……
ゆっくりでも育ててみるか。
ある春の日の昼下がり、私はふとそんな事を考えた。
ゆっくり、ここ数年姿を現した不思議生命体を育てるのは金も手間もそれほどかからない。
思い立ったが吉日とさそく準備を始める事にする、まずはゆっくりの用意だ。
それ用のゆっくりは売っているが、本格的に育てるのではないので買うのは却下、なので野良を捕まえてくる事にする。
ゆっくりを探しに家を出て数分、獲物はすぐに見つかった。
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!」
黒い帽子を被った顔のような薄汚れた野球ボールぐらいの物体、ゆっくりまりさという種である。
時間的に昼食だろうか、道端に生えている草を抜いて食べていた。
私は少しだけ考えてこのまりさを育てる事にした、ではさっそく捕まえる事にする。
そのままこっそりと近づいて捕まえても良いのだが、万が一逃げられるのも次を探すのが面倒なので罠を使う。
私は物陰に隠れ、用意していた釣り針に釣り糸を括り付け、コンビニで買った饅頭を刺してまりさの後ろあたりに投げた。
――ポトン
「ゆ?」
まりさは後ろに何か落ちた事に気付き振り返る。
そしてそれがお菓子だと分かった瞬間、その目の色を輝かせた。
「ゆゆっ! あまあまさんがおちてるよ!!!!」
怪しいとも思わずはしゃいでいる、単純なものだ。
これが長く生きたゆっくりなら怪しむだろうが、あの大きさから見て成人近くの子ゆっくりか、成人して間もないぐらいだろう。
まりさは怪しむ様子も無く、口を大きく開けて餌に向かって飛びついた
「あまあまさんいただきまーす!! むーし……ゆぎぃ!?」
「ゲット」
うまく口内に釣り針が刺さったのを確信、逃げられないのを確認して物陰から出る
「うう、いうえうはうはよ、ゆっふひひへふひょ(ゆゆ、にんげんさんだよ、ゆっくりにげるよ)」
口に針が刺さって何を言ってるか分からないが、逃げようとするのでとりあえず捕まえる。
口の中から針を取ると、文句を言い出す前に持っていたコンビニ袋に入れて口を縛り鞄に入れた。
ゆっくりを捕まえた私はついでに必要なものを買って家に帰ってきた。
買ってきたものを入れた紙袋を机に置き、鞄の中からゆっくりを取り出す。
「ゆ……、ゆ……」
せっかく捕まえたまりさが危ない感じに痙攣していた。
まぁ太い針で口を蹂躙され、そのまま通気性の悪いビニールに詰められ身動きが取れず、狭い鞄の中に放り込んだんだ、当然だろう。
というか考えてみれば良く生きていたものだ、さすがゆっくり無駄に生命力がある。
とりあえず死なれるとまた捕まえに行くのが面倒なので、洗面器に放り込み買ってきたオレンジジュースを少し流し込む。
さて、まりさがある程度回復するまで準備をしておこう……
「ぺーろぺーろ。……ゆ? おにいさ、ゆっくりしていってね!!」
必要な準備を整えて部屋に戻ると、元気になったまりさが洗面器の底に残ったジュースを必死になってなめていた。
私が来たのに気付いて御約束の挨拶をするとすぐにまた洗面器をなめる作業に戻ったが、もう完全に無くなったのに気付き悲しそうな声を上げる。
「ゆ~、なくなっちゃったよ。……おにいさん、まりさはもっとあまあまさんなめたいよ! ゆっくりもってきてね!!」
おやおや、いきなり催促とは。おそらくあまりお頭の宜しくない固体なのだろうが、まぁ今から育てるのには関係ないので良いとする。
私は返事を返す事無く、まず準備のためまりさをひょいっと持ち上げた。
「ゆ~! おそらをとんでるみたい~!!」
まずこのままでは汚いのでぬるい湯を用意した桶に入れて、ジャンプーで汚れを落とす。
「ゆ~♪ ぶくぶくさんがきもちいいよ~! とってもゆっくりできるね!!」
一通り洗い終えたらシャンプーを流し、柔らかいタオルで体を拭いて、ドライヤーで乾かしてやる。
「まりさ、とってもゆっくりできるよ! おにいさん、ゆっくりさせてくれてありがとう!! おれいにいっしょにあそんであげるね!!」
無邪気にはしゃぐまりさ。そんなまりさを再び持ち上げ、その楽しそうな言葉を発するまりさの口にオレンジジュースで塗らした脱脂綿を詰め込む。
「ううっ!?」
気分は天国から突然の地獄へだろうか? 突然の事に目を見開くまりさだが無視、口に入らなくなるまで脱脂綿を詰め込んでいく、そりゃもうぐいぐいぐいっと。
「ううー!!」(やめてね!! まりさのくちにいじわるしないで……ゆぎゅ!?)
あごが外れたのだろうか、白目をむいて痙攣するまりさ。
だが脱脂綿に含まれたオレンジジュースの効果によって死ぬことは無いので無問題。……考えてみれば残酷な生態である。
さて、限界まで詰め込んだのを確認した私は用意していたまな板の上にまりさを寝かせるように横に乗せる。
そして保険のオレンジジュースで前進を塗らした後、包丁を取り出してまりさの底の部分を深めに切断した。
「!!!!!?????!?!!!????!」(うぎぃぃぃぃぃぃぃ、まりさのあしさんがいだいぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?)
