ゆっくりいじめ系3071 甘くなる理由。2

さて、虐兄の家は里の中にあるため、私の家からは2キロほどある。
最近では自転車という便利な移動手段が、魔法の森の小さな万屋から発売されたらしいが、そこまで行く気力もそれを買うお金も私には無い。
そのため、徒歩で大体20分はかかる。
その間に、あのありすの身に何が起こったのかを私なりに考えたい。

今回の実験の要素は2つ。
まず、虐待と言いながら一度に大きなショックを与えてしまい、ありすをすぐに殺してしまったこと。
それと、ありすの中身のカスタードが異常なほどに甘く、かつ水っぽくなっていたこと。

前者は考えようがないが、後者は多少仮説を立てられそうだ。

少し考えれば分かる話だが、質量保存の法則がある限り、餌を食べていないゆっくりの中身は、減ることはあっても増えはしない。
この質量保存の法則という名称は、「さいえんす」の中で名付けられていたということを聞いたから使っているだけで、その内容そのものは、素直に考えれば「さいえんす」を知らないものでも分かることだ。

ここで一つ問題となってくるのは、ゆっくりの流す涙だ。
人間にとってみればただ砂糖水でしかないあの涙。
しかしよく考えてみれば、ゆっくりの中には餡子しかない。
餡子も多少の水分を含んでいる、と言われればそうなのだが、それにしてはやけに水量が多くないだろうか。
あのド饅頭は涙よ涸れろと言わんばかりに無様な泣き顔を晒すが、実際にはあの涙が尽きることはそうそうない。

はてさて、あの涙は一体どこから湧いてきているのか。

私はありすに施した実験の内容を今一度振り返る。
用意したのは、特殊な金網、七輪、燃料の三つだけ。
実験にかかった時間はほんの30秒程度。
その時のありすの様子は―――

―――そうだ。

ありすは、突然の激痛から僅か30秒足らずでもたらされた死の瞬間まで―――泣いていなかったのではなかったか?

重要な発見である。
ここから、少し推理してみるとしよう―――

ありすは、熱した金網に乗せられるという激痛に絶叫した。
しかし、涙を流すほどの余裕がなかった。
一時的に意識が飛んでいたのかもしれない。
何にせよ、涙が流れることはなかった。

もしこの時に私があの金網でありすの体全体を覆っていなければ、ありすは恐らく泣いていただろう。
だが私は金網でありすを覆ってしまった。
与えられたのは更なる激痛だ。
ショックに次ぐショック。
ありすは意識を飛ばしながら、図らず絶叫を上げることとなった。

そして全身に激痛を与えられたその直後、激痛によるショック死を遂げた。
もちろん、涙を流す暇はない。
流せなかった涙は、当然アリスの体内に溜まる。
だから私がありすを切り開いた時、妙に水気を含んだカスタードが出てきた。

―――こう考えてみると、一つ分かることがある。

それはつまり、ゆっくりの中では水を生成する「何か」が起こっている、ということだ。
加えて、その「何か」は糖分も作っていると推測出来る。
理由は涙と同じだ。

ゆっくりの涙は砂糖水である。
涙を流すことで、糖分は体外へ流出する。
逆に言えば、涙が流れなければゆっくりの体内に溜まったままだということだ。
恐らくそれが、あの激烈な甘さを生んだのだろう。

実に興味深い。
筋の通る通らないは別として、だ。
あのド饅頭どもがどうやって生きているのかを解明する一歩にはなるかもしれないな。



虐兄の家へ向かう途中、何匹かのゆっくりに絡まれた。
第一声は勿論、

「ばかなにんげんさんはさっさとあまあまさんをよこしてゆっくりしんでね!!」

である。

私は野良ゆっくりに興味はない。
そもそも野良ゆっくりは汚れだらけで食べたくないし、何食べてるかわかったもんじゃないから、何代か人工的に繁殖させ続けて餡子を浄化しないと毒性があるかもしれない。
私の養殖用ゆっくりも、実際は加工所から貰ってきたものだ。
野良ゆっくりを人工繁殖させるのも面倒なので、今回も加工所から貰おうと思っている。

