ゆっくりいじめ系1924 怖いお顔 1

注意書き(うだうだ書きすぎないよう、三点ほど)

  • 虐分が薄いとかどうとかより、前置きが長すぎ。
  • 舞台がどこでも通じるように心がけたつもりですが
 中途半端に江戸期あたり臭くなりました。
  • 洒落になってない内容を含みますので、人によっては
 おびただしく嫌悪感を抱くかもしれません。

  ***  ***  ***  ***  

「お腹がすいたわぁ〜……」

 空を見上げて、まりさは溜め息とともに小さく呟いた。
 しばらく前から、まりさには急にドス化が始まっている。何が原因かさっぱりわか
らなかったが、体がどんどん大きく育っていったのだ。
 最初は、食べ過ぎて太ってしまったのかと思っていた。急に大きくなり始めた体は
なかなか思うように動いてくれず、最初の頃は太ったせいで狩りが下手になったと嘆
き悲しんだものだ。
 その時に「ご飯を食べないと体が小さくなる」と、群れのぱちゅりーが教えてくれ
たので、まりさは出来るだけご飯を食べないようにしている。太ったのかもしれない
と思っていた頃はもちろん、これはドス化なのだと知った今でも、出来るだけ食べな
いようにしていた。
 ドスには、なりたくないのだ。
 自信がないから。
 みんなと同じが良いから。
 ドス化が始まってから、自分の喋り方が無意識のうちに、なんだかとてものんびり
ゆっくりしたものになっている。それも、あまり好きではなかった。

 食べる量を少なくしているおかげか、ドス化が始まったのだとぱちゅりーから言わ
れてずいぶん経つが、まだ他のゆっくりが5人ほど縦に重なったくらいの大きさで済
んでいる。木さんより高くてお山のように大きくなると、話に聞いたことがあるドス
の様には、まだなっていない。
「やっぱり、ちゃんと食べた方が良いよ。心配しなくても、まりさなら立派なドスに
なって、群れのリーダーだって勤まるから」
 心配そうに足下から声をかけてくるのは、幼なじみのれいむだ。
 まりさは、彼女のことを尊敬していた。
 自分は、まりさ種なのに自信が持てず、みんなを引っ張っていけるほど活動的でも
ない。ただ、動きの素早さは群れで一番だったし、小さな虫さんを見つけたり、高い
木の上の実が落ちるかどうかを見分ける目の良さは自慢だった。
 それも、今の大きな体で激しく動き回ると、食べられる草さんまで踏んづけたり、
虫さんに逃げられたりするから、すっかり素早く動くこともなくなった。目の良さだ
けは、前よりもさらに良くなった気がするが……
 でも、ドスにはなりたくなかった。
 こんなに素晴らしくてゆっくりとしたれいむとお話しするときも、上から見下ろす
ようにしていなければならない大きな体は、やはり好きになれない。
 なにより、自分は意気地がないのだ。
 それに比べて、れいむは凄いところばかりだ。
 彼女は、ぱちゅりーよりも頭が良いとまりさは思っている。何でも知っているとい
うわけではないが、ゆっくりと考えてから、いつも正しいことを言う。動きだって、
群れの中ではかなり早いほうだ。なにより勇気があって、頑張り屋で、そしてとても
優しかった。

