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ゆ虐の隙間3 ハーフはつらいよ1(前編)

※ゆっくりと人間のハーフが出ます
※虐待控えめです




ハーフはつらいよ 母を訪ねて山登りの巻




夢を見た。

自分がまだ小学校くらいの時だったと思う。父の実家近くの山で遊んでいたら、崖から落ちてしまったときの夢だ。
幸い崖の途中に木などがあり擦り傷と打撲程度で済んだが、普段から遊び場にしていたいつもの場所とは違うところに来てしまった不安もあり、
そこから動く事ができなかった。幼いながらも、下手に動くとまずい、という意識はあったのだろう。
酷く蒸し暑かった記憶があるので、夏だったのだと思う。
自分が落ちたそこは、一面の花畑だった。自然のものではない。雑草が抜かれ規則的に並べられたそれは、
今にして思えば明らかに人の手が入っているものだった。そしてじっとしていると、きまって不意に心が安らいで睡魔が襲ってくる。
そして、薄れゆく意識で何かとても柔らかい何かに受け止められるのを感じるのだ。
まるで、母の胸に抱かれるように。母の居ない自分にとって、この夢で感じるその感触が唯一感じる事のできる、母の面影だったのだ。




「まぁたあの夢か……何でまた最近見るようになったんだかなぁ……確かに色々ショッキングな出来事だったが」

身体を起こす。いつもと変わらない俺の部屋だ。あの夢は小さい頃から何度も見ている。
お袋の顔は覚えていない。親父に聞いても適当にはぐらかされるだけで、けして本当の事を教えてくれないのだ。

「まぁいいか。仕事せにゃ飯も食えんし、とっとと起きよう。おいコラ、朝だ。とっとと起きろ穀潰し」

「枕」を平手で叩いて起こす。おお、いい音がした。安眠中にひっぱたかれた驚きと痛みで、
さっきまで俺の頭の下にあった「枕」が飛び起きる。

「~~~~~ッ!? じゃおぉ~ん!?」

自分の全高の数倍は軽く飛び上がる「枕」。人間の生首をデフォルメしたような顔に赤い髪、緑の帽子、そして帽子に付いた星の飾り。
そう、俺の「枕」はゆっくりなのだ。その中でも、比較的頑丈な種として知られるゆっくりめーりんと言う種を愛用している。
皮が厚く、大人しく人に懐きやすいので枕としては非常に扱いやすい。頭を置いた時の呻きなんかが耳に心地よいし。

「いつまで寝てる気だお前は。朝飯抜きがお好みならもっと寝かせてやろうか?」

「じゃおぉ……」

目尻に涙を浮かべるめーりんの頬を持って引っ張る。痛そうな顔をするが気には留めない。なぜなら俺はゆっくりを苛めるのが大好きだからだ。
とはいえ、殺したり傷を負わせたりといったものはやらない。だって死んだら苛められないじゃないか。
なので必然的に頬を軽くつねったり水を被らないように撒いて追い掛け回したりなど、直接的に怪我をさせない軽いものが主になる。
弱いものにそんな残虐な方法を使うなんて大人気ないし、そこそこ長い付き合いのこいつに愛着がないではない。
そういう間柄だからこそ弄り回して楽しいのだ。

「そうか、むしろお前が俺の朝飯になるって手もあるんだよなぁ……」

顔の左右を鷲づかみにして拘束する。恐怖におののいた顔で身を捩るめーりんだが、
その程度で逃れられるほど俺の腕力は甘くはない。大口を開けてめーりんに迫り、その表情や声を堪能する。
うむ、実に清々しい朝だ。

「……なんてな。冗談だよ冗談。俺はピザまんは嫌いなんだ」

そう言ってめーりんを床に放る。これは本当だ。俺は自他共に認める超のつく甘党であり、辛いものは苦手なのだ。
まあピザまん程度なら食って食えない事はないが、わざわざ不味いものを食わねばならんほど台所事情は逼迫していない。

「さて、アホやってないで飯食うか。行くぞ」

「じゃお~……」

めーりんの後頭をつま先で突っついて先を行かせながら部屋を出て、居間へ向かう。
俺の家は花屋をやっており、高校卒業後家業を手伝う形で俺も家で働いている。
とはいえ、親父はまだまだ現役なので実質的に2代目となるのはまだ20年は先だろう。
まあ、俺としては花をいじれればそれでいい。花瓶に活けるような花よりは、花壇や鉢植えに植える方が好きだし、
店に出す花より家の庭で趣味で育てている花の方が力が入っているくらいだ。

