- 多数の設定をお借り
- 俺設定
- すっきり注意
- 現実世界にてゆっくり
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『ゆっくりは死んだ』
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「ゆっくりしたい子集まれ~!」
と山で叫んでみた。
目的は『ゆっくり』を見つけるためだ。
ゆっくりは[ゆっくり]というキーワードに弱い。
このように叫べばたいていは来る。
山で叫んだのにもわけがある。
たいていの街のゆっくりは街に毒されてもはや『ゆっくり』とは言えない、
ただの薄汚い饅頭に成り下がっているからである。
そんな奴らにゆっくりさせる趣味はない。
「ゆゆ?おにいさんはゆっくりできるひとなの?」
「れいむゆっくりしたいよ!!」
「ゆっちゅり!ゆっちゅり!」
ほら、もうゆっくりたちが集まってきた。
「あまあまがあればゆっくりできるんだぜ!」
「まりさにきいたよ!にんげんさんはゆっくりのためにあまあまをもってきてくれるって!」
「さあはやくとかいはのありすにあまあまをもってきなさい!」
「「「あーまあま!あーまあま!」」」
あまあまがゆっくりできる存在と知っている。
ということは子供あたりに飯を要求して飴玉でも何かもらったのだろうか。
だがこんな中にも『ゆっくり』はいるはず。
えーと、集まったのは1、2、3、
「おにいさんゆっくりしないではやくあまあまもってきてね!」
「はやくもってこないとたいへんなことになるんだぜ!」
「ありすをまたせるなんてとかいはじゃないわ!」
「あまあまたべちゃいよ!」
「「「あーまあま!あーまあま!」」」
数えている最中にもお構いなしにぬるぬる動くゆっくり達。
そんな時のためにシールを持ってきておいた。
これなら確実に集計できる。
ようやく数え終わった。
成体が・・・れいむ15匹、まりさ26匹、ありす8匹。
幼体が・・・れいむ24匹、まりさ28匹、ありす13匹。
赤ちゃんが・・・れいむ40匹、まりさ43匹、ありす20匹か。
興味深いのはありす種の多さ。
ありすにはレイパーが多いと聞くが。これらは性欲を「とかいは」精神とかで抑えでもいるのか?
とにかく、これで材料は揃った。
「ゆっくりしたい子はこの箱の中に入ってくださ~い」
「「「ゆっくりはいるよ!!!」」」
やはりゆっくりできるということには積極的だな。
声をそろえてどんどん箱の中に入っていく。
「さぁ、ゆっくりプレイスにしゅっぱーつ!」
「「「しゅっぱーつ!!!」」」
これだけのゆっくりが入った箱は相当重い。
鍛えててよかった。
「ゆべっ!」
「ゆっくりおさないでよ!」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛」
「あがぢゃんがづぶれぢゃう゛う゛う゛う゛ぅぅぅ!!!」
持っていく最中に声が聞こえるが気にしない。
こうして計217匹のゆっくりが、
お兄さん宅のドームのような形の大きな庭まで連れてこられた。
一面自然の芝で埋めつくされて青臭いにおいをプンプンさせている。
「ゆっくりプレイスに到着だよー」
と箱の口を開けた瞬間
「「「「ゆっくりとうちゃくしたよ!!」」」」
大量のゆっくりがすし詰めの環境から逃れるように、
次々と外へと吐き出されていく。
庭の緑があっという間に肌色に染まっていく。
「ゆっくりできそうなところだね!」
「おもったよりせまいがゆっくりしてやるぜ!」
「ここがゆっくりプレイスね。ちょっといなかくさいけどがまんしてあげる!」
「「「ゆっちゅりー!」」」
箱の底を見てみると赤ちゃんゆっくりがいくらか潰れていた。
髪飾りの数から推定すると、
赤れいむが17匹、赤まりさが23匹、赤ありすが8匹。
ゆっくりは3よりも大きな数を数えられないと聞く。
そういう細かいことを気にしないゆっくりはやはりいい。
私は『ゆっくり』が大好きだ。
だから『ゆっくり』をゆっくりプレイスに連れてきた。
彼らには極限までゆっくりらしくさせてやりたい。
だがそのゆっくりのなかに『ゆっくり』でないゆっくりが混じっている。
私は『ゆっくり』ではないゆっくりは大嫌いだ。
言うなら彼らはゆっくりの皮を被った悪魔だ。
見つけ次第すぐさま駆逐したい。
「ゆっくりのみんな!ここは『ゆっくり』のゆっくりプレイスなんだ!
ゆっくりじゃないゆっくりはゆっくりできません!」
「ゆゆ?おにいさんれいむはゆっくりだよ?」
「そんなこともわからないなんておにいさんはばかなんだぜ!」
「これだかいなかものはこまるわ!!」
「「「「ゆっちゅりはゆっちゅりだよ!!」」」」
「じゃあゆっくりならちゃんと出来ることがあるよね?」
「せーの、ゆっくりしていってね!!」
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
「「「ゆっちゅりしていってね!!」」」
計169匹のゆっくりが声をそろえて叫んだ。
この段階ではまだ誰がゆっくりかそうでないかはわからない。
悪魔はずる賢い。
「ゆっくりしていってね!!」と言っておけば、
『ゆっくり』として認識されると思っている。
「おうたをうたうよ!」
「「「ゆ~ゆゆゆ♪ゆっくり~♪」」」
「「「「ゆっちゅり~ゆゆゆゆっちゅり~♪」」」」
おお、貴重なゆっくりの合唱シーン!
