ゆっくりいじめ系1545 幻想の宇宙史_02

少尉は船の中を艦長のゆっくりまりさを探して歩き回っていた。
「ちっ、何で俺がこんなことを…あんの若造め…」
彼はこの仕事を押し付けた金髪碧眼の副艦長に悪態をついた。
だが別に本気で彼に怒っているのか、といわれるとそうでもなかった。
少尉ももういい年だ。
流石にその程度の分別はつく。
が、文句の一つも言ってやりたい気分だった。
それくらい少尉はこの仕事に不満を持っていた。
「糞、クルー用の区画は大体回ったし後居るとすれば居住区か…」
散々無駄足使わされたことにうんざりしながら彼は居住区画の方へと向かっていった。





広場にはベンチはあるのだが机は無かったので
仕方なく三人は地べたに座り込んでポーカーに興じていた。
「どうする艦長さん!賭け金は天井!さあコールか?ドロップか!?」
「ゆ!コールだよ!」
「はいじゃあご開帳!」
まりさの合図でTは景気良く持っていたカードを横にしてみんなに見せた。
Tの掲示したまりさの手札はツーペア
「勝った!フルハウス!!!」
Rは歓喜の色をありありと見せつけながら手札を床に叩きつけるように勢い良く置いた。
「あ~ん艦長さん残念!」
「ゆっ…ゆゆぅぅぅ~…!」
まりさは歯噛みして口惜しそうにした。
顔はヤカンの様に真っ赤になり湯気まで噴いてピーピーと音を鳴らしている。
「余裕余裕、いやー勝ちすぎて怖いね」
Rはニヤニヤ笑いながらまりさを見下した。
イヤイヤ始めた勝負だったがなんだかんだで勝っている時は楽しいらしく
今では乗り気も乗り気、つまるところ連戦連勝だった。

「こ、このくらいのおかねまりさにとってははしたがねなんだからね!
だからべつにまけてもいいからてかげんしてあげてるだけだよ!!」
瞳に涙をためながら言っては負け惜しみなのが丸分かりだ。
「ほうほうなるほどね

…じゃあ艦長さんに本気を出してもらえるようにしなくちゃな」

「ゆ?」
悪巧みしてそうな、というかRもどちらかというと感情が顔に出すタイプなのでまず悪巧みしているのは間違いないだろう。
感情を隠せないのではなくあえて出していくタイプといったところか。
そんな表情でRはまりさに言った。
「天井を今より上げれば艦長さんも本気出してくれるよな?
一桁上げれば本気になるかな?
俺も大分勝ったからそれでも何戦か出来る金もたまったし
どうだよ、受けてくれないか艦長
そんでもって本気ってのを見せてくれないか?」
ニヤケながらRはまりさに対して嘲りをありありと見せながら挑発した。
「おいおいどちらも熱くならないほうがいいよ」
Sは苦笑しながらまりさとRを嗜めたがヒートアップしている彼らの耳には届かない。

「ゆ…も、もちろんうけるよ!
まりさのほんきみせてあげるんだからね!!」
まりさは、挑発に乗って既にずっと本気でやっていたにも拘らず虚勢を張った。
Rはまりさに見えないようにそっぽを向いて会心の笑みを浮かべた。




艦橋の中心で、副艦長は何となしに一人呟いた。
「怒ってますかね、少尉」
「ええ、でも艦長に対してだと思います」
副艦長の嘆きを聞いていたオペレーターは頷きつつもそう言った。
「そうだといいんですが…まあ考えても仕方ありませんね
これからアステロイドベルトを迂回しながら進みますが
それでも障害物の多い地域なので総員気を引き締めてかかってください」
「了解しました」
艦橋のスタッフ達は一斉に副艦長に対して号令した。





広場の片隅で、まりさはぱっと見あるとは思えない腹の底から叫んでいた。
「ま゛り゛ざのおごづがいがあああああああ!?」
「へっへっへ儲け儲け」
Rは腕を差し入れてまりさの前に置かれた彼が普段使っているものとは二桁違う硬貨を自分の方に寄せた。

あの後、Rは散々あの手この手で天井を吊り上げていった。

そうして遂に青天井にまでなってから勝負はまりさの2勝7敗。
あまつさえその内最も大きな勝負も負けてしまったまりさは
あれほど潤沢だったまりさのポケットマネーは半分にまで減っていた。
まりさのカード運が悪いという訳ではないのだが
Rがまりさにいい手が入るとその表情や仕草から目ざとく気付き
すぐに降りてしまっているので、結果Rが勝ちを拾っていた。


そしてドロップで終わったものを除くと10回目になる勝負
まりさはどんどん熱くなって、負け分を取り返そうとかなり厚く張っていた。
「どうだ受けるか艦長!?」
「もちろんれいゆだよ!おねえさん!おかねをばいおいてね!」
「はいはい」
額に丸い汗を浮かべて壮絶な笑みを浮かべながら迫るRにまりさは雄々しく咆え返す。
Tはニコニコしながらまりさの帽子からたっぷりと硬貨を取り出して
ひーふーみーと手の上で数えていくとまりさの前に置いた。
それを見てRは息を呑んだ。

