ド口ワ系13 寮内の一室にて

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10月に入ると、私の住む学生寮も気温の低下が激しくなった。
暖房が入っているとはいえ、半袖で過ごすには寒すぎる。
全開にしても、少しも温かくならない暖房に、私は理不尽な怒りを感じていた。
きっと生徒の苦しむ姿をみて喜んでいるサディストが、寮を管理しているのだと思う。
身体を包む冷たさが、私の考えの正しさを証明していた。
それにしても寒すぎる。
室内にいてなお、吐息が白い。
私は状況を打開するため、イヤイヤながら、クローゼットから冬用の服を引っ張り出していた。
実家から送った後、そのままの状態で仕舞われた長袖の服。
私は適当に選び出して、ベッドの上にぽいぽいと投げ捨てていく。
暫定的にベッドの上に積みあがった衣服は、大半がしわができており、アイロン掛けが必須の状態だった。
私は面倒に思いながら、積み重なった服を眺める。
立ち尽くす私の耳に、窓を揺らす風の音が聞こえてきた。
ひゅうひゅうと鳴いている。
真っ暗闇の外から聞こえる風の音は、私の心に不安感と孤独感を呼び起こすのだった。

親元から離れて半年。
私は一人、学生寮で生活していた。
学生寮での一人暮らしは、親元で何不自由なく生活していた私にとって、不慣れな部分が多かった。
同室の先輩に教わることで、なんとか一人でできるようになったのだ。
食事は学生食堂があるため困ることはない。
洗濯やアイロン掛けにも慣れた。
私が気に病んでいることは、気の置けない友人が一人もいないことである。
寮内は二人で一室をあてがわれる。
私に部屋にも学年が一つ上の先輩がいた。
相部屋だった先輩は、私を気遣っていろいろと相談に乗ってくれた。
遊びに連れて行ってもらったことも少なくない。
少なくとも私が孤独を感じることはなかったのである。
だが、秋の部屋移動で、先輩は別室に移ってしまった。
代わりの住人は来なかった。
今の私は一人きり。
相部屋に慣れていたため、空きベッドの置かれた室内は、とても広く感じる。
自分の立てる物音以外には、風の音しか聞こえない。
否応なく考える時間が増えてしまったのだった。
私は孤独が嫌いだ。
肌寒い気温の室内で、一人ベッドに寝ていると人恋しくなった。
もちろん寮内生活であるため、廊下を歩けば同級生とすれ違うし、同じクラスの人間もいた。
しかし、気軽に部屋に遊びに行くほど、親しい友人はいない。
人見知りだった私は、友達を作る機会を逃してしまったのだ。
同室の先輩に依存していたため、一人きりになるとどうして良いのか判らなかった。
寂しいと思いながらも自発的に行動することはなかったのである。
おかしくなりそうだと自覚し始めたとき、私は欲求を解消する手段を見つけたのだった。

衣服がうず高く積むまれた横、山なりに膨らんだ毛布が、もぞもぞと動いた。
クリーム色の毛布の端から、赤い帽子が這い出てくる。
果物のような甘い匂いが強く漂い、私の鼻腔を刺激する。
帽子の下には金髪と白い肌。
楕円形をした生き物が、眠そうに目を瞬かせていた。
私は声を掛ける。