「ゆっくり起きたぞクソ親父!」

「開口一番ソレかお前は。随分とご機嫌斜めだな。あとめーりんお早う。毎朝バカ息子の相手ご苦労さん」

「じゃおーん!」

居間では親父が既に朝飯を食っていた。花屋の朝は早い。ゆっくり寝ている息子を待っている暇など無いのだ。
なんか「あたいやりとげたよ!」って感じの達成感に満ちた顔をしているめーりんにイラっと来たが、
軽く蹴っ飛ばす程度に留めておいて親父の向かいに座る。

「さて、親父よ。今日こそは聞か「お前はうーぱっくが運んで来たんだよ。何度も言っているだろう」セリフを被せるな」

食卓に気まずい空気が流れる。親父は構わず飯を食い、俺は納得行かないとばかりに親父を睨みつける。
そしてその空気を感じ取るがどうにもできないのでおろおろするめーりん。
あの夢を見た朝は、決まって親父に「俺のお袋は誰なんだ」と聞き、そしてはぐらかされる。
うーぱっくが運んできたとか今時そんなロマンチックなことあるわけ無いだろ。
俺は、親父には全然似ていない。緑がかった髪に赤い目と、日本人的な外見とは大きくかけ離れている。
なので周囲にはよく「母親に似たんだな」とよく言われる。そのせいもあって、
俺はよく親父にお袋はどうしてるんだと聞き、今回のように適当にあしらわれるのだ。

「40近くにもなってンなメルヘンチックな事いってんじゃねえよ。ゆっくりじゃあるまいに」

「お前も懲りないな……本当に知りたいのか」

「自分の母親の顔知りたくない奴がいるかよ。今日こそは教えてもらうぞ?」

「仕方ない……少し待っていろ」

頑として譲る気のない俺に、ついに親父も折れたようだ。席を立って居間から出て行く。
暫くして戻ってきた親父は、その手に小さな傘を持っていた。人の頭をようやく覆えるといった程度の、小さな傘だ。

「なんだよその傘。随分小さいけど」

「これが、俺が持っている唯一の母さんの所持品だ。これ以外は写真の1つも残ってない。
 余りそういうことを好まない人だったからな」

手に取ってみる。傘としての役には立たないだろうが、なんだか非常に手に馴染む。
素材も、ビニールやプラスチックなどではない、どちらかと言えば布に近い感触のようだが、なんとなく「違う」と感じた。

「母さんの事が知りたいなら、ウチのうーぱっくに聞いて連れて行ってもらえ。元は母さんのところのゆっくりだからな。
 実家の裏山があったろう。お前が昔よく遊んだ所だ。母さんはそこに住んでる。
 今俺から全てを語ることも出来る。でもお前は信用しないだろう。だから自分で見て来い。
 行くなら今行って来い。それまで休みにしといてやるよ。その後なら、どんな質問にも答えてやる」

そう言うと、親父は居間から出ていった。残されたのはおれとめーりん、そして母さんが持っていたという傘だ。

「じゃお……」

「うるせぇ、ちょっと黙ってろ」

ともあれ、お袋に至るきっかけを得られたのは大きな収穫だろう。まだ朝だ、出るにしても飯を食わねば始まるまい。
何故か心配そうにこっちを見るめーりんにデコピンをかまして黙らせ、俺は朝飯の支度を始めた。









「さて、ここに来るのも久しぶりだな……」

「うー! うー!」

翌日、俺は10年近くぶりにあの裏山の土を踏んでいた。
実家と家はそこそこ離れており、実家に付いた頃には既に昼を回っていたのだ。そこで実家で1泊し、
疲れを癒してから改めて挑む事にした。子供が駆け回れるレベルの山とはいえ、下手したら迷うし
熊なども出ることがあるからだ。体力には自信があるとはいえ余裕を持って損はないだろう。
俺のすぐ横には、お袋の傘を中に納めたうーぱっくが滞空している。ウチの店で荷物運びに使っている奴だが、
父曰くこの山の生まれだそうなので非常に嬉しそうだ。すげえいじめてぇけどお袋のところまではこいつに頼る他ないらしい。
それにコイツは俺のではなく親父のゆっくりだ。手を出したら何を言われるか分かったもんじゃない。

