ゆっくりいじめ系1976 竹取り男とゆっくり7

竹取り男とゆっくり



「ゆ」
「ゆ?」
「ゆーゆー」

 ある夕方、3匹の子ゆっくりが、ちらほらと小雪の舞う空を見上げて騒いでいた。
 季節はすでに冬…。
 この3匹は、冬籠りの前に…と、今年最後の外の空気を満喫しているところだった。
 すると、すぐ近くの巣穴から半分だけ顔を出した母れいむが子供たちを呼ぶ。

「れいむのおちびちゃんたち、もうすぐよるになるよ! ゆっくりおうちにはいろうね!」
「おかーさん! おはなさんがおそらをとんでるよ!」
「とってもきれいだよ!」
「おはなさん、ゆっくりしていってね!」

 舞い散る雪を花びらだと勘違いして「ゆっゆっ」とはしゃいでいる子供たち。
 この秋に産まれた子供たちは、まりさが2匹、れいむが1匹。
 皆とてもゆっくりしていて、どこへ出しても恥ずかしくない母れいむ自慢の子供たちだった。

「ゆふっ、それはね、おはなさんじゃなくて"ゆきさん"っていうんだよ」
「「「ゆきさん?」」」
「そうだよ。でもゆきさんはつめたくてゆっくりできないよ。はやくおうちに…」
「ゆん! やだよ! まりさはゆきさんとあそぶよ!」
「ゆきさん! まりさといっしょにゆっくりしようね!」
「ゆゆ! れーむともゆっくりしようね!」

 子ゆっくりたちは巣に入るのを嫌がって、舌をペロンペロン振り回して雪をつかまえようとしている。

「ゆっへん! まりさゆきさんをつかまえたよ!」

 舌をベロンチョと出したまま、生意気な顔でふんぞりかえる子まりさ。
 2匹の子ゆっくりは雪さんを見ようと子まりさのところに寄ってきた。

「ゆきさんみせて! …ゆ? ゆきさんいないよ?」
「どこにもいないよ?」
「ゆがーん!?」

 つかまえたはずの雪が舌の上から消えたので、子まりさはキョロキョロとあたりを見回した。
 母れいむが子供たちのところにくる。

「ゆきさんはつかまえてもきえちゃうんだよ!」
「「「そーなの?」」」
「さ、くらくなってきたよ! ゆっくりしないではやくおうちにはいってね!」

 薄暗い空から舞い落ちる牡丹雪が、だんだんとその量を増してくる。
 母れいむは雪の粉を追いかける子供たちをなんとか説き伏せて巣穴に入れた。

「まりさ、みんなおうちにはいったよ!」
「ゆ!」

 巣の一番奥の部屋で食料を整理していたまりさは、入口を塞ぎに出て行った。
 残された母れいむは、広いお部屋に山と積みあげられた食料を見ながらほほえんでいた。
 ほどなくして、大きな石と木の枝とたくさんの藁を使って隙間なく入口を塞いだまりさが戻ってきた。

「ゆっゆーん! みんな、ろびーにあつまるんだぜ!」

 一家の頼れるまりさの声に、母れいむと3匹の子供たちは一番大きな部屋に集まった。

「ゆっくりふゆごもりするために、みんなのるーるをはっぴょうするよ!!」
 ひとーつ、ごはんはいちにちにかい!
 ひとーつ、ごはんははらはちぶんめ!
 ひとーつ、ごはんはおかわりしない!
 ひとーつ、ごはんはよこどりしない!
 ひとーつ、ごはんはゆっくりたべよう!
 ひとーつ、ごはんは……」

 まりさの発表したルールはご飯に関することだけ。
 食い意地の張ったゆっくりの多くが、冬籠り中に食料を食い散らかしたあげく全滅することを知っているらしい。

「それじゃあふゆごもりをはじめるよ!! はるがくるまでゆっくりしようね!!」
「「「「えいっえいっ、ゆー!!!」」」」

 …もちろん、この一家のように冬を越すための食料も団結力も備えた一家は珍しい。
 たいていのゆっくりは食料不足や寒さ、また、暗く狭い穴の中で生活するストレスのために、春を待たずに冷たく黒ずんでしまうのが実情である。
 それはこの山に苦労して引っ越してきたゆっくりたちも例外ではない。
 竹取り男の住む、竹取り山…。
 この物語は、美味しいタケノコの噂を聞きつけて引っ越してきた多くのゆっくりたちの、生と死のドラマである。