そのため、人間様に喧嘩を売ったオロカモノ共は、グシャ、という非常にあっけない音を立てて潰されることとなった。
それを潰した人間様は、何の感慨も持っていない。
言葉も発さず、そちらを見ることもせず、全く気付かずに足元の雑草を踏むようにしてゆっくりを潰した。

本当に不思議だな―――こいつらが野生で生きていられることが。
弱い、知能が無い、危機感が無い、人間を見ても逃げない、それどころか挑みかかる。
正直に言って、この異常なまでの繁殖力が無ければ、すぐに滅びている。
生きている価値なんて無いんだろうなぁ・・・。

そんなことを考えているうちに、虐兄の家に着いた。

虐兄の家は、私の家に比べれば相当小さい。
私の家が大きいだけで、別に普通の大きさなんだけどな。
しかし、この家の大半がゆっくり実験用の空間になっていると思うと、やっぱり居住空間そのものは小さいんだなぁ。

呼び鈴みたいなものはないし、離れているが子供の頃から幾度となく入ってきた家だ。
勝手知ったる何とやらで侵入する。

玄関に鍵は掛かっていなかったので、おそらく家の中にいるだろう。
一応呼びかけておく。

「おい虐兄! 鍵開いてるから勝手に入るぞ!」

―――返事は無い。

「いなくても入るからな!」

もう一度呼びかけておいて、中に入る。
どうせ実験に没頭してて気付いてないんだろうし。

虐兄の家には、実験用の部屋がいくつかある。
実験用ゆっくりを繁殖させ、ある程度育てるための育児室。
薬品や毒物を使った実験を行うための危険物実験専用室。
河童が造った機械を使った実験を行うための要電気実験室。
更には、精神的な苦痛を与える実験を行うための鏡面実験室等々。

虐兄自身は小さな部屋に布団やら本やらを詰め込んでそこを居住空間にしているのだから、ある意味愛で型人間みたいなものだ。
私には考えられない部屋の使い方をしている。
逆に虐兄は、

「ボクからしてみれば、何故キミはそんなに広い家に住んでるのに、虐待用の部屋を一室しか用意していないのかが不思議だね」

と言ってくる。
家を取り換えればいいのか、という話を別の友人に話したら、

「腐れ縁って怖いねぇ・・・」

と遠い眼をしていた。
何だというんだ。

とりあえず実験室を見て回る。

私は河童に特製防音室を造ってもらった後、虐兄にその話をした。
虐兄も興味を持ったようで、生活費をギリギリまで切り詰め、更には私に借金をして、家そのものを防音室にしてしまった。
借金は正直どうでもいい。
私の家は裕福ではないが、生活費はほとんどかからず、オレンジジュースと精子餡も安値で加工所から譲り受けるだけなので、多少お金に余裕はあったし今も困窮してはいない。
取り立てようと思えばいつだって取り立てられるし、何より私の器の大きさを虐兄に示せるいい機会だったからな。

それよりも、家を一軒丸ごと防音室にしてしまうというその発想に呆れた。
いや、確かに一室ごとに防音設備を敷くよりは、部屋を覆う家の壁を防音設備にした方が、早いことは早い。
しかしながら、虐兄はゆっくりの絶叫が気にならないのだろうか。

現に今も絶叫が聞こえる―――。


育児室では、都合10匹ほどの生体ゆっくりが部屋の3分の1ほどの空間に押し込められ、頭から植物型妊娠の証であるツタと赤ゆっくりを生やしていた。
まだ多少未熟ではあったが、生まれても問題はない頃合いだ。
そう思っていると、生体ゆっくりのいる空間が急に震えだし、その勢いで赤ゆっくりが落ち始めた。
落ちた赤ゆっくりは、生体ゆっくりの上に敷かれていた網に着地する。
全ての赤ゆっくりが落下したところで、網が回収され、生体ゆっくりのいない残り3分の2の空間に赤ゆっくりを投下する。

二つの空間の境界には鉄の壁が敷かれており、赤ゆっくりは親の姿を見ることが出来なくなっている。
生体ゆっくりも赤ゆっくりと挨拶がしたいのだろうが、こちらは口を完全に癒着させられているため、声を出すことが出来ない。
赤ゆっくりに生まれて初めて与えられたのは、優しい母親の言葉でも少し前まで下がっていた美味しいツタでもなく、コンクリートの床に落下する痛みと栄養価だけが考えられた味のない餌だった。
皆一様に「おきゃあしゃーん!!!」だの「みゃみゃー!!!」だのと泣き叫んでいる。
滑稽極まりない。