「じゃお~ん!」

足元ではめーりんがやる気満々といった風情でふんぞり返っている。何で着いて来てるんだよお前。
うーぱっくに抱いた感情も含めて軽く蹴る。思い切りつんのめって顔面を痛打した。おお悶えてる悶えてる。
そういえば、親父が小麦粉とオレンジジュースを持てと五月蝿いので持って来たが、
そんなにコイツが心配なのだろうか。

「いや、お前はいなくても良いんだよ。つーかなんて着いて来てんだお前」

「じゃ、じゃお!? じゃおー!」

「いや心配とか要らないから。じいちゃんのとこで待ってろよ。そんなに苛められたいのかお前」

「うーうー!」

「お前も賛同とかしなくていいから。調子に乗るからこいつ」

お前何で普通に会話してるんだ、と思うだろうが、正直正確に理解できているわけではない。
なんとなくニュアンスが分かる、と言う程度のものだ。まあ、「うー」と「じゃお」しか言わないこいつらとはいえ、
年単位で顔突き合わせてればこの位は分かる。ともあれ、このまま戻っても良いが、正直面倒臭いのでこのまま行くとする。
最悪、傘は俺が持ってうーぱっくにめーりんを乗せればいいしな。

「しゃーねえ、戻るのも手間だし、このまま行くぞ。うーぱっく、頼んだ」

「うー!」

ぱたぱたとなんの役に立っているんだかよく分からない大きさの羽を羽ばたかせ、うーぱっくが先行する。
正直辺り中草の匂いでよく分からんが、うーぱっくには本当に自分の故郷が分かっているんだろうか。
20年以上も匂いが残っているわけもなし、なにかゆっくりには分かる気配のようなものがあるのかもしれないが。
しかし、こんな山奥に住んでいるお袋は何者なんだろうか。よく陶芸家とか芸術家はこういうひなびた田舎に引きこもるらしいが、
お袋もそういった手合いなのか。写真が嫌いと言っていたから、機械とかそういうものが嫌いなのかもしれないな。
こういう傘も、お袋の手になる観賞用のものと考えれば合点がいく。

「どんな人なんだろうな……」

「うー?」

「独り言だ。気にすんな」

「うー」

それから暫く、がさがさと草木をかき分ける音とうーぱっくの羽音だけが辺りを支配する。
他に聞こえる音と言えば、風の音、どこかで鳴いている鳥の声、
そして進行方向から聞こえるまるでありすが盛っているような「んほぉぉぉぉぉ」という声……

「じゃおー……」

「初めて意見が一致したなめーりん。なあうーぱっく、あっち行きたくないんだけど凄く」

「……うー」

「やっぱ行かなきゃだめか」

「うー」

やだなぁ……あいつキモいんだもん、主に顔が。
まあ盛っているなら横を通れば問題はなかろう。お眼鏡にかなってしまったゆっくりには悪いが、犠牲になってもらおう。
山を登り続けて初めて、俺達の意思が1つになった瞬間であった。
そんな事を考えながら声の方向へ向かおうとすると、何かが向こうから突っ込んできた。
高さは俺の胸辺り、最初はれみりゃかと思ったが、よく見れば羽が4つに赤い髪をしていた。
これが噂のゆっくりこぁという奴だろうか。俺にぼすんとぶつかると、羽を器用に使ってしがみ付いてくる。

「こ、こぁー! たすけてくださいー! あのありすがむりやり……」

「まちなさーい! ありすのとかいはなあいをわけてあげるわぁー!」

こぁが出てきた直後、なんとも気持ち悪い顔をした金髪のゆっくりが突っ込んできた。
ゆっくりありす、しかも最もたちの悪いレイパー種だ。
だらしなく開いた口元からはよだれを垂らし、そのすぐ下には細い三角錐のようなものがぴこぴこと揺れている。
あれがゆっくりの生殖器であるぺにぺにとやらか。しかしほんとキモいなぁ。
こぁを追いかけていたので、進路には当然俺が立ち塞がっている。別に見ず知らずのゆっくりを助けてやろうと言う気はなかったが、
なんか俺を見るなりありすが一層興奮しだしたので思わず足が出てしまい、カウンター気味に蹴りが決まった。
顎のすぐ下に入った蹴りはありすのぺにぺにを潰し、ぐちゃりと顔面にめり込んだ。蹴り自体は対した威力はなかったが、
ありす自身が(ゆっくりにしては)すさまじい勢いで突進していた為、そのスピードがそのまま威力に変換されてありす自身を襲った。

