注意書き
これは、落語の「まんじゅうこわい」を自分なりにアレンジしたSSです。
作者の落語に対する知識は乏しいですが、ご了承下さい。
fuku4339に同名のSSがありますが、内容は異なりますのでパクリではありません。
虐待お兄さんが出てきます。
メタネタ、パロディネタがあります。
虐待描写は少なめになっております。
――えー。11月ですナ。
――正確には、11月も終わりに近づいて、12月。
――まぁ、これはSSなので、別に五月とか六月に見て頂いても一向に問題ない訳なのですが、アタシの時間感覚では11月の末頃でございます。
――11月も末に入ってきますと、クリスマス商戦が始まりまして、あちらこちらの店でジングルベルのリズムが聞こえ出す頃ですナ。
――まだ一ヶ月も先なのに、お店の経営者様は気が早いものでございます。
――お師匠様が急ぐ師走の12月の事ですから、忙しくなるのも当然でございますが、まだ11月ですから。
――皆々様も、12月までに急いで片付けなきゃならん事があれば別ですが、そうでなければまだまだとばかりにのんびり過ごされると、健康によろしいと思います。
――かく言うアタシは、12月までに片付けなきゃならん事が山積みで、モー目が回りそうでございます。
――まずアレを片付けて、次にコレを片付けて…と、慣れない予定表を作って一つ一つ用を足している次第でございます。
――時間が足らない、徹夜で片付けてしまわないといけない、でも寝ないと用事を済ませる事が出来ない、でも時間がない…堂々巡りですナ。
――明日になるのが怖いというのは、ちょっとした火遊びの後の家に戻った日のカミさんの顔を見る以外にもある事だと、初めて知った次第であります。
――えー、さて。様々な人がいれば、様々な怖いものがあるものです。
――十人十色、虫だの爬虫類だの両生類だのと、その辺りは分かりますが、何でそんなものを怖がるのかと思うほどの方もいらっしゃいますナ。
――難しいこたぁ良く分かりませんが、なんちゃら恐怖症ってのがあるそうで。
――その伝で言えば、アタシはカミさん恐怖症でございます。
――ここに集まった面々にも、怖いものはあるものでして……
「おぅ、勝っちゃんは何が怖いんだい」
「ヘビだな、なんだ、こっちをジーと見て、舌をピロピロピロっと出したり引っ込めたり、また出したりして、気持ち悪いったらない」
「確かに嫌だな、ヘビのあのピロピロは」
「じゃあ、松っつぁんは何が嫌なんだい」
「カエルだなぁ、カエルはぬるぬるぬるぬるっと、あー、口に出すのも嫌だ嫌だ」
「そらぁ、ぬるぬるするのが奴らの仕事みたいなもんだ。それが嫌ならどうにもならんわな」
「お次、竹やんは何が嫌いだい」
「なめくじだな。さっきも道で会ったけど飛んで逃げたよ、2尺は宙に浮いたね」
「ヘビにカエルになめくじって…ムシケンじゃないんだから、そんなにまとめなくていいんだよ。お前ら三人律儀だなぁ」
「で、金っつぁんが嫌いなのはなんだい」
「アリだよ。なにやら触覚でごしょごしょ相談して、話がまとまったーって感じに離したのを見ると、それがおれの悪口じゃないかと思うともうそれだけで嫌んなる」
「あんた、妙なもん嫌うんだな」
「おい、鬼っちゃん、さっきからだまーってみんなの話を聞いてるけど、あんたの嫌いなものやら怖いものはなんだい」
「ないね、何にもない」
「また連れない返事だね。なんだい、あんた、何も怖いもんないのかい」
「何にもないね、ないったらない!」
「おぉぉ、おいおい、何も怒るこたぁないじゃないか、そういう時は普通にないって言えばいいんだよ」
