交代で見張っていたらしい。
途中何度か俺の家の様子を見にきた人間(おそらく郵便とか、新聞の配達だろう)は見たが、家の中に入る人間、中から出てきた人間は一人もいなかったので空家と判断したらしい。
良い案だ、成功すれば不動産屋とかそこらへんが様子を見に来るまでの数ヶ月間は人家をものにできるだろう。
だが相手が悪かった、それはこの家に住んでいるのが俺だったということだ。
俺は完全に昼夜逆転の生活をしている。勤め先が近所の居酒屋で、ベテランとして重宝されているため毎日のように一晩中働いているのだ。
昼から夕方のあたりに起床し、飯や仕事に行く支度をし、日没後、夜に出勤、閉店直前の近所店で生活用品とかを買って勤め先に置かせてもらう、
一晩中働いて日が昇るかどうかという時間に買い物袋を持って帰宅、そのまま飯を食ってから寝る。
そんな生活をしていたため、日中のみ家を見張っていたこいつらには家に出入りする俺が確認できなかったのだ。
「ごめんなさい!!おうちにかってにはいったことはあやまるからゆるしてね!!」
取り合えずこいつらはここが俺の家であること、勝手に入って悪かったことを認め誤ってきた、自分にはゆっくりを虐めて楽しむ趣味はなかったはずだが…
なんだろう?ごめんなさいと、何度も繰り返してはおでこを床にこすりつけるこいつらを見ていると、こいつらの生死をすべて俺が握っているのだと考えると、なんかむらむらとしてきた。
「わかった、そんなに謝らなくてもいいよ」
「ゆっ!ゆるしてくれるの?」
「ばか、誰が許すって言った」
「ごめんなさい!!ごべんなさざいいぃぃぃ!!」
「だから謝るなと言ったろう?」
「ゆ?」
…なんだろう、面白くなってきた。
「まず、お前たちがいくら誤ったところで俺に許す気はないから見苦しい謝り方はやめろ」
「ゆ…じゃあどうすればゆっくりゆるしてくれるの?」
「れいむはなんでもするよ!!まりさや子供たちを許してもらうために何でもするよ!!」
笑いたくなってくるね、こいつらの生死は俺しだいだってことが分かってるから何とか俺の機嫌を損ねないようにしてる、本人たちは必死なんだろうが握ってる俺から見たら滑稽なことこの上ない。
某国の独裁者とか、ファンタジーに出てくる名前を言ってはいけないあの人とかは自分の部下を極刑に処するとき、きっとこんな気分だったんだろう、何という優越感だ。
「じゃあ、何ができると言うんだ?」
「「ゆ…ゆっくりできるよ!!」」
その瞬間、俺はしないを床にたたきつけた。
「馬鹿がっ!!おまえたちがゆっくりしてどうするんだよ!!俺をゆっくりさせろよ!!」
「じゃ、じゃあ…おうたをうたうよ!!そうすればおにいさんもゆっく…」
その瞬間、俺はしないを床にたたきつけた。
「馬鹿がっ!!お前たちゆっくりの歌ごときで俺がゆっくりできてたまるか!!」
「ゆーん、ゆーん…」
「おかあさん、れいむたち、どうなるの…?」
「まっててね、いままりさとれいむでかんがえるからね…」
おお、迷ってる迷ってる、せっかくだから、助け船を出してやるとするか、まあ、そこに穴があいてるんだけどな。
「いいか、お前ら、よく聞けよ」
「ゆ?」
「お前たちが俺の家に間違って入ってきただけなら俺だってそんなに怒りはしない、誤ったなら許してやるさ。
でもな、お前たちはおれの家の窓ガラスを割ったんだ、窓ガラスってのはあの透明な板のことな?ここまでわかるか?」
「ゆっくり…りかいしたよ…」
「つまりお前たちはだ…俺の家を壊したってことなんだよ!!」
「ゆああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
「わかるか!?俺は謝ってほしいんじゃない、割れた窓ガラスの代わりがほしいんだ、窓ガラスそのものじゃなくてもいい、窓ガラスと同じくらいの価値のある物をよこせと言ってるんだよ」
「ゆ!ゆっくりりかいしたよ!!」
理解したところでどうするってんだ、馬鹿が。ゆっくりが窓ガラスに匹敵する価値のものなんて出せるわけないだろう?
「じゃあ、まりさとれいむがごはんをがんばってあつめるよ!!」
「残念、人間はゆっくりのご飯を食べないんだ、人間にとってはお前たちが食う雑草や虫なんかは全く価値を持ってないんだよ」
さあ、どんどん選択肢がなくなってまいりました。
「ど、どうしようまりさ…」
「ゆっくりまってね、ゆっくりかんがえるよ!!ゆーんゆーん…」
「やっぱ無理みたいだからみんな殺すしかないかな…」
むろん、こいつらの慌てふためく姿を見た後は叩き潰す…つもりだった。
「まってね!!まりさたちをころしてもおにいさんはまどがらすとおなじかちをてにいれることはできないよ!!だからころさないでね!!」
正論だ、むしろ潰したりしたら後片付けをする必要もあるから逆に俺が損をする、饅頭に正論を言われて納得する日がこようとは…いかんいかん。
「ゆぴーん!!ゆっくりひらめいたよ!!さんさいさんをもってくるよ!!そうすればまりさたちをゆるしてくれる!?」
「山菜?」
「さんさいさんだよ!!まえもりのなかでにんげんさんがさんさいさんをとっているのをみたことがあるよ!!さんさいさんならにんげんにもかちがあるよね!!」