ゆっくりいじめ系2350 重箱の隅

 突然だが、俺は二重人格である。といっても、俺と”もうひとり”はさほど人物相が異なっていないらしく、
 日常生活において不都合になることはあまりない。
 あまりない、のだが……
「まったく、面倒臭い」
 俺は混沌の坩堝と化した台所を片付けていた。
 流しにはうずたかく皿や碗が積み重ねられ、床もごみから何から散らかり放題。
 俺は結構綺麗好きな性質で、こうした状態が我慢ならない。
 その反対に、”もうひとり”はかなりずぼらである。
「今回は、向こうが長い間表出してたからな……」
 俺と”もうひとり”の場合、相手側が意識の上に表出している間もう一方は完全な無感覚の眠りについており、
 相手側に口出しすることは一切不可能。
 ふと意識を取り戻して、この台所の惨状を見たときの脱力感といったらなかった。
「……!」
 まったく、これは晩までかかる……。
「ぅっぅー!」
「ん?」
 俺は手を動かすのをやめて、耳を澄ませる。
「うー!」
 今度は確実に聞こえた。うわさに聞く、ゆっくりとかいう生き物の声だ。
 しかし、何か妙だ。
「ぅー!」
 どこからか聞こえてくる声はこもっていて小さい。俺はさらに耳を澄ます。
「うー!うー!」
 その声は、まだ片付けていない部屋の隅から聞こえてきていた。




  重箱の隅

    by ”ゆ虐の友”従業員




 十分ほどもかかって俺はそれを発掘した。
 声源である、正月のおせち料理のわずかにこびりついた重箱。その中に二匹のゆっくりがいる。
 確かれみりゃとかいわれる、胴付きの種族だ。
 二匹のれみりゃ――おそらく親子なのだろう――が俺を見上げる。
「う~ぷっでぃんなぐなっちゃったどぉ~もっともっでぎでぇ~」
「ぷっでぃん~!」
 餌…を要求しているのか?
「とっとともってこないとぉ~たーべちゃーうどぉー。ぎゃおー☆」
「ぎゃおー☆」
 その動作が効果ありと本気で考えてか、元気よくこちらを威嚇する二匹のれみりゃ。
 うぜえ。森にでも捨ててくるか……
「って、小さくね?」
「あう?」
 通常、胴つきのゆっくりは体長1メートル弱はあるという。
 しかし、目の前のこの二匹は大きいほうでも俺の手のひらぐらいの大きさしかない。小さいほうはその半分だ。
「言うなら豆れみりゃってところか……」
 ゆっくりの生態はいまだ謎が多く、新種のゆっくりも日ごとに発見されている。
 もしこれがそうした新種だったらと考えると、あまり無碍に扱うのもためらわれる。
「”もうひとり”なら、こういうの詳しいんだけどな……」
 いや、詳しいなんてもんじゃない。”もうひとり”は、いわゆる虐待お兄さんと呼ばれる趣味の人間だ。
 個人の趣味をどうこういうつもりはないが、畳に落ちた餡子は完全にふき取って欲しい。
「しょうがない。あいつが表出するまで飼うか」
 俺はそう決意した。
「さっさとするどぉ~たべたいどぉーぷっでぃんー」
「うー!ぷっでぃんー!」
 こいつらの処遇は、”もうひとり”が決めてくれるはずだ。


 * * * * 


 そのようなわけで、あくまで暫定的にだが豆れみりゃを飼育する生活が始まった。

 はじめに住んでいた重箱を”こーまかん”だと言い張ってやまないので、仕方なく巣箱としてくれてやる。
 あとで覚えとけよ……。
「うっうー!ものわかりのいいじゅうしゃはほめてつかわすどぉ♪」
「まんまぁのじゅーしゃー!」
 死ね。

 こいつらときたら、ずうずうしいことに見境なく餌を要求してくるのも日常茶飯事であるらしい。
「ぷっでぃんたべたいどぉー!」
「うーうー!」
「黙らっしゃい」
「おぜうさまはぷんぷんだっどぉー!とっとともってこないとさくやにいいつけるどぉー!」
「いいちゅけるどぉー!!」
「うるさいうるさい」
 体に見合った量しか食べないからいいようなものの、そう何度も何度も飯の用意をさせられてたまるか。
”もうひとり”なら気にしないのかもしれないが、俺はその重箱をくれてやるのにもかなり抵抗があるんだぜ。
「このっ」
 重箱の縁から身を乗り出して、口うるさくわめく親れみりゃにでこぴんを食らわせる。
「ぎゃぶぅぅぅぅーーー!!??」
 うはは、よく飛ぶこと。
「うーー!!まんまぁをいじめるなーー!」
「生意気言いやがって。お前も飛ぶか?ん?」
「いだいのはやだどぉー!」
「だったら黙っとけ、ボケが」
「うううーー!ここはおぜうさまとまんまぁのこーまかんだどぉーー!」
 でこぴん。
「うあーーー!!」
 おっと、ここで選手交代のようだ。
 余人には説明しがたい、人格交代に伴う疼きが脳裏を冒してゆく――
 あとは任せたぜ、”もうひとり”――


