ゆっくりいじめ系1842 ゆっくり異種格闘技戦

※ 作者名:天海
※ 時代考証とか世界観とか、その他色々と気にしない方向でお願いします。

年越しの準備をあらかた終えて日常の落ち着きを取り戻した小さな村落に、地響きが鳴り渡った。


「来おったか……」
村の長老は極めて冷静にそうつぶやいた。
ドスまりさと多数のゆっくり達の襲来を まるで予想していたかのように。

この地方は冬でも雪が降る事は稀であり、この辺りに住むゆっくり達は冬籠りという物をする必要がなかった。
もちろん外は寒いし、食糧となる虫や植物も無いため、巣に籠りがちになるのは変わらないのであるが。
とはいえ、少なくとも巣に籠っている間に食糧が尽きたまま泣き寝入りしたり、積もった雪で出口が防がれたりという事もない。
ゆっくり達にとっては冬でも比較的安全である場所なのである。


ドスまりさは村の広場に辿りつくと、早々に長老へと切り出した。
「まりさのむれは たべものがたりなくてこまってるんだよ。だから たべものをわけてほしいよ。どうかおねがいします。」
無理を招致で言っているのであろう。ドスまりさのトーンはゆっくりとは思えないほどに低かった。

そう、ドスまりさにもわかっているのだ。
毎年、草原には群れの皆だけでは食べ切れないほどの植物が生い茂げるのに、この年に限って植物は異様なほどに少なかった。
村落の畑の方も 人の手が入っているとはいえ、そう思わしい収穫は得られなかったであろう。

それでも仲間のゆっくり達を幸せにしないといけないという使命感から、ドスまりさは今回の行動に出たのだ。
……ドスまりさはゆっくり側の被害を覚悟の上でも、人間と戦って食糧を得るという覚悟を決めていたのである。
その証拠が、ドスまりさの後ろに並び立つ100を超える数のゆっくり達である。


とは言っても、人間は強い。
ドスまりさはさておき、普通のゆっくりでは束でかかっても人間に敵うわけがない。
そこでドスまりさは一策を講じていたのである。

ここにいるゆっくり達は いわば囮。
これだけの数のゆっくりがいれば、対応する人間側も それなりに人員を割く必要がでてくるであろう。
人間達が広場に集まったところで、ドスまりさがゆっくりオーラを発動させる。
その隙に別動隊が人間の食糧庫から食糧を奪おうという作戦であった。

人間達には食糧を長期間保存する技術がある。
また、長距離を移動する術や、隣村へのツテもある。
多少の食糧が無くなっても、強い人間達ならなんとでもできるはずなのだ。
さらにいえば、この村の人間達は過去一度たりとも、ゆっくりの群れに手出しをしてきたことがない。
そのような経験もまた、今回のドスまりさの決断を手伝ったのである。


そして、こんなことを考えてはいけないが……もし人間が今回に限って怒りを見せた場合、
囮となるゆっくり達、そしてドスまりさ自身の事を食糧の替わりに人間に食べてもらっても良いとすら、ドスまりさは考えていた。
人間達の怒りを、それで鎮められるのであれば。

ゆっくりの共食いはタブー。それを一度でも崩してしまえば群れの存続はありえないであろう。
人間にゆっくりを差し出して替わりに野菜をもらうという悪魔の考えも思い浮かんだのだが、これをしては他のゆっくり達の信用を失う。
それでは結局群れの存続はありえない。

だが、戦って食われるなら仕方ない。
結局数体のゆっくりが食われて、替わりに野菜を得るという結果は変わらないが、過程の違いが群れの存続には重要なのである。



「残念ながら聞けぬ相談だ。こちらも苦しいのでな。」 長老の返答は、ドスまりさの予想した物だった。
「だったら」「力づくか……? それもよかろう」 実力行使を示唆するドスまりさの言葉を遮った長老はさらに続ける。
「ただし、互いに損害は最少に留めるべきだろう?」

「……ゆゆ?」 予想とは違う展開にドスまりさは戸惑う。
「1vs1。人間とお前で決着をつけ、お前が勝てば食糧をやろう。お前が負ければ、おとなしく帰るんだ。我らは何も奪わぬ。」
「……ゆゆゆ?」 これはゆっくり達にとっては、予想よりも遥かに美味しい提案ではないのか。ドスまりさはさらに戸惑う。
ドスまりさは、このような美味しすぎる提案に諸手をあげて喜べるほどの餡子脳ではないのだ。そもそも手がないし。

