※パロディネタを多く含みます
※劇中人物の独り言が多いのは仕様です
今にも泣き出しそうな曇天の空の下、一人繁華街を往くスーツ姿の男。
個人経営の輸入雑貨店を営む彼は、名を吉祥寺吾郎といった。
今日も今日とて顧客先を周り、得意先にヴェネチアグラスを納品したところだ。
一仕事終えた吾郎は、背広を肩にかけて煙草に火をつけた。
「……さて、今日は何を食おうか」
時間は既に15時を回ろうとしている。
予想外に仕事が長引き、吾郎はすっかり昼食をとるタイミングを逸してしまっていた。
「うーん、こんな時間に一人で牛丼ってのも間抜けだしな……」
駅前の大通りを歩きながら、吾郎は周囲の店に目を配る。
牛丼、カレー、ラーメン、パスタ、ハンバーガー……色とりどりの軒先が並んでいる。
けれど、どうにも吾郎の中でピンとくるものがない。
そうして、決めあぐねているうちに、吾郎は駅前の繁華街の端にまで来てしまう。
「しまった、アーケードはここで終わりなのか」
顎に手をやり、顔を渋める吾郎。
いま来た道をまた戻ると思うと、何となく気が重かった。
「まてよ……そういえば、このあたりにはアノ店があったよな」
吾郎は、数年前この街を訪れた時のことを思い返して、顔を少年のように輝かせた。
「うん、そうだ。こういう時は、"れみりゃ屋の肉まん"で決まりだ」
"れみりゃ屋"
それは文字通り、れみりゃが子れみりゃを調理して出す、肉まん専門店だ。
駅の中心からは少し離れているが、その味はコンビニで売っているものの比ではない。
吾郎は、かつて一度だけ食べたその味を反芻して、口の中を涎であふれさせた。
「いかん、想像したらよだれが止まらん」
一刻も早く、あのジューシーな肉餡を頬ばりたい。
その思いだけで、吾郎は足早に道路を進んでいく。
15分後、吾郎は目的の場所へ到着した。
だが。
「あれ?」
そこに、肉まん屋は無かった。
親れみりゃが店頭で泣き笑いを浮かべて実演販売をしていた店は、
不況のあおりで既に閉店して久しく、代わりにどこにでもあるコンビニがテナントとして入っていた。
「ガーンだな……俺の胃袋は完全に"れみりゃ屋の肉まん"になっていたのに」
意気消沈する吾郎。
仕方なく、適当な店を探しながらあたりをつろつくが、中々店は見つからない。
さらに吾郎に追い打ちをかけるように、ポツポツと雨が降り出してきた。
「うわー、ついに降り始めちゃったぞ」
背広を傘代わりにして、小走りで雨宿りできる場所を探す吾郎。
すると、少し先に甘味屋らしい店が見えた。
時刻は間もなく夕方を迎えようとしている。
あの店で何かつまんで夕飯で仕切り直すのも良いかもしれないと、吾郎は考えた。
「ええーい、どこでもいい! ここにはいっちまえ!」
意を決して、吾郎はその店の暖簾をくぐる。
すると、予想外の声が吾郎を出迎えた。
「いらっしゃいだどぉー♪」
「うー、いらっしゃい」
「え?」
こぢんまりとした和風の店内にいたのは、
胴体有りのゆっくりれみりゃと、同じく胴体有りのゆっくりフランだった。
2匹はそろいのエプロンをしており、
れみりゃはカウンターの中に、フランはホールにお盆を持って立っている。
他に店員は見あたらない。この店は、この2匹のゆっくりがやっている店だった。
「ほぉ、ゆっくりがやっている甘味屋なのか」
普段ならば、ゆっくりが店をやっていること自体に疑問を感じるところだが、
今の吾郎は腹が空きすぎていてそれどころではなかった。
「ふーん、なかなかいい感じの店じゃないか」
カウンターの席に座って店内を見渡す吾郎。
内装はしかっりしていて、とてもゆっくりが用意したのものとは思えなかった。
カウンター内のキッチンにしても、れみりゃが料理しやすいよう特注のサイズになっている。
おそらく、この店のオーナー……ゆっくりに店をやらせると企画した人間がそろえたものなのだろうと、吾郎は合点をつけた。
「おや?」
壁にかかったメニューを眺めていると、吾郎はふと数枚の写真が飾られていることに気づいた。