 第1幕 〜孤独なまりさの冬籠り〜

 ソフトボールよりちょっと大きいくらい…。
 大人になったばかりのゆっくりまりさが、入口を封じた巣の中でゆっくりしていた。
 このまりさには親も兄弟もいなかった。
 にんっしんっしていた親がゆっくりれみりゃに襲われたとき、運よく茎から落ちたのである。
 おなかが空いてもご飯を持ってきてくれる親はおらず、泥んこになってもぺーろぺーろしてくれる姉妹もいない。
 ときには仲間のゆっくりに助けられながら、まりさは奇跡的にここまで生き延びてきたのだった。

「ゆっ! ゆっ! ゆっ! ゆっくりー!!」

 広くて清潔な巣穴と食べきれないほどの食料の山を見ながらポンポン飛び跳ねるまりさは、もうゆんゆん気分。

「ごはんもあるよ! おうちもあるよ! ゆっくりふゆをこせるよ! ゆ〜ん♪ ゆ〜ん♪」

 こんなにご機嫌な上に美味しいご飯まで食べちゃったりした日には、きっと「へぶんじょうたい!」とか叫び出すだろう。
 まりさは早速、涎を垂らしながら食料の山に舌を伸ばした。

「まずはごはんをたべるよ! ゆっくりいただきま〜…」

 ドザアァッ!!

「ゆお゙ッ!?」

 そのとき、広すぎた巣穴が積雪の重みに耐えきれず、天井が崩れて今にもご飯を食べようとしていたまりさの上に覆いかぶさった。

「………………ゆが……はぁっ………っ…」

 …だが、幸いにも巣穴は完全に崩れることなく止まった。
 半壊し、もうもうと土煙の立つ巣の中で、まりさはうつ伏せのまま、顔だけ出してスッポリ土に埋まっていた。

「ゆひっ……かひぃっ……どぼぢでっ…!?」

 なにが起きたのか分からないまりさは、歯を食いしばって必死に重い土布団から体を抜こうとした。

「どぼぢでっ!? ばじざ……ごはんをたべようどっ……じでだだげなのにっ……」

 まりさは泣きながら埋まっている足をジタバタさせた。
 なおかつ芋虫のように顔をウニウニ振っていると、まりさの体は少しずつ土から抜けていった。

「ゆっ! これならでられそうだよ! ゆーにゆーに! ゆーにゆーに!」

 希望を取り戻したまりさは、懸命に足をバタつかせ、顔をウニウニと振った。
 そうして、もうちょっとで出られると思ったとき…

 ズズズズズズ…!

 地響きとともに巣は二次崩壊して、まりさを覆っている土布団の上に、更に大量の土がかぶさった。

「ゆぶゔゔゔゔっっっ!!!!???」

 血走った両目が飛び出さんばかりに見開かれ、顔がパンパンに膨らむ。
 やわらかい、ただの饅頭でしかないまりさの体…。
 土の中でペッタンコになった下半身(?)の餡子が顔面へと逆流したために、まりさの顔は今にもはち切れそうになった。

「ゅ゙っ……ゅ゙っ……」

 まりさはぷるぷると小刻みに震えながら、一生懸命目と口を閉じていた。
 少しでも力を抜こうものなら、穴という穴から餡子が噴きだしてしまいそうだった。

 そうして10分が経った。
 我慢に弱いゆっくりが、ゆっくりできない状態でよく踏ん張ったものだ。
 だがもう限界だった。残念ながら、もう目と口を閉じている力が残っていなかった。
 茶色い脂汗を流しながら、ビクッ…ビクッ…と痙攣するまりさ。
 ほんのちょっと力を抜いたときである。

 プチャッ!!

 可愛らしい破裂音とともに、まりさの顔面が破裂してあたりに餡子を撒き散らした。
 顔を失ったために断末魔もあげられなかったが、沈んでゆく意識の中では「もっとゆっくりしたかった…」と何度もうったえていた。
 まりさはしばらくビクン…ビクン…と痙攣した後、すぐに事切れた。
 こんなに立派なおうちを作ってこんなに食べ物を蓄えたのに、冬籠りの初日に、まりさはその短い生涯を終えた。


 第2幕 〜ぱちゅりー初めての冬籠り〜

 そのゆっくりぱちゅりーは夏に産まれた。
 病弱で成長が遅いために体は子供。
 でも心は大人。
 ソフトボールサイズの体の生クリームに先祖の知識と経験が凝縮されているから、初めての冬籠りでも怖いものは何もなかった。

