ゆっくりいじめ系1921 ダメな子 4



 お母さんが見てくれている! あの優しくてゆっくりしていた、れいむのお母さんは、
今でもれいむのことをゆっくり見守ってくれている!
 駆け出したい、跳ね回りたい、その気持ちを、れいむは抑えていた。おつむの後ろの
傷が、まだ痛いからだ。先ほどちょっと跳ねただけで、凄く痛い。今もまだ、ずきずき
してる。
「ゆぅ〜……こんなに痛いと、ゆっくりできないよ……お山へは、ゆっくり帰るよ」
 れいむは、ゆっくりと這うように進んでいた。
 今は夜で、辺りも空も暗い。お月様も出ていない。進んでいるのは、来たときとは別
の道だが、遠くにお山の黒々とした姿が見える。だから、あそこへ向かって進めばいい
のだ。
 それにこの道は、土が軟らかくて怪我をして疲れた体には、ゆっくりと優しかった。

 頭はずきずきと痛いけど、心がふんわりと温かく、ゆっくりとしていた。
 それはきっと、お母さんが見守っていてくれるからに違いない。そして、れいむがそ
のことに気付けたから、お母さんもゆっくりしていて、それが伝わってくるからに違い
ない。
 そう思った。だから、嬉しくて駆け出したい。嬉しくて、お空からよく見えるように
飛び跳ねたい。

 ふと横を見れば、ちょっと離れたところに、ゆっくり出来そうな草かなにかが生えて
いる。多分、お野菜さんだろう。でも、今はご飯を食べている場合じゃない。
 れいむに怖い思いをさせて、怪我までさせた酷いお兄さんだけど、今もお空からお母
さんは見守ってくれているという言葉は、信じてあげても良いと思った。
 そして、そんな素敵な──とてもゆっくりした──ことを教えてくれたお兄さんなら、
あのこともきっと本当に違いないのだ。

『ゆっくりしたければ、人間の里には近づくな』

 その通りだと思う。今日一日、酷い目にあった。
「人間達のところへ行って、人間達が独り占めしてるいろいろなものを、取り返そう」
 そう言ったのは、誰だったか。れいむ以外であることは、間違いない。言い出すのは、
いつもあの三人の誰かだったのだから。

 強い自分に任せれば大丈夫だと言っていた、まりさ。
 賢い自分が思いついた素晴らしい策戦だと言っていた、ぱちゅりー。
 とかいはな自分と一緒に来ても良いのよと言っていた、ありす。

 駆けっこしても、れいむと同じくらいなのに、自分が一番だと言い張ってばかりの、
まりさ。
 役に立たないことばかりを言うのに、賢い自分に従えばいいんだといつも偉そうな、
ぱちゅりー。
 すぐに気持ち悪い顔になるクセに“とかいは”と言い、人の外見にはケチをつける、
ありす。

 あんなゆっくり出来ない連中でも、お友達だから一緒にゆっくりしなくちゃいけない
と思っていた。それは、お母さんの言葉があったからだ。
 でも、ゆっくり出来ない相手なら、それはお友達じゃない。

 まりさは、なにも考えてなくて、本当は誰かに言われるままで、本当は素早くも強く
もない。弱くてバカで格好悪い。
 ぱちゅりーは、言うことが全部間違ってばかりで、考えてることも間違いだらけだ。
体が弱くてバカだなんて、救いがない。
 ありすは、なんでも“とかいは”と言っていれば良いと思っていて、しかも自分じゃ
なんにも出来ない。無能なおバカ。そして、きっとレイパーになる。

 ちっともゆっくり出来ない三人だ。でも、れいむはそれを言葉にしない。口にしちゃ
いけない。
 お母さんが、ゆっくり出来ない言葉を言っちゃ駄目と教えてくれたから。そんな言葉
は、聞いている人も言っている自分も、ゆっくり出来なくなる。
 優しく、優しく、何度も教えてくれた、優しくてゆっくりしたお母さんの教え。
 どうして忘れていたんだろう。でも、思い出せた。大切なことを思い出せたことだけ
が、今回の良かったところだ。
 山へ戻って、これからはずっとゆっくりしよう。人間には近づかず、ずっとゆっくり
しよう。

 そう思っていると、誰かがこちらへ近づいてくるのが見えた。
 大慌てで、飛び跳ねながらこちらへ向かってくる。何があったのだろう?

