ゆっくりいじめ系2659 ゆっくりしてほしい

※ぬるいです
※読みづらいと思われます










 さらさらと流れる小川で胡坐をかいて釣りをしている男がいた。春の陽気にあてられたのか、首がかくんかくんと舟をこいでいた。徐々に竿を持つ手の力が抜けてきて
先端が川に浸かってしまった。それでも男は目を覚まさなかった。

「ゆっくりしていってね!」

 その声ではっとなって目を覚ました男は竿を引き上げて針につけていた餌がなくなったことを確認した。針の先に餌ダンゴを取り付けていた男は
さっき声が聞こえたことを思い出して後ろに首を回した。
 するとそこにいたのは黒い山高帽を被り、黄色い毛を生やし、子供の落書きのような顔をした丸っこい何かだった。人とも動物とも思えないそれと
関わるのは面倒と思った男は無視をして釣りを続けることにした。
 黒くて丸い何かは男に無視されたことによほどご立腹なのか、男の近くで「ゆっくりしていってね!」と鳴きながら跳ね回っていた。それでも男は無視を続けた。
諦めたのか、その黒いのは跳ね回ることをやめてぴたっと止まった。そのままどこかへ行ってくれ、と男は願ったがその黒いのはどうやら釣った魚を入れた網に
興味が移っただけのようだ。川岸に小石で固定してある狭い網の中を泳いでいる魚に目を引かれ興味津々に近づいていった。網の重り代わりにしてある石を動かされて
釣った魚に逃げられたらたまらないと思った男は、黒いのを手で追い払った。その手から逃げて一旦距離をとった黒いのはそれでもどこかへ行かなかった。

ゆっくりしていってよー!」

 その後も近づいては追い返されを繰り返していたが、業を煮やした男が払いのけるように黒い帽子を叩いた。帽子が後ろの方に飛んで行った黒いのは
驚いて帽子をすばやく回収して被りなおした後、男の方を見てあたりを跳ね回った。

「ゆっくりしていってよー!ゆっくりしていってよー!」

 こんな大声を出されては魚に逃げられてしまうと男は黒いのを掴んで投げてしまおうと考えた。釣り針を引き上げ、竿を地面においてその丸い顔の両脇を掴んだ。
だが投げなかった、あまりにも触り心地がよかったからだ。男はしばらくその頬の感触を堪能した。頬をこねくり回したり、強く押してみたり、
表情が変わる様子を見て楽しんだりした。

「ゆっぐっ…ゆっくりぃ…ゆぅ…ゆっゆっ…」

 男はひとしきり遊んだ後、閃いた。黒いのを草が生えている場所に置き、その上に自分の頭を置いた。枕にちょうどいいと考えたのだ。黒いのは逃げようと
躍起になって暴れていたが疲れたのかしばらくするとおとなしくなった。先ほどの眠さも相まってすぐに男は眠りに落ちた。

「ゆぐぐぐぐ…ゆっぐり゛ぃ…ゆっゆゆゆゆゆ…ゆっ!」

 何度かもぞもぞと動き、やっとのことで男から離れることのできた「まりさ」は一度も振り返ることなく、急いで逃げ出した。が、途中で帽子が脱げて
その度に拾いに戻ることを何度か繰り返した。
 男は結局、日が暮れるまでそこで昼寝し続けた。










 木漏れ日で明るく照らされた林道を額や首に浮き出た汗をふき取りながら歩く女がいた。久しぶりに両親に会いに行った帰りだった。本当は孫の顔を
見せたかったが幼子には長い道中、しかも夏の日差しで体調を崩しかねない。よって子供を夫に預けて一人だけで里帰りをしてきたのだ。この林道を抜ければ
家はもうすぐなので我知らず歩みが速まり、頭の中は目に入れても痛くないほど愛しいわが子のことでいっぱいだった。

「ゆっくりしていってね!」

 急に声をかけられ歩みを止めた女は足元から声がしたような木がしたが周りに人の姿は見えない。気のせいか、とまた歩き始めると

「ゆっくりしていってね!」

 また声がした。声のする方を見るとお地蔵様が立っていた。まさかお地蔵様が?とじっと見つめた。

「ゆっくりしていってね!」

 地蔵からではなかった。さらに下の方から声がした。そこには黒い髪を生やしてその後ろ髪を紅白の大きなリボンで飾り付けている奇妙なものがいた。
何がそんなに誇らしいのか眉を逆ハの字にして見上げている。それはまるでお供え物の饅頭のようにお地蔵様の前に鎮座していた。

「ゆっくりしていってね!」

 また鳴いた。これが鳴き声なのだろうか、ためしに女は鳴きまね、といってもほとんど人間の言葉だがゆっくりしていってね!と言った。

「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」

 返されたのがそんなに嬉しいのか、跳ねながら何度もそれは鳴いた。
 これには女はうっかりときめいた。彼女はとかく、猫や子犬など愛くるしい生き物が好きだった。この不可解な饅頭もどきも可愛いと感じてしまった。
撫でてみたいと思ってしまったら既に手はそれの上に伸びていた。手を警戒しているようだが逃げ出す気配はない。女はその場でかがみこんでそれの髪に手をやり、
撫で始めた。

