「Zzz・・・Zzz・・・ゆっ」
れいむが目を覚ますとそこは見慣れた自分のお家ではなく頑丈そうな岩壁が見えているのみだった。
右を見ても岩壁、左を見ても岩壁、上も見ても岩壁、完全に密封された空間にれいむは息苦しさを感じ
ゆっくり出来ないその場所から早々に立ち去ろうと動き出す。
「こっちにいけるね!」
れいむが目を覚ました場所は通路のようなところで後ろは行き止まりだが、前方には右に曲がる道が見えていた。
意気揚々と鼻歌をスンスン歌いながらぴょこぴょこと走っていき左に曲がる。
「ゆぎゅ!!」
れいむの画面に押しつぶすような衝撃が走る。何が起きたのかと目を白黒させながら慌てて状況はなくに勤める。
一体なにが起きたのだろうか自分はただ歩いていただけなのに…。
冷静になって考えてみても何が起きたのかは判らない、目の前にはただ壁があるのみ、特に動いたり飛び出たりするような仕掛けはない。
仕方なく少し記憶を遡って考えてみる。自分はお家に帰ろうとして道を進んで曲がったところで…
ここまで考えてようやくれいむは気が付いた。
そう、右に曲がるべきところを左に曲がりそのまま壁にぶつかってしまっただけなのだ。
原因がわかったれいむは誰にも見られなくてよかったと思いながら照れ笑いを浮かべた。
「うっかりー!!」
間抜けな行動をとったれいむを笑うものは誰もいない、あたりは自分の呼吸が聞こえてきそうなほどの静けさに包まれていた。
「ゆー・・・」
普段ならまりさは自分を小ばかにして笑っただろう、ありすは影でクスクスと笑っただろう、妹達はきっと心配して駆け寄ってくる
だが今はだれもいない、スィーと吹き抜ける風がれいむのさみしさと嘲笑うかのように通り抜けていく。
「ゆっくりおうちにかえるよ!」
右に曲がろうとして左に曲がってしまったのだから今向いている方向の反対側に進めばいい、
れいむは反対に振り向いて先を急ごうとするが、思わず顔をゆがめるような光景が広がっていた。
右に曲がった通路の先は壁、もと板通路の先も壁、丁度L字のような通路はすべて壁に埋め尽くされている。
れいむにもそれがどういう状況か理解することができた、自分はこの空間に閉じ込められている、
ここを出るには…壁か天井か床を壊してそとに出るしかないが、それがゆっくりには到底出来そうもない事も理解できてしまった。
しかし、なんとしてもお家に返りたいれいむはこの事実を受け入れずに、餡子を総動員してここから出る方法を考える。
そしてゆっくり動き出す。右に曲がった先、行き止まりに見える壁に向けて。もしかしたらそんか期待と不安を胸に、突き当たりの壁の目の前までくる。
れいむはその壁に恐る恐る体を当て、渾身の力を込めて壁を押し始める。
「ゆぎゅ…ぎゅ…ぎゅ…ぎゅ…ぎゅう」
壁はピクリとも動かない、ひんやり冷たい岩壁にれいむの淡い期待をもろくも崩れる。
「ゆっ…ゆっ…ひっく…」
れいむは瞳に涙を為、今にも泣き出しそうになりながらも、ぐっとそれを堪えていた。
今泣き出したら、きっと疲れきるまでやめられそうにない、おうちに帰る為にも今は泣けない。
ひょっとしたら他の壁は動くかもしれない、体当たりで壊せるかもしれない、一度は否定した可能性も信じて
狭いその通路の中を駆け回った。
しばらくして…思いつく限りの可能性を否定されたれいむは、グッタリとその場にへたれこんでしまう。
どうしてこんなことになったのだろうか、自分がなにか悪いことをしたのだろうか、なぜどうしてと考えをめぐらせるが、
昨日までのゆっくりとした毎日が、まりさや家族との楽しかった思い出ばかりが頭に浮かんでくる。
孤独に耐え切れなくなったれいむはついに泣き出してしまう。
「ゆーん!ゆっぐゆぐゆぐ!ゆーん!ゆっぐゆぐゆぐ!」
あふれ出る涙とは別に、なにか別のものがこみ上げてくる感覚がれいむを襲う。
その気持ち悪さにれいむは泣くのをやめて体をブルブルと震えさせ始める。
ぶるぶると震えていると、れいむの口の下に点のような穴がひとつ浮き出てくる。
その穴は次第に大きくなっていき中から何かをひりだそうとピクピクふるえている。
れいむは自分の身になにが起こっているのか判らず、ただただ気持ち悪さに体を震わせていた。
穴はさらに広がりひりだそうとしている物の頭が見えるほどになった。
そこに見えるのは餡子のような黒い物体、一部のゆっくりが行う出産とは違ったものだ。
「・・・・・・・・ゆっ////!」
艶のある声と共にポーンとその黒い物体がコロコロと転がっていく。
黒い物体をひりだした事でれいむの気持ち悪さはいくらか増しになり、転がっていく物体を目で追った。
コロコロコロ・・・黒い物体は行き止まりの壁にぶつかってとまる。
しばらくの静寂の後、ボン!黒い物体が突然爆発した。
爆風が目の前に広がったところでれいむは咄嗟に目を閉じてしまう。
「ゆっ!」
目をつぶったまま硬直していたれいむは、しばらくして自分の体になんの痛みもないことを不思議に思いながら目を開ける。
するとついさっきまでとは違った光景が広がる。さっきまでは壁があった場所には何もなく、その先には新たな通路が見えるではないか!