「ただし、ルールはこちらで決めさせてもらう。それに納得が行かなければ他の方法でくるがいい。」長老はそう付け加えた。
やはりきたか、とドスまりさは思う。人間の考える事には何か裏があるのだ。とはいえ、ルールを確認だけしてみる価値はある。
ドスまりさはさらに詳細を聞く体勢に入った。


長老の示したルールは以下のような物であった。

  • ドスまりさと人間の1vs1で決着をつける。他の人間及びゆっくりの手出しは禁止する。
  • 両者とも、互いの同族を人質及びゆっくり質にとることを禁止とする。
  • 場所は広場に特設した7m四方のリング。場外への脱出は試合放棄とみなし、反則負けとする。また、相手を故意にリング外に落とすことも禁止する。
  • 人間はオープンフィンガーグローブ、マウスピース、ファウルカップ、レガースの着用を義務づける。その他のあらゆる道具は使用禁止とする。
  • 人間はドスまりさへの目つぶし攻撃、口内への侵入、帽子への攻撃は禁止とする。
  • 人間はドスまりさへの噛みつき攻撃及び食すことを禁止とする。
  • ドスまりさは人間を口内へ含むこと、食すことを禁止とする。
  • ドスまりさは故意に自らの帽子を落とすことを禁止とする。
  • ドスまりさはあらゆるキノコの使用を禁止とする。
  • 両者、故意での急所攻撃を禁止とする。
  • 軽度の出血あるいは出餡をした場合は、傷を塞ぐ応急処置を施して試合を続行する。その他の場合の応急処置等は一切認めない。
  • 1ラウンド内に3度ノックダウンを奪われた場合、その時点でTKO負けとする。
  • その他、レフェリーの判断により試合続行不可能な状態と認められた時点で、レフェリーストップとして試合を終了する。
  • 3分間3ラウンドで戦い、それでも決着がつかない場合はジャッジによる判定で決着をつける。


「ゆゆ〜……」 ドスまりさは熟考した。
このルールは思いの他、ドスまりさの事も考えて作られている。
ただ一点、キノコの使用禁止が気にならないではないが、人間と1vs1で戦うのであれば、このくらいのハンデは仕方ないであろう。

このドスまりさは体長2mほど。帽子を含めればさらに高くなるが、ドスまりさ種としては比較的小さい、若いドスまりさであった。
一方この村落の人間達の中に、見たところ自分より大きい人間はいない。
さらにルールで自らの身も、仲間のゆっくり達の身も安全を確保されており、思う存分戦うことができるのである。
そして万が一人間側が何かを仕掛けてきても、長老は何も奪わないと公言したではないか。


「ゆゆ! わかった! やるよ!」 ドスまりさは決断した。
「……そうか。 では日時と場所は、本日夕刻からこの広場で。 準備ができるまでここでゆっくりしてるがいい。」
そう言った長老は、村の者達にリングの準備と、ゆっくり達へのもてなしを命じた。



夕刻。
組みあがったリングの周りに設けられた観客席は、小規模ながらも村の者たちでびっしりと詰められていた。
一方向は特設ゆっくり応援シートとなっており、ドスまりさが連れてきたゆっくり達と別動隊のゆっくり達が雛壇にびっちりと詰められていた。
なかなか珍妙な光景である。

10カウントゴングが鳴り、会場の照明が灯る。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより、試合を開始いたします!」
場内に響くアナウンスは、おあずけ状態だった観客たちのボルテージを一瞬にして最高点まで上昇させた。
「それでは、青コーナーより、ゆっくり代表選手の入場です!」

「「「 どすー、ゆっくりさせてねー 」」」
「やっさっいっ!やっさっい!」
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー」
特設ゆっくり応援シートのゆっくり達から、一斉に声援(?)が飛ぶ。
花道に焚かれるスモーク。その中に巨大な影が現れた。

それと同時に会場に響くのは、女性声の入場コール。
「インザブルゥゥゥゥーコォナァァァー!、 フロォム、チカクノソウゲェン、 ドォスゥゥ、マ、ルィッスァァァ!!」

「その巨大な背中に背負うのは、幾多のゆっくり達の願い……ゆっくりしたい、ゆっくりさせたい、必ずゆっくりさせてやる! 絶対ゆー者、ドスまりさ入場!」
実況席の言葉に、応援シートのゆっくり達がさらなる盛り上がりを見せる。