「それにしてもなんでこんなに勝てないんだろうねー艦長さん」
勝負の流れが読めず、能天気に首をかしげてTはまりさの頭を撫でた。


「それはまあイカサマしてるんだからそうなるだろうね」
「んな!?」
「ゆー!?」
「ええ!?」
それまで静かにその場を眺めていたSの突然の爆弾発言に、その場がざわ…ざわ…と沸き立った。
「どおいうごどおおおおおおお!?ぢゃんどぜづべいじでねええええええ!!!」
「なななななんのことだよ!?」
「えー、Rズルしてたの!?
それにSさんもどうしてこれまで言ってくれなかったの?!
酷いよぉ!」
まりさは泣き叫びRは驚愕の表情で硬直したままSの顔を見つめTは子どものように頬を膨らませて怒りながらSに詰め寄った。

「いや、イカサマしてるのは分かったんだけど具体的なところまでははっきりさせられなくてね
証拠が無いとイカサマの摘発は出来ないんだよ、こういう場合」
両手の平を上に向けてやれやれと首を振りながら事も無げにSは言った。
何も言えずに呆然とまりさとTはSの顔を見つめた。

「ひ…ひぃ~ひっひっひっひっひ!」
するとRは突然口元を吊り上げて気色の悪い笑いを上げ始めた。
「ゆ、ゆゆ!?」
「ど、どうしたのR?」
不気味なRの様子に腰が引けながらも、Tは何事かと尋ねた。
「ひぃ~ひっひっひ!そうだぜばれなきゃイカサマじゃぁ無いんだぜぇ!
俺のイカサマ指摘できるもんなら指摘してみろ艦長さんよぉ!!」
持っている五枚のカードを高々と掲げてRは叫んだ。
「オラァ!レイズだコラ!」
そして叩き付ける様にそれまで稼いだ有り金を全て掛け金に上乗せした。
「あー!開き直るなんて酷いよぉ!」
「ゆ、ゆゆゆ…!」
怒り心頭のまりさだったが、わめき散らしたいのを唇を噛み締めて我慢し
自分の手札をTの膝の上からみながら何かを思案するようにうんうんと唸り始めた。
恐らくどんなイカサマを使っているのかを考えているのだろう。
そして、何度もRの憎たらしい表情と、自分の手札の8からQのストレートを交互に見ると
最後に名残惜しそうにそれまでに賭けた金、残った金の半分ほどを見て
悔し涙を目元に浮かべながらまりさは言った。
「ゆ…どろっぷするよ…」
「おやおやどうした勝負しないのかぁ?
それかイカサマ指摘すれば俺のこれまでの勝ち分はそっくりそのままあんたのもんだぜ?」
顔を寄せて思いっきり憎たらしくみえるようにRはまりさに言った。
「まりさかてないしょうぶするほどばかじゃないからね…
なんどきこうとどろっぷはどろっぷだよ」
唇をブルブルさせながらまりさは震えた声で言った。
「そっかそっか残念、ドロップかぁ…」
Rは天蓋を見上げ、はぁ、と溜息をついてから手に持っていたカードをその場にパラリと捨てた。
カードはスペードのJ、スペードのQ、スペードのK、スペードのA

そしてハートの3。

「助かったぜ」
Rの手札は役無し
所謂豚だった。

「どお゛い゛う゛ごどおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?」
口から血でも吐き出すんじゃないかというほど大きく口を開いてまりさは悲鳴を上げた。
ガーン、という文字が本当に頭の後ろに浮いている。

「サンキュー、後でなんか奢らせてくれ」
「ここでお前の有り金が無くなったら向うに着くまでタカられそうだったしね
艦長さんにならいくら負けてもタカられる心配も無いし」
拳と拳をトン、と合わせてSとRは笑いあった。
「どぼじでぶだざんなのおおおおおおお!!ぢゃんどぜづべいじでよおおおおおおお!!!」

「まあ指摘出来る訳無いよな、やってもいないイカサマなんて」
「すみません艦長さん、イカサマってのは勘違いだったみたいで」
悪びれない様子でSとRは言った。
「ゆな!?」
もう何度目か分からない驚愕の表情でまりさはアングリと口を開いた。

「今後は豚で突っ走るとか心臓に悪いやり方はもう勘弁して欲しいな」
「いやすまんすまん、ここまでコテンパンにしたし強気に行けば降ろせるかなって
向うも強気に金吊り上げてくるから焦ったぜ」
二人はまた楽しげに話し始めた。
「ごん゛な゛の゛ずるだよおおおおおお!!
お゛ねえざん!ぢゃんどいっであげでべええええええ!!」

まりさはTの膝の上で彼女のおなかに飛び込んで泣きついた。
Tはニコニコ顔でよしよしとまりさの頭を撫でて言った。
「なーんだ、イカサマはしてなかったんだ
じゃあ恨みっこ無しだね」
そう言って手でたっぷりと詰まれたまりさの賭け金をRの方に押し出した。

「お゛ね゛え゛ざあ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああん!!!!」
一際大きい悲鳴を上げてまりさはTの顔を見上げた。


