輝夜×ゆっくり系5 月に帰らないかぐや姫

「お前、そう、お前よ。ほら近くに。さあ」
蓬莱山輝夜は庭を荒らしていたゆっくりまりさを呼び寄せた。

庭は兎達が輝夜のためにと整備してくれたものだ。
花は引き抜かれ、芝生は踏み荒らされ、灯篭は倒され。散々な有様だった。
ゆっくりまりさは満足そうに花を食べていたが、
自分を呼ぶ声に気がついた。そこには見惚れるほど美しいお姉さんがいた。
「お前、そう、お前よ。ほら近くに。さあ」

縁側に腰掛けたお姉さんは少し乱れた髪を手櫛で直し、おいでおいでと手招きをした。
その仕草は優雅で何よりとてもゆっくりしていた。
「ゆっくりしていってね!!」
ぴょんぴょん跳ねながら、まりさはお姉さんの元に行く。
「ほら、膝の上にお上がり」
土や砂のついたまりさに綺麗な着物の上に乗るように言う。
しかし、まりさはそれを躊躇う。ゆっくりにだって相手が嫌だと思う事は分かる。
自分が帽子を汚されたら嫌な様に、このお姉さんも着物が汚れては嫌な思いをするだろう。
「膝の上は嫌かしら?人間は怖い?」
その言葉にふるふると身体を左右に振り、否定の意思を伝える。
「おようふくがよごれちゃうよ」
そんなまりさを見てお姉さんは手で口元を隠し、目を細める。そして、ゆっくり庭を指差す。
「ゆゆ!!」
まりさは自分がしてきた事をすっかり忘れていた。
「ご、ごめんね。ゆっくりゆるしてね!」
急にオロオロしだすまりさが面白くなって、お姉さんはクスクスと笑う。

「庭はあとで修繕させるわ。今度からはダメよ。さ、怖がらずにおいで」
「ゆ・・・でも」
「着物も洗うからいいわよ。さ」
まりさの曇った顔は急に晴れ晴れとし、元気よくお姉さんの膝に飛び乗った。
「お前、どこから来たの?」
「あっちだよ」
「へぇ、あっちにはお友達はいるの?」
「うん、えーっと、れいむとぱちゅりーがいるよ」
「ありすはいないの?」
「いるけど、ともだちじゃないよ。しりあいだよ」
「ふぅん」
まりさの楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。
太陽が赤くなり、西に沈む頃には皆に心配かけない様に巣に戻らなければいけない。
「またきていい?」
「いいわよ」
まりさはとても嬉しくなってピョンピョン元気に跳ねて帰っていった。



巣に戻ると、まりさは母親にある事を報告する。
「あのね。おかーさん、まりさ、ゆっくりしたいこができたよ」
「ゆ?!まりさもそんなとしになったんだね。となりのれいむ?それともむかいのぱちゅりー?」
「ちがうよ、あっちのおうちにすんでるおねえさん」
母親であるゆっくりれいむは意味が分からなかった。
「ゆ?おかーさんにもわかるようにせつめいしてね!」
「あっちのちくりんのおくにすんでるおねえさんとまりさはゆっくりしたいんだよ!ゆっくりりかいしてね!」
母れいむは少し時間が経ってからおかしい事に気づく。
そして、別室でご飯を食べているまりさの所に駆けつける。
「にんげんとはゆっくりできないよ!!」
「ゆ?・・・おねえさんのことだね。でも、おねえさんはゆっくりできるひとだよ」
「だめだよ。おかーさん、みとめないよ!!」
「おかーさんがみとめなくても、まりさはきめたんだもん!!」
まりさは巣を飛び出した。真っ暗な森の中を一匹でぶらつく。
お姉さんと一緒にゆっくりするには巣を見つけなくちゃ、
ゆっくりまりさは本来、人間社会で言う男の役回りをすることが多かったため
巣も自分が見つけなくてはと思っていた。お姉さんは人間だから大きな巣が必要だ。
まりさはこの辺りの群で決まっている所有物を表すマーキングを施す。
決められた形に石を積んで、それに自分の餡子を吐きかける。

「これでここはまりさの・・・まりさとおねえさんのおうちだよ!!」
それからまりさの新しい生活が始まった。
昼はお姉さんの所に行き、楽しくお喋りしたりお菓子を食べたりして、
夜は新しいお家の整理に使った。幸い、ゆっくりれみりゃやゆっくりふらんがいない辺りだったため、
夜でも安全に作業ができた。ある日はお姉さんに今日は来れないと断って、人里に行き、キノコや果物と干草を交換して貰った。
たっぷりの干草を敷くと、そこはまりさとお姉さんの寝室になった。まりさは早くお姉さんと暮らしたいなと思いながら、一匹で眠った。