ドスまりさはリングの前まで小刻みに跳ねていき、そこから高々とジャンプしてリングへと着地する。
その際の衝撃音が、村の者達の不安を駆り立て、ゆっくり達の高揚を呼ぶ。
ドスなら自分達をゆっくりさせてくれる。ドスまりさに人間が勝てるわけがない。

ゆーゆーとリングに着地したドスまりさは、応援シートのゆっくり達の方へ向き気合をいれる。
「「「「『 ゆっくりしていってね! 』」」」」
ドスまりさとゆっくり達の、ゆっくりしていってね大合唱である。

さらにドスまりさは本部席にいるゆっくりれいむを見やる。
このれいむは試合に決着がつかなかった場合のジャッジ役の一人に選ばれたゆっくりであり、ドスまりさの愛するゆっくりでもあった。
ドスまりさは愛しのれいむにウインクをしてみせる。頬を赤らめるジャッジ役のれいむ。
この試合が終わったらいよいよ婚約を申し込もう、そう心に決めて試合への決意をさらに高めるドスまりさであった。

ちなみにジャッジは計3人。
不公平にならないように、ドスまりさの承認も得た上で以下のメンバーにジャッジを任せることにした。
村の代表として長老を、ゆっくりの代表としてれいむを、そして中立の立場として村から離れた場所に住んでいる一人の少女を。
レフェリーはその役割の都合上 村の者になるが、ドスまりさの参謀のぱちゅりーとありすをセコンドに置き、何か不平があればレフェリーに抗議できる権利を与えることでゆっくり側の了解を得た。


再び、アナウンスの声が場内に響き渡る。
「つづいて、赤コーナーより、人間代表選手の入場です!」

「「「 にんげんさん、ゆっくりしていってね! 」」」
「どぼぢでれいむのぶんのおべんとうたべぢゃったのぉぉ?」
「ゆゆ、こんなところにのこしておく れいむがわるいんだぜ!」
特設ゆっくり応援シートのゆっくり達から、一斉に野次(?)が飛ぶ。
花道に焚かれるスモーク。その中に人影が現れた。

それと同時に会場に響くのは、やはり女性声の入場コール。
「インザルェッドォーコォナァァァー!、 フロォム、ココノムラ、 ギャクゥタァァイ、オ、ニィッスァァァンッ!!」

「道具など要らない、仲間など要らない、ゆっくりさえいればそれでいい! その虐待魂は地獄の閻魔にも止められはしない! 虐待お兄さん入場!」
実況席の言葉に、今度は村の者達の盛り上がりが最高潮となる。

花道に姿を現した虐待お兄さんは一目散にリングへと駆け、リングインすると同時にドスまりさの目前に立ち、ドスまりさと頭を合わせて睨みつけ続ける。
慌てて両者の間に割って入り、なだめるレフェリー。


両者のボディチェックを終え、少しだけ間を計って、レフェリーが試合開始の合図を送る。 
同時に会場にゴングの音が鳴り響いた。



第1ラウンド序盤は静かな立ち上がりとなった。
ドスまりさとの間合いを慎重に測る虐待お兄さん。
虐待お兄さんの出方を窺うドスまりさ。
互いが互いを牽制し、両者とも攻撃らしい攻撃をせずに、ただ時間だけが過ぎ去っていく。
そんな展開を観客席の人間、そしてゆっくり達はじっと見つめていた。

突如、マットを強く蹴る音が会場の静けさを打ち破る。
先手を打ったのは虐待お兄さん。
一瞬の踏み込みから、ムチのようにしなるローキック。乾いた打撃音が響きわたる。
そしてすぐさま、元の間合いに下がる虐待お兄さん。
観客席からは一斉にどよめきの声が漏れだした。

虐待お兄さんのローキックは、確かにドスまりさの顎の側面にクリーンヒットした。
クリーンヒットしたのだが……
「ゆふん、ぜんぜんいたくないよ!」 ドスまりさにはまったく効いていなかった。

ローキックは一見地味な技ではあるが、威力は回し蹴りの中でも高い部類であるはずだ。
そして打つ際の隙の少なさという利点もある。
どこを蹴ってもそう違いが無いであろうドスまりさ相手には、もっとも適した打撃であることは確かであった。
……が、それが欠片も効く様子が無い。
ただでさえ中身が餡子である。皮さえ破れなければ、ゆっくり種は打撃には強いはずなのだ。