この音の外れた感覚がたまらない。
経験ではそろそろバカな悪魔の化けの皮が剥がれる時間である。
ここからが本番だ。
「ゆゆ?れいむおなかがすいてきたよ!はやくあまあまをちょうだいね!」
「まりささまにはやくあまあまをよこすんだぜ!!」
「とかいはのれでぃをまたせるなんていなかもののすることよ!
はやくあまあまもってきなさい!」
「「「「はやくちょうらいね!!」」」」
『ゆっくり』の条件その一
「『ゆっくり』はその対極に当たる『はやく』とかは一切口に出したりはしないッ!」
そう叫びながら正体を現した悪魔らを思いっきり潰す。
「ゆがっ!」
「ゆぶっ!」
「ゆべっ!」
『ゆっくり』はゆっくりしているから『ゆっくり』である。
それとは正反対の「はやい」「はやく」などの言葉は真の『ゆっくり』なら使わない。
今踏みつぶされたのは偽の『ゆっくり』、すなわち悪魔。
靴の底には餡子とカスタードクリームが混じったものがこびりついているが。
もちろんこれはゆっくりに似た悪魔の肉片だ、なんと醜い。
最初から「はやく」を使うような悪魔も多いが。
中には元から危険が多い所に住んでいて日常的に「はやく」を使わざるを得なかったゆっくりや、
最近危険なものが多くなってきたので「はやく」と叫んでないとゆっくりできなかったゆっくりもいるだろう。
しかしゆっくりを忘れてしまっていたゆっくりはすでにゆっくりではなく、
悪魔に魂を売ったただの気持ち悪い饅頭である。
「ゆっくり」という神から授かった祝詞を捨てて、
「はやく」とかいう汚れた悪魔の言葉を使うような
そんな汚らわしき饅頭は真っ先に潰れるのがお似合いだ。
「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「どお゛お゛お゛じでぞんなごどをずるのお゛お゛お゛お゛??」
「あがぢゃんをがえぜえ゛え゛ぇぇ!あがぢゃんをがえぜえ゛え゛ぇぇ!」
「ごんな゛のどがいばじゃないばあ゛わ゛わ゛わ゛わ゛!!!」
「ゆっぐりでぎないおにいざんばゆっぐりじねええ゛え゛え゛!!」
「「「ゆびぇーん!!ゆびぇーん!!」」」
「ここは『ゆっくり』のゆっくりプレイスなんだ。
さっき潰したのはゆっくりじゃないゆっくりだったんだよ」
「うぞをいう゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」
「『はやく』とか言っているのはゆっくりじゃないんだ、ゆっくり理解してね!」
「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「もうおうぢがえるう゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!」
目の前で同族(に似ているもの)が殺されたのだ、錯乱するのも無理はないだろう。
だが、あれは『ゆっくり』であって『ゆっくり』でない。
きっと本物の『ゆっくり』はゆっくりと気づいてくれているハズだ。
「みんな~!ご飯の時間ですよ~!」
「ゆゆ?ごはん?」
「ごはんだぜ!」
「とかいははゆっくりまってたわよ!」
「「「ごーはーん!ごーはーん!」」」
ご飯と聞いて目の色が変わったゆっくりたち。
残ったゆっくり達にそれぞれの体に応じたゆっくりフード(自然風味)を振舞う。
みんな行儀良く待ってくれている。
先ほどの光景を見てまだ「はやくもってこい」なんて言うのは、
恐ろしく頭の弱い悪魔だ、さすがにそこまでバカじゃない。
「さぁ、みんなでいただきまーす!」
「「「「ゆっくりいただきまーす!!」」」」」
「「「ゆっちゅりいただきまーす!!」」」
「むーしゃ♪むーしゃ♪しあわせー」
「はむっ、まじうめぇ!ぱねぇ!」
「むーちゃ♪むーちゃ♪ちあわちぇ~♪」
ゆっくりは自らの行動を擬音で表現する癖がある。
あぁ、なんてかわいらしい声なんだろう・・・。
「ゆ?おきゃあちゃん!もうごはんなくなっちゃったよ!