鏡面実験室では、10匹のゆっくりが飼育されていた。
しかし、その内の9匹は様子がおかしい。
どうやら奇形ゆっくりのようだ。
あるものは目がなく、あるものは髪と飾りがない。
あるものは歩くことが出来ず、あるものは考えるということが出来ない。
そんなゆっくりの中に、1匹の健常なゆっくりがいる。
健常なゆっくりは周囲の奇形ゆっくりを見下して攻撃しようとするが、奇形ゆっくりは動けないものも含めて9匹いるのだ。
数による戦力差は大きい。
今も目のないゆっくりに攻撃しようとして、逆に他の奇形ゆっくりから攻撃されてしまった。
正常であるはずの自分が何故迫害されるのか全く分からない様子の健常ゆっくりは、1ヶ所に集まって自分を嘲笑っている奇形ゆっくりを忌々しげに見ている。

これはあれだ。
「999匹の鼻なし猿、1匹の鼻あり猿を嗤う」という故事成語を実践しているのだ。
数の暴力の恐ろしさを示しているな。
健常ゆっくりが、自分を傷つけて奇形ゆっくりになるのか、それとも普通に発狂するのか、実に見物である。


―――さて。

やはり虐兄は最近のお気に入りである薬品実験を行っているようだ。
八意様の下で教わることと言えば、薬学というやつだろうからな。

一応扉を叩いておいて―――

「入るぞコラァ!!」

―――ドゴォ!!

蹴破ってみた。
扉は壊さなかったが。

「―――ッッ!!! なんだよいきなり!!」

流石にビビったらしい。
丸眼鏡をかけた貧弱そうな男が片手を胸に当てている。
肝試しも出来ない程怖がりな奴だから仕方ない。

「虐姉か・・・びっくりさせないでくれ―――というか勝手に入らないでくれ・・・」
「私はきちんと挨拶したぞ、玄関でな」
「聞こえるわけないだろう? ここがどれだけ煩いか、キミも知っているだろうに」
「今更不法侵入くらいで騒ぐんじゃない、このモヤシ男が」
「開き直らないでくれよ・・・」

何か説教でもしたそうな虐兄は無視して、実験室を見渡す。
しかし、虐兄が座っていた机には眠っているゆっくりが数匹置かれているだけで、薬品類は何も置いていない。

「おい、何の実験をしてたんだ?」

気になったので聞いてみる。

「あ、ああ。大した実験じゃないよ。簡単に言えば麻酔薬だね。八意様から出された課題の一環で、即効性、持続性、安全性の三つを出来る限り高めた麻酔薬を調合していたんだ。
―――流石に人間相手の治験は怖かったから、予行練習としてゆっくりを検体に使ったんだよ」
「なんだ、虐待じゃなかったのか」

少し残念な気分になる。

「いや、これから虐待しようとは思っていたよ。虐待と言うよりは虐殺だけどね」
「ほう、どうするんだ?」

残念な気分は飛んで、一気にワクワクし始めた。
まるで子供だな。

「ゆっくり用に作った猛毒を使う。唐辛子の辛み成分であるカプサイシンを凝縮しただけの単純なものだけどね。ゆっくりが目覚めることなく死に至れば、麻酔の持続性と猛毒の有効性が一度に実証されるだろう?」

虐兄も、度の強い丸眼鏡の奥にある、男としては少々情けなくも感じる柔和な眼を輝かせている。
子供の頃と本当に変わらないな。

「さて、1ミリリットルで十分かな。
―――虐姉、見てるだけだったら、キミも手伝ってくれ」
「そうだな。暇つぶしに手伝ってやる」

幾つかあった唐辛子濃縮液の瓶の中から適当に一つ選んで取り出す。
中々に毒々しい色合いだ。
きつく締められていた瓶を何とか開けると―――これはいかん・・・目が痛い。

「ああ、鼻栓とゴーグルはした方がいい・・・って、もう開けていたのか」
「お前・・・先に言え、バカモノが・・・」
「いや、それくらいは察しよう」

手遅れのような気もするが、一応鼻栓とゴーグルを受け取って付けておく。

「廃棄予定だった使い古しの注射器も貰ってきたから、ゆっくり相手にはこれを使えばいいよ」
「ふむ、これで猛毒を注射する、というわけか」

先が少し折れてしまっている注射器を唐辛子濃縮液の中に入れて、ほんの少し液を吸い上げる。
着色してあるのだろうが、ここまで真っ赤にする必要はあったのか?