 暗い夜の闇の中、白い包帯が見え、丸い帽子が見え、帽子についたお星様と同じ形の
飾りが見えたてきた。
 一生懸命れいむに向かってくるのは、めーりん種だ。しかも、あのお家にいた弱い子
だ。
 でも、れいむはもう“よわい”なんて言わない。きっとこれも、ゆっくり出来ない言
葉だから。

「ゆゆっ! そうだ! れいむが教えてもらったことを、教えてあげたら喜ぶかもしれ
ないよ!」

 お兄さんから、教えてもらった大切なことを、教えてやろう。『れいむが教えてあげ
るから、ゆっくり聞いて、ゆっくり理解してね、クズめーりん』と。
 きちんと話しかけたら、クズめーりんはどんなに喜ぶだろう。
 人間さんには勝てないけれど、ゆっくりの中でなら、れいむはとてもゆっくりとした
ゆっくりなのだ。ゆっくり中のゆっくりだ。
 そのれいむが、クズめーりんのために教えてやる。
 きっと喜ぶに違いない。
 友達になりたいと、クズめーりんは思うかもしれない。
 なってあげても良い。クズめーりんじゃ、れいむはあんまりゆっくり出来ないかもし
れないけど、もしゆっくり出来なかったら……

「その時は、まりさ達と同じように、友達をやめれば良いだけなんだよ♪」

 だから、どうしてもと言われたら、友達になってやろう。自分は、優しくてゆっくり
したお母さんの子供なのだから。

「クズめーりん! ゆっくりしていってね!」

 まずは、ご挨拶からだ。とてもゆっくりした素敵な自分のご挨拶なら、きっと喜ぶに
違いない。



 遠くから、悲鳴が聞こえる。お家の方からだ。
 先ほどから、声はありすのものになっているようだ。あの、嫌な目をしていたありす
が“あにじゃ”にお仕置きされているに違いない。
 自分がやっつけたかった。
 めーりんはそう思い、また悔しさがこみ上げてきた。
 悔しくて、ずっと眠れなかったのだ。
 “あにじゃ”が「眠るのも仕事」と言ったから、頑張って眠ろうとしたのだけれど、
頑張れば頑張るほど、眠れなくなった。
 お家を守るのが自分のお仕事なのに、お家の裏口が壊されて、お部屋の中がグチャグ
チャにされた。
 戦おうとしたけれど、弱い自分ではあの四人に歯が立たなかった。

 弱い自分が悔しくて、眠れない。
 でも、それだけじゃない。

『怪我が治ったら、頑張って強くなろうな』

 今からそのことを考えると、体がわくわくとしてくる。
 “あにじゃ”が言うのなら、きっと強くなれる。めーりんはどんなことでも我慢して、
きっと強くなろうと思っていた。
 強くなった自分の姿が、楽しみだった。強くなった自分を見て、褒めてくれる“あに
じゃ”を思うと、いてもたってもいられない。

 “あにじゃ”は、怖い。
 畑荒らしや家荒らしのゆっくりを捕まえたときは、本当に怖い。
 “あにじゃ”のお仕置きは、とても痛そうで、とても苦しそうで、たいていのゆっく
りは『もう殺してください』と言う。言いながら、責め続けられ、言いながら、死んで
いく。
 だからめーりんは、悪いゆっくりは“あにじゃ”が捕まえる前に自分がやっつけよう
と、いつも思っていた。
 実際に、何度かやっつけた。
 同じゆっくりを殺すのは、とても悲しくて、潰したゆっくりがずっと体に張り付いて
いるようで、心にもへばり付いているようで、ずっと嫌な気持ちが続いた。