 ぱちゅりーはあまり食料を貯めこんでいなかった。
 小食だからだ。
 代わりに集められたのは、大好きな本。
 長い長い冬籠りで退屈しないようにと、ぱちゅりーは危険をおかして人里に近づいて本を拾ってきたのだった。

「むっきゃっきゃ! これだけのごほんがあれば、ゆっくりふゆごもりできるわね!」

 目の前の本の山がよっぽど嬉しいのだろう。
 いつも無口で無表情のぱちゅりーが、リスのような口をほころばせて、至福の表情になっている。
 ぱちゅりーはさっそく一冊の本を咥えて、葉っぱを敷いたゆっくりポイントにゆっくりおさまった。

「むきゅきゅ…これはなんのごほんかしら…」

 上品なぱちゅりーは他のゆっくりのように舌を使わない。
 唾液で紙を汚さないように注意しながら、可愛い唇で器用にページをめくっていく…。

「げつようび、はれ。かようび、はれ。すいようび、くもり。もくようび、あめ。 ……」

 ぱちゅりーは声を出しながら読んでいる。

「むっきゅーん! すばらしい"し"だわ! この"び"のいんのふみかたがぜつみょうね!!」

 どう見てもお天気の記録にすぎないが、ぱちゅりーは詩だと思い込んだ。

「むっきゅ! げいじゅつはたましいのえいようそね! つぎはなにかしら…?」

 ぱちゅりーはまた一冊の本を咥えてきて、ゆっくりポイントにおさまった。

「むきゅむきゅ…おんぷがたくさんならんでいるから、これはがくふね!」

 …正解です。

「ぱちぇはおうたもとくいなのよ! このおうたをぱちぇのもちうたにくわえるわ! むっきゅきゅきゅ〜むっきゅきゅきゅ〜むきゅむきゅ♪」

 そうして一行読めば「むきゅ!」、ページをめくれば「むきゅ!」と熱中していた本の虫ぱちゅりーは、一週間後……

「………………」

 開いた本を前に、あいかわらずの笑顔でゆっくりポイントに座っていた。
 ……真っ黒に変色したまま。
 死因は、本に熱中して食事を摂らなかったことによる栄養失調だった。


 第3幕 〜まりさとれいむの冬籠り〜

 ぬっちょぬっちょぬっちょ!

「ゆふんゆふん…まりさ…ゆふん……」
「ゆっへっへ、しってるぜ、ここがれいむのよわいとこなんだぜ」
「ゆんっ! だめだよぉ! そこ…すっきりしちゃうよ…あかちゃんできちゃう……」
「しんぱいいらないぜ。まりささまが、れいむをすんどめじごくにおとしてやるぜ」
「ゆふぅ…まりさのいじわるぅ…」
「さいこぉのほめことばだぜ」

 突然だが、つがいのまりさとれいむが狭い巣の中で体を擦りあっていた。
 赤ちゃんができないよう、まりさはれいむがすっきりー! する直前で頬ずりを止める。
 相当のテクニシャンのようで、れいむはすっかり翻弄されてされるがまんま。
 2匹の足元は、れいむの漏らしっぱなしの粘液で洪水状態だった。

「ゆっへっへぇ、れいむはここもいいんだぜ? ゆっくりくりくり」
「ゆほぉーっ!? そ、そこはちがっ…!!」
「ゆんんん?」
「ゆあっ!! あぁっ!! ゆひ!! ゆぐっ!!」

 いつもと違う場所に特攻されたれいむは、いつもと違う刺激にビクンビクン痙攣した。

「こんなにぬらして、れいむはなんていんらんなゆっくりなんだぜ」
「おっ…おでがいばじざ!! でいぶをっ……でいぶをおぞらにとばぜでぇ!!」
「ゆっゆー、まりさはなんにもきこえないんだぜ」
「もぉっ…ゆっぐりじないでぇ!! じらさないでぇ!! でいぶぢんじゃうぅぅぅ」
「しかたないんだぜ。まりささまのひっさつわざで、れいむをへぶんにおくりとどけてやるぜ」

 目先の欲求を満たすことしか考えないゆっくり。
 「もうあかちゃんできたっていいよね!」と、この危険な冬籠りの最中だってのに2匹は一時の快楽に流されてすっきりー! することにした。
 まりさはれいむに密着して、必殺技をお見舞いしてやるべく足を踏ん張った。