この時、背の方に斜め気味に切るのがミソだ。続いて剣山を用意して切った部分に突き刺す
(やべでぇ……、ぎずぐじざんが……、ぎずぐじざんぐりぐりじないでぇ……)
ある程度深くまで刺さったのを確認し、溶かした小麦粉とオレンジジュースを混ぜたものを入れたボールの中にその部分を漬ける。
暫くしてボールの中から出すと、漬けていた足の切り口と剣山が綺麗に一体化していた。
ぬれた部分を拭いて机の上におけば、斜めに切って突き刺していたために少し上を向いたようになるのがポイントだ。
――ガタガタガタ
(ゆっ! ゆっ!! ゆゆっ!!!! あしさんがぜんぜんうごかないよ!? おにいさん、ゆっくりなおしてね!!!)
まりさは必死になって体を動かしているが、一体化した剣山が土台となった足が動くはずも無くガタガタ体を揺らすだけだ。
ここまで手を入れたまりさを底に脱脂綿を詰めた鉢植えに入れ、まりさの周りにも一杯になるまで脱脂綿を詰めていく。
(ゆぎぎぎぎぎぎっ!? ぐるじいよ、やめでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!)
この時まりさの体が斜めになっているため、目が鉢植えの外に見えているのがチャームポイントだ。
さて、仕上げだ。周りに脱脂綿にオレンジジュースを水をかけ、脱脂綿を濡らしていく。
(ゆ~、あまあまさんのあじがくちにひろがっていくよ~♪)
まりさのめが気持ちよさそうに細まる、周りの脱脂綿を通して口の中の脱脂綿にオレンジジュースが染み渡っていってるのだろう。
また体もほぼ全体がオレンジジュースに浸された状態だ、これで簡単には死なない。
最後の仕上げと買ってきたゆっくり用のアンプル「孕ませありすちゃん200X」を取り出し、暴れないように最後まで被せていたまりさの帽子を退かしてその頭に突き刺した。
(ゆぎぃ!? ……ま、まりざの、おぼうしさんとらないでぇぇぇ!!!!!!)
今度は何かを訴えるような目になるが、その目もアンプルの中身が入っていくにつれトロンとしたものに変わる。
暫くして、中身が完全に入ったまりさの顔は赤みを帯び、からだはぶるぶる震えだし、そして……
(ゆ、ゆ、ゆ、ゆ!! すっきりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!)
最後に一際大きな振るえと共にその額から蔦が伸びて行き、小さなまりさとありすが実った。
(ゆ、まりさのあかちゃん? ゆっくりして……)
「ゆぎゅ!?」
(…………ゆ?)
実ったゆっくり達を鋏で切り取り捨てていく。
切り取られたゆっくり達は親からの送られる栄養の供給をたたれ、苦悶の声を上げながら次々と死んでいく。
(やめてね! ゆっくりやめてね!! まりさのあかちゃんたちをきりとらないでね!!! ゆっくりできなくなっちゃうよ!!!!)
滝のように涙を流すまりさを尻目に、最後のありすを切り取ってその切り口に雑菌が入らないように薬を塗る。
これを何度か繰り返して、程よい数の蔦が揃えば準備は完了でる。
これから暫くの間、まりさを「観葉植物」としてノンビリと育てていくのだ。
壊れたおもちゃのように涙を流すまりさの目に、私は優しい微笑を向けた。
二週間後、まりさから伸びた蔦は青々とした葉が付いていた、きちんと手入れをした為か色も形も実に良い。
そんな生き生きとした葉に対して、根となっているまりさの瞳からは理性が消え、虚ろな物へと変わっていた。
動く事も話すことも出来ず、ただそこにあるというだけの状況に耐え切れず、考える事を止めたのだろう。
それを確認した私は葉の一枚を切り咀嚼する。……甘い、芳醇な甘みが口いっぱいに広がる。
葉の繊維の食感と、柔らかい砂糖のような甘さが口の中で融合し合い、何とも言えぬ旨みを演出していた。
さて説明するとこの葉は『ゆーくりの葉』と言われている、ゆっくりから取れる野菜である。
ゆっくりの餡と同じくゆっくりの感情によって甘みを増すこの葉は、その甘みとは裏腹に食物繊維が豊富で子供のおやつやダイエットのお供に人気の品なのだ。
考えるのを止めるほどの絶望を元としたこの葉は実に深みのある良い味へとなった、そろそろ収穫時だろう。
数も多いし、せっかくなので友人にもおすそ分けする事にした、たしか友人のれいむとれみりゃが子を産んだはずだ、祝いには調度良い。
そう決めると私は蔦ごとまりさから『ゆーくりの葉』を引き抜き、不要となったまりさを燃えるゴミの袋に放り入れ、玄関へと向かった。
【あとがき】
絵でゆっくりを鉢植えに入れて育ててる絵を見て、なんとなく自分も育ててみたくなったので書いてみた。
主人公視点なのにまりさの心の声が書かれてたりと変な所が多いのは自分の実力不足です、もしわけない。
このような作品を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
【書いた作品】
ゆっくり出来ない時代
最終更新:2009年04月28日 11:10