「穣子、おはよ」
「ゆぅー……ゆっくりしてね」

私の孤独を癒すパートナー。
それがゆっくり穣子だった。

私とゆっくり穣子の出会いは、宮内庁管理の山の中だった。
孤独を紛らわすため、ガイドブック片手に山歩きに繰り出した私は、山の中で正体不明の甘い匂いを感じた。
樹幹のスキマから漂ってくる、熟した果物のような、優しく甘い匂い。
匂いが気にかかった私は、その発生源を探してさ迷った。
山道を離れ、斜面にそれる。
落ち葉を踏みしめ、匂いをたどって奥へ奥へと分け入っていくうちに、何か動物がいるような気配を感じた。
自分意外の何かが、音を立てている。
私は立ち止まり、息を潜めて辺りを探った。
樹幹のあいだに野生動物の影は見えない。
ガサガサと何かが動く音が、低い位置から聞こえてきた。
確かに、何かいる。
私は注意深く視線を落とした。
茶色と僅かな緑の混ざった地面。
立ち枯れしたイチョウの木の近く、やがて腐葉土になるであろう落葉の中に、赤い帽子が動いていた。
紅葉を感じさせる暖色の帽子が、迷彩服を着こんでアンブッシュしている兵隊のように、景色の中に溶け込んでいた。
赤い帽子が、驚くほどの隠密性をもって、空間に調和していた。
帽子の縁から金髪が零れている。
人間の生首を肥大化させたような後姿は、ゆっくり種のものだった。
恐る恐る近づいてみる。
落葉をむしゃむしゃと咀嚼する音が、ゆっくり種の背部から聞こえてきた。
一心不乱に食べていたのか、私がそばに近寄っても、気づいていない。
しばらく帽子を見つめていると、私の視線を感じたのか、赤い帽子がくるりと私のほうを向き直った。
金糸のような金髪に、赤い瞳と白い肌。
滅多に見かけることのないゆっくり種、ゆっくり穣子だった。
図鑑でしか見たことのないゆっくり種に、私は恐る恐る声を掛けた。

「……ゆっくり?」
「うん! ゆっくりしていってね!!!」

いぶかしげに私を見ていたゆっくり穣子は、笑顔を持って挨拶を返してきた。
穏やかな声と調和した、素晴らしい笑顔だった。
ゆっくり魔理沙のようにあざけるような挑発的な表情もなく、ゆっくり霊夢のように強要するような表情もない。
幸せいっぱいの子供が微笑みかけてくるような笑顔だった。
あぁ、これは確かにゆっくり穣子だ。
市街地ではお目にかかれない、希少なゆっくり穣子だ。
私は瞬間的にゆっくり穣子が欲しくなった。
部屋に持って帰って、自分だけの飼いゆっくりにしたくなる。
思う存分愛でたい。
かわいい笑顔を独占したい。
以前から欲しかった限定品を、偶然見つけたときの感情に似ているだろう。
いてもたってもいられなくなった私は、おもむろにゆっくり穣子を抱きかかえた。
きっとゆっくり穣子は、寂しい秋の山の中で、私のことを待ち続けていたのだ。
そうに違いない。

「あはっ」
「ゆ? むー!? ゆむーー!」

腕の中でぶるぶると身体を震わせて喜ぶゆっくり穣子を片手で押さえつけながら、もう片方の手で携帯を探す。
なんとか携帯を取り出すと、おぼつかない手でタクシーを呼んだ。
お小遣いは少ないが、嬉しさ全開だった私は、金額のことなど小さな問題に思えたのだ。
ゆっくり穣子のぷにぷにした身体の感触が心地よい。
ゆっくり穣子が暴れるたびに、甘い匂いはいっそう強くなり、私の心を溶かしていった。

「帰ったら、たっぷり可愛がってあげるからね!」
「むむーーー!!!」

服の上から感じられる、ゆっくり穣子の熱い吐息。
私と出会えて、ゆっくり穣子も嬉しくてたまらないのだ。
かわいい! かわいい穣子!
私は穣子を押さえつけながら、はやる気持ちを抑えて山をくだり、麓で待っていたタクシーに飛び乗った。

私の住む学生寮は、ペット禁止である。
ゆっくり虐待愛好家の多い学園であるため、寮内でのゆっくり飼育は厳禁されていた。
密かに持ち込もうにも、正門にある詰め所で見つかってしまう。
穣子を抱えて入門すれば、即座に取り上げられてしまうだろう。
だが、そこさえ突破できれば、あとは隠し通す自信があった。
寮の近くまでタクシーで帰った私は、なけなしのお金を払うと、学園を囲む壁の近くに立っていた。
計画は簡単。
穣子を壁から投げ入れ、あとで回収しようという段取りだ。
離れ離れになる時間はほんの僅か。
門さえ通過できれば、隠すことなど容易いのだ。
私と離れて寂しいかもしれないが、少しのあいだだけ我慢してもらおう。