「ここに居やがったかこの放蕩饅頭!!」
和やか、といえばそういえなくも無い雰囲気を蹴散らして
この船の船員の制服を来た屈強な中年男が広場に割って入ってきた。
男はTの膝上からまりさの頭をむんずと掴むと、帽子も片手に持った。
「あー私の艦長さんがー!」
頭上高くに掲げ上げられたまりさにむかってTが手を伸ばした。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああん!!ま゛り゛ざのおごづがいいいいいいいいいい!!!」
「勝手にほっつくなって言ってるだろダボが!!」
男はまりさに鼻を突きつけて唾を飛ばしながらわめいた。
「どぼぢでぞんなごどいうのおおおおおおおおお!?
ま゛り゛ざがんぢょうざんなのにいいいいいい!!
い゛ぢばんえらいんだよおおおおおおおおおお!!!」
負けじとまりさも唾と涙を飛ばして叫び返す。
「うるせぇ!とっとと帰るぞ!」
呆然とその顛末を見ていたSとRと
まりさを取り返そうとするもずっと正座してたので足が痺れて動けずに
倒れこんでなみだ目で手を伸ばすTを他所にその男はドスドスと音を立てながら去っていった。



艦橋の中に小さな呟きが漏れる。
「うーん、おかしいなぁ」
観測士はレーダーの反応を見ながら眉間に皺を寄せて呻いた。
「どうしました?」
「なんか今一瞬進行方向に妙な反応が…」
副艦長に尋ねられて観測士は呻いた。
「気のせいじゃないのかしら?障害物の多い場所ですし」
横から気楽そうにオペレーターが言った。
「そうなのかなぁ」
「あんまり脅かさないでくださいよ、ただでさえ緊張してるのに」
若い操舵士の男はビクビクしながら言った。
このまま同道巡りを続けそうな議論は打ち切ろうと副艦長が片手をかざして発言した。

「ひとまずそのことは頭の片隅に置いて細心の注意を払い運航しましょう
特に乗客の安全を最優先に考えてね」
なんともいえないモヤモヤを艦橋に残して
大ゆっくりまりさ級ET-478295番移民船は障害物となる岩石類の多い宙域へと差し掛かった。




広場の片隅には三人の乗客が座り込んでいた。
「もー!あのおじさん酷いよ!」
Tは顔を真っ赤にして目に涙を溜めて立ち上がった。
足の痺れが取れたのだろう。
さっきまで足を抱えてゴロゴロと転がっていた。
「仕事放り出して賭け事にうつつ抜かしていたのは流石にああいう風に連れて行かれても仕方ないんじゃないかな」
広場の椅子に腰掛け、苦笑しながらSは言った。
「違うのー!私はあのおじさんの抱っこの仕方がなってないの怒ってるの!」
「そこかよ」
手をぎゅっと握ってじたばたさせながらわめくTを見ながら地べたに胡坐をかいているRは頭を掻き毟った。

「私ちょっとレクチャーしてくる!」
そう言って、広場の奥へ走って行ってゆっくりれいむを一匹抱きかかえた。
「ん?そのゆっくりはどうするんだい?」
「お手本見せながら抱っこの練習してもらうの!」
Sの問いにそう答えるとTはパタパタと職員区画へと通じる廊下へと走っていった。

「……」
「……しまった止めるべきだったか!」
はっと顔を上げてRは痛恨の表情で呻いた。
「僕も予想外の展開に声をかけるのを忘れてしまったよ」
二人はポリポリと頭を掻きながら立ち上がりTの後を追うために走り出した。


特殊なガラスで出来た窓の並ぶ廊下を走る。
その時ふと、Sが立ち止まって窓の外を見た。
「また天体観測か?」
振り向いたRの問いにSは怪訝な顔をしながら答えた。
「何だか星の感じがいつもと違うような」
ゆっくりという幻想を通して見る星々は現実に見える星の形とは違う
所謂星型の星々が明滅するメルヘンチックな情景だ。
その中にSは妙な違和感を感じた。
具体的に何が違うというわけではないのだが
普段かかっているフィルターの上にもう一枚何かがかかってぼやけているような違和感。
「毎日変わるんだろ?」
「言ったけどさ」
珍しく不満そうにSは呻いた。
「なら気にすんな、行くぞ
クルーに絞られる前に」
「ああ」
窓の外を眺めることへの未練をなんとか断ち切ってSはRについて走っていった。




僅かばかりの空白を残して、艦長は艦橋へと帰還した。
「ゆぅぅぅううう…!」
「チっ…」
すこぶる機嫌の悪そうに艦長を抱える少尉と
口惜しそうに歯軋りをさせている艦長を見て
艦橋に居た人間は全員うんざりと肩を落とした。