 そんな素敵でゆっくりとしたれいむには、片方のお目々がなかった。

  ***  ***  ***  ***  

「逃げて……! みんな、ここからゆっくりしないでお引っ越ししてね……!」

 それは、まりさがまだ幼い頃のこと。
 “特別な狩り”に出かけた大人達の中で、まりさの姉だけが帰ってきた。それも、
傷だらけの姿で。
 まりさが大好きで、何度もす〜りす〜りしたほっぺたが、一つ無くなっていた。体
の片側を、無惨に切り落とされていたのだ。そこから、ぼとぼとと中身の餡子さんが
零れ出している。よく戻ってこられたと驚く大人達に、姉はもう一度、息も絶え絶え
な声をなんとか張り上げようとしながら、繰り返した。
「お願いだから……! ここから! ゆっくりしないで……お引っ越ししてね!」
 姉が言うには、狩りへ出た大人達は、みんな死んでしまったのだという。殺されて
しまったと。両親も、姉妹も、お友達も、お世話になった大人達も。人間さんに見つ
かり、お野菜さんを持ってこられないまま、みんなみんな殺されたのだと。
 “特別な狩り”は、山から下りて人間さん達の里へと行き、お野菜さんを取ってく
ることだったのだ。
 姉は一番最初に大怪我をさせられて、気絶していたらしい。目が覚めると、仲間の
みんなが死んでいて、人間さん達が「山のゆっくりを退治しよう」と話しているのを
聞いた。だから、なんとか人間さん達の目を盗んで、戻ってきたのだと。飛び跳ねる
ことが出来ずに、戻ってくるまでに時間がかかってしまった。こんなに夜遅くになっ
てしまった。だけど、すぐにお引っ越しをしてくれと。
 お母さんが、二人とも死んでしまった。他のお姉ちゃん達も、もういない。それは、
急には信じがたいことだった。
 お母さん達は二人ともまりさ種で、勇気があって素早くて、とっても強かったのだ。
とても強くて、そしてとても優しい、あのお母さん達とはもう会えないなんて、信じ
たくなかった。
 姉達も、いつも末っ子の自分を気遣ってくれて、弱虫の自分を守ってくれる、優し
く強いゆっくりだった。自分だけではない。姉達自身がお友達と遊びたいときでも、
年下のゆっくり達みんなの世話を優先して、笑顔で相手をしてくれた、面倒見の良い
“みんなのお姉さん”だったのだ。
 どこにも、死ななくてはならない理由なんて見つけられない。なのに……

「それじゃあ、まりさはみんなを見捨てて逃げてきたんだね!?」

 大人の誰かが、そう叫んだ。その言葉をきっかけにして、あちこちから姉を責める
声が上がる。親が帰ってこなかった子供達が、泣きながら罵る。「薄情なゆっくりは、
ゆっくりしないでさっさとしね」という声まで聞こえ出した。
 まりさはぐったりしたまま動かない姉の側へ行って、精一杯大きな声で、それらの
言葉を否定した。姉はとても勇敢なのだ。人間さんが怖くて強いことは、まりさだっ
て知っている。お母さんが教えてくれたから、知っている。だけど姉は勇気があるか
ら、一番最初に怖い人間さんへ飛びかかって、それで怪我をしたに違いない。こんな
に酷い怪我をして、それでも群れのみんなに危機を伝えるために頑張って戻ってきた。
それは姉がとても優しいからだ。こんなに勇気があって優しい、ゆっくりした姉に酷
いことを言わないでくれ。
 どうしてそんなことを酷いことを言って、今にも……そう、今にも死にそうな姉を、
虐めるのか。言いながら、まりさは戻ってきてくれた姉もじきに死んでしまうのだと
わかっている自分に気が付いて、わんわん泣き出してしまった。あんなに頼もしかっ
た一番上のお姉ちゃんが、優しいお姉ちゃんが、死のうとしている。
 幼いまりさには、思っているとおりの言葉が上手く出てこなかったが、それでも声
を張り上げて言い続けた。ボロボロと泣きながら、言い続けた。

 そんなまりさと姉を庇うようにして大人が二人、目の前に立った。
 幼なじみの、れいむのお母さん二人だった。二人ともれいむ種で、まりさのお母さ
ん達と同じくらいに優しくてゆっくりした人達だ。
「まりさのお姉さん達もお母さん達も優しいって、れいむ達がよく知っているよ」
「れっ……れいっ……れいみゅおばちゃん……!」
 れいむおばさんが大人達をゆっくりと見渡し、ゆっくりと話し始めた。
 みんなも知っているはずだと。怪我をしているのに戻ってきてくれたまりさのこと
を、その両親のことを、その妹達のことを。狩りに行ったみんなのことを。ゆっくり
出来ないゆっくりなんて、一人もいなかったじゃないか。それよりも、こんな大怪我
をしているのに大事なことを伝えに来てくれた、まりさの言うとおりにしなくちゃい
けない。行く先さえ決まっていないけれど、今は夜で怖くて危ないけれど、それでも
ここから、ゆっくりしないでお引っ越しをしようと。
「そうしなくちゃ、みんな人間さんに殺されてしまうからね。このまりさの頑張りを、
無駄にするだけになっちゃうからね」
「さぁ! ゆっくりしないで早くお引っ越しの準備を済ませてね!」
 大人達はその通りだと、それぞれがそれぞれのお家へと急いで行った。一言くらい
謝って欲しかったが、たくさん叫んだまりさの喉は痛くて痛くて、すぐには声が出な
かった。
「まりさは、怪我を治さないとね。傷を塞ぐのは、怪我に優しい草さんでいいかな?
取ってくるから、ちょっとの間だけゆっくり我慢していてね?」
「小さなまりさ。一人で大変だろうけど、れいむおばさんも手伝うから、お引っ越し
の準備をしようね」
 優しいれいむおばさんが、そう言ってくれる。お姉ちゃんは、助かるのだろうか?
死ななくて済むのだろうか? 草さんの中には、美味しいものだけじゃなくて怪我に
優しいものまであるらしい。それなら、きっと治るはずだ。
「ありがとう……れいむおばさん。でも……まりさはもう助からないよ。だから……
おばさん達もゆっくりしないで、お引っ越しの準備をしてね……」
 助からないことは、自分がよくわかっている。もう自分は、えいえんにゆっくりし
てもいいのだ、みんなに伝えることは伝えたから。そう、姉が言う。どうしてそんな
ことを言うのか。どうしてそんな悲しくて寂しいことを言うのか、幼いまりさにはわ
からなかった。
 怪我を治そう、草さんを持ってくる、まりさも手伝う。そう言い募る自分に、姉は
静かにゆっくりと、弱々しい声で伝えてきた。
「まりさ……これからは、自分のことは自分で頑張ってね。お姉ちゃんの分まで、ゆ
っくりしていってね」
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。お姉ちゃんとゆっくりするんだ。お引っ越しした新しいお家で、
お姉ちゃんとゆっくりする。お姉ちゃんがいないと、ゆっくりなんて出来ない。
「まりさは強い子だから……お姉ちゃんの自慢の妹だから、大丈夫だよ。ゆっくり聞
き分けてね」
 そして……と、姉が続ける。もう、お口のすぐ側に寄らないと聞こえないほど弱々
しい声で、姉が言った。
「絶対に、人間さんには近づいちゃダメだからね」
 それが、姉がまりさに教えてくれた、最後の言葉だった。

