※今までに書いたもの
神をも恐れぬ
冬虫夏草
神徳は
ゆっくりのために
真社会性ゆっくり
ありすを洗浄してみた。
ゆっくり石切
ありすとまりさの仲直り
赤ゆっくりとらっぴんぐ
ゆねくどーと
ゆっくり花粉症
十姉妹れいむ
ゆねくどーと2
紛争地でゆっくり
悲しみのない自由な空でゆっくり
※今現在進行中のもの
ゆっくりをのぞむということ1~
※注意事項
- まず、末尾の作成物リストを見てください。
- 見渡す限り地雷原ですね。
- なので、必然的にこのSSも地雷です。
- 要するに嫌なら読むな。
- とりあえず、過去作も無駄に長くなったので今後は地雷原と名乗ります。
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そのまりさは、生まれてこのかた一瞬たりと、『ゆっくり』した記憶がなかった。
「ゆっくちー……?」
いっぱいの慈愛を供給してくれるゆっくりとした茎から切り離された、その瞬間。
まりさ以外のゆっくりの姿は、柔らかな『ふわふわさん』の上には一匹としても見当たらなかった。
つい先ほどまで、間違いなく物理的な繋がりがあった母親の姿すら、どこにも見出すことはできずに。
空調の音が遠く聞こえる中、生まれたばかりのまりさは恐怖と焦燥にしばし身を震わせる。
「……ゆ、ゆあ。ゆっ、ゆゆ……」
揺籃の中、夢にまで見た母のぬくもり。
夢の中のままに終わる、母のぬくもり。
それを捜し求め、高い高い壁さんに鎧われた空間を毎日毎日、右往左往したことだけが、まりさの幼き日々の記憶だった。
そのまりさは、生まれてこのかた一目たりと、『ゆっくり』を目にした記憶がなかった。
「ゆっ……くち……」
むーちゃ、むーちゃ。ご飯を食べる。しあわせー!は、どこにもない。
まりさ以外のゆっくりの姿は、相変わらずどこにも見出す事は出来なかった。
ご飯は、ときどき頭の上から落ちてくる。それはとってもあまあまで、栄養のあるペースト状のご飯だ。
「むーちゃ……むちゃ……」
もう赤まりさは子まりさになった。
言葉も知らぬまま、子まりさになった。
ただ寝て、起きて、食べて、母を、一緒にゆっくりしてくれる同族の姿を捜し求める。それだけがまりさの子供時代の記憶だった。
そのまりさは、生まれてこのかた一度たりと、高い高い壁さんの向こうを目にしたことがなかった。
「ゆっ、ゆううううぅぅ!!?」
その中から外に出たいと思ったこともなかった。
母が戻ってくるかも知れないその中から、出ようと思うはずもなかった。
だが、まりさが成体にまで育ち、そろそろ壁に囲まれた世界が手狭になってきた一年目のある日。
「ぷくううぅぅぅっ! ぷくっ……うううぅぅぅぅ!!!?」
いつも、あまあまご飯が落ちてくるお空から、ゆっくり出来ない奇妙な『おてて』が降ってきて。
驚き恐れ、本能のままに膨れるまりさの身体をがっしり掴むと、そのままお空へと連れ去った。
「ゆ……ゆ?」
まりさは、戸惑う。感じたことのない、快感とも呼ぶべき浮揚感に。
まりさは、恐れる。感じたことのない、おうちとのお別れという漠然とした予感に。
「ゆっ……かえゆ!! おーち……おーち、かえゆ!!」
まりさは、憤る。自分の意思など気にも留めない、無機質なセラミックの『おてて』の暴挙に。
いや、自分の意思などこれまで顧みた事もない、一方的に流されてゆくだけの運命の全てに対して。
「かえゆ! かえゆ、かえゆ、かえゆ、かえゆ!!」
まりさは、叫ぶ。無駄であると知りつつ、餡子の奥に継承された記憶から、わずかばかりの単語を探り当てて。
やがてアームからベルトコンベアの上に投げ落とされても、
壁に挟まれたその鉄の川幅が己の直径とほとんど変わらぬため飛び跳ねる事も出来ず。
変わらずただ流されてゆくだけの自身への怒りすら込めて、まりさはひたすらに叫び続ける。
「かえゆ! かえちて! ゆっくち、ゆっぐぢ!! おがーじゃん、まりじゃ、れーびゅ、がえじで!!」
己の意思を、必死に叫ぶ。無駄であると知りながら。
まりさはおうちに帰るのだと。母親と会うのだと。存在するであろう妹たちと団欒の時を過ごすのだと。
まりさは知らない。
まりさが日々、食していたあまあま。あれこそ、まりさの妹『たち』の成れの果てなのだと。
定期的に生産される、赤ゆっくり。その中のれいむ全てと、育成分以外のまりさが、育成分のまりさの餌に回されるのだと。
まりさは知らない。
今まりさが流されているライン、その前後には一定感覚でまりさの姉妹たるまりさが流れてきているのだと。
彼女たちもまたまりさと同じく、自身の運命の理不尽を嘆き、自身の無力に怒って叫び続けているのだと。
