いままで書いたもの
- とかいはコーディネイター
- 植物型ゆっくり
- 魔理沙とゆっくり~邂逅篇~
- 取替えられた子
- お前なんかドスじゃない
- ばーさすちれーでん
- ねるねるねるゆ
- ゆっくりを飼うって難しい
- ゆっくり分身
- れいぱー
- 公然猥褻れみりゃ
- 決死の虐待
「おはようございます先輩!」
そいつは俺の目の前で幼く愛くるしい顔に柔和な笑みを貼りつけなが
らそう言った。よく見てみればそいつはいつも厄介事を運んでくる事
に定評があるサークルの後輩だった。
俺は後輩の顔を見て、まず寝ぼけ眼を擦り視線を下げる。いつも自分
が使っている掛け布団が目に入った。
「いやぁいい朝ですねぇ! 雲ひとつない空、鼻腔を擽る木々の香り、
爽やかな風、都会ではこんな朝は滅多に体験できませんよ!」
後輩はそう言ってそのいい朝とやらを堪能する。両手を広げてくるく
ると舞うその姿は、整った容姿と相俟ってまるで森の妖精さんのよう
にも思える。
俺は無言で掛け布団をどかす。下から現れたのは寝巻き姿の自分の下
半身と、やや古くなりスプリングが弱くなった俺の部屋のベッドだっ
た。
俺は上機嫌でくるくると回る後輩に、声をかける。
「なんでだ?」
「ほら、都会は空気悪いですから」
「いや、そうじゃなくて」
俺が返す。
後輩は踊るのをやめて、背後にある隆々と茂った木々のうちのひとつ
に背を預け、怪訝な顔で言う。
「じゃあ……なんですか?」
俺は、ベッドから地面に降りて、その質問に質問で返した。
「なんで、俺は森の中にいるんだ?」
素足で直に触れる地面は、朝露で湿って少ししっとりしてた。
虐待お兄さんの冒険 人外魔境の森編
「先輩」
後輩は呆れたように溜息をつく。そしてこちらに近付き、まるで諭す
ように言った。
「いいですか、今重要なのはここにいる理由などではありません。今
ここで何を成すべきか、です。理由など気にするだけ無駄、そうは思
いませんか?」
「いや、俺は理不尽な状況に放り込まれてすぐに「さっ、これからど
うすればいいか考えるぞ!」とか考えられるほど殊勝な人間じゃないんだが……つーか、お前がいて変な事が起きてるんだからどうせお前
が原因なんだろ?」
「何を言ってるんですか! 先輩はやれば出来る子です! さぁその
貧相な知能のくせにやたらと鋭い閃きを見せると1年生の間で伝説に
なったりなっていなかったりする頭脳を披露してください!」
「話題逸らすって事はやっぱりそうか」
やたらと芝居がかった壮大で大仰に動く後輩を見て俺はそう悟り、溜
息をつく。
「えぇ。確かに先輩をこの森に連れてきたのは僕です」
「開き直りやがったな」
「しかし! この森に来たいと言ったのは先輩の方です!」
後輩はそう言いつつ、こちらに向かってびしっと指を突きつけた。
「俺が? 何かの間違いだろう」
「先輩、覚えていませんか。一昨日の事を」
「一昨日……あ」
後輩の言葉に、俺は思い当たらない事もなくはない気がして、一昨日
の部室での事を思い出していた。
『先輩、森っていいですよね』
その日、やたらと分厚い本を読んでいた後輩は唐突にそう言ってきた。
『森? いや別に嫌いじゃないけど』
俺が素直にそう答えると、後輩は呼んでいた本をぱたんと閉じて俺の
両肩に手を置き、俺と視線を重ねてきた。
『嫌いじゃないって事は好きという事ですね?』
『いや、嫌いなわけじゃないだけで特に好きでは……』
『じゃあ教祖のためなら殺人や強盗すら辞さない狂信者が教徒の70%
を占める危険な宗教団体が支配する地下強制労働施設と森ではどちら
の方に行きたいですか?』
『何だその二択? まぁ、その二つなら森だけど……』
余りのプッシュぶりに思わずそう答える。
後輩は嬉しそうに、笑って俺の肩をぺちぺちと叩く。
『ほらやっぱり森が好きなんじゃないですかぁ! この森マニア!』
『も、森マニア?!』
後輩は、フッ、とニヒルな笑みを浮かべる。
「どうやら思い出したようですね」
「力ずくの誘導尋問じゃねぇか?!」
俺は後輩に向かって怒鳴りつけ、耳をほじって明後日の方向へ目を逸
らす後輩の背中に続けて言葉を叩きつける。
「じゃあ地下強制労働施設って答えてたら森には来なかったのか?!」