私は少し緊張しながら、投げ入れるタイミングを計っていた。
木の植わっている辺りに落ちれば、多少は見つかりにくと考え、樹木の近くに立つ。
だが、壁の向こうに誰かいれば、この計画はおしまいである。
私の可愛い穣子は、他の学生か、もしくは教員に見つかり、殺されてしまうだろう。
殺されるよりも悪いことは、発見者が興味本位で持ち帰ってしまうことだ。
私の穣子が、他の者にいいようにされることに、我慢しなければならないのだ。
おそらく穣子はさんざんいたぶられて泣き叫んで私を求めながら死んでいくのだろう。
それだけはありえない。
私は聞き耳を立て、壁の向こうの様子を探った。
誰かが歩いている音は聞こえない。
私のいる道路にも、人影はない。
聞こえるのは風が作り出す音だけ。
……いける!
穣子を両手で抱え上げ、オーバースローで投げ入れた。

「ゆわぁぁーー…………ゆ゛う゛!」

ドップラー効果を伴って穣子は高く飛んでいき、ドサリと草の上に落ちる音がした。
無事、壁の向こうに着地したらしい。
私は急いでその場を駆け出すと、正門の前に走っていった。
あとは時間との勝負。
全力で走りながらも、詰め所から見えるギリギリのところで歩調を緩め、何事もなかったように落ち着いて歩く。
内心急ぎながらも、私は平静を装いながら、詰め所の前を通過した。
多少頬が上気しているが、そんなこともあるよね、気にしないで、などと思いつつ歩いていく。
警備員のお兄さんは、私が通過するときに視線を上げたが、それだけだった。
通過は成功。
私はこみ上げてくる笑いを隠しながら、詰め所を通り過ぎた。
あとは穣子を回収し、トイレにでも隠して当直室に帰寮報告するだけだ。
急いで穣子を投げ込んだ辺りに向かう。
このまま何事もなく腕の中に戻るものだと、私は考えていた。
だが、着地地点には一人の同級生がいた。
休日にもかかわらず制服を着て、穣子のそばに屈みこんでいる。
長い黒髪に、意志の強そうな表情を持った同級生。
いつも一番乗りで教室に来る真面目な生徒、大知友世だ。
友世は穣子の身体を、不思議そうな表情でさすっていた。
私の穣子は、泣き顔で、甘えるように友世の腕にほっぺたをこすり付けている。
ゆっくりたちの飼育委員も兼ねている彼女は、ゆっくりたちに対して温和な姿勢で臨むことが多い。
彼女はゆっくりたちをコミュニケーションのとれる動物だと考えており、悪辣なゆっくりには容赦がないが、
善良なゆっくりには愛を惜しまないタイプの人間である。
友世は虐待愛好家の多いこの学園で、飼育委員を勤められるほどの人間なのだ。
私はとりたて仲が良いわけではなく、もっとも私には親しい友人はいないが、どちらかというと理解できない範疇の人間だった。
友世は私の穣子の身体を、心配そうに弄っている。
甘えるような表情をしているゆっくり穣子。
とても気に食わない状況に、反射的に声を上げた。

「それ、私のっ……なの!」
「えっ?」

驚いて私のほうを向く友世。
明らかに疑問の混ざった視線が、私を見ていた。

「何、この子?」
「ええと、それは、ええっと……」

反射的に声を掛けたものの、上手く説明が出てこなかった。
頭の中をぐるぐると単語が駆け巡る。
畜生、なんでこんなところにいるんだよ休みなんだから外出しなさいよ。
とっさに言い訳が思いつかなかった私は、友世に対するののりしだけを考えていた。
焦りと混乱で茹で上がった私の頭は、説明の放棄を選択したのだ。