 ズルリ…

「ゆ゙っ!?」

 地面に着いているまりさの足の皮が、牛乳瓶の蓋のようにきれいに丸く剥がれた。
 ふと気がつくと、狭い巣穴はれいむのダダ漏れの粘液の海。
 ゆっくり焦らしプレイで粘液の海に長時間浸かっていたまりさの足は、すっかりふやけてブヨブヨになっていたのだった。
 竹取り男が見たら涎を垂らしそうな黒くて瑞々しい餡子が、傷口からズルズルとこぼれ出して、粘液の海を染めていく。
 続いてれいむの足の皮も同じように剥がれて、ドロドロと餡子が漏れ出していった。

「ゆがあああっ!!! ばじざざまのあんこがあああああああああ!!!!」
「ゆゆ!? どうしたの!? ゆっくりしないではやくすっきりしようね!! ……ゆぎゃぁぁでいぶのまっしろなあんよがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ゆがっ! ゆがあああああっ!!!! すごくいたいんだぜえええええええ!!!!!」
「でいぶのあんこさんおねがいだからとまってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「でいぶのせえなんだぜえ!!!! いんらんなでいぶのせえでこうなったんだぜえ!!! せきにんとるんだぜええええ!!!!!」
「どぼぢでぞんなごどいうのぉぉぉ!!!?? ばじざのてくにっくのせえでしょぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 すっきりー! の直前まで昇りつめていた2匹は、この急転直下の事態に対処できなかった。
 そうして醜く責任のなすり合いをしているうちにも、命の源である餡子は溶けだしてゆく。

「もぉこんなれいむとはゆっくりできないぜ!!! れいむはまりささまのためにゆっくりしね!!!」
「ゆぐっ!? なにするの!!?」

 まりさは自分だけ助かろうと、赤いリボンに噛みついてれいむの体をよじのぼっていった。

「やめてねっ!! ゆっくりやめてね!! れいむのすてきなおりぼんさんをよごさないでね!!」
「ゆげっへっへっへ、いいながめだぜ。まりささまはここでゆっくりきずをなおすんだぜ」
「ばじざのうらぎりものぉぉぉ!!!」

 自分の帽子を使うのではなく、あろうことかれいむを犠牲にして危険から逃れたまりさ。
 まりさはれいむに乗ったまま、足の皮が剥がれて動けないれいむを嘲笑した。
 時間が経つにつれ、溶かされて沈んでいくれいむ。
 狭い巣の中には、さっきまで激しく愛し合っていた2匹の熱気がこもっていて、粘液もしばらく凝固しそうにない。
 れいむは体を揺すってまりさを落とそうとするが、まりさはれいむのリボンをしっかり噛んで離さない。
 巣には2匹の罵りあう声がこだました。
 もはや、さっきまでの愛し合っていた夫婦の姿はどこにもなかった。

 足を失い、口を失い、目を失い、れいむはとうとう頭のてっぺんだけになった。
 声を失ってからも、死ぬ直前まで残り少ない餡子の中に満ちていたのは、自分を裏切ったまりさへの呪いの言葉だった。
 れいむは赤いリボンだけを残して、その不幸な生涯を終えた。

「ゆっくりしてるうちにれいむがとけたんだぜ。まりささまはひとりでゆっくりふゆをこすぜ。ふゆをこしたら……ゆへへへ」

 まりさはれいむが完全に溶けきるのを見とどけると、春になってからの新しい嫁探しを想像して口をゆがめた。
 邪魔者が消えてニヤニヤと笑っていたまりさ。 …だが、まりさは大切なことに気づいていない。
 れいむが完全に溶ければ、次は自分の番だということを…。

「ゆげぇっ、おみずさんどぼぢできえないんだぜえええ!!?」

 わめけば消えると思っているのだろうか…。
 力の及ばない存在に対して当り散らすことは、ゆっくりにはよくある行動だった。

「ゆぐ…こうなったらおぼーしさんのでばんだぜ!! きれいなおぼーしさんがよごれるのはいやだけど、れいむもいないししかたがないぜ」

 どうやられいむを犠牲にしたのは、自分の帽子を汚したくなかったためらしい。
 愛していた妻なのに、このまりさはどこまでも利己的だった。
 それとも最初から愛してなどおらず、長い冬籠りの慰めにしていただけなのだろうか。
 とにかくまりさは帽子を脱ごうとした。が、足が無いために、体を傾けて帽子を振り落とすことができない。