れいむは喜び勇んで新しい通路に向かっていく、しかし、その通路のさきもやはり壁で塞がっていた。
束の間の喜びのあとに、その喜び以上の虚脱感がれいむを襲う。
れいむがその場で途方に暮れていると、再び先ほどと同じように何かがこみ上げてくる。
一度広がってほぐれている穴は、スポーンと黒い物体を吐き出す。
「・・ゆっ////!」
黒い物体はコロコロと転がり、新しく出来た通路の行き止まりで爆発、するとまた新しい通路が広がっているではないか。
なぜこのような物体が自分から出てくるのかは判らないが、これを繰り返して先に進めはきっと出口にたどり着ける。
れいむは最後の希望に掛け、黒い物体をひりだす事に集中する。
黒い物体をひりだした直後はどんなに力んでもひりだすことは出来ないが、
爆発して気持ち悪い感じがこみ上げて来てから力むと簡単にひりだす事が出来た。
何度か繰り返しているうちにれいむは黒い物体を自在に操ることが出来るようになっていた。
勢い良くひりだすほかに、転がさずにその場にひり出したり、スピンをかけて狙ったところで止めたり。
爆発するまでの感覚や、爆風の広がる範囲もつかみ、れいむはドンドンと通路を壊し進んでいった。
「・・・ゆっ////!・・・ゆっ////!・・・ゆっ////!」
黒い物体は他の物体の爆風があたると同時に爆発し一気に通路を破壊することが出来る。
さらに先に進むと、れいむはこの通路に入ってから初めて自分以外の動くものを発見した。
確かな希望を見つけ気分が高揚しているれいむは元気に挨拶をした。
「ゆっくりしていってね!!!」
何気ない一言、一日に何度もいうその言葉、随分と久しぶりに言った気がした。
だが、キラキラとした目でれいむが見つめる動物は返事をすることなく、無表情な顔をしてにじり寄ってくる。
ザシュッ!
ブンと振り回される腕についた爪に、れいむの左頬は切り裂かれる。
「ゆぐぅぅぅう!!」
幸い傷は表皮でとまり、中の餡子が漏れ出すことはない。
しかし、突然襲われたれいむはパニックを起こし脱兎のごとく逃げ出した。
れいむを切りつけた動物はれいむの後を追って動き出す、動く速度はれいむの方が若干早い。
恐怖の余り顎からは黒い物体が垂れ流しになり、
れいむは自分が意識していない突然の爆発に驚いて振り返る。
そこには爆発に巻き込まれてバラバラに吹き飛んだ動物の破片が転がっていた。
「ゆぅ?」
れいむには何が起きたか判らなかったが、恐怖の対象が消えたことで多少の冷静さを取り戻す。
バラバラになった物体を注意深く観察しながら、おもむろに口に運ぶ・・・。
「うっめ!これめっちゃうめ!!」
通路に迷い込んでから初めて口にした食べ物、ここまで走り回り疲れの見えていたれいむに元気がもどる。
食事を終え一息つくと、れいむは再び出口に向けて壁を爆破する作業にもどる。
先に進むと何度か先ほどと同じ様な動物に出会うが、一度おいしくいただいたそれは、
れいむにとって美味しいご飯でしかなかった。
れいむは、昔いじめられた人間に似ているような気がするそのご飯を「おじさん」と呼ぶことにした。
余裕の出てきたれいむは「おじさん」を狩るのがだんだんと楽しくなってきていた。
「おじさんこっちだよ!へっのなるほうえ!!」
プップッと顎の穴から空気をひりだして挑発する。
「おじさん」が目の前に来たところで爆弾を置く、すると「おじさん」は動きをとめ反対方向に引き返し始める。
すかさず回り込んでもうひとつ爆弾を置く、すると「おじさん」はあたふた慌てふためく様にいったりきたりを繰り返す。
「おじさんはゆっくりしんでいってね!!」
ドゴーン!