その様子を見たセコンドのぱちゅりーとありす、ジャッジれいむ、そして応援シートのゆっくり達はドスまりさの勝利を確信した。
そもそも体格的にはドスまりさが圧倒的に勝っているのである。
何度打撃を打たれようとも、ルール的に人間はそれ以上のことはできないはずである。
その打撃が効かないとあれば、あとは一度でもドスまりさが踏みつけ、あるいはのしかかり等を決めれば、ドスまりさは勝てるのだ。


虐待お兄さんはしかし、その事に動じる様子は無かった。ただ、冷静な視線でドスまりさの動きを見つめている。
その様子を見て、長老はうなずく。頼もしい青年に育ったものだ、と心の中で青年の成長を喜んでいた。

この虐待お兄さんは、元々孤児であった。
孤児であるが故のストレスを発散するかのように、ゆっくり達を むやみに傷つける生活を送っていた。
それを知った長老が少年を家族として受け入れ、そして諭し、格闘技に打ち込むように促したのである。


試合は進む。
虐待お兄さんはヒット&アウェイの要領でローキックを放ち続けていた。
しかしそのどれもが、目に見えたダメージをドスまりさに与えるには至らない。
ドスまりさは余裕の表情で、じりじりと虐待お兄さんへ近づくように動くだけである。

虐待お兄さんの身体からは汗が噴き出していた。
仮にも格闘技に打ち込んできた虐待お兄さん。スタミナ面ではなんの不安も無いはずなのである。
しかし、リング上での実戦となると、今回が初めてなのだ。この村にそのような機会はそうそう無いのだから。
リングを照らす照明が冬の屋外とは思えぬほどの温度を生み出していた。
不慣れな環境での戦いが、虐待お兄さんのスタミナを奪っていたのかもしれない。

第1ラウンド残り1分のあたりで、アクシデントは起こった。
虐待お兄さんがローキック後に後方へ下がる際に、自らの汗が溜まっていた場所で足を滑らせてしまったのである。
虐待お兄さんが仰向けにスリップダウンすると、ドスまりさはすかさず間合いをつめ、虐待お兄さんへとのしかかった。
観客の人間達からは悲鳴が、ゆっくり達からは大歓声が起こる。
ドスまりさは完全に虐待お兄さんの上にのしかかり、観客からは虐待お兄さんの姿を確認することができなくなってしまった。

ドスまりさの重量は定かではない。ただ、恐らくは人間でいう百貫デブなどとは比べ物にならない重さであろう。
さらに完全にドスまりさとリングの間に挟まれている状態で、窒息状態に陥っているかもしれない。
ともすれば、レフェリーストップ負けになる恐れもあるのだ。

レフェリーはしきりにドスまりさの下を確認する。しかし虐待お兄さんの姿は見えない。
第1ラウンド終了まではもう少し時間が残っている。ゴングに救われる可能性を期待するのは厳しい状態だ。
ドスまりさは鎮座する。虐待お兄さんの真上で、不適な笑みをうかべながら。

「まりさ〜、すてきよ〜」 ジャッジれいむが、ドスまりさの不適な笑みに思わず声援を送る。
公平さの欠片も見られないが、ゆっくり種にそんな物を求めるだけ無駄である。
「まっててね、もうちょっとでおわるからね!」 ドスまりさはリングから声をかける。
すでに勝った気でいるゆっくり達を横目に、村の者達と長老は冷静に試合を見守っていた。


「……ゆ?」 ドスまりさが声を漏らす。何か自分の体の下部に違和感を感じたのだ。
次の瞬間、ドスまりさの体が横方向に傾く。「ゆゆゆ!?」
ごろん、と横方向に1/4回転したところで、しばし姿の見えなかった虐待お兄さんが姿を現す。
虐待お兄さんの両腕は、ドスまりさの下部をつねってひっぱった状態で、両足はその根元を固定しているようにカニ挟みの状態になっていた。
おそらくその部分でのテコの原理を利用して、相手を回転させたのであろう。
いわば、対ゆっくり用のオモプラッタである。虐待お兄さんの攻撃手段は、何も打撃だけというわけではないのだ!