「どがいばぁぁぁぁっ!?」

ああ、とかいはって鳴き声でもあるのな。吹っ飛んだありすはその勢いのままに側にあった木に激突し、地面に落ちた。
死んではいないと思うが、レイパー種のアイデンティティともいえる生殖器を亡くしてはレイパーとしては再起不能だろう。
まあ、俺の知ったことではないが。

「……で、どうするよ、これ?」

痙攣しているありすを差して言う。個人的には即潰しても問題はないが、ここは被害者や同じゆっくりの意見を伺うべきだろう。
まずうーぱっくに聞いてみる。「うー! うー!」同情の余地なし、と。
次にめーりんに聞いてみる。「じゃ、じゃおー……」去勢されたようなもんだし許してやれ、と。お人よしだなお前。
最後に、今回の件の当事者であり被害者でもあるこぁに聞いてみる。

「このありすはたぶんわたしのむれとはちがうむれのありすだとおもいます……わたしのむれにはありすはすくないですし、
 れいぱーになるようなありすならまっさきにころされています。たびのかたがたにごめいわくをかけるわけにもいきません、
 このありすはわたしがしまつします」

「あ、ちょっと待った。どうせ殺すんだったら俺にやらせてくれないか。
 ちょっとやってみたい事があるんだが」

「こぁ?」

リュックの中からあるものを取り出した。中身の入ったペットボトルと、細いケースに入った飴だ。
まずは仕込みのためにありすを起こす。また襲われても困るので軽く底面を縛って歩けないようにしておく。
気絶していたようだが、ぺちぺちと頬を叩くと、直に目を覚ました。

「よぉ、起きたか?」

「さっきありすをけったいなかもの! そこでうごかないで、ありすのすっきりをじゃましたばつをあたえてやるわ!
 ……あら、うごけない、なぜ!?」

それは俺が底を縛ったからなのだがまあありすからは見えまい。
ゆっくり如きに何ができるのかはわからないが、話に付き合うだけ無駄だ。さくさく行こう。

「さっきは悪かったよ。お詫びといっちゃなんだが、とっても都会派なジュースとお菓子があるんだが、いるか?」

「ふん、しゅしょうなことね! そこまでいうならたべてあげてもいいわよ!
 もちろんありすはうごけないんだからたべさせなさいよね!」

ありす種は「とかいは」と言う言葉に弱い。おそらくもうこいつの中で俺は「自分を殺そうとした人間」ではなく
「都会派なお菓子と飲み物をもっているいなかもの」になっていることだろう。
飴を1個ありすの口の中に放り込む。警戒するかと思ったが、すぐに舐め始め、次を要求してくる。
ジュースの方も問題なく飲んだ。そうこなくてはな。

「知ってるか? 都会じゃこの飴をこのジュースの中に入れてジュースを飲むのが流行りなんだぜ?」

「も、もちろんしってるわよ! さあはやくよこしなさい!」

了解。俺は持っていた飴を全て液体の中に突っ込み、手早くありすの口に突っ込んだ。
最初は出てくる泡を美味そうになめていたが、次第にその顔が驚きに彩られる。
泡が異様なほど溢れてきたのだ。このありすは極普通の成体程度の大きさ、
すぐに口の中はいっぱいになり、うーうーと唸り始める。だが俺はボトルを外さない。コレを狙っていたからだ。

「うぶぅぅぅぅ! むぐぉぉぉぉ!」

パンパンに膨れた身体で身もだえするありす。
水を全開にした蛇口を口に突っ込まれているようなものだ、その苦しさは想像を超えるだろう。
既に気付いている人間もいるかもしれないが、俺が持ってきた飴はメントスというお菓子、
ジュースはダイエットコークだ。この2つは別々に食べれば全く問題ない。
ただダイエットコークの中にメントスを投入すると、すさまじい勢いで吹き上がる。
『メントスガイザー』と呼ばれる現象だ。ネットで見て以来これは使えると思っていたが、
めーりんにやったら確実に死ぬので今まで機会がなかったのだ。
虐待のために外出するほど暇でもないしな。花屋はなんだかんだで忙しいのだ。
それに何より、いい年こいてこんな子供みたいな所やってるのを見られたら恥ずかしい。