「かえちて! かっぶ!? ゆっくち! ゆっくぢ!!」
まりさたちは、ひたすらに叫ぶ。
叫んで、叫んで、叫び続ける。
コンベアが一際大きな機械の中に吸い込まれ、その中で冷蔵処理と保温器への密封を施されるその瞬間まで。
寒さの中、急速な睡魔に襲われ、視界と意識を闇の彼方に手放すその瞬間まで。
まりさはゆっくりを知らず、言葉を知らず、おのれの境遇を知らず、家族の境遇も知らぬまま、叫び続ける。
まりさが、先に流れ、後に流れてくるまりさの姉妹たちが知っているのはただ一つ。
「ゆっくち……ゆあ、ゆあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
どれ程叫ぼうと、彼女たちの叫びが、願いが、祈りが聞き届けられることなど、決してないということだけ。
視界と意識が闇に包まれた中、心の中を闇より深い絶望に染め上げて。まりさたちは、一時の眠りに就く。
餡子の中に刻まれた、家族の団欒の夢、大いなる自然の中での生活の夢を眠りの間の友として。
運が良いまりさは、眠りのままに時を過ごす。まりさに替わる『何か』が開発され、廃棄処分となるその瞬間まで。
運が悪いまりさは、眠りを解かれ外に出る。念願だった外界に。一瞬にして消費される、ただそれだけの為に外に出る。
このまりさは、運が悪かった。
外気に晒され、徐々に暖かくなるまりさの身体。
普通の冬眠状態のゆっくりは、十分温まるまで意識が覚醒することはあまりない。
だが、まりさは身体の自由が戻るよりもはるかに早く、意識だけをたたき起こされた。
「……っ帯を狙え!」
「しかし、この距離ではレーザーの減衰が……」
「いいからやれ、足は止められる!!」
ドン、ズズン。
ゆっくりできない騒音が、辺り一杯に響いていた。
およそ、まりさは生まれたおうちの中で自分の声といくつかの機械の音以外を聞いたことがない。
だから今聞こえるもの、全てが雑音。聞いたこともない、意味もわからない。
ただどの音も殴りつけるように乱暴で、まりさにとっては少しもゆっくりできなかった。
「……ゆぅ?」
どごん!
「ぁぁあっ!?」
「ロケット! RPG!!」
「左手、距離二○○。ビルの三階に銃座!!」
うっすらと、眼が開く。
瞬間、炎と煙が目の前に広がった。
まりさの恐怖に満ちた絶叫は、まりさの周囲に蠢く大きな身体をもったいきもの。
おててとあんよを二本ずつ持った、変な模様のふくとおぼうしを被ったそいつ――にんげん、とまりさの餡庫の記憶が教えてくれる
存在の怒号によって上書きされた。
「クソッたれ、おい伍長、あいつをATMで焼け! 焼くんだ!!」
にんげんは何かを叫んでいる。
まりさには、それが何を意味するのかわからない。
まりさの周りにはたくさんのゆっくりできない、真っ赤なめらめらさん。
地面に転がって動かない、にんげんのように見えるモノ。
どかん、と大きな音がすると、ずずん、と地面がおっかなく揺れて。そのたびに、ゆっくりできない叫び声が。悲鳴が。
「ゆ、あ、あ、あ……?」
どうして、何が、どうなって。
目にした事もないいきもの、目にした事もない世界、想像したこともない環境。
何も知らないまりさは、何も判らなくて、何も判りたくなくて。
ただ、正面が開かれただけの箱の中でガタガタ震えながら、瞬きする事もできずに震えていた。
「了解! おい、パーカー! 解凍の済んでるATMは!?」
「二つあります!」
「よし、二つとも持って来い!!」
また、近くでにんげんの声。どっかんと響く大きな音、それに負けないように大声で叫んでいる。
直後、乱暴な浮揚感。箱ごと持ち上げられたのだ、と理解することも今のまりさには不可能だ。
餡子脳は、ゆっくりできない事態の変遷に完全にフリーズしてしまっている。いや、フリーズ状態でなくとも、言葉すら持たない
まりさには状況の理解などできようほどもなかったが。
「ゆぐっ……」
だから、まりさは驚かない。
乱暴に持ち上げられた時と同じく、乱暴に地面に置かれたことにも。
「いだい……」
自分の目の前にもう一つ、機械の中で自分が閉じ込められたこの箱と全く同じものが投げ出されたことにも。
それから、ようやく驚いた。
「ゆゆん! まりしゃ、とんじぇ……ゆぎっ!?!!」
目の前に投げ出されたその保冷箱。開け放たれた正面だけでなく、天板もぱかりと取り外され。
ぐいと頭を掴まれて、何かがするりと中から引っ張り出されてきた。
そいつは、金色の髪に黒い三角帽子。真っ白なリボンとフリルが愛らしくそのお帽子を飾っていて。
何より、そいつはたった今。自分のことを、「まりしゃ」と呼んだのではなかったか?