横たわるようにひっくり返ってしまったドスまりさから手を放し、虐待お兄さんは立ち上がった。
セコンド、及び応援シートのゆっくり達は一体何が起こったのかわからず、一様に呆けた表情を見せている。
虐待お兄さんはそんな事もかまわず、ドスまりさの底部にあたる部分に、今度はミドルキックの連打を浴びせ続けた。
ドスまりさが動けない状態である以上、ヒット&アウェイに徹する必要は無くなったのである。
第1ラウンド終了まではもう少し時間が残っている。ゴングに救われるまで、ドスまりさはひたすら底部を蹴られ続ける羽目となった。


第1ラウンド終了のゴングが鳴る。
虐待お兄さんは赤コーナーに戻り、用意された椅子に腰を掛け、タオルを頭からかぶり、水を口に含み、そして吐き出した。
スタッフ達がドスまりさの体躯を立たせてやり、青コーナーまで戻す。
セコンドのぱちゅりーとありすは声をかける。
「むきゅ、さいごはやられたわね、つぎのちゃんすがあったら、じゃんぷしてふみつけるのよ!」 攻撃のアドバイスを施すぱちゅりー。
「あんなてくをもっているなんて、あいてはなかなかのとかいはね! きをつけて!」 防御のアドバイスを施すありす。
その言葉にうなずくドスまりさ。アドバイスとして役に立つのかは疑問であるが、人間には推し量ることができない所なのであろう。
そうこうしているうちに、インターバルは終了し、第2ラウンド開始のゴングが鳴り響く。


第2ラウンド開始直後から、虐待お兄さんは再びローキックでのヒット&アウェイ作戦に出た。
ドスまりさはそれを気にせず、ひたすら虐待お兄さんとの間合いをじわじわと詰めるだけである。
だけであるのだが……

おかしい。先ほどよりも間合いを詰めることができない気がする。
インターバルの休憩で虐待お兄さんのスタミナが回復したせいかもしれない。
またリング上の汗が拭きとられたことで、虐待お兄さんが動きやすくなったのかもしれない。

ドスまりさは考える。
今の素早い動きの虐待お兄さんにジャンプ踏みつけを決めることができるのか。
リングは広くて平坦なため、虐待お兄さんの動きを封じた状態からジャンプしないと、とてもじゃないが踏みつけを決めることはできないであろう。
闇雲にジャンプ踏みつけを繰り返す方法もあるにはあるが、いたずらにスタミナを消費すると後が怖い。となると……

ドスまりさの作戦は、再び相手のスタミナ切れまでひたすら耐える事となった。
消去的な作戦ではあるが、先ほどのようにスリップダウンを期待できるかもしれない。
そしてなにより、なかなかにゆっくりした作戦ではないか。

そんなよくわからない理由で作戦を決定したとは露知らず、虐待お兄さんはひたすらローキックを何ダースと放っていく。
そしてそのまま、ただただ時間が過ぎていった。
リズミカルなローキックの音に、応援シートのゆっくり達はうとうとと船を漕ぎ始めている。


第2ラウンド残り1分のあたりで、再びアクシデントは起こった。
なんと、またもや虐待お兄さんがローキック後に後方へ下がる際に、自らの汗が溜まっていた場所で足を滑らせてしまったのである。
虐待お兄さんが仰向けにスリップダウンすると、ドスまりさはすかさず間合いをつめ

……られない。
足が思うように動かないことに、ドスまりさはここへ来て初めて気がついたのである。
第2ラウンド開始直後から間合いを詰める速度が遅くなったように感じたのは、ドスまりさの動きが遅くなったからなのだ。

虐待お兄さんのローキックは、ドスまりさに痛みを与えることは確かに無かった。
無かったのではあるが、一撃ごとに見えない傷をドスまりさの下部に確かに刻み続けていたのである。
その傷が増えたこと、そして打撃を浴び続けたことにより、ドスまりさの下部及び底面の皮と餡子が硬化して、ドスまりさの歩行を妨げるようになったのである。


ドスまりさは驚き、そしてとっさに考える。このままではまずいのだ。
今は少しだけなら動けるのだが、このままローキックを浴び続けていれば、きっと完全に動けなくなる。
そうなれば、ジャンプしたりのしかかることすらできない。それどころか、自ら倒れることもできない。
ドスまりさの攻撃手段が完全に失われてしまうのだ。

これ以上 もたもたするわけにはいかない。ドスまりさは最後の賭けに出ることにした。
大きく口を開け、口内から輝きが広がりだす。ドスパークの体勢である。
ルールにより、キノコの使用は禁止されているが、体内に残っているキノコ成分を搾りだせば、何とか一発くらいはドスパークを放つことができるのである。