「ん゛ー! ん゛ー! ん゛うぅぅぅぅー!」

ありすの方はそろそろ大詰めだ。内部の圧力はどんどんと高まり、逃げ場を探して荒れ狂う。
時折目の端からぷしゃ、と小さく吹き上がる。しかし、今ありすの身体には丁度いい穴が開いている。
俺が先ほど蹴り潰したありすのぺにぺにだ。見る見るうちにそこに殺到し、
内圧に押されて潰れて使用不能になったぺにぺにが再び立ち上がる。
どうなるかは予想できたので咄嗟に誰も居ない方向にありすを向けた。

「ん゛ぅ―――――――――――」

結果は予想以上だった。ぼこり、とぺにぺに周辺の皮が一際盛り上がったかと思うと、
カスタードまじりのダイエットコークが皮を突き破って噴出したのだ。
ペットボトルの容量自体がさほどなかったのもあり噴出はすぐに止まったが、
ダイエットコークと共に内部のカスタードをごっそり持っていかれたアリスは痙攣をし始めた。
こうなってしまっては長くは持つまい。自分でやっておいてなんだが、
ぼたぼたとコーラの雫をこぼしながら痙攣するありす(の残骸)は首から下を千切られた生首のようで
正直なところかなりグロい。

「「「「…………」」」」

なんとも気まずい顔で見詰め合う俺達。まあ自業自得だしやっちゃったもんはしょうがないし。
ここはコレを教訓に次に活かせばいいだろう。どう活かすかは知らないが。

「よし、じゃあ行くか!」

「そ、そうですね! あ、たすけていただいたおれいにわたしたちのむれにきませんか?」

「いや、それは良い。俺も用事があるしな。こぁ……っつーんだっけか、お前。
 お前さ、この辺りには詳しいか?」

「あ、はい。このあたりはわたしのむれのなわばりですから。でも、そんなことをきいてどうするんですか?」

「いや、人を探してるんだよ。俺みたいな顔した奴知らないか? 生き別れた家族なんだよ。
 親父に聞いたら、この山に住んでるといわれて探してんだけど、見たことねぇか?」

その質問に、こぁは下の羽を組み合わせてむむむと考え込んだ。腕組んでるのかこれ。
そのまま考え込む事しばし。

「あなたのかぞくかどうかはよくわかりませんが……こころあたりはあります。
 たすけてくれたおれいもありますから、あんないしますね。ついてきてください」

こぁは先頭に立って飛び立った。あれ、こっちって今こぁが来た方向じゃないか?

「むれにつれていくわけにはいきませんからー」

成程な。そのまま暫く付いて行くと、横でうーぱっくが耳打ちしてきた。
どうやら、お袋が住んでいるところもこっちの方らしい。これは当たりを引いたか?
そうこうしている内に、なんとなく辺りの風景に見覚えがあるような気がしてきた。
このあたりはいつも遊んでいた辺りではないはずだが……何故だ?
暫く悩んでいると、ここがいつも夢に見る風景だという事に気づいた。
この先は少しきつめの坂になっており、俺はそこで足を滑らせて転がり、崖から落ちるのだ。

「おい、ちょっと待て。この先は崖じゃないのか?」

空を飛べるこぁ的には問題はなくても、飛べない俺には大問題だ。崖沿いに行くのかもしれないが、
正直夢で何度も落ちているだけに足が竦む。めーりん? うーぱっくに乗ってれば良いんじゃないか?

「だいじょうぶですよ。あなたくらいからだがおおきいとむずかしいかもしれませんが、
 いちおうくだるみちはありますから。……さ、みえてきましたよ」

坂を下り、崖の縁に立った時、そこには、一面の花畑が広がっていた。
大きなすり鉢状の盆地に、様々な種類の花が咲いている。中には、明らかにこの山では自然に咲かない種類のものもあった。
山頂の方からは川が流れ込んで盆地を縦断しており、その側には大きな木と、小屋のようなものもあった。
花畑のあちこちでは丸い何かが飛び跳ねたり動いたりしているが、あれはゆっくりだろうか。