「……はい」

穣子を抱えあげた友世は、焦って立ち尽くす私にそっと手渡してきた。

「ほんとはダメだけど……。先生に見つからないようにね。寮内点検なんてイヤでしょ?」
「あ、え、うん」

私は混乱した気持ちのまま、丸い身体を抱きとめていた。
友世の行動が、理解できない。

「時々私にも見せてね。じゃ」
「……」

呆然と立ち尽くす私の視界に、立ち去っていく友世の姿が見える。
何故? どうして?
疑問符が頭に浮かんだ。
友世が見逃してくれたのだと結論するまで、私はしばらくその場で停止していたのだった。
かくして、私の部屋にゆっくり穣子がやってきたのである。

そして今に至る。
冬服のアイロン掛けが終わった私は、穣子を抱きかかえて、ベッドの上で丸まっていた。
ゆっくり種の身体は気温の変化に合わせて敏感に体温が変わる。
ベッドの上から私の作業を眺めていた穣子は、ひんやりと冷たかった。

「疲れたよー」
「……」
「穣子は気楽でいいね」
「……ゆん!」

抗議の色が混ざった声を上げた穣子を、私は軽く殴りつけた。
柔らかい頬に拳が埋まる。

「ゆう゛う゛う゛う゛う゛」

顔を真っ赤に高揚させ、涙目で私を睨む穣子の表情に、とてもすがすがしい気分になった。

           ###

冬服を出した翌日。
退屈な授業が終わると、私は寮に直行する。
教室に残っていても、話す相手もいないからだ。
素早く教科書を仕舞いこみ、教室を後にした。

「あ、今日遊びに行っても良い?」

背中から誰かの声が聞こえるが、私には関係ない。
一刻も早く、安心できる自室に帰りたかった。
自分だけの自室は優しい空間だ。
誰からも傷つけられることがないからだ。
自室に戻った私は、部屋着に着替えると、毛布の中に隠れているであろうゆっくり穣子を探した。
学園から支給される肌色の毛布が、なだらかな丘陵状に盛り上がっている。
穣子は私の帰りを、ベッドを暖めて待っているのだ。
とても可愛い。
備え付けのベッドとクローゼットしかない殺風景な部屋の中で、穣子は大抵毛布のなかに潜り込んでいた。
寮につれてきたばかりの穣子は、外に出たいのかドアに体当たりを繰り返していた。
好奇心旺盛なのは良いことだが、この学生寮においては自殺行為だ。
外に出れば、ものの数分で肉塊になってしまうだろう。
そこで私は穣子の帽子を、授業に出ている間、クローゼットの中に仕舞っておいた。
人間でたとえるならば、全裸に近い状態なのだろう。
帽子のない穣子は、鎖でつながれた犬のように、毛布に包まって大人しくしていた。
おかげで私のベッドは常に甘い芳香剤のような香りに包まれていた。
ゆっくり穣子の分泌液は、とくに甘い香りが強い。
香りの染み付いたベッドで寝ている私は、香水をつけているのかと目を付けられたこともある。
だが、穣子との生活を考えると些細な問題だった。
消臭剤を買えば、事足りる問題なのである。

膨らんだ毛布を捲りあげる。

「ただいま、穣子」
「ゆっ、ゆっ、ゆぅぅぅぅぅ」

毛布のふくらみがごそごそと動く。
私がいなくて寂しかったであろう穣子が、嬉しさで身体を震わせているのだ。
私は微笑みながら、穣子を覗き込むように屈んだ。
涙を湛えた瞳が、伏せ目がちに揺れていた。