「ゆ!? お…おぼーしさん、まりささまのためにゆっくりおちるんだぜ! ぷるぷる〜!」

 まりさはその場でぷるぷる〜と体を振ったが、振動が弱すぎて帽子は脱げない。
 必死に舌を伸ばしても、帽子のツバにも届かない。
 足を失ったまりさは帽子さえ脱ぐこともできず、なすすべもなく溶かされていく。
 まるで亡きれいむの怨念がこめられているように、粘液はまりさを完全に溶かすまで凝固しなかった。

「ゆぐっ…ゆぐっ…ゆっくりしたけっかがこれだぜ!!」

 まりさは生きたまま、かつてつがいだったれいむにその身を溶かされてその生涯を終えた。
 リボンと帽子だけが跡に残った。


 第4幕 〜幸せ家族の冬籠り〜

 竹取り山のゆっくりが次々と冬籠りに失敗していくなか、冒頭のゆっくり一家は順調に日々を過ごしていた。
 誰も食事のルールを破ることなく、病気になることもなく、暖かい巣の中で実にゆっくりとした毎日を送っていた。
 そうして2週間ほど経ったある日の夜のことである。

「きょうのでぃなーはいもむしさんだよ!」
「おちびちゃんたち、なぷきんをゆっくりつけてね!」

 両親であるまりさとれいむ、そして3匹の子ゆっくりは、豪華な夕食を囲んでいた。
 滑稽なことに、全員が自分の涎を接着剤代わりにして、口の下に小さな葉っぱをくっつけている。
 これが"ナプキン"のつもりらしい。

「それじゃあゆっくりたべようね! ゆっくりいただきます!!」
「「「「ゆっくりいただきます!!」」」」

 ドゴーンッ!!!

「ゆゆ!?」
「ゆゆゆ!?」
「ゆっ!?」
「ゆんっ!?」
「ゆ!?」

 突如大きな爆発音が巣を揺るがし、5個の饅頭が一斉に飛びあがった。

「まりさ! げんかんのほうだよ!」
「ゆっくりみてくるよ!」

 そこは惨憺たるものだった。
 入口を塞いでいた石と小枝と藁は、外から破られたのだろう……巣の中に散乱し、凍える吹雪が吹きこんでいる。

「まりさ、さむいよぉ!」
「「「ちゃぶいよぉぉぉぉ!!!」」」
「ゆ、れいむもこどもたちもしんぱいしないでね! まりさがすぐにもとどおりにするからね! かぜさん、まりさのおうちをこわさないでね!」

 そう言って家族を元気づけ、小枝を咥えてポイ〜ンと入口に近づいたその瞬間である。
 巣の中を覗きこんできた二つの目玉に、てっきり吹雪の仕業だとおもっていたまりさは凍りついた。
 まりさの口から、小枝がポトリと落ちた。

「うわああああああああ……あああっ!?」」

 両目をヒン剥いて悲鳴を上げたまりさは、その悲鳴も終わらぬうちに、ムンズとつかまれて吹雪の向こうへ拉致られていった。

「おちびちゃん!! ゆっくりしないでにげるよ!!」

 れいむが子供たちを追い立てて巣の奥に逃げようとしたそのとき、再び手が伸びてきて、逃げ遅れた1匹の子まりさを握り締めた。

「ゆびぃ!? たすけ…!」
「ゆぎゃー!!! でいぶのおぢびちゃんをかえじでぇぇ!!!」
「おかーさんまってー!」
「おいてかないでー!」

 れいむはなりふり構わず入口に飛び出し、残り2匹の子供たちもその後に付いていってしまった。
 吹雪の吹きすさぶ巣の外でれいむが見たもの…。
 それは、人間、雪の中に逆さまに突き刺さって足だけ出ているまりさ、そして体の左半分を齧られた子まりさだった。