「これは……ゆっくりの群れか? ここに俺に似た奴が?」

「はい。あなたよりちょっとちいさいくらいでしょうか。とってもりっぱなりーだーなんですよ!」

どうやら群れのリーダーがそのよく似た人物らしい。まあ、山に住むくらいだからゆっくりと住んでたりもするだろう。
俺の身長はまあ成人男性としては一般的なくらいだから、俺の御袋だと推定すると丁度いいのかもしれない。
こぁの先導の元、盆地の縁に沿うようについている緩い坂を下る。
やはり、俺はここに来た事があるようだ。さっき崖の上から覗いたその光景は、確かに夢で崖から落ちる直前に見た風景と同じだった。
とすると、俺はあの後、お袋に抱かれていたのだろうか――――

「じゃお、じゃおーん!」

思索に沈もうとしていた意識を、めーりんのやかましい声が引き戻した。
坂の道幅は成体1匹半程度の幅しかない。注意さえしていれば危なくはないが、逆に言うと注意していないと危険と言うことだ。
確かにこんな所で考え事してたら足踏み外しかねないな。今ばかりは感謝しておこう。
そうこうしている内に坂を下りきり、盆地の底にたどり着いた。
そういえば、ふと気になる事があったので、こぁに聞いてみることにする。

「なぁ、こぁ。自分で言うのもなんだが、恩人とはいえ、初対面の人間を群れに連れてきて良いのか?
 もしかしたら、この群れのゆっくりを残らず皆殺しにしようかと考えてるかもしれんぞ、俺」

勿論そんなつもりはないが、いくらめーりんやうーぱっくを連れているとはいえ警戒心無さ過ぎではないだろうか。
そんな心配などまったくしていないのか、こぁの返答は酷くあっさりしたものだった。

「どうしてでしょうね。なんとなくですけど、しんようしてもいいかな、っておもうんです。
 うちのりーだーにそっくりなのもありますけど、すこしだけ、わたしたちとおなじにおいがするからでしょうか」

「あ、おい、ちょっと待てよ!」

思わぬ返しに一瞬頭が真っ白になった。慌てて呼び止めようとするが、呆けている間に大分遠くまで行ってしまった。
「わたしたちとおなじにおい」? ゆっくりは普通人間とゆっくりの区別はつくはずだ。
ゆっくりの飾りを見につけたりすると「大きいゆっくり」に見える例もあるらしいが……
俺はゆっくりの飾りなんて何もつけてないぞ?

「お前ら、俺ってそんなゆっくりに見えるか?」

「うー」

「じゃお」

2匹に聞いてみたら即答しやがった。いかん、すげえショックだ……
とりあえずめーりんのほっぺたを伸ばして時間つぶしと鬱憤晴らしをするとしよう。
めーりんの泣き声をBGMにほっぺたを伸ばし続ける事しばし。さっきのこぁと共に1人の人間がやってきた。
これがリーダーとやらだろうか。お袋の傘によく似たデザインの日傘を差し、チェック柄のベストとスカートを身につけている。
中々いい趣味をしてるなこのリーダー。年の頃は二十歳ちょっと過ぎくらい、大体俺と同じくらいで、
強気で活発そうなまなざしが印象的だ。少なくとも、俺のお袋ではないと思う。
当てが外れて少し落胆した俺のところにやってくる2人。しかしこの歳で隠居生活とは奇特な人間もいたものだ。

「りーだー! このひとたちです! わたしをたすけてくれたおんじんなんですよ!」

「へぇ、この人達が? この里のゆっくりじゃないのに、優しい連中も……」

言いかけて日傘が落ち、リーダーの傘に隠れて見えなかった素顔が露になる。酷く驚いているようだ。
傘はそのせいで取り落としたのだろう。しかし、俺の目を引いたのはその外見だ。
ゆるくウェーブのかかった緑がかった髪に、赤い目。俺をそのまま女性にしたような顔が、そこにあった。
だが、俺がより驚いたのはリーダイの次の言葉だった。

「うお、もしやにーちゃん!?」

「なっ……!?」

これには俺も驚かざるを得ない。思わずめーりんを落として、めーりんがじゃおじゃおと叫んでいたが
それがガラスを隔てたように遠くに聞こえた気がした。そんな事に構っていられるほどの余裕がなかったのだ。
そのまましばし睨み合う俺達。沈黙する場。そして、長く続いた(気がする)その沈黙は
横から飛び込んできた一言で破られた。

