※ほとんど虐待していません
一本の木があった。
「ねぇ父ちゃん、この木、なに?」
「この木はな、俺が小さい頃からここに在ったんだ。俺の親父、つまりおまえの爺ちゃんだな、爺ちゃんが小さい頃にもここに在った」
「いつからあったの?」
「さあなぁ。爺ちゃんのそのまた爺ちゃんの頃か、それともそのまた爺ちゃんの頃か……ずっと、ずぅっとここに立っていたんだろう。御神木さ」
「ごしんぼく?」
「神様が宿ってるってことだよ。さ、お参りしてこう」
「ゆゆっ! すっごくおおきいね!」
「ほんとうだね! すっごく
ゆっくりしてるね!」
「ここならゆっくりできそうだよ!」
「みてれいむ! おおきなどうくつさんだよ!」
「とってもゆっくりしてるね! ここをれいむたちのおうちにしようね!」
「すごくゆっくりできるね!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「おい、ウロん中にゆっくりがいるぞ!」
「畜生、コイツら御神木に住み着きやがった!」
「ゆゆ? やめてね! ここはまりさたちのおうちだよ!」
「うるせぇ! てめぇらみたいな饅頭にゃわからんだろうがな、この木は里の御神木なんだ!」
「そんなのしらないよ! ぷんぷん! ゆっくりできないにんげんはさっさとでてってね!」
「おい、早くコイツらを出せ!」
「ゆゆゆっ! やめてね! れいむをいじめないでね! ゆっくりやめてね!」
「まりさおこるよ! まりさにかかればにんげんなんていちころなんだからね!」
「黙れクソ饅頭が! ったく、おい、誰か先生呼んでくれ」
「さっさと潰しちまえよそんな奴ら!」
「御神木をこんな奴らの餡子で汚すわけにはいかん」
「ゆゆ! はなしてね! いたいよ! はなしてね!」
「ゆゆ~ん、おそらをとんでるみたい!」
「チッ……罰当たり饅頭が」
「能天気な奴らめ。……なんでこんな奴らが巫女様やら霧雨ンところの嬢ちゃんと似てるんだ?」
「おい、黙っとけよ。万が一巫女様や嬢ちゃんに聞かれたら……」
「そうだな……」
「いたいよ! はなしてね! はなし……ゆぎゃあああぁぁぁぁぁ! ばりざのお゛め゛め゛があ゛あ゛あ゛!」
「まりさ! ゆっ、やめてねおじさん! まりさいたがってるよ! やめてね! ……どぼじでむじずるのぉぉぉぉぉぉ!?」
遥か昔からそびえる、一本の木があった。
暗い小道があった。
「お腹空いたー」
「お? ルーミアじゃん。久しぶりー」
「みすちーお腹空いたー」
「出会い頭に飯の催促とは何様だ……」
「お客様ー」
「はいはい。ご注文は?」
「じんにくー」
「人肉はめったに入らないから無いってば」
「じゃとりにくー」
「ねぇ喧嘩売ってる? 私に喧嘩売ってるの?」
「みすちー、おいしそう……」
「って標的は私か! 食うなー!」
「ゆゆっ! はやくおうちにかえらないとゆっくりできないよ!」
「ゆっ? あそこにあかりがあるよ!」
「ゆっくりできそうだね! それにいいにおいもしてきたよ!」
「ゆっくりしていってね!!! れいむにごはんちょうだいね!」
「ゆっくりしていってね!!! まりさをゆっくりさせてね!」
「ん? なんだゆっくりか……」
「おー。お饅頭だー」
「ちょうどいいじゃん。それ食べれば?」
「ゆぅ? どおしてれいむにごはんださないの? ばかなの? しぬの?」
「ゆっくりしてないおばかなにんげんさんはゆっくりしんでまりさにごはんちょうだいね!」
「……みすちー、私たち、人間だってさ?」
「馬鹿に死ね、か……。饅頭が喋っていい言葉じゃあないよねぇ」
「よく見たらこれ、霊夢にそっくりじゃない?」
「こっちは魔理沙の奴に似てるね」
「れいむはれいむだっていってるでしょ!? ばかなにんげんさんにようはないよ! はやくごはんちょうだい!」
「まりさはまりさだよ! いいかげんにしないとまりさおこるよ!」
「れいむにかかればにんげんなんていちころなんだからね! ……ゆびぃ!?」
「人間にも勝てない饅頭が何言ってるのかなー?」