もっちょちあわちぇーちたい!」
「まりしゃこれだけじゃたりないんだじぇ!」
「ときゃいはのれでぃはこれくりゃいじゃまんぞくしにゃいわ!」
「れいむもまだたべたいよ!」
「もっとまじうめぇ!したいんだぜ!」
「とかいはのありすはまだたべれるわ!」
もちろんお兄さんはご飯の量を減らしたりはしていない。
次のご飯までゆっくり過ごせるだけの量を与えたつもりなのだが。
「おにいさん!もっとごはんをもってきてね!!!」
「だぜ!!」
「のよ!!」
「なんだ、もう無くなっちゃったのか、もうお腹いっぱいだろ?」
「「「どおしてそんなこというのおおおお??」」」
「もっとごはんあるんでしょ?もってきてよ!!」
「いじわるなおにいさんはゆっくりできないんだぜ!!」
「もっともってくるのがとかいはのまなーでしょ!!」
「あとあまあまももってきてね!」
『ゆっくり』の条件その二
「『ゆっくり』はご飯を必要以上に食べない!」
「ゆぼっ!」
「ゆばっ!」
「ゆぎっ!」
今度はご飯を要求するゆっくりとは似て非なるものを片っ端から袋に詰める。
「なにするの?ゆっくりおろしてね!」
「おちょらをとんでりゅみちゃい!」
それをそのまま火にくべる。
「あづいのはゆっぐりでぎな゛い゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!!」
「ゆやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!あ゛んよが!あ゛んよが!」
「どがいばのべあ゛ーがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!」
「「「ゆう゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」」」
『ゆっくり』は今日をゆっくりして『ゆっくり』である。
飯をがっついて明日に備えるような『ゆっくり』は『ゆっくり』でない。
そもそもゆっくりする、そのゆっくりの過程の中で未来などは考えられないはずだ。
考えなしに植物や虫を食い尽して山を禿山にした、明日を考えられない良い例である。
今焼かれているのは今日の先を想像できる『ゆっくり』、すなわち悪魔。
基本生物は大量の食べ物にありつけた時、
「次にいつ食べられるかわからない」と自分の許容量を超えての食事を行う。
しかしゆっくりは違う。
『ゆっくり』は今日をゆっくりするのに精いっぱいだから、
「たくさん食べておけば明日何かあってもゆっくりできる」とは考えられない。
そこまで読める『ゆっくり』は何かしら悪魔と契約しているに違いない。
そんな『ゆっくり』は浄化の炎でケシズミにしてしまうに限る。
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛」
「べべべべべべべ」
「あ゛あ゛」
こんがりを通り越してもはや炭と化した偽ゆっくり。
まだ声が聞こえるが痙攣とかその類だろう。
辺りに焦げくさく甘ったるい匂いが広がる。
「ゆべえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇ??!」
「どお゛お゛お゛じでぞんなごどをずるのお゛お゛お゛ぉぉぉ??
ばがなのお゛お゛お゛ぉぉぉ?!じぬのお゛お゛お゛ぉぉぉ?!」
「お゛だがずいでだだげでじょう゛う゛う゛う゛??」
「いながもののぐぜにい゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
「ゆっぐりでぎないぐぞじじい゛ばゆっぐり、いまずぐじねええ゛え゛え゛!!」
「「「ゆびゅゅぇーん!!ゆびゅゅぇーん!!」」」
おや?今「『いますぐ』しね」とか聞こえたな。
「お前もゆっくりじゃなかったか」
「じねええ゛え゛え゛ぐぞじじい゛!!いまずぐじねええ゛え゛え゛!!!」
プチッ!
「死ぬのはお前だ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「さっきも言ったとおりここは『ゆっくり』のゆっくりプレイスなんだ。
さっき燃やされたのはゆっくりじゃないゆっくりだったんだよ」
「うぞづぎい゛い゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!!」
「ご飯を食べ過ぎるゆっくりはゆっくりじゃないんだ、ゆっくり理解してね!」
「いやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「おうぢい゛!!おうぢい゛!!ごごい゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」
「どうした?ゆっくり出来てないぞ?
ゆっくりだったらもっとゆっくりしたらどうだ」
「ゆっぐり゛でぎるわげないでじょお゛お゛お゛お゛ぉぉぉ!!!」
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日も落ちてきたのでゆっくりの数を確認。
残ったのは、
成体が・・・れいむ1匹、まりさ2匹、ありす1匹。
幼体が・・・れいむ10匹、まりさ7匹、ありす4匹。
赤ちゃんが・・・れいむ11匹、まりさ9匹、ありす8匹・・・と。
大人の数が一気に減った。やはり成長していくと心のスキマに何か入り込むのだろうか。
少なくなってきたとはいえ、まだ悪魔が潜んでいる可能性は十分ある。
このままずっと観察したいところだ、あいにく仕事が残っているのを思い出した。
確か明日の夜が納期だったか。
最近ゆっくりに気を取られててすっかり忘れていた。
今から本気でとりかかったら明日の夕方までかかりそうだ。
「じゃ、ご飯ここ置いておくからゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていってね!!」」」
「「ゆっちゅりしていってね!!」」
どんなに辛い時も悲しい時も、
「ゆっくりしていってね」と言われれば「ゆっくりしていってね」と返してくれる。
こんなかわいい生き物のフリをするなんて・・・汚い流石悪魔汚い。
「むーしゃ・・・むーしゃ・・・」
「・・・うめぇ」
あーやっぱりゆっくりの食事風景はいつ見てもいい。
ずっと食事させていたいくらいだが、それではお歌の時間がなくなってしまう。
バランスが大事だと思うんだ。
「じゃ、おやすみ。明日の夕方あたりにでもゆっくりしたお顔を見せて
お兄さんをゆっくりさせてね。」
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お兄さんがおやすみと言った後、「ゆっくり」のゆっくりプレイスと銘打たれたお庭では、
運よく生き残ったゆっくりが、もしかしたら次は自分かもしれない、
と恐怖の涙で芝を濡らしながら夜を過ごしていた。
「う゛っ・・・ぐすん・・・」
「おちびちゃん・・・」
「もっとみんなでゆっくりしたかったよ・・・」
「おうちかえりたい・・・」
どのゆっくりも絶望に暮れている中、一人考え込んでいるまりさがいた。
「ゆ~ん・・・」
ここから脱出するにはどうすれば良いのか。
周りの壁を壊す?