 泣きながら、まりさはお引っ越しの準備をした。たくさんたくさん、持って行きた
い物があった。お母さん達とお姉ちゃん達の思い出の品物ばかりが、お家にはあった
から。それでも小さなまりさにはその全てが持てるはずもなく、ほんの少しのご飯を
持っただけの引っ越し準備だった。
 みんな揃ったか? そろそろ出発するけど、みんないるか? そう言って群れの長
がみんなを見渡した時だ。
「これで全部なんだな?」
 人間さんだった。たくさんの人間さん達が、いつの間にか自分達を取り囲んでいた。
木々の陰から、次々と出てくる。騒ぎ出し、大声でわめく大人達。泣き出す子供達。
大騒ぎのゆっくり達を、人間さん達は黙ったまま見つめている。
 そんな中、まりさは「こんなに早くお姉ちゃんの言いつけに背いてしまった」と、
ただボンヤリと思っただけだった。
 人間さんの一人が、村の畑を荒らしたゆっくりがいる。その巣を探るために、一匹
逃がした。これからお前達全てを退治する。そう、静かな声で言ってきた。

 あの、まりさのせいだ。まりさが悪い。まりさのせいで自分はゆっくり出来ない。
 また、姉を罵る声がたくさん聞こえてきた。でも今度は、まりさは黙ったままだっ
た。姉に酷いことを言う他のゆっくり達より、姉の最後の言いつけさえ守れなかった
自分が大嫌いだったから。
「もう人間さんの畑を荒らしたりしません! 人間さんのところへ行ったりしません!
だから、私達をゆっくりさせてください!」
 れいむおばさん達が、さっき怖いことを言った人間さんの前へ行って、お願いを始
めた。地面さんにお顔をズリズリつける、“どげざ”をしている。
 怖いことを言った人間さんに、怖くて強い人間さんに、近づいたら殺されちゃう人
間さんに、れいむおばさん達は近づいて、お願いをしている。なんて勇気があるのだ
ろう。
 自分達が殺されてしまうかもしれないのに、みんなのためにお願いしている。なん
て優しいのだろう。
「れいむ達はどうなってもいいから、群れのみんなはゆっくりさせてください!」
 まりさは、れいむおばさん達がますます大好きになって、前よりもずっと尊敬する
気持ちが強くなった。
 それに比べて、自分は何も出来ない。お姉ちゃんの、大切な最後の言いつけさえ守
れない。まりさは、ますます自分が嫌いになった。
 誰かが死んで、みんながゆっくり出来るのなら、自分が良い。れいむおばさん達は
優しくて勇気があって、とてもゆっくりしてる。だから、死んじゃうなんてダメだ。
もう家族もいなくて、お姉ちゃんの言いつけも守れないような、そんなゆっくり出来
ていない自分が死ねば良いんだ。
 まりさがそう思ったとき、自分と同じくらいに小さな影が、れいむおばさん達の前
へと駆け出した。