虐待お兄さんはハッと気づき、横方向に回避するが……
『あまいよ!』 ドスまりさは振り返り、ドスパークを発射させた。閃光が広場に広がる。
キノコが無い分、通常のドスパークより威力は無いが、それでも十分な威力は残っている。
閃光が収まった後、ドスまりさは自らが奪ってしまった命に黙祷を捧げる。
『ごめんね、こうするしかなかったんだよ。あの世でゆっくりしていってね。』


……確かにドスパークの威力は十分であった。
特設ゆっくり応援シートとそこに座っていた100を超えるゆっくり達を完全に蒸発させるには十分であったのだ。
「「「ゆ、ゆ、ゆ、ゆぎゃああああぁぁぁぁ」」」
セコンドのぱちゅりーとありす、そしてジャッジれいむの悲鳴が場内にこだました。

そして聞きなれた打撃音が再び響きだす。
虐待お兄さんはドスパークをしっかり回避していたのである。
最初の回避で特設ゆっくり応援シートの方向にドスパークを誘導させた上で、斜めに回り込むように前転してドスまりさの背後へまわっていたのだ。

ドスまりさは魂が抜けたかのように固まっていた。
自ら、群れの同族を、100を超える同族達を消し去ってしまったのである。
その後は第2ラウンド終了のゴングが鳴るまで、虐待お兄さんの足とドスまりさの体が聞きなれた打撃音を奏で続けることとなった。


第2ラウンド終了のゴングが鳴る。
「リング調整のため、しばらく時間をいただきます。あらかじめご了承ください。」
ドスパークで消失したロープを補修するため、インターバルは少し長めに取られることとなった。

虐待お兄さんは赤コーナーに戻り、用意された椅子に座って眠りはじめてしまった。
慣れない環境で第1ラウンド途中から動きっぱなしで、さすがに疲れてしまったのであろう。

一方のドスまりさは、スタッフの手を借りずには動けないほどひどい状態であった。
セコンドのぱちゅりーとありすも目の前で起こった惨劇のショックからか、口数は少ない。
ジャッジれいむは白目をむいて気絶していた。

「むきゅ、すぎたことはしかたないのよ。きりかえて、さいごまでたたかいましょう。」 なんとかドスまりさを勇気づけようとするぱちゅりー。
「まりざがぁぁぁぁ! ありすのはにーがぁぁぁぁ!」 隣でショックをぶり返させるかのように泣き叫び続けるありす。
どうやら応援シートにいた最愛のまりさ(通常サイズ)を失ってしまったようである。
その言葉を聞き、ドスまりさは目に涙を浮かべはじめていた。

「むきゅ、ありす、しっかりして! しぬことはかくごのうえだったはずよ!」 ぱちゅりーがありすをなだめる。
「ゆぅ〜、ゆぅ〜、ゆぅ〜…… そうね…… どす、あいてはあんなにへばってるわ、ちゃんすはあるはずよ。」
深呼吸をしてどうにか落ち着きを取り戻したありすは再びアドバイスを送った。

「レフェリー、まりさの足の応急手当を要求するわ!」 レフェリーを呼びつけるぱちゅりー。
しかし、レフェリーは首を横に振る。ルールに明記してあるからだ。
”・軽度の出血あるいは出餡をした場合は、傷を塞ぐ応急処置を施して試合を続行する。その他の場合の応急処置等は一切認めない。”
この試合、ドスまりさは餡子を流していないのである。
「む、むきゅ〜」 ぐうの音も出ないぱちゅりー。
そうこうしているうちに、インターバルは終了し、第3ラウンド開始のゴングが鳴り響く。


「ひゃっはぁぁぁぁぁあああああ!」
第3ラウンド開始と同時に、虐待お兄さんはラッシュをかける。
「「『な、なんで? さっきまであんなにつかれていたのに!?』」」
ドスまりさもセコンドの2匹も驚きを隠せない。虐待お兄さんのどこにそんなスタミナが残っているのか。

虐待お兄さんは思い出す。自らの過酷な練習の日々を。
玄翁を持ってゆっくりを追いかけまわすロードワーク。
群れからこっそりと誘拐してきたゆっくり達の皮をつぎはぎして作ったサンドバッグ。
その中に赤ゆっくり達を詰め込んでのキック練習。
そして、ゆっくりをそのままミットにしてのコンビネーション打撃練習。
どの練習もとても過酷で……とても楽しく身が入った。
この練習を考えたトレーナーには感謝しきりである。