無理だ、相当堅そうでいつものようにはいかない。
では土を掘って外に出る?
これも無理、固い土なので時間がかかりすぎる。
ならば入ってきた扉を壊すのはどうだ?
重そうな扉だがよく見ると少しだけスキマが見える。
体当たりしていけばやがて扉が開くのではないだろうか。
これはやるしかない!
「みんな!とびらさんをあけておうちにかえるんだぜ!!」
こんなゆっくりできない所から脱出したい!
それは誰もが思っている。
ならば話に乗ってくれる!
だが、返ってきたのは予想外の答えだった。
「そんなのはむりだよ・・・」
「どうせあきっこないわ!」
「やるんならまりさだけでやれなんだぜ!」
「どぼじでぞんなごどをいうんだぜえええぇぇぇ??」
意見は速攻で否定された。
このままここにいればあのお兄さんは何かしら因縁をつけて襲ってくる。
まだまりさは死にたくない。
かつて街に降りてその時一目ぼれした美れいむとすっきりするまでは。
「もういいんだぜ!まりささまひとりでこわすんだぜ!!」
近づいてみると扉は予想以上に大きかった。
だが、あの美れいむとすっきりするためにはやるしかない。
「ゆおおおおおおおおおおおおお!」
まりさは思いっきり加速をつけてそびえ立つ扉に体当たり!
ゴーン!
ポスッ
「いだいんだぜぇぇぇ!」
全身全霊を込めた体当たりは扉を動かすことはできなかった。
しかも鉄の扉にぶち当たったので正面より激しい痛みが走る。
「でもぉ、これくらいでたおれるまりささまじゃないんだぜ!」
再び激しく扉にぶつかる。
ゴーン!
ポスッ
「ゆあ゛あ゛あ゛!」
「ふー・・・ふー・・・」
二度目の衝撃を受けて早くも意識が朦朧としているまりさ。
だがあきらめるわけにはいかなかった。
(「まりさかっこいいね!」)
あの美れいむの声が聞こえた気がした。
そんな、ここには芋れいむしかいないのに。
「れいむ!どこにいるんだぜ?ゆっくりでてくるんだぜ!!」
(「がんばって、まりさ!」)
そうだ、これくらいではへばってはいけない。
だってれいむはまりさのことを待っててくれているのだから。
れいむはまりさとのすっきりを待っているのだから。
(「がんばって、まりさ!」)
れいむの声が聞こえてきた。
どこからか見てくれてるの?れいむ、どこにいる?
「れいむのためにぃぃぃ!」
ゴーン!
ポスッ
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
(「まりさとゆっくりしたいな!」)
「れいむうううぅぅぅぅ!」
ゴーン!
ポスッ
「ゆ゛・・・う゛・・・」
(「まりさ、すっきり・・・しよ?」)
(「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛すっきりー!」)
「うがあ゛あ゛あ゛!」
ゴーン!
ポスッ
(「みて、れいむにんっしんしたよ!」)
(「ゆっくりしたあかちゃんだよね?だってまりさとのあかちゃんだもの!」)
「れ゛い゛む゛!」
ゴーン!
ポスッ
(「ゆぎぎぎぎ!あかちゃんがうまれるよ!」)
(「ゆっちゅりしていってね!!」「ゆっくりしていってね!!」)
「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ゴーン!
ポスッ
(「むーしゃ♪むーしゃ♪しあわせー♪」)
(「かぞくでたべるごはんはとってもゆっくりできるね!」)
「の゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
ゴーン!
ポスッ
度重なる体当たりはまりさより意識を奪っていた。
彼を動かすのはどこからか聞こえてくるあのれいむの声。
ゴーン!
ポスッ
「でぼっ!」
ゴーン!
ポスッ
「でぼねっ!」
ゴーン!
ポスッ
「あかちゃんはべつにい゛ら゛な゛い゛よ゛!」
ゴーン!
ポスッ
「れいむとはずっぎりしたいだげな゛ん゛だよ゛!!」
ゴーン!
ポスッ
彼の幻聴は応援、告白、すっきりと徐々に発展していき、
今では子を育てるところまで成長していた。
しかし彼を動かすのは「れいむとすっきりすること」これのみである。
子供なんてとんでもない、作ってしまえばたくさんすっきりできないではないか。
「ずっ゛ぎり゛り゛り゛り゛り゛り゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」
グォォォォーン!