「ゆー?まりさ、さいきんみないね」
「むきゅー、まりさがいないとさみしいね」
まりさは巣を飛び出してから一度も戻っていない。
れいむやぱちゅりーがまりさのお母さんに聞いても母れいむは歯切れの悪い事しか言わない。
仕方なくれいむとぱちゅりーは二匹で遊ぶ。そこへ知り合いのありすがやってくる。
「あら、れいむ、ぱちゅりー、なにやってるの?」
「ゆっくりあそんでるんだよ」
「むきゅー、ありすもあそぶ?」
ありすは小バカにしたようにため息を突き、
「れいむ、ぱちゅりー、あなたたちっていなかものね。ありすたちのとしごろならもうゆっくりするこをみつけて、おかあさんたちとべつべつにくらすころよ」
と二匹を笑う。
「ゆ?!そうなの?」
「むきゅー・・・しらなかったわ」
「ところで、きょうはまりさいないの?」
キョロキョロとありすは辺りを見回すが、そこにまりさの姿はない。
まりさがこの二匹といつも遊んでいるから声をかけたのに。
ありすは二匹に最近、まりさが巣に戻っていない事を聞かされる。
耳年増なありすはそれだけでピンとくるのだ。まりさはきっとゆっくりしたい子を、生涯のパートナーを見つけたのだろう。
まりさが好きだったありすには残念だけど、まりさがそう決めたのなら仕方のないことだし、
無理にまりさを奪ってしまおうなんて気はこのありすにはなかった。


ありすは失意の中、自分の巣に帰る事にした。
ここを引き払って、どこか別の所に行こう。この巣はあのれいむとぱちゅりーにあげてしまおう。
あの子たちもそろそろ自分の巣を見つけなくてはいけない年頃だし、まりさがいなくなれば年頃のゆっくりはあの二匹だけ。
あの二匹がくっつくのも時間の問題だろう。幸いこの巣は家族で住んでも大丈夫なぐらい広い。
しっかりした偽装と、入り口には石のバリケード、光の取り込み口だってちゃんとある。
木の根っこの下を掘ったのは正解だった。次もこんな感じの巣を作ろう。
ありすは一つ一つ確認するように巣を見て回った。壊れている箇所を修繕し、食料庫を整理する。
修理の仕方はぱちゅりーに教えれば覚えてくれるだろう。明日は朝一番に森で野草を取って人里に持っていこう。
少し早いけど干草を入れ替えて、夕方には戻ってこれるから、その時にれいむとぱちゅりーに話そう。
ありすはゆっくり眠った。


ありすが目覚めるとまだ日の出前、この時間帯から起きだすゆっくりは滅多にいない。
ゆーっと大きく伸びをして、食料庫から花のお団子を持ってきてそれを朝食にする。
朝食を取ると、人間から貰った籠を持って野草を探しに行く。籠が一杯になると人里に向かい、籠をくれたおじさんの所に行く。
「あー、悪いね。干草はこんだけしかないんだよ」
「ゆ?ちょっとすくない・・・」
おまけにこれをつけてやるから勘弁しておくれ」
おじさんは干草がゆっくりの寝床に使われる事を知っている。
だから、おまけにと古くなった布キレを持ってきた。これなら干草で作るよりも豪華な寝床が作れる。
でも、ありすはそれを断った。自分が住むならともかく、次に住むのはあのれいむ達、あの二匹はおじさんとの取引を知らないし、
そんな豪華な寝床を一度でも体験してしまったら、次もまた布キレを求めてしまう。そうなれば人里に迷惑をかけることになるのは明白だ。
おじさんとの取引を教えればいいかとも思ったが、れいむでは理解できないし、ぱちゅりーではここまで来る体力がない。
それにおじさんとの取引もこれがもう最後、少しぐらい色をつけてもバチは当たらない。
「おじさん、ありがとうね」
「いいのかい?布?」
「うん、おじさんにはたくさんおせわになってるからいいよ」
「おお、そうかい、ありがとな。また干草は用意しておいてやるぜ」
「うん!!」
ありすは急いで巣に戻った
巣に戻る途中で、ありすは少し大きな洞窟を見つける。
入り口にはこの辺りのゆっくり達がやる所有を宣言する特有のマーキングがしてある。
「こんなおおきなおうち、だいかぞくなんだね」
自分も早く旅立って、素晴らしい家族を作ろう。ありすはそう強く心に決めた。




まりさの巣は完成した。
広いし、豪華だ。おじさんが布切れをくれたから、寝床もかなり人間が使っているものに近づいた。
あとはお姉さんに一緒にゆっくりしようと言うだけだ。まりさは覚悟を決めてお姉さんの巣に向かった。