「おちびちゃん!!! おちびちゃあん!!!」
「ゆ゙っゆ゙っゆ゙っゆ゙っゆ゙っ」

 れいむは子まりさに駆け寄って頬を擦ったが、子まりさは餡子の半分を失ったショックで痙攣するだけだった。

「おちびちゃんはれいむがたすけるよ!! ゆっくりおくちのなかにいれるよ!!」
「いや、俺のお口の中に入れるよ」

 れいむは瀕死の子まりさを口に入れて保護しようとしたが、食べかけの子まりさは横から伸びてきた人間の手にヒョイと奪われてしまった。

「ゆぎゃあああ!!! でいぶのおぢびぢゃんがあああああ!!!!」
「ウマー! …残りのヤツももらおうかな」
「ゆ゙っ!?」

 男の言葉にビクッとしたれいむが背後を振り返ったそのとき、2匹の子供はすでに男の手中にあった。

「ゆ〜ん! おかーさーん!」
「くるしいよおー!!」
「がえじでぐだざいぃぃぃ!!!! でいぶとばじざのあいのけっしょうなんでずうぅぅぅ!!!!」

 涙と涎を撒き散らしながら、男の足元にすがりついて懇願するれいむ。

「返してほしい?」
「がえじでほじいでずぅぅぅぅ!!!!」
「う〜ん…じゃ、はい」
「ありがどーございばずぅぅぅぅ!!!!」
「これもかえすぜ」

 何か思いついたらしい男は、2匹の子ゆっくりだけでなく、逆さまに埋まっていたまりさを引っこ抜いてれいむに投げた。

 びたん!

「ゆぶしっっ」

 まりさを顔面で受けとめたれいむは、変な声を出しながら仰向けに倒れた。
 雪に埋まっていたまりさは、寒さで白目を剥いたまま、歯をガチガチ鳴らして痙攣していた。

「おにいざん!! ありがどーございばじだぁ!!!」

 まりさと子供たちを取り返すことに必死だったれいむ。
 思いのほか気前よく返してくれたことに感激し、自分の子供を1匹食べられたことも忘れてお礼まで言っていた。
 れいむは2匹の子供を巣に入れてから、失神したまりさの体を咥えてズリズリと巣の中に引っ張っていった。

 …30分後、れいむは懸命なすーりすーりで意識を取り戻したまりさと、今後どうするかを話し合った。

「にんげんにみつかっちゃったから、もうこのおうちじゃゆっくりできないよ! あたらしいゆっくりぷれいすをさがそうよ!」
「でも、おそとはすごくさむいよ。いまおそとにでたらしんじゃうよ…」
「ゆ…それはわかってるよ。でも、ここはゆっくりできないよ…」
「ゆうぅ…どうしよう…」

 子供たちを寝かしつけた後、まりさとれいむは必死に考えつづけた。
 だが所詮は餡子脳。3時間経っても何の名案も浮かんでこなかった。
 結局、入口をもっと頑丈に塞げば人間も壊せないだろうということになった。
 翌日、まりさは一日を費やして入念に入口を塞いだ。
 そして、一家は安心して夕食をかこんだ。

「「「「ゆっくりいただきまー…」」」」

 ドゴオォンッ!!!

「あああっ!!! ばじざのごどぼがあああああ!!!」
「どぼぢでまたくるのぉぉぉ!!!?」

 その夜、男は再び訪れてきて1匹の子まりさを食べて帰っていった。

「もぉこんなところじゃゆっくりできないよ! れいむはじっかにかえらせていただくよ!」

 事実上の離婚宣言をしておうちを飛び出したれいむだったが、あまりの寒さに10秒で帰ってきた。
 翌朝、まりさは更に更に入念に、これ以上ないくらい頑丈に入口を塞いで、夜は自分の体を重りにして塞いでいた。
 が、その夜も入口はあっさりと破壊され、最後の子れいむも食べられてしまった。
 しかも、今日にかぎって人間は恐ろしいことを言ってきた。

「お前らの食料、全部もらっていこうかな」

 まりさとれいむは驚愕して飛び上がった。

「やべでぐだざいぃぃぃ!!! しんじゃいますぅぅぅ!!!」
「ごはんまでとられだら、ゆっぐりふゆごもりでぎなくなっぢゃいますぅぅぅぅ!!!!」
「じゃあお前ら子供作っとけよ。俺は饅頭が食いたいんだ。冬はなかなか見つからなくてな。かといって町に下りて甘味屋行くのも面倒だし…」

 男がブツブツ言っているそばで、まりさとれいむはは凍りついていた。

「だ…だめですぅ…まりさのこどもをたべるなんて…」
「れいむのかわいいおちびちゃんをたべたじじいはゆっくりしね!!」
「あっそ。じゃ、饅頭の代わりに食料をもらってくよ。どれどれ…」
「「やべでぐだざいいいいいいい!!!!!」」
「じゃ、子供作っといてね。あとで取りに来るから」