「えぇ。その時はちゃんと地下強制労働施設に来てましたよ」
「あんの地下強制労働施設?!」
「はい。残念ながら狂信者率は65%でしたが」
「狂信者まで実在?!」
「中々フランクな方でしたよ。今度紹介しましょうか」
「どんなにフランクでもそんな危ない奴等お断りだ!」
言われて、後輩は残念そうに肩を落とした。
その挙動にやたらとムシャクシャしたが、素数を数える事によって気
を鎮め、努めて冷静に後輩に向かって尋ねる。
「で、ここは一体何処だ。帰り道はどっちだ」
「はい。ここは地元では人外魔境の森と呼ばれてちょっとした名物と
なっている森なんですよ」
いつの間にか立ち直っていた後輩がすらすらと言葉を並べる。
俺は努めて冷静に後輩に向かって尋ねる。
「そうか。で、帰り道は?」
「なんでもここに迷い込むと何処からか人ならざるもののおぞましい
声が聞こえてくるとか」
後輩は所々怯えた振りのような挙動を交えながら説明を続けた。
俺は努めて冷静に後輩に向かって尋ねる。
「よくある話だ。で、帰り道は?」
「しかも常に誰かに囲まれている気配があるのにどんなに探しても人
はおろか小動物すら見つからないんだそうです」
不思議ですねぇと笑いながら後輩は説明を続けた。
俺は努めて冷静を装って後輩に向かって尋ねる。
「勘違いだろ。で、帰り道は?」
「話してたらちょっと怖くなってきちゃいました。腕にしがみ付いて
ていいですか?」
後輩はそう言いながらこちらにすすすとに擦り寄ってきた。
俺はササッとそいつを避けながら努めて冷静を装って後輩に向かって
尋ねた。
「やめんか気色悪い。で、帰り道は?」
「酷いですよぅ、僕はこんなに先輩の事を想ってるのに」
そう言って俺の胸にぴとりとくっつき、頬を染め、俺の胸にその細い
指先でのの字を描きながらそう囁いた。
「ごちゃごちゃ言っとらんでさっさと帰り道を教えんかい!!」
「グェー」
俺は冷静さを装うのを止め、後輩の胸倉をつかみ上げて叫んだ。後輩
はさして苦しくもなさそうに、演技っぽい呻き声を上げる。そして俺
に首をがくがくと揺らされながらも、何故かちっとも苦しくなさそう
な表情で告げる。
「帰り道とかわかるわけないじゃないですか」
「あぁ?! どうやってか知らんがお前がここまで俺を連れてきたん
だろが!」
「それがですね、先輩の困った顔が見たい一心で意味も無く森の中を
ぐるぐる回ったりしてたら帰り道わかんなくなっちゃって」
「お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
力任せに後輩の身体を投げ捨てた。後輩は空中で見事に三回転半捻り
を決めて、頭から地面に突き刺さる。
「ちなみに方角とかわかればなんとか抜けられると思ったんでコンパ
スとかは捨てちゃいました」
「死ね! いっぺんでいい、頼むから死んでくれ!」
突き刺さったままそう告げてきた後輩の腰をつかみ、ねじ回しの要領
で地面にねじ込む。
と、突如それまでされるがままだった後輩がずぼりと穴から這い出し
、
驚く俺の口の前に人差し指を一本立てながら静かに叫んだ。
「先輩、静かに!」
その威容な雰囲気に気圧され思わず口を噤む。
身を縮こませ、辺りの気配を伺う後輩に、俺はできるだけ小さな声で
尋ねる。
「……どうした?」
「先輩には聞こえないんですか、この声が……!」
そう言われ、目を閉じて耳を澄ます。
すると、どこか遠くから、先ほどまでは聞こえなかった小さな声が聞
こえてきた。
ミーンミンミンミン、ミーンミンミンミン。
小さな、しかし元気な蝉の声。
俺は目を開けて後輩の顔を見る。後輩は真面目な顔でこくりと頷き、
微笑みながらこう言った。
「もう夏ですね」
「ふんっ」
「ぐへぇ」
俺の右拳を鳩尾に抉りこまれ、後輩が奇声を発しながら地面に崩れ落
ちる。演技ではなく、本気ダウンだ。
この隙に本当に埋めてしまおうか。いや生き埋めでは後でひょっこり
現れる可能性があるからきちんととどめを刺してからうめようか。い
やしかし生き埋めなら後でひょっこり出てきても手違いとかで済むし、
いやいや……
「……くり……ね」
そんな事を考えていると、ふとくぐもった女の声のような物が耳に入