 * * * *


――意識を取り戻すと、部屋が散らかっていた。しかしこのぐらいはいつものことだ。
 暦をめくるまでもなく、部屋の汚れ方で三日経ったとわかった。伊達に長い付き合いではない。
 ごみをまとめ、玄関を掃き清める。庭先の木の枝とごみをまとめて焼く。
「そういえば、あいつらどうなったかな」
 俺は掃除を終えると台所に向かった。まあ、おそらく死んでるだろうがね。


「うおっ、なんじゃこりゃ」
 予想は大きく外れた。
「うっうーうあうあ☆」
「れみ☆りゃ☆うー!」
 元気に台所を飛び回る二匹。いや、それどころか、俺が世話していた時よりも良い扱いを受けているのが、
 重箱の中に散らばった食い残しの量からわかる。
「おぜうさまはこばらがすいたどー!ぷっでぃんもってこいだどぉー!」
「てぃらみすでもいいどぉー!」
「んだと蚊トンボども。餌ならそこにまだあるだろう」
「こんなのえれがんとじゃないどー!」
「おぜうさまはじゅうしゃとちがってぇ、かり☆すまなんだどぉー!」
「こんなの、ぽーい!だどー!」
「うっうー!おぜうさまもやるどぉー!」
「おい、やめやがれ!重箱から食べ残しを投げ捨てるんじゃない」
「おもちろいどぉー!」
「ぽーい!」
「うおおおおおおおお!!!」
「ぐずなじゅうしゃだどぉ。とっととぷっでぃーん、もっでくるどぉ~」


 おかしい。あの”もうひとり”がゆっくりをこんな風に甘やかし、生かしておくなど過去になかったことだ。
 まさか、それほどまでに貴重なゆっくりなのか……?
 そう考えると、俺は振り上げた拳の落とし場所を失う。
 うなだれた俺を見て、豆れみりゃどもはいっそう調子付く。
「あう~~ぷっでぃんはみっつずつだどぉ~。わかったかぁ~ばぁか~!」
「ばぁかぁ~~!!」
「うぐぐぐぐぐ……!」
 仕方ない。……俺は歯を食いしばって、あいつらのための餌を用意する。
(おい、”もうひとり”)
(どうしてこんなやつをそのままにしておくんだ?こいつらを虐めるのが、お前の望みなんじゃないのか?)
 俺は心の中で問いかけるが、もちろん返事はなかった。


 * * * *


 それから何度か俺と”もうひとり”は入れ替わったが、豆れみりゃどもは俺が表出するたびに増長していく。

 まず、子供が三匹に増えた。
 次に、餌の回数が日に五度となった。
 のうさつ☆だんすともけーれむべんべごっこの拝謁は義務。
「なめとんのか!!」


――そしてまた、目覚める。
 足取りも重く、”もうひとり”が汚した部屋を掃除しては台所へと向かう。
(いっそ潰してしまうか)
 いや、ここまできてそれは……
 行きたくない。
 しかし、こんどこそやつらの無残な有様を眺められるかもしれないという希望が俺を縛り付ける。
 おい、今度こそ頼むぜ”もうひとり”。
 虐待お兄さんなんだろ?

 しかし、今回も期待は裏切られた。
「うっうー!」
「「「うー!」」」
 台所から聞こえてくる、相変わらずの騒々しいわめき声。今日も今日とてだんすぱーてぃーか。優雅なご身分だ。
 俺は引き戸を引く。