「おや艦長、休憩は終わりですか?
まだ休んでいて下さっても構いませんよ」
そんな中で副艦長は一人涼しい顔でそう言った。

「うるざいだばれ!ゆぅぅうぅうう!ぜんそくぜんしんだよ!!」
少尉の腕から飛び出すとぴょこんと艦長席に座り
八つ当たりでもするかのようにそんな命令を下した。
というか八つ当たりそのものだった。
「あ、艦長!そのことなんですけどさっき進行方向に妙な反応があったんで進路について再考を…」
「だばれ゛っでいっだでぢょおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
観測士の言葉を皆まで聞かずに目を血走らせたまりさは叫んだ。
「し、しかし今も一瞬ですが確かに妙な反応が…」
「ま゛りざはぜんぞぐぜんじんっでいっでるのおおおおお!!
ぐぢごだえずるな!!じね゛!ぞんなぐずばゆ゛っぐり゛じね゛!」
暴言上等で喚き散らしながらまりさは艦長席の中で地団駄を踏んだ。
まりさはさっきからずっと何から何まで自分の思い通りにならない事に異常なまでに苛立っていた。

「この野郎言わせておけばいい気になりやがって…!」
副艦長は腕を横に出して大きな拳骨を握り締めて殴りかかろうとする少尉を制した。
「艦長、少し落ち着いた方がよろしいかと」
そしてまりさに近づいてその両頬に手を置いて嗜めるように副艦長が言った。

「いいがらぜんぞぐぜんじんなのおおおおおおおおおおおお!!!」
しかしまりさは聞く耳持たなかった。
体を揺すって副艦長の手を振り払う。
「ふぅ…」
かぶりを振って、副艦長は慎重にじっくりと警戒しながら全速前進するように操舵士に伝えた。





職員用区画の長い長い廊下の先で、やっとSとRはTに追いついた。
「おいT!いい加減にしとけ!」
「そうだね、僕も戻った方がいいと…」
Sの言葉は最後まで言い終わることなく、閃光と爆音に飲み込まれた。






激しい振動に全員がうずくまりその場に合った物に掴まる。
「ぜ、前方から攻撃を受けました!直撃です!!」
オペレーターが
「被害は!?」
「居住区画に甚大なダメージ!殆ど吹き飛びました!」
「シャッターを閉めて気密維持を!
少尉は救助隊を編成して生き残りの救助をお願いします!
行けますか!?」
副艦長は混乱するクルー達に次々と命令を下していった。
「体力勝負の荒事なら任せろ!」
そう言うと少尉は艦橋から飛び出していった。
「気密服忘れないでくださいね!」
「わぁってるよ!!」
副艦長の冗談めいた言葉に少尉は一度だけ振り向くと
ニヤリと笑みを浮かべてまた走っていった。

「どお゛い゛う゛ごどおおおおおおおおおおおおおお!?」
大分他のクルー達よりゆっくり遅れてまりさはやっと何か大変なことが起こった事を認識した。
「今調べてます!」
珍しく焦りを隠さずに副艦長は叫んだ。

「解析完了しました!
こ、これは…」
観測士は計器から算出したその解析結果を見て言いよどんだ。
「報告早く!」
苛立ちを露に副艦長は切れ長の目で観測士を睨みつけた。
「た、対象は所属不明、全長7kmの巨大物…94.8%の確立でドスまりさ級の戦艦だと思われます…!」
「馬鹿な!」
副艦長は自分の目の前に機器を思わず叩きかけて
はっとしたように躊躇すると代りに爪が食い込むほど強く拳を握り締めた。
「強力なステルス機能により隠蔽されており断言は出来ませんが恐らく…」
「糞っ…まさかあんな巨大物をあそこまで高度に隠蔽する技術が存在しているなんて…!
全くゆっくりという奴はなんでもありですね…!」
震える声で報告する観測士の言葉に副艦長は力なくその場に膝をついた。

「どこかの星系の隠密作戦行動中に、発見されかねない距離まで近づかれたので消しにかかったんでしょうか」
「警戒しつつ進んでなければ一撃で消し炭になっていたでしょうね
…ほんの少しだけ寿命が延びただけでしょうが」
副艦長は苦々しく笑った。


「ど、どおいうごどなの!?ぢゃんどぜづめいぢでね!」
ぶるぶると体を震わせて目を見開きながらまりさがその場の全員に向けて喚いた。

「我艦、艦長のお母様が攻撃を受けお母様、特に居住区画は甚大な被害を被りました
今生存者の捜索に少尉が向かっていますが生存者は絶望的だと思われます
何せほぼ消し飛んでいますから
気密は辛うじてシャッター等で守られていますが心細いですね
出来る限りの応急処置は行いますがその部分がデブリに掠ればソレまででは無いかと思われます
艦長のお母様自体も大分危ぶまれる状況です、ドッグでメンテナンスを行わないともう長くないかと
攻撃してきたのはステルス機能で姿を隠していたドスまりさ級の宇宙戦艦です
恐らく何らかの作戦行動中にこちらが余りにも接近しすぎたため
艦ごと消えてもらおうと思ったのではないでしょうか」
冷静になったのかそれとも諦めの境地なのか
副艦長はスラスラと現状を纏めてまりさに報告した。