爆風が「おじさん」を包む、れいむは通路の影に隠れて爆風をやり過ごす。
れいむはバラバラになったおじさんを口に運ぶ。
「これうめぇ・・・うめぇうめぇ・・・」
お腹の膨れてきたれいむは食事もそこそこにガンガンと通路を進んでいく。
だが、通路をすすむにつれてだんだんとおじさんの行動が予測できないものになっていくのを感じ、
徐々にれいむの顔に焦りが浮かんでくる。
「ゆゆ!?そっちじゃないよ「おじさん」はこっちでしんでね!!」
「もっとゆっくりしてね!こっちにこないでね!!」
「ゆー!!ゆっくりしていってよー!!!」
次第にれいむは「おじさん」達を避けながら先に進むようになった。
それでも先に進む以上「おじさん」との接触は避けられない。
「ゆー…ゆっくりしんだね!れいむもゆっくりさせてね!!」
手ごわくなった「おじさん」でも良く行動を観察すれば倒せないことはない、
だが、それだけの集中力を持続させることはれいむには出来なかった。
少しずつ、ゆっくり休憩を繰り返しながら進んでいく。
その時である
「ゆ゛ぐ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛!!」
れいむの背中に激痛が走る。
油断しきっていたれいむは背後から忍び寄る「おじさん」に気づかず致命傷とも言える傷を負ってしまった。
背中から餡子をポロポロとこぼしながら必死に逃げる。
この先に「おじさん」を倒すのにうってつけの通路、ゆっくりポイントがある、そこまで行けば何とかなる!
ゆっくりポイントはここを左に曲がった先、通路を曲り先に進もうとしたその瞬間れいむに電流が走る。
その電流にれいむは一瞬からだの自由を失い、その場に立ち尽くしてしまう。
さっき襲ってきた「おじさん」とは別の「おじさん」がこちらに向かって走ってくるではないか!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!」
ゆっくりポイントへの曲がり角、T字路になっているその通路には後一本しか逃げ道がない。
れいむは選択の余地無し残りの通路を進んでいった。
奇襲を受けて混乱していたれいむだが、ここで少し落ち着きを取り戻す。
ここに爆弾を置いて逃げればおじさんは追ってこない、この先に爆風をよける為の横の通路はないが
まっすぐ逃げれば十分爆風はよけられる。れいむはこの危機を脱するべくすぐさま行動に移す。
「・・・ゆっ////!・・・おじさんはその子いっしょにゆっくりしんでね!!」
この様な危機的状況でもゆっくりらしさは失われない。
まだ、危機は脱していないが後すこし逃げればゆっくり出来る。
れいむは足を止めずに爆風が届かない位置まで逃げていく。
「ここまでくればゆっくりできるよ!」
れいむは自分の爆弾の爆風の範囲を把握していた。
その為、すこしでも早くゆっくりする為に爆風のぎりぎりの位置で休憩を始めたのだ。
安堵と共に大きく深呼吸して息を吐き出だす、同時にすこし餡子も吐いてしまう。
れいむの進行方向、今まで逃げてきた先、「おじさん」がいない方向、その方向からまた別の「おじさん」がれいむに向かって歩いてくる。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・・・・・」
れいむはそれ以上もう動けなかった、後ろに進めば爆風に巻き込まれる、先に進めば当然「おじさん」に殺される。
「おじさん」の後ろに見える別の方向への通路、あそこまで逃げていればまだ助かったかもしれない。
「や゛べて゛え゛え゛え゛え゛え゛」
「こ゛っち゛こ゛な゛い゛で゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」
「ゆ゛っく゛り゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛い゛い゛」
れいむの懇願に「おじさん」はピクリとも反応せずに距離を詰める。
生きるか死ぬか、爆弾が爆発するのが先か、「おじさん」が来るのが先か、まだ生きる望はある。
なのになぜこんなにも悲しいのだろうか、なんでむかしの思い出がよみがえってくるのだろうか・・・。
れいむは賭けたのだ。「おじさん」が来るより先に爆発がおき今来た道を引き返せる事を・・・。
その結果、今度は致命傷では済まなかった。
勢い良く振り下ろされた拳は饅頭を潰し餡子を撒き散らし、れいむを絶命させた。
「Zzz・・・Zzz・・・」
れいむはまどろみの中、かすかに意識を取り戻す、自分は死んだはずなのに意識がある。
死んでも意識はあるものなのか、それにしてもとても気持ちのよい眠りだ。
「Zzz・・・Zzz・・・ゆっ」
れいむが目を覚ますとそこには良く見慣れた光景が広がる。
だがそれはれいむが求めていた光景ではなかった。
良く知っている冷たい風が体をなでると体の奥から気持ち悪いものがこみ上げてくる。
おしまい
あとがき
元ネタは初代ボンバーマンのつもりです。 「わからない!わからないよー!」
久しぶりに5KBの壁を乗り越えました。 「ちーんぽ!」
長いのが書けないならループにすればいいんじゃね? 「わかる!わかるよー!」
と思って書きました。
「読み返さないであげるってさ」
「おお、こわいこわい」
さて、ゆっくりを虐待する作業に戻るか・・・。 「ぢぢぢぢーんぼ!!」
最終更新:2008年09月14日 05:57