そこには、何やら大勢のれみりゃと一人のメイドに祝福されている、1匹のれみりゃが写っていた。
「あ~ぅあぅ~♪ れみりゃのことがきになるのねぇ~ん♪」
吾郎が写真を眺めていると、カウンターのれみりゃがパタパタ飛んできて、
下膨れスマイルをぬぼぉーっと近づけてきた。
「あれは?」
「うっうー♪ なんとれみりゃは、おーわんぐらんぷりでゆうしょうしたんだっどぉー♪」
吾郎の横で、れみりゃはえっへんと胸を張る。
人間の目で区別は難しいが、目の前のれみりゃこそ、写真で祝福を受けているそれであった。
「おーわん?」
「おぜうさまわんぐらんぷりにきまってるんだどぉー♪ れみりゃってばおぜうさまこうほにえらばれちゃったんだどぉー♪」
幸せそうに微笑むれみりゃは、こぼれ落ちそうな大きな頬と下膨れを両手で押さえた。
それかられみりゃは、幸福感を体現するように、"うぁ☆うぁ☆"リズムを刻み始めた。
このままでは埒があかないと思った吾郎は、話題を切り替えることにする。
吾郎は、とにかく早く何かを胃に詰め込みたかった。
「なにかオススメは?」
「うぁ? うちはなんでも"あまあま☆でりしゃすぅ"なんだっどぉーぅ♪」
自慢げに答えて、れみりゃはカウンターの中へ戻っていく。
そして、箱の中から子ぶりの"ゆっくりれいむ"を取り出すと、それに竹串を突き通した。
「うっう~♪ すぴあ☆ざ☆ぐんぐにるぅ~♪」
それを数回繰り返して、大ぶりな串団子を作るれみりゃ。
れみりゃはそれを火のたかれた網の上に置き、ハケで黒いタレを塗っていく。
ゆっくりれいむの餡と、黒いタレが焦げて、店内に凄まじく甘い匂いが立ちこめた。
「れみりゃのつぐっだおまんじゅーおいしぃどぉ♪ たれがぷっでぃ~ん☆のおあじなんだどぉー♪」
楽しそうなれみりゃを余所に、吾郎は壁にかかったメニューに目を通す。
そこには、吾郎の心を引きつけるメニューが数点だけだが存在した。
れみりゃの焼いている団子を無視して、吾郎はそのメニューを読み上げる。
「えと……じゃあ、この煮込み肉まんを一つ」
煮込み肉まん。
いったいどんな料理なのかは吾郎にもわからなかったが、これも一つの縁だと思った。
けれど、れみりゃはその注文を聞いた数秒後、ゆっくり吾郎の期待を裏切るのだった。
「う~♪ ごめんごめんだどぉー♪ それらいげつからなんだどぉー♪」
「むむ……」
ならメニューにのせるなと、心中で毒づく吾郎。
「……うーん、いかんなどうにもタイミングがズレている」
それならばと、第二希望を口にする吾郎。
「それじゃあ、この煮込みあんまんを……」
が、またしてもれみりゃは下膨れスマイルを左右に傾けた。
「う~? ごめんねぇ~ん♪ それもらいげつからなんだどぉー♪」
れみりゃは申し訳ないとでも思ったのか、カウンターの上に登り、
そこで"のうさつ☆だんす"を踊りだした。
「おこっちゃいや~んだどぉ♪ おわびにれみりゃのしぇくしぃーなおしりみせてあげるどぉー♪」
れみりゃは吾郎に向かって尻を突き出し、それを左右にプリプリ振り出した。
その動作が、ただでさえ空腹でイラついていた吾郎に、さらなる油をそそいでしまう。
「!!」
次の瞬間。
吾郎は、椅子から立ち上がり、れみりゃの片腕にアームロックを決めていた。
「うっうぁぁーー!? いっだいどぉーーー!!」
ガッチリ極まった腕に激痛が走り、れみりゃは悲痛な叫びを上げる。
大の男が手加減無しで極めたアームロックに、れみりゃの肉まんボディーは悲鳴をあげた。
「ざぐやぁーーだじゅげでぇぇーーー!! れみりゃのきゃわいいおででがぁーーー!!」
れみりゃの叫びなどお構いなしに、吾郎は腕に力を入れる。
すると、吾郎のすぐ横までフランがやってきて、吾郎を静止した。
「うー、それいじょういけない……」
フランの静止に、ハッと我に返る吾郎。
が、時は既に遅く。
れみりゃの片腕は吾郎の腕力に耐えきれず、引きちぎれてしまう。
「ぶっでぃ~~っん!!」
肉汁があたりに飛散する中、
れみりゃは絶叫し、あまりの痛みにカウンターの上で号泣しながらのたうちまわった。