「あら、めずらしいかおがきてるわね。ほら、なにぼけっとつったってるの。
 せっかくのさとがえりなんだから、いえでゆっくりしていきなさいな」

足元には、リーダーをそのまま小さくしたようなゆっくりがいた。緑のウェーブがかった髪に、ゆっくり特有の下膨れ気味の顔。
ゆっくりゆうか、しかも胴付きだ。何やら俺を見上げて感慨深そうな顔をしている。

「うー! うー!」

なにやらうーぱっくが懐いている。この群れにいた頃の知り合いなのだろうか?
ゆうかはうーぱっくの中からお袋の傘を取り出し、傘を差す。

「……は? ちょっと待て、里帰りってどういうことだよ? あとソレはお袋の傘だ、返せよ」

「いいじゃない、こわすわけでもなし。それに、たちばなしではなすようなことじゃないし、
 はやくきなさい。やまのぼりでつかれてるでしょ?」

口々にまくし立てる俺。しかしゆうかは取り合わず、「はやくきなさい」とだけ言って歩き出した。
そして、俺達は大木の側の小屋――近づいてみると結構大きかった――で顔を突き合わせていた。
何か釈然としない顔の俺を尻目に、ゆうかは悠々と木のカップに入れた水をすすっている。

「さて、それじゃあしつもんにこたえましょう。なんでもきいてごらんなさい?
 ただしとしとすりーさいずとたいじゅうだけはおしえられないわよ」

俺もそんなもん知りたくねえよ。

「それじゃあ単刀直入に。さっきも言ってたけどよ、里帰りってのはなんだ?
 確かに10年ちょい前にここに落ちたことがあるみたいだが……」

「まあ、うまれてすぐにあのひと……あなたのおとうさんのところにおくったから、しらなくてもとうぜんね。
 あなた、このさとでうまれたのよ?」

「何ぃぃぃぃぃぃ!?」

なんだかさっきから驚いてばかりだなぁ、と心のどこかで思う。何かこうも続くと一回りして悟ってしまいそうだ。
いや、注目すべきところはそこではない。俺はここで産まれた。いま、このゆうかはそう言った。
つまり、俺を産んだ誰かがここにいる、もしくはいたのだ。

「俺が……ここで産まれた? 俺のお袋がここにいるのか?」

「ここにいるというか、めのまえにいるわよ。しんじられないでしょうけど、あなたもそのこも、
 わたしがおなかをいためてうんだじつのこだもの。ちなみに、あなたのほうがおにいさんよ」

そう言って、ゆうかはにこりと笑った。
……おいおい冗談きついぜ。
そう言葉が口をつきかけた途端、何かがそれを押しとどめた。
俺は人間だ。少なくとも、20数年人間社会で生きてきて、戸籍もちゃんとある。
ゆうかの言う事を否定するなんて簡単だ。だが、ゆうかのあの笑顔に、言いようのない懐かしさを覚えたのも、また事実。
正直実感はまるでないが、それ故にか俺はゆうかの言葉を容易に否定する事はできなかったのだ。

「本当、なのか?」

「ええ、ほんとうよ。なんならいえにかえってからあのひとにきいてみなさい。
 ちいさいころにあのひとのしりあいにけんさしてもらったときのけっかがあるはずよ」

そこまで言われては納得する他あるまい。ゆうかは、俺が納得したと分かると、さらに言葉を続けた。

「だいぶまえにあなたがさとにおちてきたときはおどろいたけどね。あのときはせんせんだいのおさもげんえきだったから、
 あなたがこのさとのことをくわしくしるまえにねむってもらっておかえりねがったのだけど」

「あー、あんときの騒ぎってにーちゃん、でいいんだっけ。にーちゃんが落ちてきたんだ。
 あたしが寝てる間になんか騒ぎがあったみたいだねー、くらいにしか思ってなかったけど」

やはりあの夢は事実であったらしい。となると、俺はゆっくりなのであろうか。
さっきのこぁも俺をそう認識していたようだ。しかし俺もリーダーも、ゆうか種に似てはいるものの
(俺の目には)ゆっくりには見えない。身長だって高いし、下膨れでもない。何より、
体の中に餡子が詰まっていない。少なくとも俺は怪我したらきちんと赤い血が流れた。

「けんさのけっかをみればわかるとはおもうけど、あなたたたちはぶんるいとしてはどちらでもあるの。
 にんげんとしてのすがたやこうぞうをもち、なおかつゆっくりとしてのとくせいももつゆっくりとにんげんのはーふ。
 さしずめ、ゆっくりにんげんとでもいうところかしらね」