「ゆぅ…ゆっくりしていってね」

 撫でられる感触を楽しむように目を閉じて喜んでいるように見える。辛抱ならなくなった彼女は撫でていた手を放し、抱えてひざの上に置いた。手が離れたことを
不思議に思ったがその饅頭もどきは宙に体が浮く感覚を楽しんでいる様子だった。さらに輝くような笑顔を見せるそれの頬をつまんでみた。予想をはるかに超越した
そのやわらかさと滑らかさに心奪われてしまった女はさらにぐにぐにと引っ張った。

「ゆっくひぃゆっくりひぃっゆっく…ゆっぐり゛ぃ゛!ゆっぐり゛い゛!」

 つい力が入りすぎたか、それは泣き出してしまった。あわてて女は謝りながら頬をさする。

「ゆっくりっ…ゆっくり……ゆっくりしていってよ!」

 次第に泣き止んだそれは頬を膨らませて怒っているような態度をとった。その後、女のひざから飛び降りたそれは地蔵の方角、林の中へと跳ねていった。
女はお持ち帰りしたかったなと考えていた。紅白の饅頭「れいむ」は女を一瞥したあと林の中へと去っていった。










 落ち葉降り積もる森の中で一人の少年が木を見上げて木の枝を振っていた。その木にはたくさんの木の実がなっていた。それが取りたくて棒で取ろうと考えたのだが
少年の背丈ではぜんぜん届かなかった。手に持っている木の枝より長いものは見当たらない。ならばと今度は木を揺らしてみることにした。木を思いっきり蹴ってみて
揺らしても実は落ちてこなかった。次に少年は助走をつけて全体重を乗せて体当たりしてみた。今度こそ木は大きく揺れた。肩の痛みに顔をしかめつつ、
少年は見上げた。が、視界いっぱいに広がる何かが降ってきた。避けることもままならずに少年は何かが顔に当たった衝撃で後ろに倒れこんだ。
 顔面の痛みで泣きそうになるのを必死でこらえていた少年はにじむ世界の中、降ってきた何かが目にとまった。それを拾い上げた少年の心は痛みで泣きそうに
なったことや、それに対する怒りよりも、これは一体なんなのかという興味が勝った。
 それは桃色のよくわからないものがくっついていて、青い毛が生えており、一部が皮膜のようなもので覆われていて、全体的に柔らかかった。これはなんだろう、
誰かが木の上においていったのだろうか?少年は尽きることを知らない疑問でわくわくしながら皮膜がはがれることに気付いた。どきどきしながらはがしていくと
手に持っていた何かがぴくっと反応した。次の瞬間には皮膜が勢いよくはがれ、なかから笑い顔をして牙を覗かせる何かの顔を見ることができた。

「うー♪」

 楽しそうに鳴くそれを見て、少年はますますわけがわからなくなった。皮膜のようなそれは羽で蝙蝠のものに良く似ているが、蝙蝠はこんな変な顔をしていない。
あれこれ考えているうちにそれは両脇に生えた小さな羽でパタパタと飛び始めた。まさか飛ぶとは思わなかった少年は度肝を抜かれ、口を開けながら見上げていた。

「ぎゃおー♪」

 ある程度高くまで飛び上がるとそれは少年に向かってきた。先ほどの顔の痛みを思い出した少年はさっと避けた。と言ってもそれは蝶にも劣る速度で飛んでいた。
あっさりと避けられたそれは勢い余って地面に突っ込んでいった。落ち葉の上をずざざと滑りながらそれは止まった。

「うー!うー!」

 なんとも情けない声で泣きはじめたそれを少年は後ろから上と下を挟むようにして掴みあげた。羽を大きく羽ばたかせ、あらん限りの力で暴れたが少年も
放してなるものかと対抗していたが、腕を大きく振り回されていた。

「うー!!うー!!うー!!うー♪…うっ?」

 やっとのことで少年の手から逃れたそれは頭の上にあったはずのものがないことに気付いた。一方、少年は手の中に残った桃色の何かを眺めていた。
取れるとは露とも思わなかった、それにこれは何か布切れっぽい感触がするな、と考えていた少年はまたこちらに向かってくるそれを避けた。
 先ほどのような満面の笑みはなく、あわてている様子だった。しばらく避けているとどうやら桃色の布めがけて飛んでいることに気付いた少年は走り出した。
このまま家までついてこさせて母に見せてやろうと考えたのだ。

「う゛ー!!う゛ー!!ぎゃおー!!」

 走っていってしまう少年を「れみりゃ」は両目から滝のように涙を流して虚勢を張りながら必死に羽を羽ばたかせて追いかけていった。










 深々と雪が降り、あたり一面を銀の世界に染めてゆく。それと同時に地面も植物も隔てなく凍りつかせる無慈悲な寒さの冬。
 そんな世界とは程遠い囲炉裏の火に暖められた室内で男は寝転がり、物思いにふけっていた。この家は自分が独り立ちしたときに建ててもらったもので
嫁を貰うまではずっと一人で暮らしてきた。やがて結婚し二人になり、子供もできてあれほど狭いと思っていた家だったが子が巣立ち、妻に先立たれて
これほど広かったのかと思い知った。そして一人だけの冬を迎えた。はじめこそなんでもないと考えていたが、いざ迎えるとなんとも孤独だった。
とにかく人と話したかった。それで少しは紛れるだろうか、だがそれは叶うことはない。男の心は空虚だった。
 その時、家の戸を誰かが叩く音がした。男は喜んだがなんとなく恥ずかしくなり、声に感情が出ないように注意してどなたかなと尋ねた。
誰も答えなかったが戸はまだ叩かれている。なんなんだと思いながら男は戸に立て掛けてあった用心棒をはずし、外に顔を出した。