よく眠っているゆっくりの中から、生体まりさを選ぶ。
理由はない。
ただ目に付いたから、だ。

「狙いよし、構えよし、と」

左頬に注射器を当てる。
そのまま少し力を込めると、殆ど抵抗もなく針はまりさの中に沈んでいった。

「そら―――死ね」

液体を注射する。
次の瞬間には、声もあげず、表情も変えず、痙攣もせず、まりさは死んでいた。

「おお、凄い効き目だな」

ちょっと興奮した。
これは素直に凄いものだ。

「うん。一応、成功したと言えるだろうね。八意様に提出出来るよ」

虐兄の方は、私が注射したまりさとほぼ同等の大きさのれいむだ。
そちらの方も、実に安らかな顔で死んでいる。

「残りはどうする? 全部殺すのか?」
「そうだね。安全性と即効性は実証済みだから、これはもういらないよ」
「じゃあ、この毒薬で殺すとするか」

プスッ、プスッ、プスッ、とテンポよく注射を続ける。
ほんの2分もすれば、安らかな顔の死体がたくさん出来た。

「これは流石に食べる気にはならないだろう?」

一仕事終えて、瓶のふたをしっかり閉めてから鼻栓とゴーグルを外していた私に対し、虐兄は失礼なことをほざいた。

「失敬な。まるで私が虐待したゆっくりを常に食べているみたいじゃないか」
「割とそうだろう? まあ、これは本当にやめておいたほうがいい。しばらく味覚が消えるほどの辛さだからね」

匂いだけで目が痛くなるような劇物には手出ししない。
というか、私は辛いものが食べられない。
コイツ、知ってて言ってるんだろうなぁ。

「ははは、そんな顔で睨まれても怖くないよ。笑顔よりも仏頂面の方が可愛い女の子、というのも不思議だけどね」
「―――殺すぞコラ」

向う脛を蹴り飛ばす。
効いてないからムカつく。
見た目だけならなよなよしてるくせに、割と鍛えてるから私の攻撃なんてものともしないのだ。

「ああ、そういえば一つ聞くのを忘れていたんだけど」
「ん、なんだ?」
「キミは―――何故ここにいるんだい?」

・・・あ。

「お前が面白そうなことやってるから忘れてた」
「おいおい・・・まさか、用事を忘れたなんて言わないだろうね」
「バカにしてるのかお前」

もう一発蹴っておく。
やっぱり癪だな。
しかし、背に腹は代えられないのだ。

「お前の知恵をな、借りに来たんだ」

言った途端に、虐兄が少し驚いたような顔をした。

「珍しいね」
「何がだ」
「キミがボクに教えを請いに来るのも、やけに殊勝なのも」

・・・コイツは本当に私の調子を狂わせるな。

「私では分からないことだったから仕方ないだろう。そして、八意様に教えを請うているお前になら分かると思った、それだけだ」
「なるほどね。まあ、分かる範疇なら答えられると思うけど」
「じゃあ、早速尋ねようか―――」


私は、虐兄に今日行った実験について説明した。
私が立てた推測についても話しておく。
虐兄は、興味があるのかないのかはともかく、私の話を頷きながら聞いていた。


「―――こんなところだ」

話し終えて、一息つく。

「ふむ。つまりキミの聞きたいことは・・・」
「そうだな。何故ありすの中で糖分と水が増えたのか。これに尽きる」

それを聞いた虐兄は、一度大きく頷いてから、考え込むようにして顎に手をあてた。
なんだかんだでコイツは頭が良い。
少なくとも、私よりは。

「そうだね―――一つだけ、可能性を提示することは出来るけど・・・実証は難しそうだ」
「提示出来るだけ私よりマシだろう。さっさと話せ」
「分かった。じゃあ、これはあくまで僕の推測だから、本気にしないでくれよ―――