「ゆっ。ゆゆゆ!?」
ガタガタ、ガタガタ。
一気に頭上へと遠ざかっていく、初めて見る仲間の姿。夢にまで見た、同族の姿。
未だ箱に囚われたまりさはその姿を急いで追いかけようとした。しかし、逸る気持ちは報われない。
何故か、まりさには判らない。箱はがっちりまりさの身体を捉え、身じろぎすることすらできなかった。
あの子は箱の外へと出る事が出来たのに。まりさには自分を捕らえる箱の仕組みなどわからない。
拘束は天板を外し、中の留め具を外さねば解かれることなどないのだ。
「着火剤!」
「着火剤!!」
箱のまりさが自由を得ようと無益な努力を費やす間。
また、にんげんのゆっくりできない大きな声が聞こえた。まりさは涙の滲んだ瞳で、ゆっくりとその声の方を見る。
にんげんのおかおは見えない。ただ、一匹のにんげんがおててに何かを掴んで、それを別のにんげんに渡しているのが見えた。
もちろん、それは閉ざされた世界で育ったまりさにとって、初めて見る『よくわからない何か』に過ぎない。
だけどなんとなく、まりさは感じ取るところのものがあった。
あれは、とってもゆっくりできて、でもとってもゆっくりできないものでもあるのだと。
「おい。こっちもだ!」
少しでも、ゆっくりできることに縋りたい。まりさはこの異常な環境の中、その記憶に縋ろうとした。
だが餡子脳の記憶をまりさが必死に手繰る暇を、にんげんたちが与える事はない。
彼らはまりさを今この瞬間に必要として、眠りの世界から引き戻したのだから。
「……ゆぅ?」
突如、正面だけでなく頭上からも差し込んでくる光。カチャ、と硬い音がして、箱の天板が取り外された。
それをまりさがゆっくり理解したのは頭上からにんげんのおててが侵入してきた後のことだった。
はじめて触れ合う、他の生き物の肌の感触。そのぬくもりを楽しむ余裕など、今のまりさにあるはずがない。
突如広がった世界、空へと駆け上るような視界の拡大。それとて、到底楽しむことはできなかった。
なぜならば。
「準備完了!」
「よし……援護しろ!」
にんげんたちが、何かを叫ぶ。手にした棒のような何かから、火と煙と聴覚を揺さぶる轟音が、ひっきりなしに吐き出される。
どこかで、叫ぶ声。餡子が凍りつくような、ゆっくりできない苦痛に満ちた叫びが、近くで、遠くで轟く。
そう、ここは戦争。戦場。
にんげんたちの、殺しあう世界。にんげんたちが作り出した、にんげんたちもゆっくりできない死と破壊の世界。
そんな場所、そんな空気、そんな惨禍を目の当たりにして、ゆっくりがゆっくりできる道理なんてあるわけがなかった。
そして、にんげんがゆっくりをゆっくりさせてくれる道理もありはしない。
「クソ野郎!!」
にんげんたちが一しきり棒からめらめらを吐き出した後、別のにんげんが壁の影から踊り出した。
「ゆっ!?」
そいつが抱えているのは、驚愕の表情で固まったまりさ。
先ほど頭上へと消えた、まりさの妹かもしれない、妹であってもなくても共にゆっくりしたいと願う、あのまりさだ。
「まりしゃっ! まりしゃ!!」
にんげんの腕にがっしりと抱えられ、まりさは必死にそのまりさを呼んだ。
声も枯れよと、呼ばわった。言葉を多くは知らない。だから、名を呼ぶことにいっぱいの意味を込めてまりさは叫んだ。
一緒にゆっくりしようと。
一緒にすりすりしようと。
一緒にむーしゃむーしゃしようと。
一緒にすーやすーやしようと。
一緒に、一緒に、一緒に、一緒に――。
「射ぇっ!」
「射ぇっ!!」
圧倒的な光が、広がった。まりさの夢を、望みを吹き散らして。
まりさは見た。見てしまった。