「ゆっぐり゛り゛がい゛でぎだいいいいいいいいいいいいい!!!」
一度に色々なことを言われて訳が分からずまりさは歯茎をむき出しにしながら叫んだ。

「かなり絶望的な状況ですがどうしますか艦長」
「ゆ、えーとえーととにかくど、どすとなかなおりを」
「向うにとしては早急に消えてもらった方が後腐れが無いから攻撃してきたんだと思います
作戦行動中だとしたら和平は愚か捕虜にして抱えても厄介なだけでしょうし難しいのではないかと」
あたふたと汗を飛ばしながら右往左往するまりさに冷めた表情で副艦長は言った。
「じゃ、じゃあおかあさんのちからでやっつけちゃえば」
「移民船である我が艦には大した攻撃能力はありません
一方向うは泣く子も黙るドスまりさ級の超ド級戦艦ですから
一矢報えても多分我々も死ぬので宜しければいいかと思います
個人的にはオススメです」
「じんだらだべにぎまっでるでぢょおおおおおおお!?
ゆー、もうにげるしかないよ!!」

「既に攻撃を受けて我が艦の機動性能は大幅に低下しています
ドスまりさ級ともなれば射程距離も桁違いですし
隠蔽行動中なのでドスパーク級の攻撃は使ってこないとは思いますがかなり厳しいですね
脱出艇ならデブリにまぎれて気付かれずに逃げられるかもしれませんが
人の居る惑星・衛星までは脱出艇の機動性能では一年以上かかる上に
この航路は大分寂れていて他の船が通る予定というのも私の知る限りではありません
寂れていて人気が無いからこそ、彼らもここに潜んでいたのでしょうしね

ドスから逃げ切れても生き残れる確立は、万に一つ二つ
まあこの船に残るに比べれば倍くらいの確率はあるんじゃないでしょうか?
それに一応今調べさせていますが脱出艇は居住区に備え付けていたので殆ど残っていないかと」
淡々と落ち着いた面持ちでまりさの出す案を否定していった。

「じゃあ゛どうずればいいのおおおおおおおおおおおお!?」
遂に万策尽きてまりさは劈くような悲鳴を上げた。
その耳障りさにクルー達も思わず耳をふさぐ。
「私の意見としては玉砕が散り際として美しいと思います」
「う゛る゛ざい゛ばがあああああああ!!
ざっぎがらま゛り゛ざがいっぢょうげんめ゛いがんがえでる゛のに゛ぃぃぃ!!!
ぐぢごだえばっがぢずるな゛あああああ!!
お゛ばえら゛な゛んが!
お゛ばえら゛な゛んがぁ゛!
ま゛り゛ざの゛おがあざんな゛ら゛!
がんだんにやっづげら゛れ゛る゛んだどおおおおおおお!!!」
もうまりさは艦長席の周りが水溜りになるくらい涙を流していた。
怒りか恐怖かそれとも二つが混ぜこぜになったのか分からないが見ていて気持ち悪くなるほど体をブルブルと震わせて
副艦長を睨みつけて唾を飛ばしながら喚いた。

「それはそうですが生き残りたいのでしたら今媚を売るべき相手は
艦長のお母様ではなくあちらのドスまりさではないかと」
ずっと張り付いた愛想笑いの後ろに隠していた、まりさのことを心の底から見下していた蔑みの視線を露にしながら
副艦長は半狂乱で喚くまりさを鼻で笑った。

「お゛ばえ゛らごの゛ぐずになんどがいっでやっでねえええええええ!!」
話にならない、とまりさはクルー達に向かって叫びすぎて喉が枯れてガラガラになった声で叫んだ。
しかし艦橋の者達は眉を顰めて一瞥すると、また自分の仕事に戻った。
「駄目ですよ艦長、みんな今忙しいんですから」

「ゆぐがあああああああああ!!」
まりさは白目をむき出して、怒り狂いながら叫び
副艦長の腕に噛み付いた。
「おやおや艦長、そんなことしても何にもなりませんよ」
痛くないということは無いのだろうが、涼しい顔で副艦長は言った。
「ゆ、ゅぅぅぅう~~ぅうぅぅうぅぅうぅ…!」
何もかも思い通りにならなくて、遂に怒りを通り越して悲しくなって
まりさは服艦長の腕に噛み付いたまましくしくと泣き始めた。
副艦長はそっとまりさを手で掴んで腕から離して艦長席の上に置いた。
「そこでじっとしていて下さい」
そう言うと副艦長はクルー達の報告を受けてはてきぱきと指示を下していった。
「ゆぅぅぅぅううん…ゆぅぅぅうううん…おがあざああああん…おがあざああああん…!
だずげでよ゛おがあざあああああん…!」
恐らくそのお母さんこそが今一番大変な状況に直面しているのだが
そんなことは理解できずにお母さんまりさに助けを求めながらワンワンワンワンまりさは泣いた。
上等なクッションを使った艦長席は軽く触れれば水が染み出すくらいびしょ濡れになった。

「生存者未だ発見できません!」
「ドスまりさからの第二撃、来ます!」
爆音、閃光、激震。
「左舷装甲に掠めました!」
「直撃しなかったなら上等です、次もその調子で」
ニッコリと微笑みながら操舵士に対して言った。

「無事な脱出艇、一機発見しました!」
「それはよかった」

「ゆゆ!それじゃまりさすぐそれにのるよ!ゆっくりだっしゅつていにのせてね!」
ぱっと泣くのをやめて、まりさは夏の花が咲くみたいな笑顔になった。
多分射している後光は幻想では有るが幻覚ではあるまい。