ポスッ ポスッ
「ゆ゛げげげげげげっ!」
「えれえれえれ~~」
まりさの体は限界だ。
鉄の扉にぶつかり続けた顔はもみじのように真っ赤に腫れて、
飾りのぼうしもグッドデザイン賞が期待できるほどにひしゃげて、
使い込んだあんよはおろしをかけたように擦り切れていた。
「ねぇ、まりさ」
そんなまりさを見かねてれいむが声をかけてくれた。
たとえあのれいむとは程遠い芋れいむであっても、この満身創痍な体を気遣ってくれた。
まりさはうれしかった。
「ありがとうれいm」
「うるさくてゆっくりねむれないよ!!」
「へ?」
この状況では寝るしかない、どうしても寝たいというときに、
その導入を妨げる騒音と奇声を生産し続けたまりさ。
一体誰が彼に感謝しているというのだろうか。
その一言で皆の恨みつらみの思いが決壊した。
「ありすはねむいの!すいみんぶそくはとかいはのたいてきだわ!!」
「みんなめいわくしてるんだよ!」
「ゆっくりあやまってね!」
「ゆっくりできないまりさはゆっくりしね!!」
「ごみくずまりさはゆっくりしね!!」
「「ゆっちゅりしね!!」」」
「しね!」「しね!」「しね!」「しね!」「しね!」
そんな、がんばったのに。
一生懸命にがんばったのに。
そんな言い方はない、あってはならない、ない、ありえない、ない、ありえない、
「れいむとすっきりしたい」という固き礎により支えられていたまりさの体でも、
多数のゆっくりの非難の声の前には崩れ落ちるしかなかった。
「がんばっだんだぜ!ばりざ、がんばったんだぜえ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
こう叫んだ後、まりさは倒れた。
「ようやくごみくずまりさがだまったね!」
「これでゆっくりねむれるよ!」
「ごむくずまりさはそこでゆっくりしね!!」
こうしてゆっくり達は「ゆうゆぅ・・・」とゆっくり眠りに落ちていった。
ただ1匹を除いて。
――――――――――――――――――――――――――――――
そして、朝がやってきた。
一番鶏の声が聞こえるか聞こえないかくらいに『ゆっくり』は活動し始める。
なぜなら朝からゆっくりするのがゆっくりという生き物であるからだ。
「ゆっくりおきるよ!」
「とかいはのあさははやいのよ!!」
「ゆっくりおはよう!ゆっくりしていってね!!」
「「ゆっくりしていってね!!」」
「あかちゃんもおきてね!」
「ゆっちゅりおきるよ!」「ゆっちゅりおはよう!」
「ちゃんとできたね!ごほうびにおかあさんがすーりすーりしてあげるよ!」
「すーり♪すーり♪」
「すーり♪すーり♪しあわせー♪」
「きょうもゆっくりしてるね!!」
『ゆっくり』にとって故ゆっくりを悼む具体的な行動、
それは「そのゆっくりの分までゆっくりしてやる」というもの。
一見無神経のようにもとれるが、ゆっくりするということが上位に来ている『ゆっくり』にとって、
それが最高の供養となるのだ。
「おきゃあさん!れいみゅおうちにかえりたい!!」
「まりしゃも!」「ありしゅも!」
「おかあさんここからでてゆっくりしようよ!」
家に帰りたがる赤ちゃんや子供の横で、
大人のゆっくりはこう思っていた。
お家に帰る必要があるのだろうか?
家のある山には虫や草がたくさんあるが、毎日お腹いっぱいむーしゃむーしゃはできない。
危険もいっぱいある。ゆっくりをいじめるのに夢中な人間の子供に、
夜には捕食種であるれみりゃやふらんもいる。
風が吹けば寒いし、雨が降ってくれば冷たくてゆっくりできない。
ここはどうだろう、ご飯はお兄さんがおいしいものを持ってきてくれる。
また、子供もれみりゃもいない。風は来ないし雨は屋根があるので降ってこない。
ここはどう考えても今までいた山よりずっと安全だ。
ならばやることは一つしかない。
「じゃあきょうからここをみんなのおうちにしよう!」
「それはゆっくりしたかんがえだね!さんせいだよ!」
「さんせーい!!」「さんちぇーい!!」
「せーの」
「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」
『ゆっくり』の代表的な特徴と言える
お家宣言。
ゆっくりできそうな所で「ゆっくりしていってね」と叫ぶ。
その時点で反対がなければ、
そこは自動的に「ゆっくりプレイス」すなわちお家として正式に認められる、というものである。
もちろん人間にとっては迷惑な話だ。
なにせちょっと家を空けていただけで、そこが「ゆっくりプレイス」となってしまうのだから。
ゆっくりはそのルールが人間にも適用されると思っている。
なので、勝手に家に上がりこんだ人間に制裁の意味合いでご飯を要求するのだ。
これが原因で各地のゆっくり反対派の数はうなぎのぼりであった。
今回の場合、お兄さんは別室で仕事中なのでそれに異論を唱えることはできない。
「・・・かえってこないね」
「やった!!」
「「「「ここはみんなのゆっくりプレイスにするよ!!」」」」
「よろこびのおうたをうたうよ!!」
「「「「ゆ~♪ゆゆゆゆゆ~♪ゆっくり~♪」」」」」
かくしてお兄さんのお庭はゆっくりたちの「ゆっくりプレイス」となった。
――――――――――――――――――――――――――――――
昼ごろ、お兄さんは仕事をしながら悩んでいた。
仕事を片付けている最中でもゆっくりのことが忘れられない、
純粋なゆっくりの中に悪魔が潜んでいるなんて一時も気が休まらない、
あの庭が今も悪魔に蹂躙されているなんて腸が煮えくりかえる思いだ。
ああ、様子を見に行きたい、でも仕事が・・・。
そういえばゆっくりたちにご飯をあげるのを忘れていたような・・・?