先ず、キミの仮説は大体正しいと思う。

ありすの中で何らかの現象が起こって、結果糖分と水が増えた・・・これは避けようのない事実だろうね。
ありすの内部に糖分と水が溜まっていたのも、ありすが涙を体外に排出出来なかったからだと考えられる。

ここで一番重要なのは、糖分と水が生成された過程なのだろうけど、これは後回しにしよう。
実証が難しいからね。

じゃあ、少し視点を変えてこの現象を見てみるよ。
つまり、糖分と水が生成された過程を追求するのではなく、何故糖分と水が生成されたのかを追求するんだ。
キミが知りたいことは、この二つの意味から取れるからね。

さて、キミも知っているだろうけど、ゆっくりは非常にストレスに弱い生き物だ。
ストレスに弱い生き物はこの世にたくさんいるだろうし、現に人間もストレスを抱え込むと、精神疾患に陥ったり、自傷行為に走ったり、果ては自殺にまで自分を追い込んでしまう。
しかし、ゆっくりのそれは度が過ぎている。

例えば、餌が与えられないという状況に陥ったとする。
普通の人間なら、1日くらい食べなくても、そう耐えられないものではないだろう。

しかしゆっくりは、僅か1食が時間通りに食べられなかっただけでも大騒ぎする。
大声でわめきながら餌を要求するだろう。
赤ゆっくりであれば、親を罵倒してまで餌を要求する。
餌が与えられない、ということが異常なまでのストレスに発展したというわけだね。

この時にゆっくりの中で起こっていることを考えてみるんだ。

ゆっくりにとってのトランキライザー―――精神安定剤は・・・そうだね、糖分だ。
砂糖を舐めさせれば、親兄弟子供の死ですら簡単に忘れ去ることが出来る程だ。
これはゆっくりの思考回路が非常に単純であることを示しているんだろうけど、今はそれはいい。
問題は、ストレスを抱えたゆっくりが糖分を摂取できなかった時のことなんだ。

トランキライザーである糖分が与えられなかったゆっくりは、ストレスを過度に溜め込んでしまう。
前述の通り、ゆっくりは異常なまでにストレスに弱い生き物だから、しばらくすると簡単に死んでしまうだろう。

―――これは推測だけど、ゆっくりは活動エネルギーとして糖分を利用する、ということは考えられないだろうか。
もしこれが事実であり、なおかつストレスを過度に溜め込んでいるときはその消費量が増大すると考えられれば、辻褄合わせが出来るんだ。

ストレスを溜め込んだゆっくりが糖分を摂取できなかった場合、生命線である体内の糖分を急速に使用してしまい、結果として『餓死』という状況に陥ってしまう。
これを回避するための手段があるとすれば―――それが、何故糖分と水が生成されたのかを解明する手掛かりになる。

つまり―――ゆっくりは自分の体内で糖分を生成することにより、ストレスによる餓死から身を守っているのではないか、と、そう考えてみるんだ。
水の話は、糖分と水の生成過程で改めて話すよ。

もしこれが事実であれば、ゆっくりは体内で糖分を生成出来る、と考えるのが自然だね。
結局、糖分が出来た理由は、ゆっくりがストレスを感じたから―――ここに帰結するよ。

さて、次は先程飛ばしてしまった糖分と水の生成過程についてだね。
これもあくまで予想でしかないが、八意様に教わった知識の一部が役立てられそうだ。

先ず、キミに覚えておいてほしいことがある。
この世のすべての物質―――空気も含めて、だけど―――それらは、原子という小さな物質が寄せ集まって出来ている、ということだ。
ボクも俄かには信じられなかったけれど、河童が永遠亭に納品した『電子顕微鏡』というものを覗かせてもらって、納得はしたよ。

話を進めるよ。
小さな粒である原子には200前後の種類があるらしく、更に別の種類の原子同士がたくさん集まることで、分子というものを構成するんだ。
今回重要になるのは、水素・・・H、炭素・・・C、酸素・・・Oの三つの原子と、それから構成される二つの分子だよ。

れいむ種やまりさ種の中の餡子は勿論、ありす種のカスタードにはコーンスターチというデンプンが入っているし、ぱちゅりー種は例外的に小麦粉が含まれている外皮を用いているのかもしれないけれど―――共通することは、セルロースと呼ばれる分子を含んでいる、ということなんだ。