「なりません、乗客から生存者が発見された時のために脱出艇を今艦長のために使うことは出来ません
乗客に生存者が無かった場合は、僕を除く若いクルーから順番に乗ってもらいます
艦長、あなたが脱出するとしたらその後です」
ピシャリと希望に溢れたまりさに言い渡した。
「どぼぢでぞんなごどいうのおおおおおおおおおおお!?」
一転、まりさの顔はまた泣き顔に戻った。
「最後まで艦とその乗組員の行く末を見届けるのが艦長としてのあなたの責務です
まあ私より先になら艦長は脱出して下さっても構いませんから堪えてください」

「い゛や゛ああああああああああ!!ごんなどごいだらぢんぢゃうでぢょおおおおおおおお!?」
「残酷ですね、宇宙の旅は」
星を見ながら事も無げに副艦長は言った。

「ま゛り゛ざはがんぢょうなんだよ゛おおおおおおお!
いぢばんえ゛ら゛い゛のおおおおおおおおお!!
だがらいうごどき゛でね゛えええええええええええ!!!」
まりさは飛び上がり、副艦長に鼻を突きつけて唾を飛ばしながら喚いた。
「地位というものには相応の責任と義務がついてくるものなんです」
眉一つ動かさずに鉄の様に冷たい表情で副艦長は言った。

「う゛る゛ざああああああああああああああい!!!」
もはやかわいらしい面影は微塵もなく、自分の出した唾や汗にまみれてべたべたで負の感情渦巻く醜い表情のまりさは言った。
「私の提言は受け入れていただけませんか艦長
どうしても艦長権限で脱出艇を使うと
それを私は受け入れられません」
「じゃあお゛ばえ゛ばはんぎゃぐざいだよ!
ぢね!おばえなんがゆっぐりぢね!
はん゛ぎゃぐざいだよ゛!ぎゃぐぞぐ!ぎゃぐぞぐ!
ゆ゛っぐぢぢんぢゃええええええええええ!!」
まりさはもはや誰もが目を背けたくなるような醜態を晒した。
クルー達も普段ならばイヤイヤ一瞥はくれていたにもかかわらずもはや見向きもしない。
「それでしたら仕方ありません、私は反逆者になりましょう」
「ゆ?」
副艦長は胸元から何かを取り出した。
そして黒く鈍く光る重厚で何百年と人の手で愛用されてきたソレをまりさに突きつけた。
「ゆ…え、え…?ま、まりさにそんなことしてただですむと」

「これはクーデターなんですよ、糞饅頭野郎」
副艦長がそう告げた瞬間、幻想の力に包まれた艦橋に銃声が鳴り響いた。
弾丸が頭の片側を貫通して、反対側から弾けるように出口周りの餡子と皮を吹き飛ばしながら出て行った。
その幻想の存在は、そうして死んだ。
宇宙空間に放り投げても死なない幻想の存在も、討つ、という意思を持って人が立ち向かえば死ぬのだ。

人を遥かに凌駕する力を持つ幻想の鬼も、天を駆けイカズチを操る幻想の龍も、人を喰らう幻想の大蜘蛛だって
退治しに来た人間に切り付けられたり毒を盛られたりすれば死んでしまう。
何人かは失敗するかもしれないが、それでもいつかは退治される。

副艦長は銃弾が抜け出ていった側が盛大に吹き飛ばされたまりさを椅子から蹴落とすと
ゆっくり用に作られた小さな椅子に窮屈に座り船員達に告げた。

「今から僕が艦長になってこの艦を指揮させていただきます
異議の有る人は、まあ他に艦長に相応しそうな人を立てて反乱とかしてください
まあどうせみんな死にますしどうせなら派手に死に花咲かせたい人は
短い間でしょうが僕の指示に従ってください
守るべき乗客も殆ど死んでしまったようですし
少尉からの最後の報告が着たら
後はせめて弔い合戦がてらにぱーっとやらかしたいと思うのでどうかよろしくお願いします」

副艦長改め新艦長は、それまでの月の様な怪しく含みのありそうな表情ではなく
吹っ切れたような明るく太陽みたいに輝くいい笑顔で船員達に就任の挨拶をした。
そして手に持っていた拳銃は、ぽいと床に捨てた。
まるで自分を気に喰わない者はそれで自分を撃ち殺して好きにしてくれとでも言うように。

それまで自分の持ち場に集中していたクルー達は呆然と艦長席を見つめた。

「いやぁ、ずっと少尉の姿とか見てやめたらいいのにと思ってたけど
実際にこうやって上司に反抗すると気持ちいいなぁ」
物凄く晴れやかで満足げな笑顔で言う新艦長の顔を見て
クルー達はやっとのことで気を取り直すと顔を見合わせて苦笑しあった。
それは恐らくクルー全員が思っていたことだった。