「だからないって答えてるんじゃあないか。そもそも、ぼかぁ聞かれた事に怒ってるんじゃあないんだ、あんまり下らない話してるから怒ってるんだ」
「いいか、ご歴々。人間は『万物の霊長』って言われてるんだぞ。人間は一番偉いんだ。その人間様が怖いって、なに馬鹿な事言ってんだい」
「なんだい、おまえさんはヘビが怖いとか言ってたな、ぼかぁヘビを見たらゾーッとするね」
「震えが来るって、怖いんじゃあねぇか」
「なに馬鹿な事言ってんだい、震えるのはあんまり手ごたえないからじゃあないか」
「手ごたえ? あんた、ヘビをどうするんだい」
「頭ぁ潰してそのまま焼いて食っちまうのよ、決まってるだろ」
「ヘビを潰した上に焼いて食っちまう? ヘェー…じゃあカエルは?」
「カエルなんてものは潰してから味噌漬けだな、何日か漬けとくといい具合に飯が進むんだ」
「そいつぁ凄いな、じゃあ、なめくじはどうすんだい」
「なめくじなんぞは塩ぶっかけて、潰して焼いちまえばいいんだよ」
「何言ってんだい、塩かけたら溶けっちまうじゃねぇか」
「馬鹿言いなさんな、その溶けかけのが美味いんじゃないか」
「いやいや、ホラにしても大したもんだ。じゃあアリンコはどう食べるんだい」
「アリ? アリンコなんぞ、ごま塩のごまが足りない時にパッパッとかけちまえばいいんだよ」
「食べちゃうのかい?」
「おぅ、アリンコの方がごま塩よりちっちゃいからな、そっちの方が食べやすいんだ」
「なんだい、そりゃ。ちょこちょこ逃げまわって食べにくいんじゃないのかい」
「そんなの、潰しっちまえばいいじゃあないか」
「大体、ぼかぁ何でも潰して食っちまうんだ、みんなも怖がってないで潰しっちまえばいいんだよ」
「怖いものなんて何にもないんだ、怖いもの…うっうっうっ」
「なんだい、いきなり泣き出しちまって」
「みんな悪かった…思い出したよ、思い出しちまったんだよ」
「何を」
「怖いもの。みんな、悪かった! 僕も人のこたぁ言えないんだ!」
「いいよいいよ、別に怒っちゃあいないよ」
「そうか…ありがとう、ありがとう」
「怒ったり泣いたり怖がったり喜んだり、忙しいねぇ。そんで、何が怖いんだい」
「いやいやいやいや、それだけは言わん! 言えるわけがない」
「なんだい、人の怖いもん聞いていて自分だけは言わないってどういう了見だい」
「これは口に出すのも嫌なんだ、あー、考えるのも嫌だ。イヤだイヤだ」
「そんなに怖いものがあるのかい。なんだい、言ってみな。悪い様にはしないから」
「そんなら言うけど。怖いものは、
ゆっくりだ!」
「ゆっくり?」
「ゆっくりだよ! あぁぁ…怖い怖い。松っつぁんじゃないが、口に出すのも嫌だ」
「ゆっくりってぇと、あんた、あの饅頭なんだか生き物なんだかわからない『ゆっくりしていってね!』って言うしか能のないあの…」
「わァーッ、言うな、言わないでくれ! 体の震えが止まらなくなっちまったじゃぁないか!」
「あァ…あんなものの話をしたから熱まで出てきたみたいだ、もう家に帰る」
「…青い顔して帰っちまった、なんでゆっくりなんてものが嫌いなんだかなァ」
「さてなぁ。きめら丸でも見たかな」
「奴もゆっくりなんだ、叩き潰すか、できなきゃァ離れたらいい話じゃあないかい」
「いやいや、鬼っちゃんはあれだな、普段は大人しいからなぁ、潰す事も逃げる事もできずに震えてたんだろうよ」
「ちがいない…そうだ、面白い事思いついた」
「鬼っちゃんの家にゆっくりを持っていけば“ヒィー”っと悲鳴上げて逃げ回るだろうなァ」
「なるほど、そいつぁ面白そうだ」