そんな楽しい練習を続けてきた虐待お兄さんにスタミナの心配など不要なのである。
先ほど眠っていたのは、より全力でラッシュをかけるための準備にすぎない。
虐待お兄さんは短時間の睡眠で体力を完全に回復させることができる、生粋のアスリートとなっていたのである。


左右パンチ、フック、ストレート、アッパー、ローキック、ミドルキック、ハイキック、ジャンピングキック、膝蹴り、エルボー、頭突き、ハンマーブロー、水平チョップ、ドロップキック、フライングクロスチョップ、延髄蹴り……
先ほどまでとは打って変っての打撃技のオンパレード。まるで水を得た魚のようである。
全力の生身虐待をぶつけることをできる喜びを、技の一つ一つで表現するかのようであった。

「ゆぎゃっ!」「ゆぶっ!」「ゆげっ!」「ゆぼぅっ!」 
その一撃一撃はドスまりさへ確かに痛みを伝えていた。
先ほどまでのローキックはあくまで表面を傷つけるために放っていた物である。
しかし今回は内部の餡子を傷つけるために攻撃を放っている。
時には中枢餡へと届くかというような攻撃もあるのだ。

第3ラウンドは3分間みっちり、虐待お兄さんのラッシュが続き、そのまま終了のゴングが鳴った。



「それでは判定に入ります。」 ゆっくりがほとんどいなくなった場内にアナウンスが響き渡る。
「ジャッジ長老……10:0 赤、虐待お兄さん!」 長老は静かに、リングを見つめ続ける。妥当と言えば妥当なジャッジである。
「ジャッジれいむ……0:10 青、ドスまりさ!」 気絶状態から復活した涙目のれいむ。ゆっくり種としては当然なジャッジである。公平ってなんだろう。
結局、勝敗は一人の少女ジャッジに委ねられる事となった。
「ジャッジ阿求……10:10 ドロー!」 少女の名前は阿求と言うようだ。


結果は1−1、ポイントも20−20で完全なドローである。
不測の事態に本部とアナウンスは慌て出す。
数分の協議の結果、一つの結論が導きだされた。

「ジャッジで決着がつかなかったため、3分間の再延長戦を行います!」 場内アナウンスに、観客達は大いに沸いた。

「ゆゆ? ゆゆゆゆゆ!?」 ドスまりさは驚きを隠せない。もう終わったと思ったのに。もう帰れると思ったのに。
第4ラウンド開始のゴングが非情にも鳴り響いた。

「いやっはぁぁあああああぁぁぁぁ!」 ジャッジの最中も再び眠りについていた虐待お兄さんはこのラウンドも元気いっぱいである。
第4ラウンドも3分間みっちり、虐待お兄さんのラッシュが続き、そのまま終了のゴングが鳴った。


再びジャッジが行われる。まるでデジャブであるかのように。
そしてその結果もまた、デジャブであるかのようであった。
「ジャッジで決着がつかなかったため、3分間の再々延長戦を行います!」
……この一連のデジャブは2度3度と続いていくのであった。



結局、その後第10ラウンドまで行ったところで、ぱちゅりーがジャッジれいむを説得してゆっくり側の敗北を認めるこっとなった。
「ゆ゛……ゆ゛……ゆ゛……」まともな言葉も発することができなくなっているドスまりさ。
試合後にようやく応急処置が認められたが、自走できる状態ではなく、村の者たちが巣まで送り届けてやることとなった。

「はい、あなたのれいむよ。」 阿求という少女が、れいむをドスまりさのところに連れていってやった。
「あなたはよくやったわ。群れも無くならないでしょ? だって……あなたが自ら口減らししたんだもの。」 少女がドスまりさに言う。
その言葉は慰めにならない。その言葉は追い打ちにしかならない。もちろん、その事は言葉を発している少女が一番よくわかっているのであるが。
なにより、その声のトーンは喜びの色を隠し切れていなかった。

「ゆゆ? ゆっくりしていってね!」 うなだれるドスまりさを見て、れいむは無垢な表情でそういった。
あまりのショックで記憶を失っているのかもしれない。むしろその方が幸せなのであろう。
ドスまりさは、れいむに合わせる顔が無く、うつむいたままであった。
「れいむ、ぼうしのなかにはいってね……」 ドスまりさはうつむいたままそう言って、阿求に手伝ってもらい、帽子の中にれいむを収納した。
これで少なくとも巣に帰るまで顔を合わせずに済むのである。