まずい、仕事してる場合じゃない!
ようやく様子を見に行くための口実ができたお兄さんは庭に走った。
――――――――――――――――――――――――――――――
ガラガラガラ!
「やぁ!みんなご飯の時間だ・・・よ」
庭についたお兄さんはそこまで言って固まった。
理由は、庭で繰り広げられている光景、
「すーり♪すーり♪」
「ちあわちぇー♪」
「みんなとってもゆっくりしてるね!」
れいむ種は赤ちゃんとの愛情を確かめるかのようなすりすりを、
「たかいたかいだぜ!」
「おちょらをとんじぇるみちゃーい!」
「つぎはまりさのばんだじぇ!」
まりさ種は大人が赤ちゃんを帽子のへりに乗せてたかいたかいを、
「とかいはのごくいをおしえてあげるわ!」
「「ゆっちゅりー!」」
「これがとかいはのはねかたよ!」
ありす種は赤ちゃんに「とかいは」についての授業をして、
「まてまてー!」
「おそいんだぜー!」
「とかいはのおいあげをみなさい!」
その近くで子れいむ、子まりさ、子ありすらが追いかけっこを楽しんでいた。
「ゆー♪ゆー♪」
「ゆっくりしてるね!」
その光景は周りをもゆっくりさせる。
この光景を私は待っていた!
これこそが『ゆっくり』!真実の姿!!
ごめんなゆっくりたち。
こんなにいいゆっくりに悪魔なんているわけがない。
もう悪魔は全部排除してたんだな、疑ってしまってすまなかった。
お詫びと言っちゃなんだけど、ご飯をゆっくり食べてくれよ。
「やぁ!みん・」
「ゆゆ?ここはれいむたちのゆっくりプレイスだよ!」
「ばかなにんげんはまりさたちにごはんをおいてゆっくりでていくんだぜ!」
「ここにいなかもののいばしょはないわ!!」
「ゆっちゅりでちぇいけー!」
一瞬理解できなかった。
「え?何を言ってるんだい?」
「ゆっくりプレイスにばかなにんげんははいってこないでね!」
「いっかいでりかいできないの?ばかなの?しぬの?」
「ここはれいむたちのゆっくりプレイスだよ!!」
「まりささまはかんだいだからあまあまでゆるしてやるぜ!」
「おお、いなかものくさいいなかものくさい」
「いにゃかものはでちぇいきぇー!」
頬をつねる、痛い。
先ほどのゆっくりした光景はどうしたんだ。
「何を・・・」
「なんでごはんをもってこないの?ぐずなの?のろまなの?」
「このままじゃゆっくりできないよ!!」
「まりささまのいかりはうちょうてんだぜ!
あまあまをたくさんもってこないといたいめにあうぜ?」
「いなかものにもわかるようにとかいはのありすがゆっくりおしえてあげる!
ばかなにんげんはゆっくりたちをゆっくりさせる『ぎむ』があるの!」
「ゆっくりさせてくれればありすのどれいにしてあげるわ!ゆっくりかんしゃしなさい!!」
罵倒の中さりげなく聞き捨てならない発言があった。
ゆっくりさせる「義務」だと・・・?
「おい、ありす今なんて言った?」
「もう!いなかものっておろかね!
ばかなにんげんはゆっくりにゆっくりさせる『ぎむ』があるの!!」
聞き間違えではなかった。
ならばこれだけは聞いておかなければならない。
「一つだけ質問いいか?」
「あまあまついかだぜ!」
「お前たちは『ゆっくりすること』と『ゆっくりさせること』どっちが大切に思う?」
「なにあたりまえなこときいてるの?れいむが『ゆっくりすること』にきまってるでしょ!!」
「じょうだんはかおだけにするんだぜ!ゆきゃきゃきゃ!!」
「そのはっそうじたいがいなかものだわ!『ゆっくりすること』こそとかいはよ!!」
先ほどの光景のように、他のゆっくりを『ゆっくりさせる』ことを目標とした場合、
これによって、自身も『ゆっくりする』ことができれば、
どちらもゆっくりを享受できる素敵な関係を作ることが可能である。
しかし、自分を『ゆっくりする』ことを強調した場合。
これは最終的に自身が『ゆっくりすれ』ばよいということであり、
その過程で他のゆっくりを奪うことに繋がる可能性を持っている。
真のゆっくりだったら最大多数の最大幸福を得られる前者を選ぶだろう。
そして自分さえよければいいという後者を選ぶのは・・・悪魔だ。
『ゆっくり』の条件その三
「『ゆっくり』は他者のゆっくりを何よりも尊重するッ!」
「そんなことはいいからごはんをもってふげばあ゛!!!」
ようやく正体を現した悪魔めに手近にあった人間ほどの大きさの木の杭で刺し潰す。
一撃だった。悪魔に杭は効果的という話は本当のようだ。
「おがあざんになんでごどずるの゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
「みゃみゃあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「もうかんだいなまりささまでもゆるさないんだぜ!
