※前回の話「独善的シーソーゲーム」の設定を引き継いでいます。
※前作を読まないとわからないような設定は特にありません。
※既出ネタの可能性があります。
※飼い
ゆっくりバッヂ設定アリ。あと紛らわしいので飼いゆっくりは漢字を使ってます。
※田吾作さんって誰だ。
愛なき世界
散歩の途中にたまたま田吾作さんと会い、ゆっくり対策について話し合っていると、そんな私と田吾作さんの横で畑の柵を飛び越えようとしているまりさとありすがいたので捕まえた。
田吾作さんにこの二匹をもらってもいいか訪ねたが、田吾作さんはゆっくりを見るのも嫌だという。ありがたく持ち帰ることにした。
「こんなのとかいはじゃないわー!」
「ゆっくりはなしてね! まりさおこるよ!」
腕の中でゆっくりが何か言っているが、無視する。ゆっくりとの正しい付き合い方、それはゆっくりの意思を無視することである。
長屋──外の世界ではアパートと呼ばれるもの。何故か虐待お兄さんや虐待お姉さんと呼ばれる人種が多く住んでいる──の自分の部屋に入り、飼っているありすに声をかけた。
「ただいま、ありす」
「お帰りなさい、ゆっくりしていってね」
飼いありすを見るな否や、二匹が騒ぎ出す。
「ゆゆっ? ありすがいるわ!」
「ゆっ! ほんとうだね! でもはにーのほうがいちおくばいきれいだよ!」
「ゆゆ~ん! はずかしいわだーりん♪」
どうやらこの二匹、夫婦らしい。しかも相当なバカップルのようだ。まりさが夫、ありすが妻ということか。
一応、どうして人間のいる横で畑に入ろうとしたのか聞いてみた。
「なにいってるの? あれはまりさとはにーがみつけたんだよ! ばかなの?」
「にんげんなんてだーりんにかかればいちころよ! いなかもののにんげんははやくありすとだーりんをはなして、たくさんおやさいもってきてね!」
無駄である。
ゆっくりとの正しい付き合い方、それはゆっくりの意思を無視すること。ささっとありすのほうを透明な箱(上側に穴が開いているタイプ)に入れる。
「やめてね! はにーにひどいことしないでね!」
「たすけてだーりん!」
「だいじょうぶだよはにー! まりさがはにーにひどいことするにんげんにぎゃふんっていわせるからね!」
「かっこういいわだーりん!」
まりさを放してやると、ありすの入った箱にすがりついていた。仲が大変よろしいようである。
「ありす、あの夫婦見てどう思う?」
「見苦しいわ」
飼いありすに聞いてみると、そう返された。
人間とゆっくりの感覚というものは、ほとんど同じだそうだ。苦くまずいものよりも甘くうまいものを好む。その感覚は、バカップルを見たときも同じようなもののようである。
今回は、そんな二匹の絆を試すとしよう。
「ありす、ちょっと手伝ってくれ」
「ゆ?」
「ちょっと女優になってくれないか?」
飼いありすも透明な箱にいれ、これで準備は完了した。一メートルほど離して、夫婦のありすと飼いありすを並べる。
私はまりさを抱え、彼女(夫だが)に訊ねた。
「なあまりさ。君は浮気をしたことはあるかい?」
「ゆ? なにいってるの! まりさはうわきなんかしないよ!」
「そうよそうよ! だーりんはそんなことしないわ!」
まりさは私の言葉に本気で怒っているようだ。恐らく本当に浮気はしたことがないのだろう。ゲスが多いまりさには珍しい、なかなか誠実なまりさだ。
……単にゲスの素質が目覚めてないだけかもしれないが。
「じゃあ、今から君には妻であるありすを当ててもらおう。どっちが君の妻かな?」
「ゆぅ? まりさをばかにしてるの? あっちのかわいいありすがまりさのはにーだよ!」
「ゆゆ~ん、かわいいだなんててれるわだーりん!」
まりさの顔が向いているのは、確かに私の飼いありすではないほうのありすだ。
私のありすには飼いゆっくり認定のゴールドバッヂがついている。それにゆっくりは頭の飾りで個体識別をするので、どちらがまりさの妻かは一目瞭然なのだろう。
「よし、では次に当てたら、とても甘いお菓子をあげよう」
「ゆゆっおかし!? おかしほしいよ! ゆっくりちょうだいね!」
甘いものといっても、妻であるありすのことなのだが、それは秘密だ。
あらかじめ用意していた手ぬぐいで、まりさの視界を塞いでみた。
「ゆゆっ!? やめてね! なんにもみえないよ! くらいよ! はにーどこー!?」
「ゆっ! だーりんにひどいことしないでね! だーりん、ありすはこっちよー!」
さらにまりさをぐるぐると回して、自分の向きをわからないようにする。その状態で妻のありすと飼いありすの間に置いてみた。
「ゆぅぅ……めがまわるよ……」
「さあ、どっちが君の妻かな?」
「……ゆ?」
ゆっくりは頭の飾りで個体識別する。
れいむ種ならリボン、まりさ種なら黒い三角帽子、ありす種ならカチューシャ、ぱちゅりー種なら紫色のナイトキャップのように。
ならば、識別するための飾りが見えなかったら、どうなるのか?