 弁当屋に唐揚げ弁当を頼むようなノリで、無慈悲な男は帰って行った。
 まりさとれいむは巣の中でゆぐゆぐ泣いていた。
 元気な子供たちが消えたおうちは、まるでお通夜のように静かだった。 ……実際お通夜みたいなものだが。

「まりさ…どうするの…?」
「こども…つくるしかないよ」
「れいむはいやだよ! にんげんにたべさせるためにうむなんて、あかちゃんもゆっくりできないし、れいむもゆっくりできないよ!」
「でも、そうしないとごはんをとられてまりさたちはしんじゃうよ…」
「ゆぐっ……もぉどおすればいいかわからないよ!」
「れいむ…」
「ゆ…?」
「まりさは、れいむといつまでもゆっくりしたいよ…」
「ゆ、れいむもまりさとゆっくりしたいよ…」
「はるがきたらここをにげだそうよ。だから、それまではいきのびることをかんがえようよ…」
「ゆん…」
「はるがきたらあたらしいゆっくりぷれいすをみつけて、しんじゃったこどもたちのぶんまでゆっくりしようね…」
「ゆん…」
「れいむ!」
「ま、まりさぁ!」

 ぬっちょぬっちょぬっちょ…

 …翌日、れいむに生えた5本の茎にはたくさんの実がついていた。
 野生の生存本能を大いに刺激されたために、いつになく盛り上がってすっきりー! をしすぎてしまったのだ。
 慌てたれいむに、まりさは「これならたくさんたべられても、すこしはあかちゃんがのこせるよ」と勇気づけたものの、内心は不安でいっぱい。
 栄養分を吸われて死んでしまうのを防ぐため、まりさはれいむに一日中食べ物を食べさせていた。
 少しでもれいむの負担が軽くなるよう、成長の悪い実は間引きもした。

 そして3日後、れいむの茎からポトポトと可愛い赤ちゃんが落ちてきた。
 寂しかった巣の中には活気がもどり、まりさとれいむは涙を流して喜んだ。

「「「「「「「「ゆっくちちていっちぇにぇ!!」」」」」」」」
「ゆ! まりさのあかちゃんたち、ゆっくりしていってね!」
「れいむがおかあさんだよ! ゆっくりしていってね!」

 正常に生まれた赤ちゃんは全部で11匹だった。
 まりさとれいむはたくさんのプチトマトサイズの赤ちゃんたちに囲まれて、毎日ゆっくり過ごしていた。
 いつかあの人間が赤ちゃんを食べに来るという不安をかかえながらも、極力そのことを考えないようにしながら楽しく暮らした。

 それから1週間、男は現れなかった。
 子供たちはすくすく育ってミカンサイズになった。
 2週間経っても、男は現れなかった。
 子供たちはリンゴサイズまで育っていた。
 あんなにあった食料も残り少なくなり、広かったおうちの中は、活気を通り越して子供たちの怒号が響いていた。

「ゆ! まりさ、ちょっとどいてね! そこにいたらゆっくりできないよ!」
「れいむこそゆっくりあっちにいってね!」
「ここはまりさのゆっくりぽいんとだよ!」
「ゆゆ!? まりさのべっどにのらないでね!」
「ゆ!! おかあさん、れいむがつまみぐいしてるよ!!」
「ゆっくりしね!」
「れいむこそゆっくりしね!」

 もう収集がつかなかった。

「まりさのかわいいこどもたち! ゆっくりしていってね! けんかしないでね!」
「はるになったらひろいおそとにでられるからね! もうちょっとだけゆっくりしていってね!」
「うるさいよ! せまいおうちしかつくれないだめおやはゆっくりしね!!」
「もっとごはんをもってきてね! これじゃぜんぜんたりないよ! ゆっくりしね!」
「ゆっくりしね!」
「ゆっくりしね!」
「「「「「「「「「ゆっくりしね!!!」」」」」」」」」

 とうとう不満が爆発した11匹の子供たちは、両親であるまりさとれいむに「ゆっくりしね!」の大合唱をはじめた。

「「どぼぢでぞんなごどいうのおおおおおお!!!!!???」」

 …あの人間はいつここへ来てくれるのだろう?
 2匹は時の経つほど、早くここに来てほしいと願うようになった。

 男は来るのを忘れていたわけではなかった。
 一週間も降りつづいた大雪のために、立てておいた目印が雪に埋もれて巣の場所が分からなくなっていたのである。
 そして、あれから1ヵ月も経ったある冬晴れの日、男はいつものようにゆっくりの巣を潰しに出てきて、たまたまその目印を見つけた。
 巣の中を覗いてみると、大量の赤いリボンが散乱している中で、れいむが泣きながらまりさを食べていた。