「あ、そこの銃取りに来る人が居ないみたいなので信任されたと考えて命令下していっていいですか?」
新艦長はなんだかすっかり子どもの様に妍の声でクルー達に尋ねた。
「ええ、僕はそう思ってもらって結構なので早く指示をください」
最初に、観測士が言った。
「報告したい事項があるんですけどいいですか?」
「よろしくお願いしますね艦長」
それを口火に次々と新艦長を歓迎する声が上がっていった。
「こちらこそよろしくお願いします」
ニッコリと微笑むと、すぐに新艦長はクルーに指示を下し始めた。

全員まりさに対する不満が募っていたので最後の最後ですっきりすることが出来た。
「少尉から報告来ました!生存者未だ見つからず!酸素量が危険域に入ったのでこちらに帰還するそうです」
「残念です」
「ドスまりさからの攻撃が激しくなっています!これ以上は耐え切れません!」
「少尉が帰ってきて来次第すぐに反撃に移ります、玉砕覚悟で行きますよ」
「あの、特攻とかこの艦嫌がると思うんですけどどうしますか艦長?」
「職員区画のVIP室に前艦長のご兄弟がいたでしょう?
彼らを人…饅頭質にして脅せば大丈夫ですよ
特攻すれば子どもだけは脱出艇で逃がしてやるとかそんな感じで」
「了解しました、すぐに人を向かわせます」
「使うんですか、脱出艇?」
観測士が怪訝な表情を浮かべてもったいないとでもいいたそうに尋ねた。
「嘘も方言です」
新艦長の言葉に観測士は笑いながら仕事に戻った。

艦橋の中は、生き生きとした喧騒に満ちていた。
重い飾り物が取れてやっと伸び伸びと仕事が出来るようになったのだった。

「すまん!駄目だった!」
艦橋に気密服を着た少尉が飛び込んでくる。
「ありがとうございました少尉
お疲れのところ申し訳ないんですがすぐに操舵を代って下さい」
「任せろ!」
小脇に抱えていたヘルメットを放り投げると、すぐに操舵席に向かい若い操舵士の彼と入れ替わった。
急いでいたのでまりさの死体には気付かなかったようだった。
「さあ、散々な長旅でしたが最後に派手に一花咲かせますよ
私たちの乗客を皆殺しにしたことをあのドスまりさに少しでも後悔させてあげましょう!!」
まっすぐに腕を振りかざし新艦長は珍しく強く、大きな声で言った。
「了解!」
クルー達はぴったり息を合わせて敬礼した。
艦橋の人間達の心は確かに一つになっていた。





「…なんかすみません、空気読めない感じで」
「皆殺されてないぞー、俺生きてるぞー」
「艦長さんなんで代ってるのー!?前のかわいい艦長さんはー!?」
「おじさんたちゆっくりしていってね!!」
物凄く場違いなのを自覚しつつ、まりさが居ないとれいむを抱えて喚くTを置いてSとRはおずおずと艦橋に入っていった。


「ええー?」
彼らを見てオペレーターと観測士はきょとんとした顔で呻いた。
「よく生きてたなお前ら」
少尉が目を丸くして感嘆の声をあげた。
「すみません、訳有って職員区画の方に足を踏み入れていて…」
Sが申し訳なさそうに頭をさげた。
「いえ、どんな理由にせよ生きていて下さって何よりです」
新艦長は嬉しそうにおじぎを返した。
「ねえ艦長さんは!?艦長さんは!?」
Tが新艦長に詰め寄る。
「先の攻撃で名誉の戦死を遂げられました」
淡々とそう言うと新艦長はまりさの死体を指差した。
「いやああああああ!!!」
頭を抱えてTが叫ぶ。
「ゆっくりしていってね!!」
Tの手から開放されたゆっくりれいむがふわふわとその場を遊泳した。

一頻りあたふたした後、Rが口を開いた。
「最悪な船旅だったぜ」
「本当に申し訳ありません
全て私の責任です」
新艦長は深々と頭を下げた。
そのまま放って置くとずっと頭を下げていそうだと思ったRは手を振りながらもういいよと伝えた。
「本当に、こんなことになってしまって申し訳ないです」
ゆっくりと頭を上げて新艦長は言った。


「それで、僕らはこれからどうすれば…」
Sの方に振り向くと新艦長は行った。
「これから脱出艇に乗ってもらいます
余り分の良い賭けではありませんがそれでもここに残るより生き残れる確立は倍くらいはあります」
「0に何賭けても変わんないしなぁ…」
「まあ、0では無いと思います
時間が有りません、すぐにお連れします
手の空いてるもの、居なかったら無理になら手を開けられるものはすぐにこの方達を脱出艇まで連れて行ってください」
頭を掻き毟り言うRに新艦長は苦笑した。


溜息をついて、Sが言った。
「大変なことになりましたね」
「ええ、本当に…
無いとは思いますがもし私達の誰かが生き残れたら必ずこのお詫びをさせてください」
「といってもどちらも生き残れる確立は低そうですね」
目を窄めて申し訳なさそうに俯く新艦長を見てSは苦笑した。
「その時はせめて躯を弔う…のも宇宙空間に放り出されたら見つけるのは厳しいですね
せめてこの宙域に花でも手向けに来ます」
「それは嬉しいですね
僕らはまた宇宙船に乗るのは無理そうですし、せめて星の彼方から冥福でも祈らせてください」
そう言って微笑み会うと、最後に別れの挨拶をしてS達は脱出艇へと向かっていった。
クルー達は彼らに敬礼をして見送った。