『ゆっくりしていってね!』
『ゆっくりしね!』
『ふらんだぁぁぁ! ゆっぐりでぎないよぉぉぉ!』
「これだけ集まるとやかましいなぁ、鬼っちゃんの家に行くまでに気付かれっちまうぞ」
「そうだ、別に悲鳴は上げなくてもいいんだから、口ぃふさいじまおう」
『なにするのおにいさん、ゆっくりやめてね! ゆっぐ…』
『まりさにひどいこ…』
『ゆっくりでき…』
「全部ふさがったらいっぺんに静かになっちまったよ。それだけやかましいってぇ事だね」
「でも、入れてる木箱がごとごとごとごとやかましいぞ、こいつぁどうすんだい」
「ごとごと揺れるのはしかたねぇな、死んだゆっくりなんぞ投げ入れても埒があかない。ほれ、行くぞ」
「ところで、ふらん持ってきたのは誰だい、ただでさえうるさい奴らがもっとうるさくなっちまったじゃァないか」
「まぁ、いいや。持ってきちまったもんは仕方ねぇ、じゃあいくぞ、それッ」
「ヒャハアァーッ! ゆっくりだぁぁぁ!!!」
「おぅおぅ、悲鳴あげてらぁ」
「ヒャアアアアァァァーッ!!! ゆっくり、ゆっくりぃーーーー!!!」
「よっぽど怖いんだな、叫びっぱなしじゃねぇか」
「ヒァッハッハッハァ! ゆっくりがこんな、こんなにぃーーーー!」
「おい、おかしいぞ、なんか楽しそうじゃぁねぇか?」
「まずいぞ、ひょっとしてあれだ、あれ…になったんじゃァないか?」
「そんなに口ごもらなくても、きち○いって言えば簡単じゃァないか」
「いや、いやいやいや…それは言ったらまずい! だめだぞ、事情があるんだからだめだ!」
「そんなに怒るこたぁないじゃないの、きち○いって言っただけで」
「あァーッ、二度も言った! お前、もう言うなよ。言ったが最後、表を出歩けなくなるからな」
「分かった、分かったって…そんな事より鬼っちゃんだ。あいつ、さっきからずっと叫びっぱなしだぞ」
「本当におかしくなっちまったんかなァ」
「いや、そう短絡的に考えたらだめだ。まずは様子を見ないと、どうなってるか分からんからなぁ」
「うん、そう。その通り。じゃあ、ちょっと、のぞいてみるか」
「フヒ、イヒヒヒ…ゆっくりに囲まれてるなんざぁ、夢みたようだなァ」
「ヒヒッ、こいつぁれいむ、こいつぁまりさ、こいつぁふらん、こいつぁ…なんだ?」
「なんだい、おりきゃらかい。あァ? 『み・の・り・こ』だって? おりきゃらはおりきゃらでいいんだよ」
「おお怖い、怖い怖い、あんまり怖いから…」
「ヒャッハァァァ!!! 虐待だぁぁぁ!!!」
「アァー!」
「なんだ、誰かに掘られたか?」
「馬鹿言ってる場合じゃァないよ、あれ、あれ見てみろ」
「ふんっ、ふんっ…あー、こんな怖いものは全部潰してやらないと気が済まないぞ、ふんっ、ふんっ!」
「なんだ、ありゃア、全部素手で叩きっ潰しちまってるぞ」
「怖いから潰しちまってるんじゃぁないのかい?」
「いやァ、あれだけ笑顔で潰すなんてないわ。ありゃア
ゆっくり虐待が大好きなんじゃァないのかい」
「こいつぁ…だまされたんだ! おい、お前ら行くぞ!」
「おい、鬼っちゃんよ、これぁどういう事だい!」
「いやァー、みんなぁ、すまねぇな。ぼかぁ、本当はゆっくり潰すのが大好きなんだ」
「ごめんで済んだら手にお縄はかけられずに済むんだよ、これだけのゆっくりどもを捕まえるのにどれっだけ苦労したか!」
「大人しいと思う奴ほど怖いってぇ事だな…で、鬼っちゃんの本当に怖いものは何だ!」
「あァ、今度は口の開いたゆっくりが怖い」
――えー、ゆっくりこわいでございました。
作者当てシリーズ
最終更新:2008年12月06日 07:55