「マジで!?」

これには流石に驚いた。そんなのありえねえ、と思う反面、
そもそもゆっくりって常識の通じない生き物だしなぁ、とも思う。
だが、本当だとするなら先程のこぁの言う事も分かる。ゆっくりとの混血なら、
俺の身体はどこかしらゆっくりの要素を持っているのだろう。
それにしても、これが本日最後の驚きになるであろう事を切に願う。

「まじでまじで」

神妙な顔でうなずくゆうか……いや、お袋か。ていうか案外ノリいいな。
そしていつものあの不敵な顔に戻り、そうなった経緯を話し出した。
元々お袋はこの群れに属するゆっくりで、山に遊びに来ていた親父とふとしたことで知り合い、
花が好きなもの同士ということもあり意気投合したのだという。

「……まあ、あのときはおたがいわかかったしね。ちょっといきおいあまってみちをふみはずすのもいいじゃない。
 ほら、わかさゆえのあやまちというし。ね?」

流石にコトに至ったことを語るのは恥ずかしかったのか視線を横にずらしつつ語るお袋。
俺はいくら若かったとはいえ人としての道を踏み外した親父が恥ずかしいです。
まぁそれがなければ俺らが居なかったのだが。

「でも、さすがにみごもったときはおどろいたわね。うもうかどうかはひどくまよったものだわ。
 あいのこは、どっちのがわでもいきていくことはむずかしいから」

そういった事情もあり一時は中絶もやむなし、ともなりかけたのだが、
先々代のリーダーの説得もあり産むのを決意したのだという。
そして俺達が産まれ、片方を親父が、そしてもう片方をこの里で育てる事にしたそうだ。

「俺にその事を教えなかったのは、ハーフだってのを知らせないためか?」

「そうよ。ちいさいときにしってしまったらくるしむとおもったから。
 あなたがここにきたということは、あのひとももうだいじょうぶだとはんだんしたのでしょう」

まあ、妥当な考えだと思う。下手にどちらでもあると伝えるよりは、
完全にどちらかの側かに寄せて認識を確立させた方が良いだろう。
ある程度認識が固まってしまえば、早々変えられるものではないし。
と、その時。突然、首の後ろ辺りが何かちりちりと疼きだした。まるで何かに反応しているかのように。

「……ん?」

次第に、その感覚は大きくなっていく。遠くにある何かを感じ取っているようなその感覚は、
時間が経つにつれどんどんと強くなっていった。

「かーさん、侵入者だよ。種類まではわかんないけど、結構な数来てる。
 ちょっとでっかいのがいるけど……ドスとかじゃないっぽい」

リーダーが不意に立ち上がった。その目は最初にあったときのような活発な印象は消え、
敵を前にした戦士の様な強い意志を感じさせる。

「おい、なんでそんな事わかるんだ? 見もしないのに」

「んー? にーちゃんわかんない?」

「なんか背筋がチリチリするくらいだよ。つか、話してる暇ないんじゃないのか?」

「あ、それもそっか。んじゃ、ちょっと行ってくる! かーさんは皆に声かけて戦える子集めといて!」

リーダーはばたばたと慌しく出て行き、俺とお袋だけが残される。
お袋は慌てた様子も無くカップを置くと、同じくすたすたと小屋から出て行く。

「お、おい! 何があったんだ?」

「なわばりにはいりこんできたれんちゅうがいるのね。あなたもなんとなくかんじたでしょ?」

俺はさっきの感覚を思い出し、頷く。

「あのこはじぶんのまわりにだれかがはいってくるとそれをかんじとれるのよ。
 じぶんがゆっくりであるというじかくをもったことであなたもかんじとれるようになったんだとおもうわ。
 かんじとりかたがよわいのはそだちがちがうからかしら」

「育ち?」

「そう。あなたは、うまれてからずっとにんげんのがわでそだった。あのこはそのぎゃく。
 ゆっくりとしてそだったものとにんげんとしてそだったもの、そのちがいがちからのつよさにあらわれてるのかもね」

「よく分からんなぁ。ま、俺には持っててもしょうがない力みたいだし、いいけどな」

「あなたがそうおもうならそれでいいわ。さ、いきましょ」


後編
最終更新:2009年02月28日 23:42
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