「アハハハ、お前、本気で言ってるの?」
まりさはよく分かっていない。一緒にゆっくりしよう。お家はまりさが用意したよ。
そう伝えたらお姉さんは突然笑い出した。喜んでくれているのかな、まりさは最初そう思った。
「お前の用意したお家?洞窟か木の根の窪みでしょ?フフッ、この屋敷より豪華なの?」
まりさが知っているのは永遠亭の小さな離れだけだ。それだけでもまりさの巣なんかよりずっと広い。
「フフッ、それにお前が私と?帝の求婚さえ断った私とね。面白いわ。うん」
「ゆ・・・ゆっくりしてくれる?」
「ダメ」
きっぱりとした否定、それはまりさに鋭利な刃物のように突き刺さる。
「お前、私の欲しいものを持ってこられる?無理よね。お前は何一つ私を満足させられない」
「ゆ、ゆっくりさせてあげるよ」
「あら、素敵ね。どれぐらい?」
「ゆ?」
「どれぐらいの間ゆっくりさせてくれるの?」
「た、たくさんだよ。たくさん」
またお姉さんは笑う。まりさでも薄々その笑いが喜びではなく自分を馬鹿にしているものだと気付いてきたが、
まりさは必死にその考えを否定する。きっとお姉さんは喜んでくれているんだ。そう思い込む。
「戯れで相手をしてやれば、こうもつけ上がれるものなのね。おかしい」
「ゆ?」
「そうね。じゃあもう少し考えさせて。即答するほど私が軽い女って思ってないでしょ?」
「ゆ・・・うん、わかった!!」
そう言ってまりさは自分の巣に戻って行きました。










「全く困ったものだわ。実験中の薬を持ち出すなんて。それもよりによって別の実験で使用している森のゆっくりに使うなんて」
八意永琳は主人に対し、ガミガミと文句を言う。
鈴仙はこういう所は家庭教師だった頃の名残なのかなと思いつつ、永琳の後ろで渡された資料に目を通している。
森で行われている実験は社会性と知力を強化したゆっくりの観察。
姫様が勝手に使われた薬は人間に対して好感を持たせる薬。
どちらもゆっくり加工工場から要請のあったペットとしてのゆっくりを生成するための実験だ。
しかし、最初の実験は酷い事が書かれてある。

社会性と知力を強化したゆっくりの観察について。
まず社会性と知力を強化したゆっくりについて、薬物による知能強化を施した結果、
ゆっくりれいむ、知能向上が工場が要請した条件に至らなかったため、被検体を全て削除。
ゆっくりまりさ、知能向上の条件は満たせたが、社会性を著しく失う個体が多く出たため、社会性の高いのを残し第二段階へ、それ以外のものを削除。
ゆっくりぱちゅりー、知能向上の条件は満たせたが、身体能力が低いため、工場と相談、被検体は一時冷凍処理。
ゆっくりありす、知能向上の条件は満たす事ができ、社会性もある程度失わない事から、第二段階に移行する。
なお、ありすの発情に関して知力向上にあたり、恥の概念がありすの中に生まれ、発情を起こしにくくなったため、性欲減退剤などは使用していない。

実験に使用された5割ほどのゆっくりが死んだ事になっている。
それでも工場が永遠亭に協力するという事はてゐが今からペット用のゆっくりのグッズを作ろうと息巻いている理由がなんとなく分かる。
性格が良く賢いゆっくりなら飼いたいという人間は多いのだろう。
輝夜はと言うと、口を尖らせてプイと他所を向き、永琳が構ってくれないからだと文句を言う。
永琳はいよいよ困って、あれこれと取り繕う。
ゆっくりまりさが輝夜に会いに来てるのだから結果的には実験は成功してるとか、
忙しい自分に代わって輝夜が屋敷を守ってくれて助かるとか、
もう最後は普段の永琳からは絶対発せられないような恥ずかしい台詞まで言わされてやっと輝夜は機嫌を直してくれた。
じゃあ、戻りますね。永琳はそう言って動かなくなったゆっくりまりさをひょいと拾い上げる。
「この実験が終われば私も少し休みます。てゐが何かまた良からぬ事を企んでいるので話し相手になってあげてください」




輝夜が離れで暇をしているとまたゆっくりまりさがやってくるが、まだ悩んでいると言いその日は帰らせる。
次の日は、退屈そうなてゐを呼び止めて、まりさに今日は会えないと伝えさせる。
翌日も、その翌日も、あれこれと理由をつけて返答を避けた。

恋は死に至る病だ。何もかも取り上げられてしまう。
最後には嫌う事さえもできなくなる。有限の時間の中でそれは最悪の苦痛だ。
春が過ぎ、夏を経て、秋に移り、冬を越す。



「まりさ、みて。かわいいあかちゃんでしょ!」
「むきゅん、れいむががんばったおかげだよ」
れいむとぱちゅりーはいつの間にか子を成すほどの関係になっていた。
幸せそうな家族を尻目に今日もまりさはおねえさんにゆっくりしようと伝えに行く。

1年、2年、3年、4年。
もう、まりさのお母さんはいなくなってしまった。
ぱちゅりーたちの子どもは前、ここに住んでいたありすの子どもと一緒に暮らすらしい。


それでも、まりさは。
「おねーさん、まりさとゆっくりしようね!」
「あら、まだ早いわよ」

ある日、まりさはお姉さんのお家に向かう途中、
急に眠たくなり、眠ってしまった。
そう言えば、2年前にぱちゅりーもこうやって。







by118

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最終更新:2009年01月23日 10:53
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