った。誰か来たのかと思い、埋めるのは次の機会にしようと思いなが
ら周囲を見渡すが、人影らしきものは一つもない。
「お前か?」
俺は足元に転がっているそれをつま先でつつきながらそう尋ねる。
後輩はごろんと転がり、地面に横たわったまま俺を見上げると怪訝な
顔をして言う。
「何がです?」
「……っく……てい……」
また聞こえる。しかも後輩が喋り終わるとほぼ同時に。
これは恐らく、本当に後輩の仕業ではない可能性がある。最も、後輩
が何らかの俺には想像もつかない手段で腹話術的に俺をおちょくって
いる可能性の方がまだ高いが。
転がっている後輩の胸倉をつかみあげ、もう一度尋ねる。
「本当にお前じゃないのか?」
「僕が先輩に嘘をつくと思いますか?」
「思わなかったら二回は聞かんな」
そう吐き捨て、掴んでいた後輩をまた地面に放り捨てる。
「ゆっ……し……て……」
また声が響いた。しかし、今度は先ほどまでとはまったく別の方向か
ら。
まさか。
嫌な予感が口を衝く。
「囲まれている……?」
地面に転がっている後輩を拾い上げ、背後に隠しながら木の陰に入り
様子を伺う。依然、人影は見当たらない。もたれかかる木に手を置き、
慎重に覗き込むが、影すら見つからない。
と、その時だ。
木に添えていた手の平に、何かがもぞもぞと動く感触を覚えた。不審
に思い視線を下げると、手の下に眼球があった。
意味がわからず、思考が停止する。
そいつは、ぎょろりと目を剥き、今まで隠していた禍々しいその顎を
曝け出した。
「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」
それに重なるように、四方から似たような声が上がる。
理解を超えた状況。俺は木に添えていた拳を握り、半ばヤケになって
行動した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
握った拳を、その木の顔面の中心に叩き込む。
「ゆぎゃーーーーー?!」
「ウギャーーーーー!!」
それと同時に俺と木が、それぞれ打撃箇所の痛みに悲鳴を上げた。
「「「「どぼじででいぶにひどいごどずるのー?!」」」」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
四方から聞こえる俺を責めるような泣き声にたまらず女のような甲高
い悲鳴を漏らしながら地面に崩れ落ちて頭を両手で覆う。
そんな様子を見ていた後輩が呆れたような顔で言葉を発した。
「先輩、何とち狂ってるんですか」
「お、おおおおお化けだお化けお化けが出たぞお化けが!」
「お化けって、先輩案外可愛い人ですね」
「んな事行ってないで祟り殺される前にさっさと逃げるぞホラさっさ
と走れメロスのように!」
俺がガクガクの足腰に鞭打って立ち上がり急かしながら後輩の背中を
押しに押す。後輩はあからさまに嫌そうな顔をする。
「えー、せっかくここまで来て面白そうな物も発見したのにー」
「えぇい黙れ! 命を粗末にする奴は大嫌いだ! 死ね!」
「言ってる事がおかしいですよ」
後輩は言いながら俺の前からすっと抜け出して(そのせいで俺はバラ
ンスを崩して前につんのめり、木によりかかった後でその木の顔に驚
いて情けない悲鳴を上げた上で地面によつんばいにさせられた)こう
言った。俺は地面に伏せ、念仏を唱えたままそれを聞く。
「それに、これには人を祟り殺すような力なんてないですよ。木みた
いでも所詮ゆっくりだし」
ぴたり、と体の震えがとまる。あと念仏も。
俺は地面に這いつくばったまま、顔だけ後輩の方に向け、ゆっくりと
尋ねる。
「ゆっくり?」
「はい、ゆっくり」
後輩が答える。
俺はのそりと起き上がり、視線はそのままに先ほどの顔のある木を指
差しながら、もう一度尋ねる。
「ゆっくり?」
「えぇ、ゆっくり」
「いだいごどじないでね! おねがいだがらゆっぐりじでね!」
丁度その時、木が涙を流しながら泣き声を上げた。その顔はまさに泣
いているゆっくりの顔そのものである。
俺はそれを指差しながらもう一度言う。
「ゆっくり」
「えぇ、ゆっくり」