「ただいま」
「ゆぅ、ゆううん」

穣子は言葉にならない声を発するだけで、返事をしてくれなかった。
穣子の頬を平手で打つ。
パチンという小気味の良い音が、室内に響いた。

「ぎゅ!」
「おかえりなさい、は?」

パチンパチンパチン。
白い表皮に、黒く充血したような私の手形が刻まれていく。

「ゆっ! ゆっ! ゆううぁぁぁあ!」
「早く覚えようね」
「ゆううううう」

潤んだ瞳から涙が零れると、室内に甘い匂いが広がった。
穣子は上手く言葉を返せなかったが、全身を使って私の帰りを歓迎しているのだ。

夕食を済ませた後は、私と穣子だけの時間。
心の底からくつろげる、リラックスタイムだ。
ベッドの隅でゆっくりしていた穣子の身体を持ち上げると、机の上に乗せた。
今日は大切な日。
穣子の頭に乗った、赤い帽子を持ち上げる。
帽子につられて浮き上がった金髪から、ふわりと甘い香りが漂った。
帽子を外した穣子は、伏せ目がちに私のほうを見ている。
ゆっくり種にとって大切な帽子を奪われても、怒ったりわめいたりはしなかった。
私に対する絶大な信頼感が、帽子の喪失感よりも優先されているのだろう。
通常のゆっくり種ならば、帽子に順ずる髪飾りを奪われた時点で、怒り狂うものである。
ゆっくり種にとって飾りはとても重要なものだ。
ゆっくりしていると証明するために必須の部分なのだろう。
だが、穣子は大人しかった。
もちろん始めのころは暴れたものだが、信頼関係を構築した今では、されるがままに私の行為を受け入れている。
帽子をとっても暴れなくなった穣子に、私は満足感と少しの寂しさを持って接していた。
半狂乱で暴れる姿、可愛いものなのである。

私は穣子を抱えると、穣子の身体より僅かに大きい金属製の台の上に乗せる。
台の側面についた手すりのような金属の輪が、丸い身体を囲っていた。
私が技術室で作り上げた、ゆっくり専用の固定代である。
トラバサミを原型に、刃の部分を駆動式にし、身体を締め付けるように考案したものだった。
期待の混じった視線を、下から感じる。
すぐさま抱き上げたい衝動が、私の精神に持ち上がるが、瞬間的な思いは脳の中に消えていった。
仲良くするだけでは得られない楽しみが、私を待っているからだ。
穣子を金属台に乗せ、備え付けのハンドルを回す。
ハンドルの回転運動に合わせて、金属製の輪が絞まり始めた。
リングの内側には、おろし金のような細かい棘。
絞まるほどに、棘は体内に食い込んでいくのだ。

「ゆ、ぎゅ、ぎょ」

空間の余裕が消え始め、圧迫が強まっていく。
楕円形の体が歪み、穣子の身体は瓢箪のような形になり始めた。
深く食い込んだ棘が、体内を傷つける。
身体から流れ落ちた体液が、小さな川となり台の溝に流れ始めた。

「ゆ、ゆ、ゆ」

途切れがちなうめき声が聞こえる。
圧迫により食い込んだ棘は、強烈な苦痛を与えているだろう。
だが、痛みを与えられても、穣子は静かに耐えていた。
苦悶の表情をしながら、器具の中に納まっている。
きっと、私に痛みを与えられているという喜びが、穣子の内部を満たしているのだ。
苦痛の奥に潜んでいる喜びが、私には判る。
穣子の心が理解できた私は、舞い上がらんばかりに晴れ晴れとした気持ちになった。
こんな目にあっても、穣子は信頼にこたえてくれる。
身体を苛む苦痛と戦いながら、心から尽くしている。
歓喜に輝いている穣子の瞳。
私は穣子に見上げられているだけで、倒錯的な快感を覚えそうになった。
臀部の奥の奥が厚い。
ズキリとした快感が、じわりと脳内にきらめいた。
私は夢中でハンドルを回す。
穣子を締め上げるリングは、限界までその幅を狭め、歪な圧力を身体に加えていく。
穣子の身体は千切れそうなほど締め付けられ、左右の眼球はあらぬ方向を向いていたが、穣子の精神は確かに私を見ている。
声が聞こえてきそうである。
もっとして、もっと痛めつけて!
私は無意識に、飛び出しそうな眼球に挟まれた額に、頬を擦り付けた。
ピンと張った皮膚の弾力が心地よい。
穣子に顔を寄せたまま、器具に視線を落とした。
棘から流れ落ちた体液は、僅かに傾斜のついた溝を流れ、備え付けの容器の中に溜まり始めている。
もう少しで、満足のいく量が溜まるだろう。
私は穣子の全身を撫で回し、同時に自分の身体をまさぐりながら、体液が溜まるのを待っていた。
下着の中は、柔らかく濡れていた。