「ルーミア、ゆっくりってさ、苦しめれば苦しめるほど甘くなるらしいよ」
「ほんと? それじゃあ、めいっぱいいたぶろうか」
「生意気な口叩いた罰ね。あー、あ゛ー、あー、よし」
「やべでね! やべでね! れいむはおいしくないよぉ!」
「花木は眠れ 獣は眠れ 此処は宵の入り口なるぞ♪」
「ゆっ!? おばさん! へんなうたうたわないでね! うるさいよ! ゆっくりできない!」
「蟲は踊れ 妖は踊れ 此処は怪奇の宴なるぞ♪」
「あー、ああなったみすちーは止まんないから。ところで、これ痛い?」
「いっだあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!? やべでぇぇぇぇぇ!!」
「ゆっ、まりさはにげるよ! れいむはゆっくりいたぶられてね!」
「どぼじでばりざぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「あ、逃げた」
「我らは紅 紅は夢 橋を渡りし夢なるぞ♪」
「ゆぅ、これでゆっくりでき……どぼじでなにもみえないのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「みすちーの歌、ゆっくりにも効くんだ。もぐもぐ、あまーい」
「でいぶをだべないでぇぇぇぇ!」
「ぐらい゛ぃぃぃぃぃ! ごわ゛い゛よ゛ぉぉぉぉぉぉ!」
古くからあやかしの出る、暗い小道があった。
とても広い湖があった。
「おまたせ!」
「チルノちゃんおそーい」
「早くあそぼー」
「今日は何して遊ぶ?」
「かくれんぼ?」
「オニごっこ?」
「ねぇねぇ、昨日森の奥に洞窟見つけたんだけど、そこ探検しない?」
「あ、ちょっとスター! あれは私が見つけたんだってば!」
「それくらい別にいいじゃない……」
「それじゃいこっか!」
「おー!」
「ゆゆっ? どうくつさんをみつけたよ! ゆっくりできそうだよ!」
「ここをまりさたちのおうちにしようね!」
「ちようね!」
「ゆ~」
「ゆっきゅりー」
『ゆっくりしていってね!!!』
『ゆっくちちていっちぇね!』
「ゆ! まずはひっこしのじゅんびをするよ!」
「ちゅるよ!」
「到着ー! あたい一番乗り!」
「チルノちゃん待ってー」
「あれ?」
「チルノちゃん?」
「チルノー?」
「みんな待って。……ヘンなのがいる」
「スター?」
「ええ。……少し大きいのが二つ、小さいのが四ついるわ」
「なにかしら?」
「ちょっと誰か行ってきなさいよ」
「それじゃあたいが行ってみる!」
「チルノちゃんがんばって!」
「気をつけてねー……って」
「ゆゆっ? ゆっくりしていってね!!!」
「なーんだ、ゆっくりじゃん」
「ちょっとスター、あんたわかってたでしょ」
「まあね」
「…………」
「どうする?」
「なんかねぇ……興ざめしちゃうよねぇ」
「ゆゆ? ゆっくりしてね! ゆっくりしてないひとはきらいだよ!」
「こいつらで遊ぼっか」
「そうしよっか」
「凍らせる?」
「ゆ!? おねーさんさむいよ! どっかいってね!」
「そだ、ちょっと私試したいことあるんだけど」
「ゆゆ!? こんどはまぶしいよ! おめめがあけられないよ!」
「あ、私もいい?」
「……! ……? …………!!」
「もう全部湖のほうに持っていこうよ」
「あたいこれね! このでかいやつ!」
「チルノちゃんずるーい」
「ゆ゛っ! つめたいよ! はなじでね! づめだいぃぃぃ!」
「じゃ、洞窟探検は今度にしよっか」
「ねぇ、奥のほうにちっちゃいのもいるよー?」
「ゆ゛っ! やべでね! ばりざどぢびぢゃんにでをだざないでね!」
「ねぇ、こいつなんか言ってるよ」
「いいから早く湖に帰ろうよ」
「い゛や゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
妖精が舞い踊る、とても広い湖があった。
薄明かりの森があった。
「お、こりゃ食えるな。こっちは……おお、見たことないやつだ。これは平気、こっちは毒だな」