「これです!早く乗り込んで!」
三人は、少尉が戻ってきて手の空いていた操舵士に連れられて脱出艇の前まで来ていた。
「最後までこれかよ…」
「多分僕らの棺桶だね」
「いいかも!」
「おっきなゆっくりしていってね!!」
全長6メートルの小ゆっくりれいむ級脱出艇を見てS達は口々に感想を言った。
Tと抱えられたゆっくりだけがそれを見て素直に喜んでいた。

操舵士がれいむのりぼんを弄ると口が開いて舌が階段の様な形で延びた
搭乗口は口からのようだ。
「ちょっと狭いですがガマンしてください!」
操舵士に従って三人は脱出艇に乗っていった。
「あなたは!?」
いつまでたっても乗り込もうとしない操舵士の彼に対してSがれいむの唇に手をかけながら尋ねた。
「今艦内はいくら人手があっても足りませんから!」
若々しい新芽のように快活にさわやかにそう言ってのけた彼にSから言えることはなかった。
「ご武運を!」
最後にSがそう言うとれいむの口が閉じられ、三人と一匹は奥の方へと押し込められた。



アステロイドベルトの岩々に紛れて、脱出艇は排出された。

幸い脱出した直後に撃ち落とされるようなことは無かったが
それが慰めになるかといわれると微妙なところだった。

「あーあ、これで一巻の終わりか…
あの艦長から巻き上げた金も無駄になっちまったなぁ」
Rは残念そうにたっぷりと硬貨の入った袋をジャラジャラと鳴らした。
「私はゆっくりの中で死ぬのなら悔いは無いわ!」
なんとも吹っ切れた男らしい、というか潔いことを言ってのけるT。
「こうやって宇宙の片隅で饅頭に包まれて死んでいくのか
なんだか言葉にしてみるとすごい奇妙な感じだね
幻想の存在に護られて進んできたたびの終わりとしてはそれらしいのかな」

幻想の膜を通した五つの棘を揺すって煌く星々を見ながらSは呟いた。
後ろから、ドスまりさの放ったと思われる一撃が星を照らして
まるで星の命が終わるときの超新星のごとく激しく輝いた。
これからすぐに死ぬS達にとっては、それが超新星だろうとそうでなかろうと同じことかもしれない。
どちらにせよそれはその星の見納めの最後に見る輝きだ。

「ゆっくりしていってね!」
れいむの言葉とは裏腹に流れ弾が彼らを吹き飛ばした。
瞼を通して瞳に届きそうなほどの閃光を受けて、星々は彼等にそこから見える最後の輝きを見せた。












































「ゆっくりしていってね!」
「当分そうするより他に無さそうだね」
Sは空を見上げながら呻いた。
「あるな、大気、植物も」
訳が分からず頭を掻き毟り目をぱちくりとさせながらRは唖然としてから言った。
「野原広ーい!空青ーい!」
青々とした緑の平原と雲ひとつ無い青空を見ながら
思い切り腕を広げて伸びをして深呼吸してTは元気良く声を上げた。
「あの近くに居住可能な星なんてあったのか?」
「無いから艦長さんはああも絶望的な響きの言い方をしたんだと思ってたけど…」
「でもあるよな」
「ワープでもしたのかな」
「そんな機能無いだろ」
野原に座り込んでSとRは肩の力を抜いて空を見上げながら話し合った。

「ねえねえ探検しようよ二人とも!」
すっかりはしゃぎながらTは座り込んでいる二人を見下ろした。
その鬱陶しいまでに明るい笑顔を下から覗き込んで、溜息をつきながら二人は立ち上がった。
「確かにこのまま座り込んで救助待っていてもしかたがないしね」
Sは両手の平を空に向けて思い切り伸びをした。
「色々と予定とは違うが、一応待ちに待った新天地だ
やれるだけやってみるか」
Rは腕まくりをしながら力強く歩きだした。

「ゆっくりしていってね!」
後ろから着いてきていたれいむの言葉に振り返ってSは何故自分達がここにいるかについて、ふと一つの考えが思い当たった。
何か別の幻想が、この幻想の存在、ゆっくりを呼び寄せて自分達はそれに連れられてここに居るのではないか。
例えばそう、この大地自体が幻想の存在で、自分達は今幻想の世界の中に居るのではないか
あのゆっくり宇宙船の中に居たときのようにという、そんな子どもからさえ一笑にふされそうな無茶苦茶な考え。

荒唐無稽な馬鹿馬鹿しい話だと自分で思いながらも
そんなことを色々と考えるのも楽しそうだと思ってSの顔には自然と笑みが浮かんだ。

世界は面白いことで溢れてる。
その内のいくつにこれから触れる事が出来るだろうか。
Rと同じく、Sもそのことをやれるところまでやってみようと思った。
いつもより少しだけ力強い足取りでSは歩いていった。







タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年11月17日 16:10
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。