「あうー!ぷっでぃんもっでぎでぇ~」
「「「ぷっでぃんー!」」」
 とうに聞き飽きたぷっでぃんコールなど、ほとんど気にもとまらなかった。
 俺の目は床に釘付けになっていた。
「お前ら…それは何だ…」
 親れみりゃが悪びれもせず答える。
「こんなものもしらないんだどぅ?ものしらずなじゅうしゃをもっておぜうさまははずかちーどぉー!
 これはぁ、おぜうさまのえれがんとなべっそうだどー」
 床に並べられているのはすり鉢、酒枡、お猪口。
 それらを豆れみりゃが持ち上げられるはずはないから、”もうひとり”がやったのに違いない。
 それぞれにれみりゃが一匹ずつ取り付いている。
「ここはおぜうさまのべっそうだどー!」
「こっちはおぜうさまのー!」
 一番遅く生まれた、末っ子の子れみりゃが”べっそう”からあぶれて重箱にいる。
「まんまぁー!おぜうさまもべっそうほしいどぉー!」
「うっうー!おちびぢゃん、そういうときはじゅうしゃにめいれい☆するんだっどぅ♪
 それがえれがんとなれでぃのたしなみだど~」
「わかったどぉ♪じゅうしゃははやくべっそうもってこいどぉー♪」
 俺は絶望的な気分で、数日前までは整然としていた俺の食器棚から茶碗を一つ取り、床に置いた。
 っていうかお前、重箱独り占めしたほうが得じゃねえか。
 俺は黙ってそいつらの餌を床にぶちまけると台所を出た。


 * * * *


<俺だ。連絡を乞う>
 自分にあてて手紙を書くなんてはじめてのことだ。馬鹿馬鹿しくて涙が出る。

 俺には”もうひとり”の意図が理解しかねる。
 頼むから返事をくれ。


 * * * *


――目覚める。部屋の掃除を最優先にしたいところだが、俺はあたりを探し回って、
 ”もうひとり”からの手紙の返答を求めた。
 机の上。ない。
 戸棚の中。ない。
 食卓の上。ない。
「……」
 大きく息をつき、目を閉じる。


 この数日のうちにれみりゃはまた二匹増え、全体では六匹となっている。
 我が物顔に台所を飛び回って遊ぶそいつらに触れないよう、また足元の”べっそう”食器類に注意しつつ台所を突っ切り、
 料理の用意を始める。
 考える時間が必要だった。
 森のはずれの古道具屋で手に入れた自慢の調理器具を振るって、思考を整理しよう。
 これまた古道具屋由来の料理教本を眺める。
「ん?」
 後ろのほうのページ――デザートと書かれた一群の中にそれはあった。
『プディング』。これこそ、やつらの言う正統ぷっでぃんなのでは?


「材料がない……」
 バニラエッセンスというのがない。ほかにもいろいろ足りない。というか卵と砂糖と牛乳しかないが……
「まあ為せば為るってことで」
 俺は試行錯誤の末、どうにかそれらしいものを仕上げた。そのころには豆れみりゃたちがぶんぶんと俺の周囲を飛び回り、
 ことあるごとに振り払わなくてはならなかった。
「とーってもえれがんとなかおりだどぉーー!!」
「さすがはえれがんとなおぜうさまのじゅうしゃだどー!」
 れみりゃの賛美を受けながら、俺はそれを器に盛る。
「はやくたべたいどぉ~~」
「とっとともってくるどぉーー!」
 俺は戸棚にその適当プリンをしまうと、里へと出かけた。


 * * * *  


 用を終えて俺は帰宅する。
 台所の引き戸を開けると、プリンを待ちかねたれみりゃ達の大合唱だ。
「おそいどぉー」
「おなかすいたどぉー」
「さくやにいいづけるどぉーー!!」
「ぷっでぃーんはやぐぅ~」
「まあ待て」
 俺は里で買ってきたものを台所に運び込む。ガラス箱に入ったゆっくりは、豆れみりゃの原形とも言うべきゆっくりれみりゃだ。
 今は箱の中で眠っている。
 豆れみりゃ達は仰天した。
「すっごいどぉー!」
「おっきぃどー!」


 * * * *


 以下は俺の推理である。

”もうひとり”はある日、珍しいゆっくりを手に入れた。
 彼は、それが珍しいばかりでなく、ある目的に向いていることに気づく。
 豆れみりゃは普通のゆっくりに比べ力がないため物的被害を出さない。
 扱いやすく、しかし増長しやすい。
 彼はこう思ったに違いない。「なんと初心者向けのアイテムなんだ」と。
 そして今回のことを計画したのだ。
「これは、もうひとり(つまり俺のことだ)を巻き込んで、面白いことができるぞ」と。

 彼はあの重箱をこーまかんとして豆れみりゃにあてがう。
 やがて俺は当然の帰結として豆れみりゃと出会い…その後はごらんのとおり、というわけだ。
 俺が豆れみりゃへの鬱屈した感情を育み続ける一方で、彼は出番の間一貫して甘やかし続ける。
 俺を煽るためと、あとでの虐待のたのしみを倍増させるためだ。
 相当期間の間――そして、俺が彼の意図を解明するまで――俺がぶち切れて豆れみりゃを殺したりしないことなど、
 彼にはわかっていたのだ。なぜなら俺は彼で、彼は俺なのだから。
 彼は、「おい、”もうひとり”。一緒に面白いことをしないか」と誘うかわりに、不可解な状況を俺に投げてよこしたのだ。
 状況が解明されることを信じて。