5分ほどで、200ml容器の半分まで、体液は溜まった。
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
穣子の身体から発散される香りを、さらに強めたような香りが、容器の中から漏れ出ていた。
充分に搾り取ったところで、束縛を緩める。
飛び出しそうだった眼球が身体に収まり、締め付けられていた体が楕円の体型に戻っていった。
傷口からちろちろと漏れる細い体液。
じわじわと高揚していた私は、たまらず穣子の傷口を舌で舐め取っていた。
唾液で覆い尽くすように、傷口を舐めあげる。
甘い。
やわらかい表皮は親和性を持っているかのように、私の舌と唇を引き寄せていた。
粘性の高い音が室内に響く。
もちもちとした表皮を唇で吸い上げると、内出血のように黒い形が残る。
墨染めの桜の花びらのような跡を、穣子の身体に刻んでいった。

「ゆぅ、ゆぅぅぅぅん」

悩ましげな声が聞こえる。
ゆっくり種の表皮は生殖器官も担っている。
愛撫を与えられた穣子は、苦痛と快楽を同時に感じているのだ、
丹念に舌で舐め取り、唇で吸い上げてやると、穣子の表情に恍惚が現れ始めた。
頬が赤く染まり、目じりがトロリと下がってくる。
快楽が苦痛を上回り、表皮がだらしなく弛緩しはじめた。
恍惚の表情に感化された私は、夢中で体液を舐め取る。
少しの傷口も見逃さないように、丁寧に、そして緩急をつけながら、穣子の身体を吸っていった。
黒と赤にそまった穣子の身体を、一片のヒダも見逃さないよう舐めまわし、吸い上げる。
弛緩しつつも耐えるように口を閉じていた穣子は、小刻みに震え始め、やがて声を上げた。

「ゆああ!!!」
「んんっ!?」

穣子の身体がピンと張り詰め、その後脱力する。
表皮の張りに、私は顔を弾かれた。

「ゆぅぅ、ゆううう! ゆああああああん!」

傷だらけの穣子は、体液を垂れ流しながら、歓喜の涙を流していた。
器具の上でグッタリとしている穣子の身体を持ち上げた。
こんな可愛い生き物と暮らしている私は、寮内で最も幸せなのだ。
タオルケットの上に置き、あらかじめ用意しておいた軟膏を擦り込んでいく。
ゆっくり専用に作られたジェル状の軟膏は、傷口を埋め、急速に傷を癒ものだ。
軟膏がなくても、一週間もすれば傷は消えてしまうだろうが、それでは穣子が可哀想だった。
孤独に過ごす室内で、私の与えた傷を楽しむのもいいかもしれないが、それよりはもっともっと違う楽しみを与えたかったのだ。
傷だらけの身体に、透明な軟膏を擦り込んでいく。
いくら信頼があるとは言え、激しい責め苦は体力を奪ったのか、穣子はあまり反応を示さなかった。
いつにもまして大人しい穣子。
軟膏で固められた穣子は、無言でテーブルを見つめていた。
涙がぽろぽろとこぼれている。
私は隣に屈むと、金色の髪を撫でた。

「痛かった? それとも気持ちよかった?」
「・・・・・・もう・・・・・・やめてね。おうち、かえりたい」
「そう、気持ちよかったんだね」
「やめてね。やめてね」

よほど嬉しかったのか、穣子の言葉は途切れ途切れだ。
軟膏に固められた身体に、歓喜を押し込めているようだった。
穣子は応えてくれた。
私の信頼に全身を持って反応したのだ。
私は頭を撫でながら、心の奥底から沸きあがる歓喜をかみ締めていた。
自分を信頼し切った存在を愛でる事は、なんと楽しいことなのか。
私は穣子が好きである。
好きであるからこそ体液を搾り取り、信頼の重さを確かめたいと思うことがある。
いわばこれは、私と穣子のつながりを確認する儀式なのだ。
私は穣子に帽子を被せると、タオルケットの傍を離れた。
器具に取り付けられた容器を外し、眼前に持ち上げて眺める。
ねっとりとした体液が、透明な容器の中で揺れていた。
黒く淀んだ体液から立ち上る甘い香り。
私は容器を持って、穣子を置いたタオルケットに向かった。
今度は私の番。
穣子の目の前に容器を置く。
心が抜け落ちたような視線が、私と容器を交互に見つめていた。
期待と羨望の混ざった視線を感じる。
私は肉厚の剃刀を持って、二の腕に刃をあてがう。
冷やりとした刃の感触を感じながら、私は剃刀を引いた。
ズブズブと皮膚を貫通した刃が、私の皮膚、血管、神経に傷を付けていく。