「ゆっ…ひっく……まりさ…れいむの…まりさぁ……ゆぐっ…ひっく……」

 まりさはすでに死んでいるらしく、れいむに食べられても身動き一つしなかった。

「ゆっぐ…とってもあまあまだよぉ……ゆっぐじでぎるよぉ……むーしゃむーしゃ、ふしあわせぇ……」
「おい、れいむ」
「ゆぐぅっ!?」

 れいむは突然声をかけられたことに驚き、ヨロヨロしながら巣の奥に逃げようとしてズベッと転んで動かなくなった。
 どうやらすっかり衰弱しているらしい。
 男は腕を入れてれいむを引っ張り出すと、1ヵ月前よりもかなり小さくなっていることに気づいた。

「れいむ、生きてるか? れいむ!」

 気を失ったれいむの頬を、男は手のひらで軽くペチペチと叩いた。

「ゆぽぇ!」
「げっ、やべえ!」

 ちょっと叩いただけで餡子を吐くほど弱っていたれいむ。
 致命傷になったかも…。

「あー、れいむ。俺を覚えてるか?」
「ゅ…………お…にい……」
「喋るな、喋ると死ぬぞ! ……あのたくさんの子供、お前が産んだんだな?」
「ゅ…」
「産みすぎて食料を全部食べ尽くしちまったんだな?」
「ゅ…」
「それで子供とまりさを食べて生き延びてたのか?」
「ゅ…まりさ…が……たべろ…って……」

 まりさとれいむは、大きくなるほど我侭になっていく子供たちを早く持っていってくれるよう男を待っていたが、男はとうとう来なかった。
 食料が尽きた後、11匹の子供たちは共食いを始めた。
 ついには親にまで襲いかかってきたために、まりさとれいむは泣きながら子供たち全員を潰した。
 しばらくは子供たちの餡子を食べて生きのびていたが、それも無くなると、まりさは自分を食べるようれいむを説得したらしい。
『はるがきたらあたらしいゆっくりぷれいすをみつけて、しんじゃったこどもたちのぶんまでゆっくりしようね…』
 その約束を守れなくなってしまっても、まりさは愛するれいむだけは助けようとしたのだった…。

「ずっと俺を待ってたのか?」
「ゅ…」
「ごめんなれいむ。俺が遅すぎたばっかりに…」
「ぃぃ…ょ…」
「れいむ…!」

 にっこりと微笑んだれいむを、男はひしっと抱きしめた。
 この1ヵ月間、狭い巣の中で狂気のような毎日を送ってきたれいむは、自分を抱きしめてくれる男の手の温かさが身に沁みた。
 ……変な友情が出来上がった。

「まり……さ……」

 れいむは虚ろな目で虚空を見ながら、愛するまりさの名を口にした。
 男はれいむを抱いたまま、巣からまりさの皮を引っ張り出した。

「お前のまりさは…くそっ、ペンラペンラだ!」
「お…ちび……ちゃ……」
「チビ共なんかリボンしか残ってねぇ。ちくしょおおお!!」

 男はたくさんの饅頭が台無しになったことを悔しがった。
 だが、れいむは家族の死を嘆いてくれたのだと勘違いしている。
 れいむは瞳を閉じて、スゥ…と涙を流した。
 そして再び男を見た。

「れい…む…を……たべ…て……」
「なんだと?」
「きて…くれて………あり……が……と…………」

 「ゆっくりした結果がこれだよ」とか「もっとゆっくりしたかった」とも言わず、れいむは最後に自分を抱きしめてくれた男に礼を言って事切れた。
 満ち足りた、安らかな死に顔だった。

 …ゆっくりは、好意や愛情をいだいた人間には自分を食べてほしいと望む。
 家で飼っているぱちゅりーの件があったので、れいむの意図をすぐに悟ることができた。
 男は鎮魂の祈りをこめて、この不幸なれいむを口に入れた。

「…マズッ!」





〜あとがき〜
う…長い(汗)
こんなに長いのに読んでくれてありがとう…!ヾ(*ゝω・)ノ

そして、『暇なお姉さんとゆっくり』の百円玉ネタを
絵にしてくださった絵師さま…
初めて見たとき、うわぁ〜って感激してモニター曇っちゃいました(*/ω\*)笑
まぢありがとね!

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最終更新:2009年06月02日 17:38
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