れいむをころしたことをあのよでゆっくりこうかいするんだぜ!!」
とまりさが飛びかかって来た。だがゆっくりの皮をかぶった悪魔の攻撃は蚊に刺されるくらい痛くない。
むしろ蚊の方が後でかゆみが襲ってくるのでそちらの方が厄介である。
ドスッ!
「ゆべっ!!」
「なかなかやるんだぜぇ・・・」
「だがつぎでおわらしてやるんだぜ!!」
自分で攻撃しておいて勝手に傷つくなんて、おろかおろか。
再び向かってくるまりさの進路に護身用に持ち歩いている銀製のナイフを出した。
「これでおわりなんだzゆげごばっ゛!」
またもや勝手に突撃してダメージを受けるまりさ。
だが今回は少しばかり手助けをしてやった。
「いだいんだぜえ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
「おとーざんじっがりじでえ゛え゛!!」
痛みから逃げるかのように辺りを転がりまりさを捕まえて、
今度は思いっきりナイフの洗礼を与える。
グサッ!
「ばりざのあんよ゛が!!」
グサッ!
「ばえがびえないんだぜえ゛え゛!!」
グサッ!
「むーっ!むーっ!」
グサグサグサグサグサ
「む゛む゛む゛む゛む゛」
次に頭部の皮だけを剥いて餡子を露出、
「む゛ーむ゛ー!!」
それに銀のナイフを突き刺しこねくり回す。
「む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」
ふぅ、浄化完了。
じゃあ次はお前だ、偽ありす。
「よよよよらないでよ!いなかもの!!」
やっぱり最後は火あぶりの刑だな。
庭に置いてあった木の棒を二つ手に取りそれらを交差させて十字架を作り、偽ありすをロープで固定する。
「ほどきなさい!いますぐほどきなさいいいぃぃぃ!!」
藁の束を置いている所に十字架を立てて火を放つ。
「やべでえ゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
藁から立ち上る炎はゆっくりとありすを焼いていく。
「あづい゛い゛い゛い゛い゛!!」
「どがいはのがみざんがあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!」
ゆっくりと焼いていく。
「ゆぼぼぼぼぼぼお゛お゛お゛お゛お゛お゛」
悪魔の子は悪魔というのが通例なので赤ちゃんと子供も処理しなければならない。
よく考えれば不幸なものだ、子は親を選ぶことができない。
残った赤ちゃんと子供を用意した水槽に入れていく。
「おそらをとんでるみたいー!」
「つぎはまりしゃのばんね!」
そのまま水槽に聖水の代わりのエタノールを流し込む。
「ゆ?みずしゃん!ゆっちゅりしていってね!!」
「おにいさんこれくさいよ!ゆっくりここからだしてね!!」
せめて、現世で体を清めて次はちゃんとした『ゆっくり』に生まれますように。
「(げぼっ!)ごご(げぼっ!)ゆっぐりでぎない゛い゛い゛!!」
「みずじゃんゆっぢゅりじでよぉぉ!」
「ぎぼぢばるい゛い゛い゛!!!」
聖水が口のところまで迫ってきた。
「んゆ~ れいみゅなんだきゃぽきゃぽきゃつるよ~」
「まりしゃ~きみょちいいぃぃ~」
「ありしゅ~ときゃいは~」
「ん~ほ~」
「さいこ~だぜ~」
「みょ~ふ~」
「すーりすーりしよ~」
「とけちぇくみちゃい~」
「ゆほ~」
聖水が徐々に体に染み込むにつれ精神が壊れていく。
これからしばらくすると、溶け出して餡子がぬけてしまうか、手にすっきりをし出して自滅する。
結果がわかっている以上もう見る必要はない。
水槽にゆっくり蓋をした。
「じゃあ残っているみんなはゆっくりできるよね!」
返事はなかった。
全部殺してしまったからだ。
つまり公園で捕まえたゆっくり全部が悪魔だった。
あれだけいれば一匹くらい『ゆっくり』がいると思ったのに。
『ゆっくり』、他人をゆっくりさせて自分がゆっくりし、それ以上は望まない。
10年くらい前の本にそう書いてあった。
自分は、今日も『ゆっくり』は『ゆっくり』なのか確かめたくて捕獲し、審判した。
結果次世代の彼らは、原始に持っていたハズの、ゆっくりさせることでゆっくりする過程を取り除いて、
単純に自分がゆっくりすることを重点に置いていることがわかった。
これは『ゆっくり』が進化したことに他ならない。
『ゆっくり』はすでに完成していて、これ以上何もいじるところはない素晴らしい生き物だ。
少なくとも私はそう思っている。
だから自分は進化を否定したかった。
だから原始の倫理を捨て去った『ゆっくり』を悪魔として処刑し続けた。
餡子とクリームが飛び散っている庭を眺める、これで5回目になる。
これだけ実験を繰り返しても気高き精神を今なお保持している新世代のゆっくりはいなかった。
今までは中に真ゆっくりがいると思っていたので、
むしゃむしゃもすりすりもおうたもゆっくりのする行動すべてが心をゆっくりさせてくれた。
だがそれらの中に真はいないと分かった今、
悪魔の行動を逐一観察しなければならない実験は自分にとって苦痛に他ならない。
この実験ももう終わりにしよう。
そう思った時だ。
「ゆ゛・・・」
ゆっくりの声が聞こえた。
おかしい、全員処刑してしまったのになぜゆっくりの声が聞こえる。
悪魔を取り逃してしまったのか、それとも?