「一体どのくらい採取するつもりなのよ……」
「まぁこんなもんだろ。アリス、おまえも食っていけよ、手伝ってくれた礼だぜ」
「丁重にお断りさせていただきます。よくもまぁあんな散らかった家で生きていけるわね」
「アリスの家は綺麗過ぎる。魔法使いならもっと散らかってるべきだ」
「はいはい。何か作ってくれるんなら私の家に来てちょうだい」
「おお? 珍しいな、アリスの方から誘うなんて」
「……魔理沙はもう少し整理整頓を心がけなさいよ」
「明日からはじめることにするぜ」
「つまり片付ける気は無いわけね」
「明日って今さ」
「じゃあ今からやりなさい」
「アリスがネタに乗ってくれないぜ」
「知らないわよ」
「ゆっ! これはたべられないきのこだよ!」
「ゆゆっ! まりさはなんでもしってるんだね!」
「ゆっへん! ゆっ、こっちはゆっくりできるよ!」
「ゆっくりできるんだね! むーしゃ……」
「ちょっとまってねれいむ!」
「ゆ? どうしてじゃまするの?」
「そのきのこはゆっくりはできるけど、たべすぎるとゆっくりできなくなるよ!」
「ゆっくりできなくなるんだね! ゆ? ゆっくりできるの? ゆっくりできないの?」
「ゆっくりできないよ!」
「ゆっくりできないんだね! さすがまりさ!」
「ゆっへん!」
「おお、こいつを探してたんだ」
「ゆゆっ? おねーさんだれ?」
「ゆっ!? そのきのこはたべるとゆっくりできなくなるよ!」
「まぁこいつは依存性があるからな」
「そんなキノコどうするのよ」
「今新しいスペルの開発中なんだよ」
「ろくなスペルにならなそうね」
「ゆぅ? どうしてゆっくりできないきのこをむーしゃむーしゃするの?」
「食べてはいないだろ、採取しただけだろが。……よし、ここで魔理沙さんのキノコ講座でもやるか。おまえら実験台な」
「ゆ?」
「じっけんだいってなに? ゆっくりできる?」
「ああ、楽しい幻覚が見られるぞ。ホレ」
「ゆむっ!?」
「ちょっと、魔理沙?」
「ほれほれ、ちゃんと食べろよー」
「むむむむ……」
「何がむむむだ」
「やめてね! れいむにひどいことしないでね!」
「むー、むー、むぅぅぅ……」
「だめだよれいむ! たべたらゆっくりできなくなるよ!」
「むーむ、むーむ、むぅぅぅ~」
「だべぢゃだめぇぇぇぇぇぇ!」
「よし、飲み込んだな。いいかアリス、コイツには毒がある。少量なら大したことないが、こいつらくらいの小動物が食うと危険なんだ」
「動物なの?」
「饅頭だけどな。コイツは食べるとやけに幸せな幻覚を見る。たとえば好きな奴と一緒に暮らすとか、美味いもんたらふく食ってるとかな」
「ゆぅぅぅ~、しあわせー」
「どぼじででいぶだべぢゃっだのぉぉぉ!?」
「まりさもしあわせーだよねぇぇ? ほらおちびちゃんすーりすーりしようねぇぇぇ」
「おぢびぢゃんなんでいないよぉぉぉぉ! ぞればいじごろだよぉぉぉぉ!?」
「まぁ、効果は短いけどな。で、今度は一気に頭痛と吐き気が襲ってくる」
「……ゆ? おちびちゃんは? ここはどこなの? まりさどうしたの?」
「どぼじでぇぇ……どぼじでだべぢゃうのぉぉぉ……」
「ゆぅ? れいむゆっくりできた……よ……? ゆ、ゆうえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」
「おーおー、ひどい顔だな」
「ちょっと待って魔理沙。まさかあんた、食べたの?」
「……隣の家の芝は青いなぁアリス!」
「ちゃんと目を見て話しなさい」
「…………アリス、フグって知ってるか? 香霖から聞いたんだがな、フグってやつは猛毒を持っててな」
「食べたのね」
「ああ食べたよ! あのときは少しだけやばかったぜ!」
「まったく……」
「いだいぃぃ……お、おねえさん! きのこちょうだい! あのきのこもっとちょうだい!」
「あ? 駄目だ。あのキノコはなかなか珍しいんだよ。まぁ安心しろ、一日くらい我慢すれば元に戻るから」
「どぼじでいぢにぢもがまんじなぐぢゃいげないのぉぉぉ!?」