セルロースは植物の外皮を構成するものなんだけど、ゆっくりの体にはそれが含まれているんだね。
このセルロースという物質は―――その構成を示す分子式というもので書くと、(C6H10O5)nと表わすことが出来る。
nは適当な数字だと思ってくれればいいよ。

もう一つの分子は、スクロースというんだ。
こちらは蔗糖、つまり糖分だね。
分子式で表わすと、C12H22O11だ。

先ず、ゆっくりは生存のために糖分を利用しているとすると、

C12H22O11 + 12O2 = 12CO2 + 11H2O + 熱エネルギー

という熱を発生させる反応になる。
C02は二酸化炭素なんだけど、それは放っておいてもいいんだ。
問題はH2O―――水だよ。

通常の水は、ちーちー、つまり小水で体外に排出される。
しかし、過度のストレスを溜め込んだ場合、こんな反応を起こしているんじゃないかな。

(C6H10O5)2 + H2O = C12H22O11

セルロースと水を使って、スクロースを生む。
そのスクロースをまた二酸化炭素と水に分解して、その水を使ってセルロースからスクロースを得て―――
この循環を繰り返しているとすれば、水が増えれば増えるほど、一度に作られるスクロースの量も増えていく。
おそらく、ストレスを与えたゆっくりが甘くなるのはそのせいだと思うね。

ただ、その過程を経たとしても水が使い切れる訳ではないだろう。
そこで、ストレス発散の意味合いもかねて、大量の水を涙として排出するんだ。
砂糖水になってしまうのは、多少スクロースが水に溶けやすいからだろうね。
御愛嬌、というやつかもしれないな。

キミの実験したありすは、激痛によってちーちーも涙も流さなかった。
恐らく死んでしまった理由は、セルロースの急激な減少によってカスタードそのものにダメージを受けたからだと思う。
水っぽくなっていたのは、単純に水が増えたからだけではなくて、カスタードの粘り気がなくなったからだとも言えるね。

―――一応もっともらしいことを述べてみたけど―――これはあくまで穴だらけの理論だ。

もし急激にセルロースが減れば、餡子やカスタード、外皮は原形を保っていられなくなるだろうね。
それに、それぞれの反応を起こす方法も分からない。
先の熱反応は人間も行っていることだけど、それにはミトコンドリアという器官が必要になる。
だけど、ゆっくりは本当にただの饅頭なんだ。
呼吸も新陳代謝も行わない饅頭が、どうして熱を発生させたり糖分を生成したり出来るのか。
それが分からなければ、この理論は成立し得ないんだよ―――


以上がボクの推論だ。質問があれば取り合うよ」

・・・質問か。

「いや、話の半分しか理解出来てないからな。質問しようにも、何を聞けばいいのか分からない」
「逆に半分も理解出来たことに驚いているよ。キミはこれを学んだことがないだろう?」
「ああ、私は『さいえんす』には興味がないからな」
「サイエンスか。確かにそうとも言えるけどね。どちらかと言えばアルケミーだ。何にせよ、八意様の専門とは少し違うかな」

また良く分からない言葉を使う。
―――気に食わないな。

「さて、キミはこれからどうするんだい? ボクの推論を実証するか、もしくはこれで納得するか」
「加工所へ行く」
「斬新な答え方だね。2択クイズで3択目は選ばないんじゃないかな」
「じゃあ、れいむとぱちゅりーとありすを1匹ずつ寄越せ」
「じゃあ、の使い方じゃないよね―――そういえば、実験で使ったのはありすだけじゃないのかい?」
「ああ、れいむとまりさはムカついたから殺した」
「相も変わらず手が早いね」

全く、害意のない幽霊にすらビビるくせに、人間相手だとどこか達観したような苦笑を浮かべ続ける度胸があるらしい。

「黙れもやし。とりあえず、育児室から数匹貰ってくからな」
「ああ、取り過ぎなければ貰ってくれても構わないよ。どうせここに居たら1週間もない命なんだしね」
「・・・どうせ暇だからな。その実験に協力してやる」
「・・・どういう風の吹き回しかな?」