「おさわがせしてごめんね……ゆっくりしていってね……」 ドスまりさはそう言って、村を去っていった。
正々堂々と戦い敗れたドスまりさに、観客達からは拍手が浴びせられる。
しかしその拍手さえも、ドスまりさには慰めにすらならなかった。


ドスまりさ達が去ったのを確認した後、リングとその周辺には残された虐待お兄さんと長老、そして観客達が興奮さめやらぬ様子で居残っていた。
虐待お兄さんがマイクを要求し、これを受け取る。

「しょっぱい試合してすんませんでした!」 リングの各方向にお辞儀をする虐待お兄さん。
「そんなことないぞー!」「おもしろかったぞー!」 観客はそれを否定し、虐待お兄さんはその言葉に再びお辞儀をした。
「長老、はいってきてください!」 虐待お兄さんは長老を呼び込む。

「長老、ここまで育ててくれて、本当にありがとうございます! これからもご指導よろしくお願いします!」
虐待お兄さんは長老に非常に感謝しており、この場を借りてお礼を言いたかったのだ。
何せ、今日までの特訓のトレーナーを務めたのは、誰あろう長老その人であったのだから。

その言葉を聞き、観客達は大きな拍手を送る。2人の事情を知っており、涙ぐむ者までいる。
すると、今度は長老が虐待お兄さんからマイクを受け取り、言葉を発した。

「素晴らしい試合だった。本当にありがとう! 感動した!」 まずは虐待お兄さんを労い、続ける。
「そして、長年の計画に協力してくれた皆、本当にありがとう!」


長年の計画……
長老が若い頃から抱いていた野望……
それは1vs1ならば人間にも勝てると思っているドスまりさの心を、完膚なきまでに叩き折る事であった。
長老もまた、虐待お兄さんだったのである。

計画の主軸はすなわち、生身の人間との1vs1でドスまりさを打ち倒すことである。
この計画を思いついた時点で、残念ながら初代虐待お兄さん=長老の肉体は すでにピークを越えて久しかった。
そこで出会ったのが、ゆっくり虐待していた孤児の少年=今回戦った虐待お兄さんであった。
長老は少年に比類なき虐待の素質を感じた。そしてその可能性にすべてを賭けたのである。

長老は少年にゆっくり虐待アスリートとしてのエリート教育を施した。
そして、少年が青年になり、肉体のピークを迎えつつある今、計画を実行に移したのである。


今年は草原の植物が異様に少なかった。ドスまりさ達はそう思っていた。
しかし実際は、長老が命じて早い段階で植物の芽を摘んでいたのである。
村の畑は今年も豊作で、食糧庫には売るほどの蓄えが備わっているのだ。

村の者達はゆっくりの群れに手をだすことはない。ドスまりさ達はそう思っていた。
しかし実際は、長老が命じて気づかれないように誘拐して、各種処理を施していたのである。
その結果、虐待お兄さんのトレーニングは非常に身になる物となったのだ。


「それでは、皆さん、御唱和願います。」 長老は続ける。
その手には1匹のゆっくりが握られ、ガタガタと震えていた。
それはゆっくりれいむ種。ジャッジれいむであったゆっくりれいむである。
隣でジャッジを務めていた少女が気を利かせて、ストックしていた他のゆっくりれいむと飾りだけを交換して、偽物のれいむをドスまりさに渡したのだ。

長老は続ける。
「いくぞー!」

観客は応える。
「「「『 おー! 』」」」

そして長老と観客達が声を合わせる。
「「「「『 3! 』」」」」
「「「「『 2! 』」」」」
「「「「『 1! 』」」」」
「「「「『 ひゃっはああぁぁぁ! ぎゃくたいだあああぁぁぁ!!! 』」」」」
合唱とともに、長老……いや、初代虐待お兄さんは、手にしたゆっくいれいむを握りつぶした。
感動の試合をその目に焼きつけ、幸せな年の瀬を迎えるであろう村の者達であった。



一方、ドスまりさ達は絶望の年の瀬を迎えることになる。
それでも、ドスまりさは生き続けなければならない。
そうでなければ群れのために死んでしまった……いや自分が殺してしまった者達に示しがつかないのである。

だからドスまりさは生き続ける。
人間と1vs1で負けたことを背負い生き続ける。
100を超える同族を殺した罪を背負い生き続ける。
愛するれいむを失ったことも気づかぬまま生き続けるのである。

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最終更新:2022年01月31日 02:43
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