 だけど、“あにじゃ”はとても優しい。
 怪我をしたときは、今日のように手当てをしてくれる。戦いに汚れて、めーりんが俯
いていると、優しい手で綺麗にしてくれる。
 “あにじゃ”の手はごつごつでザラザラだけど、めーりんにとっては大好きな手だっ
た。
 あの手で綺麗にしてもらうと、体と心に張り付いていた嫌なものが、全て綺麗に取れ
てしまう気がするから、とても不思議な手だと思っていた。

 その手を床について、“あにじゃ”はお願いしてくれたのだ。
 “あにじゃ”とめーりんの、大切なお家と畑を……大切なゆっくりぷれいすを、守っ
て欲しいと。
 あの日のことは、絶対に忘れない。あの日、体の内側から沸き上がってきた不思議な
震えと暖かさを、絶対に忘れることはないだろう。

 あれが喜びだったのだ。

「じゃお……!?」

 休めないなら、せめて畑を見ていよう。そう思ったはずなのに、考え事をしていて気
がつけなかった。
 危ない。自分はまた失敗をするところだった。

「じゃ……じゃお……!」

 包帯に押さえられた体が、上手に動かない。でも、この包帯がめーりんの傷を守って
くれる。だから、動けるはずだ。
 痛みを感じて強くなる「ゆっくりしたい」という本能を、「守るべき場所を守る」と
いうもう一つの本能が押さえ込む。
 “あにじゃ”が作ってくれた、とてもゆっくりした寝床から、めーりんは飛び降りた。

「じゃおぉぉぉ……んん……!」

 飛び降りた衝撃で、体中がバラバラになりそうに痛む。特に、怪我をしたところから
体が二つに裂けそうなほどだ。
 痛くても、叫べない。叫べば、気付かれるからだ。

 畑に入り込んだ、ゆっくりがいる。“あにじゃ”は、ありす達のお仕置きで忙しい。
 畑を守るのは、自分しかいない。自分が守るべき場所だから、自分の力で守る。
 飛び跳ねる度に、体を引き裂かれるような痛みが走った。でも、それもすぐに気にな
らなくなる。

 自分は“あにじゃ”にお願いされたのだ。畑を守るのだ。だから、痛みなんて邪魔な
だけだ。

「クズめーりん! ゆっくりし 「じゃぉおおおおおおおおおっ!!」

 大きく飛び跳ねた。傷口が開き、自分の中身が零れていくことも構わなかった。邪魔
な痛みは、もう感じない。やるべきことだけが目の前にある。
 中身が零れようと構わない。戦うために、この場所を守るために体が動けばそれで良
いのだ。
 もう、前のような失敗はしない。挨拶のフリをして笑いながら「ゆっくりしね」と言
われて、ビックリしていたら袋叩きにされた。あんな失敗は、もうしない。
 飛びかかり、歯を押し当てるようにして体当たりをした。めーりんが、ありすにやら
れて一番酷い怪我をした攻撃だった。
 れいむの体当たりより、まりさの体当たりより、ありすのその攻撃が一番効いた。だ
から、めーりんはしっかりと憶えていたのだ。

「ゆがぁあああっ!? なにするの、クズめーりんっ!? せっがぐでいぶが、ゆっぐ
りでぎるごどをおじえであげようとじだのにぃいいいい!」

 耳を貸す必要はない。実際に何も聞こえない。聞こえなくてちょうど良い、邪魔なだ
けだ。どうせ酷い呼び方をしているだけだ。
 自分の耳に響くのは、“あにじゃ”の優しい呼びかけだけだ。
 だから。そのために。

「じゃぉおおおおおおおんっ!!」
「おんじらずのぐずべーり゛ん゛は゛ゆ゛っ゛く゛り゛し゛ね゛ぇ゛え゛え゛え゛!」


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最終更新:2009年01月11日 13:34
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