大したことはない。
コイツが知っていて私が知らないということがあるのが許せないだけだ。

私にとってゆっくりは、ただの食べ物である。
食べ物のことを深く研究する人間は、相当食に関心のある者だろう。
私はそうではない。
ただ、ゆっくり身近にあって簡単に入手出来る甘味だという事実が、私とゆっくりを繋ぐ唯一の糸だ。

しかし、だからこそ気になった。

―――何故ゆっくりは甘くなるのか。

深く研究する必要はない。
ゆっくりは単純な生き物だ。
生き物かどうかすら怪しい、饅頭なのだ。

自力で甘くなる不思議な饅頭は、私の好奇心を揺さぶるのにちょうどよかった。

だが、結果として、私は1人でこの疑問を解決することは出来なかった。
忌々しいことに、腐れ縁である虐兄の手を借りることになってしまった。

それが、気に食わなかった。
それだけだ。

「お前の実験を邪魔したくなったんだ」
「横暴にも程があると思うけどね・・・」

目を閉じてため息を吐き始めた虐兄を無視し、危険物専用実験室を出る。
向かうのは育児室だ。
許可は頂いたし、適当に数匹貰うことにする。

全く、得意そうな虐兄の顔が不快だった。
話が詰まらなくもなかったのが余計に不快だ。

育児室の前に立つと、扉よ壊れろと言わんばかりの蹴りをかます。
勿論壊さないが。
壊すほどの力はない。

「ゆ~・・・おきゃあしゃん、どきょにいりゅにょ・・・?」
「みゃりしゃにょおきゃあしゃんもいにゃいんだじぇ・・・」
「ゆわあああん!! みゃみゃはどきょにゃにょおおおお!!!」
「みゃんみゃーにあわしぇりょだどぉー!!」

―――女三人寄れば姦しい。
ゆっくり100匹集まれば騒音公害だ。

とりあえず黙らせるか。

「やっかましいぞド饅頭どもおおおおおぉぉぉ!!!!!! 死にたくなかったらその糞穴閉じやがれゴミがあああああぁぁぁ!!!!」

「「「「「「ゆ゛わ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!! ごわ゛い゛よ゛おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!」」」」」」

逆効果か・・・。
もういいや。
ゴキブリの巣の如く沸いた赤ゆっくりの群れの中から、れいむ、ぱちゅりー、ありすを掴んだ。

「「「ゆぅ! おしょりゃをとんぢぇりゅみちゃい~!!」」」

実際飛んでるんだがな。
用意していた麻袋の中に3匹を突っ込む。

今回まりさ種を選ばなかったのは、餡子が二つ被るのも何となく厭だったからだ。
それと、ムカつくから。

「よーし。家帰るか」

育児室を出る前に赤ゆっくりを数匹鷲掴みにする。
潰れてもお構いなしだ。
まとめて口の中へ放り込む。

「ゆぎぃっ!!!!」

という小さな悲鳴が聞こえたが、気にしない。

育児室を出ると、虐兄が立っていた。

「もう帰るのかい?」
「ああ、もう用もないしな。手を煩わせたなら謝っておこう」
「気にすることはないさ。興味深い実験だったよ」
「そうか。それならお前に相談したかいはあったのかもな」

そのまま玄関に向かう。

草履を履いて出ようとした時、

「まあ、暇ならまた来ればいいさ」

・・・コイツは朴念仁だ。
私も鈍い方だがな。

「ああ、今度は別の実験結果を持ってきてやる」
「楽しみにしていよう」

楽しみにされたからには、面白いものを持ってくるとしようか。

柄にもなく笑った私は、玄関の扉を閉め、家路をたどることにした―――


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甘くなる理由:結論

推論だが、ストレスを感じたゆっくりの体内で、化学反応により糖分が増加したためであると考えられる。
検証の余地有。





後書き

初めて書きました。
やっぱり餅は餅屋ですね、物書きにせよ化学にせよ。
しかも、これを書いている最中に微妙に似たネタを見つけてしまって・・・orz
後半も話がずれてるし・・・いいとこなしですね・・・

虐待お姉さん甘党型のキャラは、アネゴなY・Kさんを下地にしています。
甘いモノ好きはその近くのキャラ、ということでしょうか。

ともあれ、最後まで読んでいただけたならば幸いです。

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最終更新:2011年07月29日 03:11
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