 * * * *


 俺は戸棚から適当プリンを取り出す。
「うっうー!」
「あまあまのにおいだどぉー!!」
 飛び掛ってくる豆れみりゃをかわしながらガラス箱をたたいて通常れみりゃを起こし、
 まだ寝ぼけているそいつの前に皿を置いてやる。
「あう?」
「「「「「「だめぇ~~それおぜうざまのぉ~~!!!!」」」」」」


 箱の中のれみりゃは、初めて味わう人間手製の甘味に舌鼓を打ちながら平らげていく。
「うああ……!あんまぁぁ~~いどぉぉ~~!!ほっぺがおちちゃうどぉ~~!!うっうーーー!!!」
 通常れみりゃは、一口食べては昂ぶる心のままに踊り、気が済むまで踊ってはまた一口食べる。
「おぜうさまにふさわしいぃ~、とってもえれがんとなすいーつだっどぅぅ~~♪
 れみ☆りゃ☆うー!!にっぱぁ~~☆」
 その様子を見せられる豆れみりゃ達はたまったものではない。
「まんまぁ~あれたべたいどぉーー!」
「じゅうしゃーー!はやくおぜうさまたちにもあれもってくるどぉーー!!」
(しかしまだまだこんなもんじゃない)
(俺達ふたりがかりの甘やかしからの逆落としはこれからが本番なんだぜ)
(なあ、”もうひとり”)


 * * * *


 通常れみりゃは、長い時間をかけてプリンを食べ終えた。
「うっぷぅ~~。とってもでぃりしゃーすだったどぅ~♪またたべたいどぉ~♪」
「ぜんぶだべぢゃっだぁぁぁ~~!!」
「しゃくやー、しゃくやぁー!!」
「おっきいおぜうざまずるいっどぉー!!」
 ガラス箱をぺしぺしと叩いている者もいるが、プリンの余韻にひたる通常れみりゃに気づかれてさえいない。
「じゅーしゃーー!!」
「おぜうざまにもぷっでぃんーー!!」
 飛び掛ってくるれみりゃを手で払いのけながらガラス箱に近づく。
「れみりゃ。おいしかったかい?」
「うー?もちろんだどぉ~。おぜうさまはだいまんぞくだどぉ♪」
「そうかいそうかい」
 俺はそういいながら、台所の床を片付けはじめる。
「だめだどぉーー!!それはおぜうざまのえれがんとなべっそうだっどぉーー!!」
「ん~?聞こえんな~?」
 ひっかき傷とかついてないだろうな……大事な食器を一つずつ検分しながら、流しで洗ってゆく。
「ヒャッハァーー!!掃除だぁーー!!」
「べっそうがえじでぇ~~!!」
「ざぐやーー!ざぐやーー!」

 しばらくすると、かつて豆れみりゃの帝国であった台所は、ほぼ完全に元の様相を取り戻した。
「すすす……すっきりーー!!」
「じゅうじゃのばがーー!!」
「うあーー!うあーー!」
 今や台所の床に残っているものといえば、通常れみりゃのガラス箱と”こーまかん”重箱だけである。
 水拭き、空拭きを終え、丁寧に食器を戻した食器棚のガラス戸をパチンと閉める。それは今までにないほど高く澄んだ音を立てた。


 * * * *


「さて」
 豆れみりゃを重箱に押し込め、本格的に通常れみりゃとの面通しをしなくては。
「うー!せんまいどぉー!」
「おぜうさまはおそとでれみ☆りゃ☆うーするのぉー!」
「駄目だ」
 聞き分け悪く外へ飛び出そうとする一、二匹を手でひっ捕まえ重箱に戻す。
「せまいのやだどー!」
 また一匹飛び出す。ああもうきりがねえ。
「おらっ」
 ちょうど飛び出そうとしていたゆっくりを下敷きにする形で、重箱に蓋をかぶせる。
「ゆびゃあああああ」
 殺してしまったかと思ったが、れみりゃは蓋と重箱の縁の間に挟まれたままもがき苦しんでいる。親れみりゃが、
 見えないながらも子の危険を悟ってうろたえ出す。
「あう?おちびちゃーん!?でびりゃのえれがんどなおちびちゃーん!?」
「まんまぁーぐるぢいどぉー」
 案外頑丈にできてるんだな。蓋が閉まらないので、重箱の中へと指で押し込んでやる。
「ぎゅぶぅぅぅぅ……いたかっだどー」
「おちびぢゃーーん!!」
 きっと箱の中で感動の再開をしているのだろう。
「うーん、どうしたものか」
 とりあえず、蓋をぴったりと閉じてみる。たちまち反応があがる。
「くらいどぉーー!?」
「なんにもみえないどぉーー!」
「ごあいぃぃぃぃーー!!」
 これはなかなかの好反応。
 とはいえ、ただでさえ人の話など聞かないゆっくりが恐慌状態に陥っているのだ。今は話をするだけ無駄だろう。
 俺は蓋の上に重しを載せて散歩に出かけた。