「ゆぅ……れいむ……」
「ところでそっちの私に似てるヤツ」
「ゆゆっ!? まりさにさわらないでね! ゆっくりできないにんげんはゆっくりしね!」
「魔理沙がオリジナルとは思えない口の悪さね」
「アリス……おまえのゆっくりはもっとひどいぞ」
「言わないで」
「さてと、おまえにはこの見たこと無いキノコの毒見をしてもらおう」
「ゆゆ!? だめだよおばさん! それはたべたらゆっくりできなくなるよ!」
「なんだ、おまえこれ知ってるのか?」
「そうだよ! だからゆむっ!?」
「だからなんだ? 私はおばさんじゃなくてれっきとした乙女だぜ。ほら、ちゃんと食ってくれよ」
「乙女ぇ……?」
「なんだよアリス」
「いや、別に……乙女、ねぇ」
「むぅぅぅぅ! む゛うううう!」
「よし飲み込んだ。……あれ、しまった、家にノート忘れてきちまった」
「なんのノート?」
「キノコのノートだよ」
「ゆ゛ぅぅぅ……ばばぁは、ゆっぐり、じねぇぇ……」
「明らかに元気が無いな。しかも息も荒い」
「ゆぎぃぃぃ……、ゆべっ!?」
「うわっ、餡子吐きやがった。あー、死んだなこりゃ」
「ねぇ、ところで魔理沙。あの幻覚見るキノコ、食べたことあるんでしょ?」
「あ? ああ」
「何を見たの?」
「なっ!? べ、べつになんだっていいだろ!?」
「あやしい。さぁアリスおねえさんに正直に吐いちゃいなさい!」
「ううう、うるさいっ! 絶対に教えてやるもんか!」
魔法使いの声が木霊する、薄明かりの森があった。
花弁が舞う畑があった。
「ゆゆ! ここはゆっくりできそうだよ!」
「きいろくておっきくてゆっくりできるおはなさんだね!」
「ゆっくりできるおはなさんはゆっくりれいむたちにたべられてね!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~♪」
「もっとたくさんたべようね! おはなさんかんたんにおれるよ! もっとおろうね!」
「ゆっくりおられてね!」
「ここをれいむたちのゆっくりぷれいすにしようね!」
「まりさたちにふさわしいおうちをつくろうね!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~♪ まだおはなさんはたくさんあるよ!」
「おなかいっぱいになるまでたべようね!」
「ゆっくりしていってね!!! ここはちじょうのらくえんだね!」
「ゆっくりしていってね!!! ゆっくりのためのえでんのそのだね!」
「ゆぅ~? なんかへんだよ! からだがむずむずするよ!」
「ゆゆっ? まりさもだよ! からだがちくちくするよ!」
「ゆゆっ!? まりさ、むしさんがまりさのなかからでてきたよ!?」
「ゆゆっ!? れいむ、れいむのあたまからおはなさんがはえてきたよ!」
「ゆぅぅ? ……ゆげっ! が、ああ、あああいあああ」
「でいぶー!? ……ゆぎっ! ゆがぁぁぁぁ! むじざんやべでね!?」
「あれ、こんなところにゆっくり? ……あー、こっちは幽香様の仕業だな。こっちは幽香様の恋人ってヒトのかな?」
「エリー、なにやってるの?」
「ああくるみ。ちょっと散歩よ散歩」
「ふーん」
おぞましき怪異が潜む、花弁が舞う畑があった。
ヒトを迷わせる竹林があった。
「おねーちゃん、こわい……」
「大丈夫さ。ほら、私と手を繋いでるだろ」
「でも……ここ、何かいるよ」
「兎かね」
「わかんない」
「安心しな、私と一緒にいれば妖怪は寄ってこないよ。早くその腕、治したいだろ?」
「うん……」
「大丈夫だって。私はこの竹林に二番目に詳しいんだから、絶対に迷ったりしないよ」
「二番目?」
「一番詳しいのはてゐっていう妖怪兎なんだけどね。ほら、着いた」
「あのお屋敷が……?」
「そ。永遠亭。おまえさんの腕を治せる医者がいるところだよ」
「ゆゆっ! とってもひろいおうちだよ!」
「ここはまりさとれいむのおうちだよ! うさぎさんはゆっくりしないででてってね!」
「あー……ゆっくりか。ししょうー?」