後輩がにこやかな顔で答えた。俺はのしのしとその木に近付き、その
顔の部分に顔を近付け、怯えるゆっくりの眼にこれでもかというほど
ガンをつけてから、爽やかな笑みを浮かべていった。
「ハハッ、ゆっくり」
言いながらその木をてしてしと叩くのも忘れない。
そして、
「驚かすんじゃねぇーーー!!」
理不尽だと自覚しながらも、滾る激情の赴くままにそのゆっくりの顔
面を拳で打ち貫いた。
「ゆぎゃーーー?!」
「グギャーーー?!」
「拳痛めますよ?」
再び訪れた拳と顔面の痛みに叫ぶ俺とゆっくりを、後輩が涼やかな眼
で見下ろしていた。そのまま無様に地面を転がる俺を眺めつつ後輩は
語りだす。
「この森にはゆっくりの木、ゆ木が多く自生しているんです。ゆ木は
ごらんの通り喋りますし、カンのいい人は気配も感じるらしいので、
ゆ木を知らなかった当時の地元民はここを人外魔境の森と名づけたそ
うです。あ、ちなみに今ではなごやかゆっくりの森って呼ばれてるそ
うですよ」
「そういう事は先に言え」
言いながら立ち上がり、赤く染まった握り拳をさする。
「しかしゆっくりの木か……」
視線を向けると、痛みに瞳を潤ませていたそのゆ木はびくりと身を震
わせ、怯えたような表情を浮かべた。
と、その時、偶然、何故か、特に理由も無くそれを思い出し、ぽんと
手を叩いた。
「そういえば木の年輪で方角がわかるって話があったよな」
「聞いた事がありますね。よく日の当たる南側の方が年輪が広くなっ
てるとか」
後輩が答える。俺は後輩に歩み寄るとその肩に手を置いて要求した。
「よし、鋸だせ」
「ありませんよそんなもの」
やや困ったような顔で呟く後輩。俺はその後輩の肩をがっしと掴み、
揺さぶりながら叫ぶ。
「持ってないのか?! なんで?!」
「鋸持って歩くほうが非常識ですよ。何考えてるんですか?」
「ぐぅっ……まさかお前に常識について講義されるとは」
非常識人に非常識と言われたその精神的ショックから眩暈を起こし、
後輩から離れたゆ木に縋りついた。ゆ木は「おもいからゆっくりはな
れてね!」と言っていた。
後輩はそんな俺の様子を眺め、溜息をつきつつごそごそと自分のポケ
ットを漁りながら、一言。
「電動丸ノコなら持ってますけど」
「鋸持ち歩くよかずっと非常識じゃねーか」
ズボンのポケットから不自然に出てきた、全長90センチほどの丸ノコ
をどるんどるんと駆動させる後輩に俺はそう吐き捨てた。そして後輩
がひょいっと投げてきた丸ノコを受け取り、肩に担ぎ、空いている方
の手でゆ木の側面をぺちぺちと叩いた。
「よし、じゃあゆ木を切るか」
「普通の木にした方がいいんじゃないですか?」
「だってほら、俺達ゆっくりサークルだろ?」
「取ってつけたような後付設定ですね」
「黙れ」
どこからかもう一つの電動丸ノコを取り出してどるんどるんと物騒な
音を立てさせている後輩に向かって言った。
当のゆ木、れいむはそんな二人の様子を見て、やや怯えたような表情
を浮かべていた。
「ゆ? おにいさんたちなにするの? なんだかゆっくりできなさそ
うだよ?」
そして二人はれいむをガン無視。それぞれ木れいむを挟み込むように
向かい合うとそれぞれ逆側から刃を入れた。
「与作が木ーを切るー」
「ヘイヘイホー」
「ゆ゛ぎぐげごぉーーー?!」
陰気な歌声と共にやたらと甘い臭いのするオガクズが舞い散り、身を
削られるような思いというものを実際に経験している木れいむが凄ま
じい表情で絶叫した。
その余りのれいむのゆっくりしてなさに、周囲のゆ木達もざわめき立
つ。
「「「「ゆ゛あ゛ーーーー! でいぶーーーー?!」」」」
「どぼじでぞんなごどずるのーーーーー?!」
「でいぶゆっぐりじでだのにーーーーー?!」
「ゆっぐりでぎないーーーーー!!」
「やべであげでねーーー?! いだがっでるよーーー?!」
そんなゆ木達の言葉も全く気にせず、俺と後輩はちゃっちゃと木れいむを切り倒した。木れいむは「もっとゆっくりしたかった」と言い残
して瞳を閉じ、そしてしばらくしてから「どぼじでずっどゆっぐりで
ぎないのー?!」と叫んだ。生命力が強い植物も大変だ。
一方、切り倒したれいむには全く眼もくれずに切り株の断面を見てい
た俺達は困っていた。