「「ゆっくりしていってね!」」

 そこにいたのは黒い帽子を被ったのと、大きなリボンをつけた「ゆっくり」とか呼ばれるけったいなものだった。これが噂に聞くゆっくりかと男は二匹を眺めた。
外はこんなに寒いというのに白い息一つ吐いていない、呼吸をしていないのだろうか。そして二匹の上には降り積もった雪が乗っかっていて見ているこっちが寒くなる。
そして男は何事もなかったかのように戸を閉めた。途端に叩かれる戸。喧しいと感じた男はまた戸を開けて二匹を睨んだ。

「「ゆっくりしていってね!」」

 また同じ言葉を繰り返す二匹を男は掴みあげて遠くに放り投げた。雪の中に半分ほど仲良く埋まる二匹。清々した気分で家の中に入っていった男は
しばらくした後にまた戸が叩かれる音にうんざりした。

 腹が減って晩飯の用意をしているときもまだ叩かれていた。
 食べているときも戸は揺れていた。
 酒を片手に晩酌しているときに二匹が「ゆっくりゆっくり」と言いながら戸を叩いていることに気がついた。
 眠くなってきて寝ようと思って布団を敷いていたときにとが叩かれていないことに気がついた。やっと諦めたかと男は眠りについた。

 夜が明け、布団の中でもぞもぞと寝返りをうって男は目が覚めた。喉の渇きを覚えたので水を貯めてある瓶から柄杓で水を掬おうとして残りわずかなことに気がついた。
まずは家の外にある井戸から水を持ってくるとしようと、男は桶を片手に戸を開けた。吹き込む寒さに体をぶるっと震わせて男は遠くを眺めた。
 遠くに見える山々は白く化粧がされていて、空はどこまでも澄み渡る蒼だった。そんな調子で足元を見なかった男は指先を何か固いものに打ち付けた。
桶を落とし、痛む指先に手をやり、屈んで始めて男は目の前のものに気付いた。
 なんとそれはあの二匹であった。だが全く動かず、両目は閉じられていた。手で触ってみると氷のように冷たく固かった。まさか凍りついてしまうとは
思わなかった男はちょっとした罪悪感から両手を合わせ、二匹の冥福を祈った。そして二匹を日のあたる場所に移動させて、男は井戸へと向かった。
白い息を吐きながら男が井戸から水を引き、桶へと入れていると

「「ゆっくりしていってね!」」

 驚いた男が急いで二匹を置いといた場所に目を向けるといたはず、いや、あったはずの場所には何もなく、周りを見渡しても影も形もなかった。
理解の範疇を超えてしまった男はその場で固まっていた。
 家の軒先に垂れ下がっていたツララが折れて、地面へ深く刺さった。










~あとがき~
唐突にゆっくりしていってね!ぐらいしか話せないゆっくりが書きたくなった、やっぱり難しい。
ちなみに舞台はそれぞれ四季を意識しており、自分が好きな情景を描いてみました。
なんというか、拙いですね、申し訳ない。

書いた奴『オマケ』




















蛇足

 敷き詰められた紅葉の中で二匹のゆっくりが頬を寄せ合い眠り、もといゆっくりしていた。
 その二匹は「みのりこ」と「しずは」という、秋限定で現れるゆっくりだった。二匹は心の底からゆっくりできてとても幸せだった。
 だがみのりこが不自然な揺れに気がついて落ち葉からそっと顔を覗かせた。そこには木の枝を持っている男の子が一人いた。何がしたいのかはわからないが
こんな近くで飛び跳ねられてはこちらはたまったものではない。しずはを促してみのりこはそっとそこから離れることにした。だが時既に遅し。
男の子が倒れこんできて、慌てて二匹は避けようとしたが間に合わず、みのりこは男の子の背に押され、落ち葉に埋まり、しずはは男の子の後頭部と地面に挟まれ
「ぐげ」とヒキガエルのような声を出して潰れた。

 しばらくして男の子がどこかへ行くと、やっと回復したみのりこがのろのろとしずはのところに行くと男のが軽かったおかげか無事なようだが目に涙を浮かべ、
ぷるぷる震えていた。みのりこが頬を当てるとしずはのダムが決壊した。みのりこが頬を擦ったり、涙を舐め取ったりして慰めたがしずははなかなか泣き止まなかった。
 やっとのことでしずはが泣き止むと二匹はゆっくりできる場所を求めて、森の中を仲良く跳ねていった。

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最終更新:2009年05月22日 20:12
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