「はいはい、どうしたのてゐ? あら、ゆっくりね。ちょうどいいわ、実験に使うゆっくりが少なくなっていたのよ」
「師匠、妹紅が患者連れてきましたよー」
「今日は忙しないわねぇ。てゐ、そのゆっくり捕まえておいて」
「へーい」
「ゆゆ!? ここはれいむとまりさのおうちだよ! はやくでていってね!」
「千年早いよ、饅頭共」
「ゆっ! まりさのぼうしかえしてね! それがないとゆっくりできない!」
「はいはい、ゆっくりしたけりゃ私についといでー」
「おーい、来たぞー」
「別にそっちから来なくてもいいのに。あら、その娘?」
「ああ。里の農夫の娘なんだが、ゆっくりの大群に腕噛まれてな」
「腕を? ……ゆっくりが知恵を得てきている?」
「知らないよ。早くこの娘の腕を治してやってくれ」
「ゆうううーっ! はやくまりさのぼうしかえしてね!」
「それはれいむのりぼんだよ! ゆっくりかえしてね!」
「はいはいこっちこっち。あ、師匠」
「てゐ……この娘が怖がるから」
「ひ……っ!」
「ゆゆっ!? あのにんげんさん、このまえれいむたちにごはんくれたひとだよ!」
「ほんとうだね! おねーさんまたおいしいごはんちょうだいね!」
「ちょうだいね! そしたらおれいにれいむたちがおねーさんをゆっくりみたいにしてあげるよ!」
「あたまだけになったらゆっくりになれるよ! げらげらげら!」
「……この娘が野菜運んでたら、ゆっくりがいきなり襲ってきて、ついでに怪我負わせたそうだ」
「そう。てゐ、その二匹、八番に持ってって」
「りょーかーい」
「ゆゆっ! れいむのりぼん!」
「まりさのぼうしかえしてね!」
「……八番?」
「ゆっくりをなるべく生かし続ける実験の真っ最中よ」
「……そうかい」
「それじゃ、こっち来て。このくらいなら私の薬でなんとかなるから」
「は、はい」
「そんなに緊張しなくてもいいよ。こいつ、中身は黒いが腕は確かだ」
生も死も無い永遠の蓬莱人形が住む、ヒトを迷わせる竹林があった。
滝が落ちる山があった。
「厄いわ」
「いきなりどうしたのよ雛」
「にとり、そっちの番だよ」
「むむむ、あちこちで小さな厄が発生しているわ」
「どうせゆっくりでしょ? ……王手獅子取りっと」
「はい」
「うっ!?」
「ふふ、椛の逆転ですね」
「いえ、射命丸様、にとりは強いですよ。まだまだここからです」
「お願いしますよ二人とも、今回の妖怪の山中将棋大会決勝戦は私の新聞の一面を飾ることになってるんですから」
「大会ってもにとりと椛と一部の天狗くらいしか参加してないけどね」
「雛さん、それはいいっこなしです」
「王手」
「あっ!」
「待ったなしだよ」
「あ、今竹林の方から物凄い厄が発生したわ」
「すごくおおきなおやまさんだね!」
「このやまぜんぶまりさたちのものだね!」
「ゆゆっ! すごくおおきなたきさんだね!」
「すごいおとだね! でもぜんぜんゆっくりしてないね!」
「たきさんゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」
「どぼぢでゆっぐりじでぐれないのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「ゆっ! ゆっくりしないたきさんはゆっくりしね!」
「ゆゆっ! まりさかっこいー!」
「ゆぎゃっ!? がぼごぼごぼ……」
「ばりざぁぁぁぁ!? だれがばりざをだずげでね! ばりざがおぼれぢゃうでじょぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「ゆっ…… …………」
「ばりざがじんぢゃっだぁぁぁぁぁぁ! どぼじでだれもばりざをだずげでぐれないのぉぉぉぉぉぉぉ!」
多くの妖怪が暮らす、滝が落ちる山があった。
毒花の咲く丘があった。
「ゆゆっ! きれいなおはなさんがさいてるよ!」
「たくさんはえてるね! ゆっくりできるね!」
「きょうはいっぱいすーりすーりしようね!」