「ぐ・・・・・・ぎぎ・・・・・・」

奥歯を粉砕しそうなほど噛み締め、痛みに耐える。
傷口を炎が這っているような痛みだ。
刃を思い切り引いたところで、私は剃刀を床に投げた。
痛い。
何も考えられないほど痛い。
私はテーブルに倒れこんだ。
痛みで涙が溢れてくる。
痛みと共に襲ってくるのは安心感。
身体から抜けていく血液が、わずらわしい日常の鬱憤を押し流していくように感じる。
自分で自分を許しているようだ。
この痛みは信頼の証。
相互の感情をやり取りするには、必須の行動なのだ。
傷口を握り締めながら、穣子を見る。
私を見つめる恍惚の視線で、私は痛みを我慢することができた。
私は突っ伏したまま、容器の上に傷口をかざした。
だらだらと流れる血潮が、容器に落ちていく。
黒い体液に、私の血が混ざった。
赤と黒に液体が溶けていく、私と穣子の体液。
ぐるぐると絡み合う模様は、己の確かさの証明である。
穣子と共有する、喜びの結晶。
これほどまでにゆっくり種と感情を共にする人間など、他にいるだろうか。
私は泣き笑いを浮かべながら、穣子を見た。
ぼんやりとした表情が可愛い。
私の行為に歓喜し、さらには共感を覚えている表情だった。
私の、私だけのゆっくり穣子。
共有する痛みは、お互いの絆の証だった。

私は容器の縁いっぱいまで血液を注ぐと、傷口を消毒し、ガーゼを貼り付け包帯で応急処置を施した。
傷は深いが、いくらでも言い訳はできる。
そんなことは重要ではない。
私は穣子の前に立つと、満たされた容器を手に取った。
見せ付けるように、あおる。
甘辛い液体が、喉に流れ込んできた。
僅かに温度を感じさせる液体が、私の喉を沈下していく。
半分まで飲み干したところで、容器を穣子に突き出す。
軟膏まみれの身体をふるふると震わせ、穣子が喜んでいる。
私は傷ついた腕で穣子の口を開けると、中身を流し込んだ。
頭を押さえつけ、飲み込ませてやる。
穣子は最後の一滴まで飲み干してくれた。

お互いの信頼関係の確認は終了。
この儀式を繰り返すたびに、穣子と私の絆は深まっていくのだ。
私は穣子の身体を抱きかかえた。
抱き寄せたまま、好きと呟く。
穣子は、身体を振るわせて、私の言葉に返事を返した。


ずきずきと疼く腕の痛みを感じながら、私はベッドに横たわる。
自慰行為の余韻に浸るかのように、腹部に抱えた穣子の髪を梳きながら、ぼんやりと壁を見つめていた。
下腹部にかかえられた穣子は、ぬるぬるとした身体を震わせて、ゆぅゆぅと泣いていた。
私の体温にあてられて、穣子は温かい。
心地よい温度は、羊水の中に帰還したように錯覚させる。
あたたかい、あたたかいベッドのなか。
壁の向こうから、隣の部屋の話し声が微かに聞こえる。
笑いの混ざった声が、ぼんやりとした私の脳内に浸透して行った。
一番聞きたくない場所で、一番聞きたくない声が聞こえてくる。
私は穣子を強く抱きしめると、毛布を頭まで引き上げ、無音の世界に逃げ込もうとした。




あとがき
お読みいただきありがとうございました。
極楽151号でした。



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最終更新:2009年02月05日 23:10
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