さっきのゆっくりできる、ゆっくりできないもの。あれを、にんげんが固まったままの妹?まりさの口の中に放り込んだのを。
それを、反射的に妹?まりさがかみ締めてしまったのを。
瞬間、「やべで!」と叫ぼうとした。叫んでも無駄だと悟っていた。遅いのだ、かみ締めてしまった後では。
その通りだった。妹?まりさの顎が動いてから、コンマ数秒で彼女はあんぐりと間抜けに大口を開けた。
大きく開け放たれた口の中から、一直線に目標目掛けて迸り出たのは圧倒的な光の奔流。
全てを焼き尽くす、数千度の高熱を誇る光線。ドススパーク、と呼ばれるそれだった。
あれは、ドスしか噛んではいけないキノコなのだ。
長い時を経て、射撃のエネルギー源にすべき餡子を大量に蓄え、また厳しい修行と経験により、効率的なエネルギー変換を
会得したドスまりさにしか、作ることも出来なければ扱うことも出来はしないものなのだ。
それを、ただの成体サイズのまりさが噛み締めたらどうなるのか。
「ゆ……あ、ああ……?」
答えは、まりさの目の前に転がっている。
「ああ、ああ、あああ!!!」
――体内の餡子を全て消費し、皮だけの死体と成り果てるのだ。
「ああ、あああ!! ゆあああああっ、ああああああ!!!!」
まりさは叫んだ。今度こそ、喉が枯れ果てるまで叫び続けようとした。
妹の、妹かもしれない、いや初めて見る、初めて会った、未だ挨拶も交わしていないゆっくりの無残な死体を見て叫んだ。
まりさたちに何も関係のない、ゆっくりの世界とかけ離れた世界の中で、食べられることすらなくただ兵器として消費された、
その余りにも不条理な同胞の死に、形容のしようがない衝動に襲われて。
言葉すら解さぬまりさは、にんげんに怨みをぶつける術すら持たず。ただ、にんげんの腕の中で叫び続けた。
それしか出来なかったから。何も知らず、何も持たないまりさには、意味も成さない叫びを上げるしかなかったから。
だから、叫び続けた。その叫びに、まりさの全てを乗せて。
「銃座はまだ生きてるぞ!!」
「第二射、続けていけ!」
ただ、彼女は叫び続けた。
開け放たれた大口に、スパークキノコを放り込まれ。
彼女もまた、にんげんの敵――にんげんを殺すためだけの、軽くて持ち運びが便利な歩兵の携行用使い捨て重火器として、
消費されるその瞬間まで。
にんげんたちのどこかの国の、一つの町を巡って戦われた市街戦。
そのビルの一つに設営された機関銃座、歩兵数人。彼らの死。
ゆっくり、なんてどこにもなく。その数人のにんげんの死が、まりさが残した唯一の生の証だった。
ATM。
Anti Tank Marisa。
対戦車まりさ、と銘打ってはいるものの、ただの熱線でしかないスパークに現代の戦車の装甲を貫徹する能力はない。
景気付けの名称だ。実際は、せいぜい軽車両を撃破する程度の火力しかないだろう。
にんげんに加担したとあるドスがスパークキノコの栽培法を齎したことで実用化に結びついたこの生体兵器は、
光線の直進性による命中性能の高さと歩兵による携行の簡便さによって瞬く間に世界の戦場に広がった。
以後、世界の多くの国で数多のドスや一部のゆっくりが名誉国民としての地位を与えられ、スパークキノコの品種改良を続けている。
全ては、彼女たち裏切り者のゆっくりと、にんげんに従順な飼いゆっくりがにんげんの世界でゆっくりし続けるため。
ともすればゆっくりを排除したがるにんげんから、ゆっくり種の生存の保障を取り付けるため。
今日も、まりさは人を殺す兵器として戦場で光り輝き続ける。
最終更新:2011年07月29日 02:44