年輪がほぼ均一に広がっていたのだ。
「うーん、解りづらいな」
「木が悪いんじゃないですか? ほら、この位置だと四方どこからも
光が当たりますし」
「チッ。クソの訳にも立たなかったな」
この時、切り倒されたれいむを含むゆ木達から「どぼじでぞんなごど
いうのー?!」の合唱が巻き起こった。
俺は一度地面に置いた丸ノコを担ぎ上げると、倒れている木れいむに
脚を乗せ、まるで物色するような眼を周囲に向けながら呟いた。
「じゃあもっと日当たり悪そうな奴を切り倒すか」
瞬間、湿っぽい泣き声で溢れていた場がしんと静まり返った。そして、
場が静まり返ってきっかり3秒後。
ゆ木達が怯えた叫びを上げた。特に、俺の視線の先にいた二本のゆ木
が。
「やべるんだぜーーー! やるならありずのほうをざぎにじでほじい
んだぜーーー!!」
「どぼじでぞんなごどいうのーーー?! あんなにあづぐじゅふんじ
あっだのにーーー?!」
「ばりざがねでるあいだにがっでにやっだんでじょーーー?! ばり
ざがずぎならばりざのみがわりになっでねーーー?!」
「い゛や゛ーーー!! じぬのはどがいはじゃないわーーー!!」
まりさらしいゆ木とありすらしいゆ木がそれぞれ枝を揺らしてお互い
の体をちくちくとつつくという激しい戦闘を繰り広げる。さっきまで
は仲良さそうだったのに、哀れな事だ。
そんな彼らの哀しい争いを止めるため、俺は一言。
「どっちも切るから安心しろ」
「「ゆゆっ! それならあん……し……ん……でぎるわげないでじょ
ーーーーーー?!」」
「ヘイヘイホー」
「ヘイヘイホー」
異論を挟まれる前に、ちゃっちゃと切り落とした。
まだ若く細かったまりありのゆ木はあっけなく切断され、地面に横た
わった。
「ゆ゛ぎゃーーーーー!! ばりざのがらだがーーーーーーー!!」
「ぎりだおずならぜめでばりざどありずのがらだでどがいはなおうぢ
をたててねーーーー?!」
「切ったら用済みだから捨ててくけど」
「どぼじでぞんなごどいうのーーーーーーーーーー?!」
ささやかな望みすらすっぱり切り捨てられた木ありすは横になったま
ま涙を流した。一方まりさはありすの下敷きにされて重いと泣きなが
ら呻いていた。
そして俺は奴等の切り株を見ながらやはり首を捻っていた。
「んー、やっぱりよくわからんな」
「ゆ木はまだ二本ありますよ」
後輩が親指を立ててそいつらを指し示す。指差されたゆ木は驚き、
「むぎゅーーー?! ぱぢゅはじにだぐなっ、エレエレエレエレ」
「ゆ゛ぁーーーーーー! ばぢゅりーがーーーーー?! わっわがっわがらにゃいよーーーーーー!!!」
中身(やたら白くて甘い臭いのする汁)を吐き、痩せ、枯れ、腐り、
大地に帰るまでを僅か5秒ほどですべてこなした。
「あ、一本枯れた」
「恐ろしい勢いで腐って無くなったな」
「自然の神秘ですね」
地球の偉大さに触れた俺達は感慨に耽りながら丸ノコを残った一本の
ゆ木にそっとあてがった。
「おでがいじまずーーーー!! ぢぇんのごどはぎらないでぐだざい
ーーーーー!! ぢぇんはまだゆっぐりじでだいんだよーーーー!!
わがっでねーーーーーーーーー?!」
この近辺で最後のゆ木である木ちぇんは半狂乱になりながら俺達に頭
を下げるような素振りを見せた。
俺はその必死な姿を見て、こくりと頷く。
木ちぇんは瞳に涙をうかべながらもほっとしたような表情を浮かべる。
俺は告げた。
「お前がゆっくりしたいと思うよりも、俺がさっさと家に帰りたいと
いう思いの方が強い!」
「よっ腐れ外道」
「わがんにゃーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」
木ちぇんは身が削られている間ずっとそう叫び続け、切り倒されると
同時に酸素欠乏か痛みによるショックで気絶した。
俺は邪魔な木ちぇんを蹴って退かすとその場に屈んで切り倒したちぇ
んの年輪を調べる。
と、その時後輩がそれとなく告げてきた。
「ところで先輩、年輪で方角がわかるってガセらしいですよ」
「遅ぇよ」
俺は振り向き、後輩の頭を丸ノコで強かに打ちのめした。
おわり
作者:○ーメンぶっかけ祭の人
最終更新:2011年07月28日 12:38