 * * * *


 散歩から帰ると、豆れみりゃどもは騒ぎ疲れたのか重箱は静かになっていた。
「うーおなかすいいたどぉー、ぷっでぃんー」
 と暢気な声は通常れみりゃ。お前はもう少し黙っててくれ。
 俺は重箱に顔を寄せる。
「もしもーし、れみりゃ、聞こえるかい」
「うー!じゅうしゃだどー!」
「くらくてえれがんどじゃないどぉー!なんとかするどー!!」
「いいか、よく聞けよ。
 蓋を開けてもお外に出ないで、こーまかんで俺の話を聞けるかい?」
 箱の中でれみりゃ達が飛び回る気配がする。
「うーぞんなのやだどぉー」
「おそとでだいぃー」
「じゃあ、ずっとその中にいるんだね」
「どーじでぇ~~!?」
「やぁだぁ~!!」
 そのとき、親れみりゃが言った。
「おちびぢゃんだぢぃ~、いいこにしてじゅうしゃのはなしをきくんだどぉ~。まんまぁはまっくらいやだどぉ~!」
「ううー!」
「わがっだ~」
 どうやら話は決まったようだ。それにしても、”まんまぁはまっくらいやだどぉ~!”。
 威厳もカリスマのひとかけらもない親だな。
「お外に出ないこと。わかったね?」
「わがっでるどぉ~はやくあけるんだっどぉ~」
 不遜な言葉遣いはひとまず聞き流し、俺は蓋を開けてやった。
 重箱に豆サイズのれみりゃが並んで座っている光景はそれなりにかわいらしい。それを、
 ガラス箱の通常れみりゃによく見えるように重箱を押し出してやる。
 俺は通常れみりゃに聞く。
「こいつを見てくれよ……どう思う?」
 満腹感から眠たげにしていたれみりゃだが、重箱の中にいるものが小さな同属だと気づくと興味を示した。
「うーちっちゃくてかわいいおちびちゃんたちだどぉ~♪」
 それを聞いて豆れみりゃもまんざらではない。
「ほめられたどぉ~!」
「おぜうさまはかわいいどぉ~!あうー!」
 しかし、その中に一匹だけ釈然としない表情の者がいる。親れみりゃだ。
「おい、どうした?可愛いってよ」
 俺は親れみりゃに水を向ける。
「うー、おぜうさまはおちびちゃんじゃないどぉ~」
「だとさ」
 通常れみりゃはきょとんとしている。
「そんなことないど?おちびちゃんもかわいいどぉ~?」
「うー!おぜうさまはまんまぁだどー!おちびちゃんじゃないどーー!!」
 通常れみりゃは頷いた。
「あうーわかったどぉー」
「わかればいいんだどぉ!」
「きっとけんそんしてるんだどぉ!ちびちゃんなのにえれがんとだどぉ~。えらいどぉ~なでなでしてあげるど~」
「ううううううーーー!!!」
 はっはっは、こりゃいい。
 そのとき、俺の脳裏に次のプランがひらめいた。







 ■ □ ■ □

 次回予告という名の備忘録


「餌は全部お前に管理してもらうからな。おちびちゃん達にもちゃんと分けてやるんだぞ」
「わかったどぉ!おぜうさまがちびちゃんたちをりっぱにやしなってみせるどー!」
 生きるためには通常れみりゃから餌を与えてもらうしかなくなった豆れみりゃ。
「おぜうざまはぢびぢゃんじゃないぃぃ~~!!!」

 自らの立場を否応なく理解させられていく豆れみりゃ達。
 多重人格コンビのエスカレートする虐待攻勢、親れみりゃの止めどもないカリスマブレイク。
 通常種とかは出るのか!従業員は三種類のれみりゃをこのまま書き分け続けられるのか!?
 豆れみりゃの明日はどっちだ!

 次回『豆れみりゃと多重人格お兄さん』に――Take it easy!

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最終更新:2009年06月03日 16:20
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