「あしたになったらあかちゃんうまれるかな?」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~」
「ゆゆっ! まりさずるい!」
「でもこんなにあるよ! おなかいっぱいになるまでたべようね!」
「コンパロ~」
「ゆゆっ? なんだかまりさ、へんだよ!」
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ」
「どうしたのまりさ! ゆっくりしてね! ゆっくりしてね!」
「ゆっぐりでぎないれいむはじねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉ!?」
「コンパロ~」
「ゆ? どうしたのれいむ? おなかすいたの?」
「ばりざのばがぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ゆゆっ? どおしたのれいむ?」
「ゆっぐりでぎないのはばりざのぼうだぁぁぁぁぁぁ!」
「ゆっ! やめてね! れいむはゆっくりできないよ!」
「じねっ! ゆっぐりでぎないばりざはじねぴゃあ!」
「ゆ?」
「ああ、あああ、あああ」
「あ……ああ……でいぶがじんじゃっだぁぁぁぁぁ! どぼじでぇぇぇぇぇぇぇ!?」
名前すら忘れられた、毒花の咲く丘があった。
あるゆっくりが、自分は幻想郷の王だ豪語した。
それは大きく成長したドスまりさで、今まで幸福な条件が重なって苦労を知らずに育った個体だった。
「まりさは凄くゆっくりしてるんだぜ。『げんそうきょう』の王様なんだぜ」
人間も妖怪も知らずに育った個体は、ドスの力ならば世界すらも自分のものにできると信じた。
事実、多くのゆっくりはその巨大な体躯に恐れをなして媚を売った。捕食種もあまりに強いその個体には近づかなかった。
「ゆゆ! れいむしってる! ひがしのじんじゃはげんそーきょーのちゅうしんなんだよ!」
「さすがまりさの側近なんだぜ! それじゃあ早速『じんじゃ』を乗っ取るんだぜ!」
だが、そのドスは次の瞬間、何かに飲み込まれるように消えてしまった。側近のれいむもだ。
何かに飲み込まれたドスは、暗闇の中で何かの声を聞いた。
『幻想郷は全てを受け入れます。器を占領するなんて、おこがましいにもほどがありますわ。
程度を知れ異形の輩。私が創り上げた域を、私を超えられると思ったの?』
ドスをにらむ無数の眼。
ドスの頭に流れる無数の光景。
「まったく、罰当たりな饅頭め」
あるゆっくりは、木のウロに住み着いたせいで、人間に潰された。
「もぐもぐ」
あるゆっくりは、妖怪を馬鹿にしたために妖怪になぶり殺された。
「あれ、コイツ死んじゃった」
あるゆっくりは、運悪く妖精に見つかり、妖精の遊び相手にされた。
「アリスも間違えて毒キノコ食わないように気をつけろよー」
あるゆっくりは、魔法使いが食べさせた茸で死んだ。
「あなたが泣くことないじゃない。……リグルは優しい子ね」
あるゆっくりは、花の妖怪の逆鱗に触れた。
「死にたい? だめよ。あなたたちが死にたくないって言ったんだから。いつまでも生きててもらうわ」
あるゆっくりは、生かされ続けた。いつまでもいつまでも生かされ続けた。
「あら、厄いわね」
あるゆっくりは、自滅した。滝の落ちる速度を遅くしようとして、あっさりと溺れた。
「だいじょうぶスーさん? ……よかったぁ」
あるゆっくりは、毒に狂った。よがり狂って最期は醜く死んだ。
それからドスは、いつまでもゆっくりが死ぬ光景を見せ続けられた。
いつまでもいつまでも、見せ続けられた。
『動かずにいながら全てのゆっくりの死に様を見ることができる。おめでとう、あなたは確かに王様だわ。
さあゆっくりの王様、今度はなにが見たい?』
「もうなにもみだぐないよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
どんなに強く賢くても、包まれている世界にはかなわない。
最終更新:2008年12月07日 14:56