「ゆ゛・・・う゛・・・」
声の方向を見ると顔面が真っ赤に腫れてゆうゆう呻いているまりさがいた。
悪魔は確実に消した。まだ生きているということは神に救われたのか?
それを確認すべく声をかけてみた。
「まりさ、おまえは『ゆっくり』か?」
「ゆ・・・ゆ・・・」
「まりさ、お前は『ゆっくりすること』と『ゆっくりさせること』どっちが大事だ?」
「・・・む・・・・・・り・・・」
「いっしょに・・・・っ・り・・・たい」
「れいむ・・・ゆっ・り・・・して・・・」
まりさはれいむにゆっくりしてほしい、そして自分もゆっくりしたい。
これだけ聞き出せれば十分判断できる。
「そうか、お前は『ゆっくり』だったか」
この傷はきっと悪魔どもに負わされた傷だろう。
このまま放っておけば死んでしまう。
オレンジジュースを持ってきてまりさにかけた。
餡子という甘味でできている体にとってオレンジジュースとは万能薬に等しい。
たちまち傷が塞がっていった。
意識が戻らないのはまだ芯まで染み込んでないからか。
このまりさをどうしようか。
未だに昔の心を持っている『ゆっくり』は是非とも手元に置いておきたい。
だが、それをしてしまうと『ゆっくり』が1匹減ってしまうことになる。
このまま逃がしてやろうか。素晴らしい思想は自然と広まるものだ。
心を悪魔に懐柔されてしまったゆっくりを救うことができるのでは?
確実に1匹を残すか、未来に2匹以上になるのを期待するか。
「『ゆっくり』はゆっくりさせてゆっくりを得る」
大切なことを忘れていた、ならば選択の余地はない。
私はまりさを山に戻しに行った。
いつかこの地に昔の『ゆっくり』があふれますようにの願いを込めて。
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次の日の朝
「ゆぴーすっきり・・・」
まりさは夢を見ていた。
あの美れいむとすっきりをし続ける夢。
肌をこすりつけるたびにしっとりとした餅肌がまりさの心を虜にする。
すっきり汁も他のゆっくりと違いまるでハチミツのようで、
絶頂の瞬間なんて体の中がヴォルケイノ!その気持ちよさは格別だった。
ずっとこのままでいいや・・・。
しかし止まない雨がないように覚めない夢もない。
「ん・・・」
目を開けると木や花があった、つくりものでない自然の環境があった。
見覚えのある風景はまりさにここは連れてこられる前の山であることを伝えていた。
自分は脱出できたのだ!あの人間に勝ったのだ!
「にんげんなんてちょろいもんだぜ!」
勝利の雄叫びをあげた所で、
「れいむ!すっきりのつづきをやるんだぜ!とっととまりささまにごほうしするんだぜ!!」
返事はない。夢の相手とは現実ですっきりはできない。
「もっとすっきりしたかったんだぜ・・・」
不意にまりさに電撃が走った。
終わってしまったなら続ければいい。
現実にもあのれいむはいるのだから。
「そうだぜ!いまからあのれいむにあいにいってつづきをたのしむんだぜ!!ゆっへっへっへ」
まりさは急いで山を降りて、以前あの美れいむを見た路地に向かった。
(「れいむ、まりささまをもっともっとすっきりさせるんだぜ!」)
そしてすぐ来た、あのれいむだ。
自分を一目ぼれさせて、自分を応援してくれて、自分の夢で何回もすっきりしてくれたれいむが目の前にいる!
「れいむ!まりささまとすっきりのつづきをやるんだぜ!!」
「ゆ?おにいさん!きたないまりさがこっちにくるよ!!」
「あのまりさ『すっきのつづじをするんだぜ!』とか言ってるけどお前あいつに覚えあるか?
「ぜんぜんないよ!おにいさんのおててですっきりしちゃったから、
ほかのゆっくりとすっきりなんてきもちわるくてできないよ!」
「そうか、なら潰しちゃっていいか?目障りだし」
「れいむもこれいじょうみたくないからはやくつぶしてね!!」
「すっきりするんだzぶげぼばっ!」
れいむの前に飛び出した瞬間、
まりさはれいむの飼い主によって踏みつぶされて、中身も飛び出した。
(「もっと・・・すっきりしたかったんだぜ・・・」)
まりさの意識も飛び出した。
「全く気持ち悪いまりさだったな」
「そうだね!きたないまりさはえいえんにゆっくりしててね!」
終
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補足
すっきりまりさがお兄さんトラップに引っ掛からなかったのは、
ずっと美れいむの妄想をしていたから。
意識がない状態で「ゆっくり」といっていたのはお兄さんの聞き違いで
実際は「すっきり」って言っている。
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最終更新:2009年05月18日 13:48