「いかんな……ついやってしまった……」
自らが握る、れみりゃの片腕に目をやりつつ、溜息をつく吾郎。
引きちぎってしまったれみりゃの腕はまだ温かく、切断面からはジューシィーな肉餡とホカホカの湯気が覗く。
「……ごくり」
湯気にのって、肉まんの匂いが吾郎の臭覚を刺激する。
吾郎は、我慢できずに、自らが握っている肉まんを口へと運んだ。
「ん! これはうまい! いかにも肉まんって感じの肉まんだ!」
「あああ~~っ、でびりゃのぉ~~~! でびりゃのぉおででがぁ~~~!!」
咀嚼を繰り返し、予想以上の美味に感嘆する吾郎。
その傍らでれみりゃが必死の叫びをあげていたが、今の吾郎にそれが届くことはない。
「そうそう! こういうのでいいんだよ!」
むしゃむしゃと肉まんにかぶりついていく吾郎。
そんな吾郎の服の端を、くぃくぃとフランが引っ張った。
「おかんじょう……ごひゃくえん」
「ん、そうか……支払いがまだだったな」
勝手に食べてしまっては客としてマナーが悪い。
吾郎はフランの言い値に従い、500円を手渡した。
それを受け取り、満足そうに頷くフラン。
一方、れみりゃはホカホカ湯気をたてる肩口をおさえながら立ちあがり、吾郎に食ってかかった。
「べんしょーだっどぉー! でびりゃにぶっでぃんよごずんだっどぉーー!!」
うるいさいなと、吾郎は感じた。
吾郎は食事を堪能しているのを邪魔されるのが我慢できないタチだった。
吾郎は肉まんを食べるのをいったん止めて、フランに頼んで残りを包んでもらうことにする。
そして、肉汁を口から飛ばすれみりゃと向かい合った。
「がえぜぇー! ぞれでびりゃのだどぉー! おぜうざまごうほのだいじなおがらだは、じんるいのたからなんだっどぉー!!」
吾郎は喚き散らすれみりゃの体を持ち上げ、それを店の床へ叩きつける。
れみりゃはわんわん泣いて痛がり、這ったまま頭を抱えてがたがたと震えだした。
「やべでぇー!! もうぶただいでぇーー!!!」
痛みで起きあがることができず、れみりゃは這いつくばりながら抗議の声をあげた。
「どうじで、でびりゃをいじめるんどぉー!?
でびりゃはごーまかんのあるじだどぉー! えらいんだどぉーかわいいんだっどぉー!」
四肢をどたばた振り回して、れみりゃはだだをこねはじめる。
こうなってしまうと、なかなか収集はつきそうにない。吾郎は、怒りを通り越して疲れを感じた。
「ぶっでぃんぐれぇー! ぶっでぃーーん!! じゃなぎゃうっだえでやるどぉーー!!」
「うるさい……」
「ぶっひぃ~~~ん!?」
殴り飛ばされ、店の端へ転がっていく、れみりゃ。
れみりゃを制したのは、吾郎ではなくフランの拳だった。
「ぶぁぁーー! ふらんじゃーん! なんでだどぉーー!?」
「おねぇさま、しょせんおじょうさま……でもおきゃくさま、かみさま」
「うあぁぁーー! ふらんじゃんひどいどぉーー!!」
やれやれと、吾郎はため息をついた。
もうここにいても仕方ないなと思い、吾郎は包んで貰った肉まんを片手に店を出ることにする。
「俺はこの店には場違いだったみたいだな……」
* * *
雨はあがり、空には夕日が浮かんでいる。
吾郎は公園のベンチに座り、自販機で買ったチェリオを片手に"れみりゃの片腕の残り"を頬張っていた。
「うん、このわざとらしい肉まん味!」
吾郎の視界の先では、子供達が元気に遊んでいる。
どうやら、羽をもいだ胴体無しれみりゃをボール代わりにして、バスケットボールをしているようだ。
"うううう~~~~っ"
"うぁぁぁーー! まんまぁーーー!"
"さくやぁーー! たすけてぇーーー!"
そんな子供達の元気な様子を目におさめつつ、
吾郎は少年時代の郷愁をスパイスにして、肉まんを堪能するのだった……。
「……肉まんの味って男の子って感じだよな」
おしまい。
ただいま書きかけのネタの在庫整理中だったりします。
『孤独のグルメ』はネタ抜きで面白いマンガだと思うんですけどねー。
by ティガれみりゃの人
最終更新:2009年01月13日 00:12