声で識別するか?
「だーりん! ありすはこっちよ!」
「違うわだーりん! ありすはこっちよ!」
「ゆぅぅ……!? ど、どっちがはにーなの!?」
「「わたしがありすよ!」」
「ゆ゛ぅぅぅ!?」
ありすの声はどちらもまったく同じに聞こえる。声では識別できないようだ。
飼いありすに手伝ってもらうといったのは、こういうことだ。まりさに、自分が「はにー」であると錯覚させる。
さて、声で判断できない場合はどうやって識別するのか?
「だーりん! 早くこんなとこから出て一緒にゆっくりしましょう!」
「ゆっ……」
「赤ちゃんも沢山産みましょうね! それでいっぱいすーりすーりするの!」
「ゆゆっ……」
甘い言葉である。ゆっくりは甘いものが好き。
飼いありすの名演である。まりさは甘い言葉につられて、飼いありすのほうに這っていく。
途端に妻ありすのほうが騒ぎ出した。
「どぼじでだーりんぞっぢのぼうにいっぢゃうのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「ゆゆっ!? はにーそっちなの!?」
「違うわだーりん! あれは田舎物のありすの演技よ!」
「い゛な゛か゛も゛の゛じゃなぃぃぃぃぃぃぃ! えんぎじでるのはぞっぢのぼうじゃな゛い゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「よく考えてだーりん! あんなに汚い言葉を吐いてるのが都会派のありすなわけがないわ! どっちがはにーなのか、頭のいいだーりんならわかるわよね?」
「ゆっ! こっちがはにーだよ!」
「うん、見事だ」
私は自然に、賞賛の言葉を口にしていた。
まりさは見事に私の飼っているありすを選んだ。
「ばがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! だーりんのうわぎものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ゆゆっ! そんなひどいこというありすがまりさのことだーりんなんてよぶしかくはないよ! さあはにーかえったらたくさんすーりすーりしようねぇー」
「ゆがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! じねっ! じねっ! げずなばりざはじねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
あれだけ愛し合っていたのに、こうもあっさり崩れ去るとは。女は怖い。
というわけで、飼いありすの箱のほうをすりすりしているまりさの目隠しをとってあげた。
「ゆっ! やっぱりはにーはかわいい……ね……?」
「見事に外れたね」
「プッ」
ありすのカチューシャについているゴールドバッヂを見て、みるみるうちにまりさの顔が青ざめていった。
この夫婦は森へ返してあげることにする。二匹を腕に抱え、彼女らがいつまでも幸せであることは願った。
「ごべんなざいぃぃぃぃぃぃぃぃ! ごべんなざいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「しねっ! くずまりさはゆっくりしねっ!」
「ゆわぁぁぁぁぁぁん! はにーにきらわれたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そうだ、折角だからこの夫婦、互いを愛させてあげよう。
私はありすのほうを揺さぶって発情させ、まりさにけしかけた。
「ばりざぁぁぁぁぁ! ずっぎりじまじょおおおおおおおおお!」
「ど、どうしたのはに……ゆ゛うううう!? やめてね! はにーやめてね! きもちわるいよ!」
「つんでれまりさもかわいいわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
……どうやらありすの方は、レイパーの素質があったようだ。
家に帰り、名演をしてくれた私のありすにご馳走を作ってあげた。
明日もいい日でありますように。
* * * * * *
翌日、ゆっくりを探しに山に入ると、昨日のまりさが実を生やして泣いていた。
話によると、あの後ありすは一回のすっきりー!で正気に戻り、そのまままりさに愛想を尽かしたと言って去っていってしまったそうだ。実はほとんどがありす種のようである。
しかしもうすぐ季節は冬、このまま冬を越えろといわれても食料は足りないだろう。夫婦で集めた食料があったとしても、すぐに腹をすかせる子がこんなにいるのだ。
まりさはこの子たちを育てきれる自信がなくて泣いているようであった。妻のありすのことはもういいらしい。
「そうだ、友人がゆっくりが欲しいと言っていたな。友人のところに来るかい?」
「ゆゆ、そこはゆっくりできる?」
「多分ね」
「ゆっ! それならゆっくりしてあげてもいいよ!」
えらそうにふんぞり返るまりさを抱えて、私は菓子作りが趣味の友人のところへ歩みを進めた。
あとがきかもしれない
ぬるーい。ぬるいですいろいろと。
ちなみに妻のありすですが、あの後立派なレイパーと化したそうです。
田吾作さんって本当に誰なんだ。
以上、EGSでした。
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- つよいよわいつよいよわい
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最終更新:2008年11月16日 12:05