「おきゃあさんをゆゆしちぇあげちぇね! おしおきはれいみゅにしちぇね!」

 幼なじみの、れいむだった。とても優しくて、のんびりしてて、ゆっくりしている
普段からは考えられないほど早く駆けていって、母親達の前で“どげざ”する。
 自分が、いいや自分がと、れいむ親子が言い合っている。さっきまで騒いでいた他
のゆっくり達は、静かに黙り込んでいる。まりさも、声が出せなかった。
 ぐるりと取り囲んでいる人間さん達から、ひそひそと何か話しているような声が聞
こえたが、何を言い合っているのかは聞き取れなかった。
 最初に怖いことを言った人間さんは、ずっと黙ったままだ。
「れいむ達はどうなってもいいから、この子は助けてあげてください! この子は、
とても優しくてゆっくりした良い子なんです!」
「おきゃあさんたちを、ゆゆしちぇあげちぇね! おきゃあしゃんは、やしゃしいよ!
ゆっきゅりしちぇるよ!」
 そして、親子の声が重なって同じことを叫ぶ。「どうか群れのみんなをゆっくりさ
せてあげてください」と。
 それを聞いた怖い人間さんのお顔が、下へと降りてくる。しゃがみ込んで、幼なじ
みのれいむへとお顔を近づけたのだ。

「じゃあ、お仕置きとして、お前さんの目を一個もらおうか」

 れいむおばさん達が、大声で泣きながらお願いを続ける。どうかゆるして、どうか
ゆっくりさせてあげて、どうか自分達にして。れいむおばさん達以外、誰も喋ってい
ない。人間さん達も、他のゆっくり達も、黙ったままだ。
 まりさも、声が出なかった。
 ガタガタと震えている自分に気が付いて、やっぱり自分は意気地無しだと、また自
分が嫌いになった。
「れいみゅのおめめがほしいのにゃら、あげりゅにぇ! だから、おきゃあしゃんを
ゆっくちゆゆしちぇあげちぇね!」
 幼なじみのれいむが、怖い人間さんにぴょこんと近づいた。れいむおばさん達が悲
鳴を上げたが、れいむ自身は平気な様子だ。
 それどころか、れいむのお顔が、その立っている姿が、まりさには誇りに満ちてい
るように見えた。

 人間さんの指がれいむの左のお目々に触り、指先が見えなくなって……その手が引
き戻されたときには、丸い何かを掴んでいた。あれが、れいむのお目々なのだろう。
 その間、れいむは声の一つも上げなかった。動きもせず、泣きもしなかった。痛く
て痛くて仕方ないはずなのに。
 れいむおばさん達は泣き叫び、お目々が取り出されてからは「ごめんね、ごめんね」
と娘に謝り続けている。
 怖い人間さんは、れいむのお目々を自分の口の中へひょいと放り込んだ。れいむの
お目々を食べるつもりだ。まりさの体が、いっそうガタガタと震え始める。
 だが、すぐに人間さんはれいむのお目々を口から出した。
 引っ付いていた餡子が取れて、お月様に照らされてキラキラと光を弾くれいむのお
目々は、奇妙に綺麗で、だけどとても恐ろしいものにまりさには見えた。
「お前さんの、目ん玉だ」
 人間さんが言うと、れいむがこくりと頷いた。
「怖いか?」
 また、れいむが頷く。
「でも、綺麗だと思わないか?」
 しばらく迷ってから、また頷く。
「心が綺麗だと、目も綺麗なんだとさ。人の間じゃ、そう言われてる。お前らはどう
だか知らないがな」
 そう言った人間さんのお顔が、高いところへと上がった。立ち上がったのだ。
 れいむのお目々を持った怖い人間さんが、れいむおばさん達に「巣はどこだ」と聞
いてきた。おばさん達は慌てて、「なにをするつもりか知らないけど、どうかゆっく
りさせてください」と、地面にお顔をズリズリと擦りつける。お顔が傷だらけになり
そうなほど、強く激しく擦りつけている。
「お前達が忘れないように、これを巣の前に埋めるだけだ」
 その声を聞いたゆっくり達が、歓声を上げる。今まで黙っていたゆっくり達が、嬉
しげに騒ぎ出す。助かった、死ななくて済んだ、ゆっくり出来る。
 忘れるなよと言って、れいむとれいむおばさん達によく見えるように、人間さんが
手にしたお目々を差し出してきた。人間さんの畑に手を出したら、ただでは済まない
ぞ。里に近づいたら、容赦なく潰すぞと。
 そして……
「この、綺麗な目ん玉のことを」


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最終更新:2009年01月11日 13:38
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